2021.02.12
民法改正

2020年4月施行の民法改正が不動産賃貸業に与える影響について Part3~賃貸借における連帯保証人契約の変更点について~

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総論

現行の民法は明治時代に施行され、部分的な改正はあるものの抜本的な改正はこれまでされてきませんでした。
しかし、施行から100年以上が経過し、その間社会を巡る情勢は目まぐるしく変化しました。

そこで、今般社会情勢に適合しつつ、国民に理解をしやすい法律とすべく、「民法の一部を改正する法律案」及び「民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案」が国会に提出され、平成29年5月26日にこれらが参議院本会議で可決され民法の改正が成立しました。

改正された民法は原則として令和2年4月1日に施行されることとなりますが、賃貸経営を巡る規律も大きな改正がなされており、大きな混乱を生じることなく円滑に賃貸経営を進めていくためには、改正のポイントをしっかりとおさえることは必須条件です。

そこで、今回の記事では賃貸経営を巡る規律の改正ポイントの一つである連帯保証契約のうち、特に個人が保証人となるケースの改正について解説したいと思います。

 

各論

保証契約の内容に関する規律

改正民法465条の2第1項は「一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。」と定めています。

これは個人根保証契約と呼ばれる保証契約に関する規定とされ、賃貸借契約の保証は通常この個人根保証契約に該当します。

この個人根保証契約が有効に成立するためには、極度額を定めなければならず、これが今までの保証契約とは大きく異なるポイントです(改正民法465条の2第2項)。

ここでいう極度額とは、保証人が負担しなければならない可能性のある債務の限度額という意味です。

これが設けられた趣旨というのは、債務負担額が予期せぬ高額になり保証人を害する結果とならないように予測可能性を確保するという点にあります。

そのため、今後保証契約書に、「〇円を極度額として定める。」といった文言を入れる必要があるでしょう。

また、保証契約において保証される債務の範囲について、一定の事由が生じた場合には、それ以降発生した賃貸借契約に基づく債務は保証の範囲外とされるようになりました。これを元本の確定といいます。

具体的には、賃貸人が保証人の財産に対して金銭の支払いを目的とする債権についての強制執行又は担保権実行の申し立てをしたとき、保証人が破産手続き開始決定を受けたとき、主たる債務者又は保証人が死亡したときに元本が確定し、それ以降に生じる賃貸借契約に基づく債務は保証の範囲外となりますので注意してください。
元本確定事由のうち、保証人の財産に対する強制執行又は担保権実行の申し立て以外の事情は、賃借人や保証人側の事情であり、賃貸人がタイムリーにこれらの情報を把握することは困難です。

他方で、係る事情以降の賃貸借契約に基づく債務について無担保状態となってしまうなど賃貸人に大きな影響が生じる可能性があります。

そこで、賃貸借契約及び保証契約の中で元本確定事由が生じたり、賃借人や保証人にかかる事情が生じたことを知ったときには速やかにこれを賃貸人に通知する旨の条項を設けることを検討してもいいでしょう(例「保証人は賃借人が死亡した事実を知った際には速やかに賃貸人に対して通知する。」等)。

請求管理に関する規律

連帯保証のうちの「連帯」に関する民法の規律にも変更があったため請求管理上の観点から注意点を見てみましょう。

これまでは連帯保証人に対する債務履行の請求や、免除、時効の完成は絶対効(賃借人にもその影響が及ぶという意味)があるとされていましたが、改正民法ではこれらが相対効(賃借人には何ら影響を及ぼさないという意味)であると変更されました。

この改正による請求管理に与える影響について、履行の請求をピックアップして解説します。

滞納賃料について履行の請求をしないまま長期間放置していると、時効期間の経過によって、かかる滞納賃料は時効によって消滅してしまいます。これを防ぐ手段が履行の請求です。分かりやすく言うと滞納賃料の支払いを求めて裁判を起こすことが履行の請求にあたります。

従前の民法の場合、何らかの事情によって賃借人に対して履行の請求が出来なくとも、連帯保証人に対して履行の請求を行っておけば賃借人との関係でも履行の請求を行ったこととなり、時効を中断させることが出来ました。

しかし、改正民法では、履行の請求の効果は相対効と定められたため、連帯保証人に対して履行の請求をするのみで、賃借人に対して履行の請求をしないと賃借人との関係においては時効を中断させることが出来なくなり、時効が完成してしまうなどのおそれがあります。

もっとも、かかる相対効の原則は、当事者間で特約を定めることによって絶対効に変更することが可能と定められています(改正民法458条、441条但書)。

そこで、賃貸借契約書の中で、賃貸人から連帯保証人に対する履行の請求は賃借人に対してもその効力が生ずる旨の条項を設けることが請求管理上好ましいでしょう。

保証人への情報提供義務

賃貸借契約の目的が事務所・店舗等事業目的である場合の保証契約については、契約締結時に保証人に対して法定の情報を提供しなければならないという若干特殊な規律が設けられましたので注意が必要です。

具体的には、主債務者(賃借人)は、自身の財産及び収支の状況、賃貸借契約に基づく債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況、担保提供の有無及びその内容等について保証人になろうとする人に情報として提供をしなければなりません(改正民法465条の10第1項)。

