相続にともなう“資産承継”について考えるとき、相続人の対応はもちろんのこと、「被相続人」による事前の対策も欠かせません。事前に準備しているかいないかで、残された相続人への影響は大きく変わります。たとえば、法的な効力をもつ適切な遺言書を用意しておけば、被相続人の意思をあらかじめ明確にできるため、相続人同士の不要なトラブルを未然に回避することにもつながります。
遺言書の準備に加えて、被相続人が事前にできることとして、財産の整理や謄本の収集など、相続時に相続人が必要とするであろう情報を用意しておけば、相続人はスムーズな対応が可能となります。また、生前整理の一環としてあらかじめ相続対策をしておくことは、余計な心労を減らすことにもつながるのです。まずは、資産承継前に被相続人がやるべきことについて確認しておきましょう。
被相続人が相続前に準備することで、相続への対応が楽になります。具体的に、どのように楽になるかは、被相続人がまったく事前準備をしていなかったケースを考えてみれば理解できるのではないでしょうか。
・どのような種類の財産がどのくらいあるのか?
・相続人は誰になるのか?
・遺産に関してどのような意思があるのか?
例えば、上記のようなことを分かりやすく準備しておけば、後から確認する必要がなかったり、相続人同士の認識のズレを防止したりすることができます。とくに、自らの意思の伝達に関しては、生前の準備が肝要です。そもそも相続が発生するのは、被相続人が亡くなったときです。亡くなってからでは、自らの意思を相続人へ伝達することはできません。
もし、「お世話になった身内に遺産の大半を譲りたい」など何らかの具体的な意向があるときは、適切な方法によって有効な遺言書(自筆証書遺言(全文を自分で書いた遺言書)、秘密証書遺言(内容を秘密にしたまま、遺言者本人が書いた遺言書であることを公証人および証人が証明する遺言書)、公正証書遺言(証人の立会いのもと遺言者が口述した内容を、公証人が書面に起こし作成する遺言書)のいずれか)を用意しておかなければいけません。だからこそ、被相続人による事前準備が大切です。また、2018年7月に遺言書保管法が成立し、2020年7月10日からは、遺言書保管法が施行され、自筆証書遺言は法務局で管理してもらうこともできます。
せっかく自筆証書遺言をのこしても、相続人に見つけてもらえなかったら本末転倒です。また、自筆証書遺言の場合、被相続人が亡くなってから遺言書を見つけた場合には、開封前に裁判所へ検認という手続きが必要になります。遺言書を適正かつ、間違いなく相続人へ伝達するためにも事前準備は必要なのです。遺言書の保管を法務局へ申請しておけば、裁判所の検認も不要になるためさまざまな観点から安心でしょう。
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では、具体的にどのような準備をしておけばいいのでしょうか。冒頭でも紹介しているように、事前準備の中心は主に
「財産の整理」
「相続人の人数確認」
「遺言書の用意」
の3つとなるでしょう。
残された遺族に、どのような対応が求められるのかを考えれば、より適切な対応がとれるようになります。可能であれば、相続人とも相談しながら進めていくとなお良いでしょう。それぞれのポイントについては以下のとおりです。
生活をともにしている家族であれば、被相続人の財産状況について把握しているかもしれません。しかし、そうでない親類が相続人になる場合、財産状況があらかじめ整理されていないと、対応に苦慮することにもなりかねません。そうならないよう、被相続人が中心となり、事前に財産状況を整理しておきましょう。リストなどにまとめ、相続時に共有しやすいような状態にしておくのがベストです。
2019年1月13日からは自筆証書遺言の方式緩和が行われ、自筆証書遺言の財産目録を手書きで記載する必要がなくなりました。資産の種類や銀行・証券口座などが多いと書き出すだけで大変な作業になります。しかし、この改正で目録はパソコンで作成し署名押印をするだけで済むようになるため、遺言書が作りやすくなります。相続人にパソコンで目録を作ってもらい、内容を確認して署名押印ということも可能です。
相続時の手続きには、被相続人と相続人の戸籍謄本が求められるケースがほとんどです。とくに、被相続人の出生から死亡までが連続している戸籍謄本は相続人の人数を確定させるためにも必要となります。もちろん、死亡までを含むものを生前に入手することはできませんが、それ以外のものであれば取得可能です。
相続人の人数を確認するため、戸籍謄本を取得していると相続人としても助かるでしょう。例えば、再婚している場合などは、前の配偶者との間に子どもがいたり、養子縁組になっている人がいたりするなど、戸籍謄本を取って初めて分かるような事実も少なくありません。事前に相続人が分かっていれば、亡くなる前にさまざまな対策も検討できます。
ただ、金融機関や官公庁によっては「交付から6ヵ月以内の戸籍謄本」などと指定がある場合もあるため、生前に取得しておいた戸籍謄本が手続きに使用できるとはかぎりませんので注意が必要です。(基本的に除籍謄本など変更内容がない戸籍謄本の期限はありません)また、相続人の戸籍謄本は死亡後に交付したものでないと手続きできないことがほとんどですので、誤って早めに取得しないように注意しましょう。
あくまでも、相続人の人数を確定させるという意味で、戸籍謄本を収集しておくのがポイントです。
最も重要なのが遺言書の用意です。遺言書は、被相続人が自らの意思を伝えるための代表的な手段です。とくに、家族信託や死因贈与などの契約とは異なり、シンプルに意思を伝えられる点で優れています。生前贈与との兼ね合いも考慮しつつ、専門家とも相談しながら適正な遺言書を作成するように留意してください。適正な遺言書があれば、未然に“争続”を回避する可能性もあります。
被相続人の事前準備があるかどうかによって、相続人の対応は大きく変わります。相続は、正の財産、負の財産といったお金が関係することもあり、相続人同士での認識のズレからトラブルになることも少なくありません。亡くなった後の話を生前にすることはお互いに気が引けるかもしれませんが、専門家に相談しながら、相続人とのコミュニケーションがおろそかにならないよう、できるだけ早い段階から事前準備を進めておきたいものです。
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