2021.02.12
民法改正

2020年4月施行の民法改正が不動産賃貸業に与える影響について Part7~民法改正後の保証会社の活用方法


はじめに

すでに公開されております第1回目と第3回目の記事において、2020年4月1日から施行される改正民法と連帯保証契約の変更点について解説いたしました。

2020年4月施行の民法改正が不動産賃貸業に与える影響について Part1
2020年4月施行の民法改正が不動産賃貸業に与える影響について Part2〜その他不動産賃貸業〜
2020年4月施行の民法改正が不動産賃貸業に与える影響について Part3〜賃貸借における連帯保証人契約の変更点について〜

第7回目となる本稿では、特に、今回の民法の改正により、賃貸借契約締結の際に保証会社を利用するメリットが大きくなったことについて解説いたします。

改正民法と連帯保証契約の詳しい内容につきましては、第1回目記事「2020年4月施行の民法改正が不動産賃貸業に与える影響について Part1
」と第3回目記事「2020年4月施行の民法改正が不動産賃貸業に与える影響について Part3〜賃貸借における連帯保証人契約の変更点について〜」もご覧いただければと思います。

なお、本稿では、前回までと同様、現行民法を「旧民法」、2020年4月1日に施行される改正後の民法を「改正民法」と記載しています。

従来のままのやり方では保証契約が無効となる危険性

(1)保証人の負担の上限を明確化する規定が追加

個人の保証人保護を図るため、個人が保証人となって不特定の債務を主たる債務とする保証契約(これを「個人根保証契約」といいます。)を締結する際には、「極度額」を定めなければ無効になるという規定が設けられました(改正民法第465条の2第2項)。「極度額」とは、保証人が責任を負う上限額のことです。

賃貸借契約に基づいて賃借人が負う一切の債務を個人が保証する場合、この個人根保証契約となり、今後は極度額の定めが必要になります。

そのため、賃貸人は、従前と同様の方法で個人と保証契約を締結していると、いざ保証人に支払いを請求した際に、この規定に基づいて保証契約が無効であると主張され、支払いを拒否されて、思わぬ損害を被ることになりかねません。
他方で、保証人が法人である場合にはこの規定は適用されませんので、保証会社が保証人となっている場合には、このような思わぬ損害を被ることはありません。

なお、保証契約は書面によるものでなければ無効となるので注意が必要です(改正民法第465条の2第3項、第446条第2項及び第3項)。

(2)極度額の大きさに注意

個人根保証契約を締結する際に極度額を定めなければならないとされたものの、その極度額をどのくらいの金額にすればいいのかについては、明文の規定はありません。

賃貸人が安全を期して極度額を高く設定した場合、個人が保証人となることに躊躇してしまう可能性は高いでしょう。そうなると、極度額の設定額によっては、賃借人が保証人を見つけられず、賃借人自体が現れなくなってしまうというリスクも十分に考えられます。

また、保証の目的や保証人の資力等と比較して、定められた極度額が極端に高い場合には、極度額の定めが法律上要求される趣旨に反しており、そのような保証契約は公序良俗違反で無効とされてしまう可能性があります。

そのため、個人の保証人を確保しようとすると、後のトラブルを回避するために、極度額の定めを低めに設定せざるを得なくなってしまうかもしれません。

一方で、極度額が低ければ、それだけ賃借人が滞納をしたときのリスクが高まります。このような状況に照らしてみると、極度額の定めがなくても保証契約が無効とならない保証会社を利用するメリットは大きいといえます。

(3)改正民法施行前に締結した保証契約の注意点

賃貸借契約や保証契約については、原則として、施行日より前に締結された契約については旧民法が適用され、施行日後に締結された契約については改正民法が適用されます。

自動更新特約の付いた賃貸借契約と同時に締結された保証契約については、一度契約を交わしたまま賃貸借契約が継続する点を捉えて、旧民法が適用され、極度額の定めがなくても無効とならないと解釈されることが考えられます。

もっとも、これはあくまで法律の解釈の問題になります。契約書の記載の仕方や更新手続きの取り方などによっては、保証契約の更新が合意されたとして、改正民法が適用され、更新後に発生した部分については「極度額の定めがないから無効である」と判断されてしまう可能性があります。

このようなトラブルを回避するためにも、極度額の定めが法律上要求されていない保証会社を利用するということにはメリットがあります。

(4)賃借人が死亡した際の注意点

賃借人の債務について個人根保証契約が締結されている場合、主たる債務者である賃借人が死亡したときには、保証人が責任を負う元本が確定されます(改正民法第465条の4第1項3号)。

賃貸人としては、信頼関係が破壊される特段の事情がなければ賃貸借契約を解除することはできず、賃借人の死亡により賃借権は相続されるのが通常です。そのため、例えば賃借人である夫が死亡しても、賃借人の妻が賃借人となって賃貸借契約は継続し、賃料債務が発生していくことになります。

しかし、賃借人が死亡したことにより主たる債務の元本が確定しているため、賃借人が死亡した後の賃料債務については、個人根保証契約の保証人は責任を負いません。

つまり、賃借人が死亡した後に滞納があっても、その分を賃貸人が保証人に請求することはできません。

そのため、賃借人が死亡し、個人根保証契約における主たる債務の元本が確定した場合、滞納リスクを減らすためには、新たに保証契約を締結する必要があります。もっとも、早急に保証人を見つけることは困難なことも多いので、このような場合にも保証会社を利用するメリットは大きいといえます。

