2019.2.28
未来の賃貸経営

【意外と知らない】原状回復トラブルの対処方とは!?

(写真=123rf)
(写真=123rf)
住まいに関するトラブルは、不動産の購入や修繕、不動産契約や賃貸借などさまざまな場面で発生しますが、その中で特に多いのが「賃貸住宅における退去時の原状回復に伴う敷金精算のトラブル」です。
持ち家に生まれ育った方には原状回復や敷金精算というものは縁のないものかもしれません。
筆者自身が不動産の仕事をしている際にも、進学や結婚などで持ち家を出てはじめて、原状回復に触れ、トラブルになるというケースが複数ありました。

それゆえ、家主側が敷金の精算に対して誠意ある対応をしているにもかかわらず、精算の折には、引かれる金額が発生する事象を作っておきながら、「全額の返還がない!」と文句を言ってくることがあります。そういう場合、私はよく説明をして理解してもらい、時には保証人である親にも連絡を入れ、原状回復費用の負担割合の説明をしていました。

貸している側は精算行為が済まないと次に進めませんから、借りていた学生にとっては些細なことでも、大家さんにとっては数か月のロスを生じさせる大きな問題です。原状回復の問題は大家さんにとっては思わぬ誤算となる可能性のあるポイントです。
 
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原状回復の事例

たとえば、カレンダーを留めるために壁に刺した画鋲(がびょう)。画鋲によって開いた穴をめぐり、貸主側は「次の賃貸に向けてこれでは印象が悪い、クロスの張り替えが生じた」と主張し、借主側は「そんなちっぽけな穴なのに、なぜ全体的な壁の張り替えの負担をしなければならない?」というもめごとになります。堂々巡りのやり取りの結果、強く出たほうの意見が通った、人によってその結果が異なる、不動産会社によってジャッジメントが違う、大家さんによって対応が違う……そんな時代が長く続いていました。

民間賃貸住宅の場合、貸すことをビジネスとしている大家さん側の立場と、家賃を支払っているのだから自分は保護されるべき消費者だと考える立場、その双方の立ち位置の違いから生じる問題が数多く発生しています。
大家さん家業の個人事業主と、ビルオーナーとして数多くの物件を所有して貸している企業との対応にも開きがあるため、「部屋を借りて暮らす」という行為のその先にある「借りる必要がなくなったので返す」際の精算行為が千差万別、大家さんごと、物件ごとに判断が異なるという現実は、トラブルの宝庫といっても過言ではありませんでした。

その中でも原状回復についてのトラブルは数限りなく発生するため、2013年に国土交通省は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改定版)」を公開しました。このガイドラインは、トラブルが急増し、大きな問題となっていた賃貸住宅の退去時における原状回復について、原状回復にかかる契約関係、費用負担等のルールのあり方を明確にして、賃貸住宅契約の 適正化を図ることを目的に、当時の建設省(現、国土交通省)が平成8年~9年度に「賃貸住宅リフォームの促進方策」の検討について㈶不動産適正取引推進機構に委託し、その中で、「賃貸住宅リフォームの 促進方策検討調査委員会(ソフト部会)」(委員長:執行秀幸 国士舘大学法学部教授(当時、現、中央大学法科大学院教授)において平成10年3月に取りまとめ公表したものです。
国土交通省HPより引用
http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf

内容を見てみると、「建物の価値は、居住の有無にかかわらず、時間の経過により減少するものであること、また、物件が、契約により定められた使用方法に従い、かつ、社会通念上“通常の使用方法により使用していればそうなったであろう状態”であれば、使用開始当時の状態よりも悪くなっていたとしてもそのまま賃貸人に返還すれば良いとすることが学説・判例等の考え方であることから、原状回復は、賃借人が借りた当時の状態に戻すものではないということを明確にし、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損(以下「損耗等」という。)を復旧することと定義して、その考え方に沿って基準が策定された」とあります。

“経年変化による原状回復費用は賃料に含まれている”という司法判断ですから、賃借人(借りていた人)の負担については、建物・設備等の経過年数を考慮することとし、同じ損耗等であっても、経過年数に応じて負担を軽減するという考え方が採用され、ガイドラインは作成されました。そのため、大家さんの負担はグッと上がって、これまで「貸しているのだから汚されたら直すお金は負担してもらおう」と考えられていたことが全く通用しなくなりました。
 
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トラブルを未然に防ぐために

現在では、賃貸借契約をする際に、原状回復に関する取り決めを示した「賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書」なるものが重要事項説明とともに説明され、原状回復について、その内容を確認してから契約を交わせるようになりました。
一般社団法人全国賃貸不動産管理業協会が発表した「住宅賃貸借契約書「原状回復」条項の特約例について」http://www.chinkan.jp/system/up_info/info_file1_75.pdf
に詳しく記されています。

東京都には600万世帯程度のうちの220万世帯が賃貸住宅に暮らしています。世帯数の4割が賃貸暮らし、ということになります。ガイドラインに基づき、東京都では宅地建物取引業者が物件を借りる賃借人に対して重要事項説明の際に重ねて4つの項目を説明するよう条例で定めています。
1.退去時の通常損耗などの復旧は、貸主が行うことが原則であること
2.入居期間中の必要な修繕は、貸主が行うことが原則であること
3.賃貸借契約の中で、借主の負担としている具体的な事項
4.修繕及び維持管理に関する連絡先