これを怠った場合で、賃貸人がかかる事情(賃借人が情報提供しなかったこと)について知っていた又は知らないことに何らかの落ち度があったと判断された場合には、保証契約が取り消されてしまう可能性があります(改正民法465条の10第2項)。

この義務は賃借人が負っているため、賃貸人側で代替的に行うことは出来ませんが、他方で賃借人がこれを怠ったが故に保証契約が取り消されるという重大な影響を賃貸人は受ける可能性があります。

そこで、この点は、賃貸借契約書において、賃借人がかかる義務を履行したことを表明し保証する規定を設け、保証契約書においても法定の事項について情報提供を受けたことを表明し保証する規定を設けるなどの対策が必要です。

その他契約期間中にも保証人に対して情報提供をしなければならないケースが設けられました。これは賃貸借契約の目的が事業目的であるか否かに関わりません。

賃貸借契約期間中、保証人から求められた場合には遅滞なく、賃貸借契約に基づく賃借人の債務の履行状況に関する情報を賃貸人が提供しなければなりません。

具体的には債務の元本及び債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供することになります(改正民法458条の2)。

かかる義務を賃貸人が怠った結果、保証人に何らかの損害が生じた場合には、賃貸人は保証人に対して債務不履行に基づく損害賠償義務を負いますし、債務不履行を理由とした保証契約の解除がなされるおそれもありますので注意が必要です。

具体的な情報提供の期限は設けられておりませんが、遅滞なく情報提供をするためにも予め情報提供書のような書式を作成しておき、情報提供依頼があった際には形式的・機械的に作成できるような体制を整えておくことが肝心です。

この点、賃貸経営において管理業務を管理会社等に委託するケースが多く、管理会社からの説明を可能にしておくことは便宜であると考えます。

そこで管理会社等第三者に管理業務を委託する場合には、賃貸借契約書や保証契約書において、情報提供義務の履行について管理受託者を通じて行う場合がある旨を記載しておくとよろしいかと考えます。

なお、何らかの事情により賃借人が負っている既発生の債務について改めて分割払いを認めつつ(例えば滞納している賃料について改めて分割払いの合意をしたような場合がこれに該当し、賃料の本来の月額払いはこれには該当しません。)、この分割を怠った場合には一括で支払わなければならないといった期限の利益喪失条項が定められているという状況で、実際にその分割払いを怠り期限の利益が喪失した場合には、その旨について利益喪失を知った日から2か月以内に賃貸人が保証人に対して通知しなければならないと定められています(改正民法458条の3第1項)。
これも賃貸借契約の目的が事業目的か否かで異なることはありません。

このようなケースはあまり多くはないと思いますが、仮にこれを怠った場合には、期限の利益を喪失した時から、実際に賃貸人が通知を出すまでの間に生じた遅延損害金に係る保証債務の履行を請求することが出来ないとされています(改正民法458条の3第2項)。

まとめ

今回の民法改正によって賃貸経営に密接に関係する連帯保証契約に関する規律が大きく改正されており、これにしっかりと対応しなければ、場合によっては連帯保証契約の効力が否定され、無保証で賃貸経営に臨まなければならなくなる等といった大きなリスクを負いかねません。

民法改正の内容について十分な理解をしていただくとともに、今後の実務の集積・動向に注視していただく必要があると考えます。

よくある質問事項

Q 施行日前に締結された賃貸借契約と一緒に締結された保証契約について、施行日後に賃貸借契約が更新された場合、保証契約は改正民法が適用されるのでしょうか。
A 施行日後に賃貸借契約が合意によって更新されただけの場合には、保証契約は改正前の民法が適用されます。ただ、賃貸借契約の更新時に、保証契約を新たに締結したり、更新する旨を合意した場合には、当該保証契約には改正民法が適用されます。

Q 保証契約において極度額の定め方として、「月額賃料の〇か月分」と定めようと考えていますが、賃料はその後変更される可能性もあることに鑑みて、賃料額が変更されたときには変更後の賃料額に基づいて計算した金額を極度額とする旨もあわせて記載しようと考えていますが、そのような記載は可能でしょうか。
A 極度額を定めることの意義は、保証人が予期せぬ過大な債務を負担する結果となることを防ぐために予測可能性を確保する点にあります。そのため極度額は保証契約締結時点で確定されていなければならず、ご質問のような条項を入れると、極度額変更の可能性があることとなり、確定していないと評価され、保証契約が無効となってしまう可能性がありますので避けた方が良いでしょう。

 
【執筆者】森田 雅也
東京弁護士会所属。年間3,000件を超える相続・不動産問題を取り扱い多数のトラブル事案を解決。「相続×不動産」という総合的視点で相続、遺言セミナー、執筆活動を行っている。

経歴
2003 年 千葉大学法経学部法学科 卒業
2007 年 上智大学法科大学院 卒業
2008 年 弁護士登録
2008 年 中央総合法律事務所 入所
2010 年 弁護士法人法律事務所オーセンス 入所

著書
2012年 自分でできる「家賃滞納」対策(中央経済社)
2015年 弁護士が教える 相続トラブルが起きない法則 (中央経済社)
2019年 生前対策まるわかりBOOK(青月社)

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