賃借人が滞納した場合の注意点

今回の民法改正により、保証人が個人である場合には、保証人を保護する趣旨から、主たる債務者が期限の利益を喪失した場合には、債権者が保証人に対して、その旨の情報を提供する義務が規定されました(改正民法第458条の3)。

具体的には以下の通りです。

① 主たる債務者が期限の利益を有する場合において、その利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から2か月以内に、その旨を通知しなければならない。

② 上記①の期間内に①の通知をしなかったときは、債権者は、保証人に対し、主たる債務者が期限の利益を喪失した時から①の通知をするまでに生ずべき遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く。)に係る保証債務の履行を請求することができない。

賃貸借契約においては、例えば、滞納した何か月分もの賃料債務に期限の利益を与えて分割払いとした場合、仮に約束された支払いがされずに賃借人が期限の利益を失ったとしても、賃貸人はその旨を保証人に通知しなければ、それまでの遅延損害金を受け取れない可能性があるということです。

もっとも、この規定は保証人が法人の場合には適用されません。そのため、保証会社を利用している場合には、このような通知義務や遅延損害金の請求の制限をうけることはありませんし、そもそも保証会社を利用していれば、速やかに滞納賃料が補償されるため、賃貸人自身が賃料滞納による損害を被って分割払いの合意をせざるを得ない状況になり難く、保証会社を利用するメリットは大きいと言えます。

事業用物件の場合の注意点

事業に関する債務について保証契約を締結する際には、賃借人から保証人に対し、賃借人の財産状況等に関する情報を提供することが義務付けられました(改正民法第465条の10第1項)。

そして、賃借人がこの情報提供義務を怠り、保証人となろうとしている者に対して自己の財産状況等を正しく伝えていなかった場合などには、保証契約を取り消されてしまう可能性があるので注意が必要です(改正民法第465条の10第2項)。

もっとも、対象は、あくまで「事業のために負担する債務についての保証契約」ですので、事業をおこなうために物件を賃貸借するという場合に問題となり、事業とは関係のない居住用物件の賃貸借契約をする場合には問題とはなりません。

また、この規定は保証人が法人である場合には適用されないため、保証会社を利用する場合には、事業用物件であっても賃借人の情報提供義務違反を理由に保証契約が取り消されることはありません。

そのため、特に事業用物件を対象とする賃貸借契約を締結する場合には、保証会社を利用するメリットは大きいといえるでしょう。

最後に一言

本稿では、民法改正と保証会社を利用するメリットについてご説明いたしました。今回の改正は、かなり賃借人に有利な内容となっており、従来と同じやり方で賃貸借契約や保証契約を締結してしまうと、後にトラブルにつながることにもなりかねません。そのため、賃借人の滞納リスクや後のトラブルを回避するためにも、保証会社を利用するメリットは大きいといえます。

よくある質問事項

Q1:改正民法により、公正証書を作らなければ保証が無効になるという話を聞きました。必ず公正証書を作らなければ保証が無効になるのでしょうか。 

A1:必ず公正証書を作らなければならないわけではありません。

公正証書を作らなければ保証が無効になる場合というのは、「事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は…根保証契約」(改正民法第465条の6第1項)です。賃貸借契約に関する保証契約についても、事業用物件でなければこの規定は適用されません。また、保証人が法人の場合にはこの規定は適用されず、事業用物件であっても保証会社が保証する場合には、公正証書の作成は不要です。

Q2:賃借人が行方不明になってしまい、賃料を支払ってくれなくなりました。連帯保証人には支払いを催告したのですが、賃借人に対する賃料の支払請求は、いつまでできるのでしょうか。

A2:弁済期から5年の経過をもって消滅時効が完成してしまいます。保証人に催告をしても、賃借人に対する消滅時効を止めることはできません。

旧民法下(旧民法第434条)では、連帯保証人に対する履行の請求に絶対的効力が認められ、連帯保証人に対して履行の請求をすれば、主たる債務者である賃借人の消滅時効を止めることができました。しかし、今回の改正により、連帯保証人への履行の請求は、主債務者に対してはその効力を生じないものとして、絶対的効力から相対的効力に改められました(改正民法第458条、第441条)。

そのため、連帯保証人に対してしか履行の請求をしていない場合には、主たる債務者である賃借人が消滅時効を援用すれば、消滅時効が完成した分の滞納賃料の請求はできないことになります。

 
【執筆者】森田 雅也
東京弁護士会所属。年間3,000件を超える相続・不動産問題を取り扱い多数のトラブル事案を解決。「相続×不動産」という総合的視点で相続、遺言セミナー、執筆活動を行っている。

経歴
2003 年 千葉大学法経学部法学科 卒業
2007 年 上智大学法科大学院 卒業
2008 年 弁護士登録
2008 年 中央総合法律事務所 入所
2010 年 弁護士法人法律事務所オーセンス 入所

著書
2012年 自分でできる「家賃滞納」対策(中央経済社)
2015年 弁護士が教える 相続トラブルが起きない法則 (中央経済社)
2019年 生前対策まるわかりBOOK(青月社)

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