この条例ができてから、借主側の負担が軽減されたことは言うまでもありません。しかし、大家さん側の立場に立ってみると「家賃に修繕費は含んでいると考えよ」と言われても、例外も多々あるはずです。例えば、退去の際の精算において、契約を交わしていたとはいえ、自身が考えるものとは異なる費用負担が生じた場合など、精算行為に疑問を感じた際には、消費生活総合センターや、不動産取引特別相談室、東京都の場合には都市整備局不動産業課、などに問い合わせてみるのもひとつです。

相談窓口はトラブル解決のための助言や、トラブル防止のための啓発、情報提供を行っているところで、原状回復や賃貸住宅の管理の問題は、民法上の「契約自由の原則」に基づく契約であるため、各窓口とも、解決に向けた助言は行っても、当事者双方の事情を聞いて利害を調整し、一定の判断を下してそれに従わせる、という形での解決はできません。
あくまでも管理業者が入っている場合はその担当者と、大家さんが直に貸している場合はこれまで住んでいた借主さんと直接話し合うのがベターです。しかし、どうしても話し合いの過程で埒が明かないと感じるなど、不審に思う場合には、状況を箇条書きにしたうえで相談窓口に問い合わせて指南を仰ぐ、という方法があります。

敷金返還トラブルでは、借主に対しては管理業者を通してやり取りが出来ていたものでも、司法手続きになるとその相手方はあくまでも契約書上の貸主である自分、ということになり、これまで話し合いを重ねてきた管理会社とのやり取りではなくなります。
弁護士を雇って話し合うにしては金額が総額訴訟の範疇である60万円未満であることも多いため、賃貸の退去に関するトラブルにおいては、民事調停手続をすることが多いようです。
訴訟と比べて手続きが簡易で、双方が納得するまで話し合うことが基本なので、実情にあった解決が期待できます。
 

(写真=123rf)

 

トラブルの違い

それでは、家賃の価格によってトラブルの違いはあるのでしょうか。
多少家賃が高くなっても、新築同様にきれいにリフォームを手掛けた物件は人気です。それなりに大家さんが先行投資をしているということが理解されれば、家賃が多少割高に設定されていたとしても、そのスペックや条件が家賃に投影されていると感じた方が借りるものです。逆にいかがなものか?と思われる物件として、ペット可や相場に比べて著しく家賃を低く設定している物件です。先行投資されるべく修繕を省略した上で価格設定をしているとはいえ、借主側も住んでから壊れることへの不安は感じるはず。古くても利用に不具合はない状態にメンテナンスをしてから貸し出すのがベターです。また、大家さんがペット好きなので、今回はメンテナンスをするのではなくペット可にしてちょっと古い部分は目を瞑ってもらう、という考え方もあるようですが、猫の場合、柱を爪で損傷させる、ウサギの場合、齧(かじ)って損傷、といったように物件が予想以上に劣化する可能性は大ですから、その点の決まりごとをしっかり決めたうえで貸しましょう。貸してから“劣化させた分のペナルティが予想以上なのでこれだけ費用負担してほしい”とは言えない時代です。貸す側としてのリスクチェックもしっかりすると良いでしょう。
また、施工業者が見つからずメンテナンスが出来ていない箇所がある場合や、入居率を上げたいと考えたために、極端に相場より低い家賃設定というのを思いつく場合があるようですが、極端に低いと事故物件と間違われる可能性もありますので、安易に安くし過ぎないことも大切です。好意で安価に設定するのであれば、安価な理由を不動産会社から借りる方によく説明してもらうようにしましょう。

安すぎる物件では、常識では考えられない事件が発生する可能性もあります。つい先日も座間市にある格安物件の一室で、複数人の殺人が発生する事件が世間をにぎわせたばかりです。賃貸は、一度お貸ししたら借主に出て行って頂くのには契約書上で定めた期間(6か月先など)が必要ですから、簡単ではありません。そのエリアの標準的な価格を把握した上で、不動産会社のアドバイスを複数得たうえで、最終的な賃料設定をするのが良いでしょう。
また、申し込みが入っても、すぐに決めるのではなく、賃借人選びは慌てないことが大切です。多少空室が続いても、自身の生活本幹を揺るがすようなことのない計画で、大家さんを営みましょう。

まとめ

おしまいに、大家さん側の原状回復についての注意点としては、ガイドラインなどで借主側が保護されている現況を把握したうえで、原状回復費用はかつてのように賃借人にすべてを負担させることはできない時代だという認識を持つことが大切です。
修繕を見越したリスク回避ができる価格設定を行うことも大事で、そのために内装のスペックアップなど投資するべき場合も考慮しましょう。借りる側にとって魅力的なポイントを作ることも大切です。
さらに、所有物件のエリア相場が他のエリアに比べて著しく低い場合や、事故物件になってしまった場合には、手数料などが生じても所有物件を手放し、新たな物件に買い換えるなどの工夫も必要です。不動産は永遠ではない、相続のたびに資産は目減りするということを踏まえて、投資物件の見直しも時には必要。物件を変更する判断も大切な時代になってきています。

http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf
URLは国土交通省の原状回復をめぐるトラブルガイドラインの再改定版です。



執筆者
早乙女 明子(建築プロデューサー)

株式会社ガウディ 代表取締役
■保有資格
宅地建物取引士、二級建築士、施工管理士、ハウスインスペクター

オールアバウト・インテリアガイド
LIFULL HOME’S PRESS 記者
日本不動産ジャーナリスト会議 所属

完成した空間に自分を合わせるのではなく、『自分に合わせた空間をしっかりと作りたい』という方のために、レジデンスやサロンなどの空間と、真摯に向き合っている。

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