2021.02.12
民法改正

2020年4月施行の民法改正が不動産賃貸業に与える影響について Part2~その他不動産賃貸業~

はじめに

2020年4月1日から施行される改正民法が不動産賃貸業に及ぼす影響について、前回は、賃貸借契約やそれに関わる保証契約等の変更点につき概要を解説しました。

本稿では、前回解説した点以外の、不動産賃貸業にも影響する法定利率や時効といった私法一般にかかるルールの変更点を解説します。また、不動産業にかかわる売買契約における重要な変更点や将来債権譲渡等の変更点についても概要を説明します。

なお、解説では、前回同様に、現行民法を「旧民法」、2020年4月1日に施行される改正された民法を「改正民法」と記載しています。

 

法定利率の引き下げ(改正民法第404条)

旧民法下では、法定利率は年5%、商事法定利率は年6%でした。
この点、改正民法下では、法定利率は年3%に引き下げられます。商事法定利率も廃止され、法定利率に統一されます。当該改正は、昨今の低下した市中金利の水準に合わせたもので、今後は3年ごとに利率を見直す変動制となります。

当該改正による不動産賃貸業への影響としては、賃貸借契約における賃料支払いの遅滞等、債務不履行に伴い生じる遅延損害金の減額が挙げられます。
もっとも、法定利率は任意規定ですので、契約にて法定利率を上回る利率を定めておけば当該不利益を回避できます。賃借人が個人の場合には、基本的には消費者契約法が適用され年14.6%が約定利率の上限となりますので、その範囲内で遅延損害金の利率を約定しておくと良いでしょう。

消滅時効の変更(改正民法第166条)

旧民法下では、債権の消滅時効の起算点及び期間について、原則として、「権利を行使することができる時」(旧民法第166条第1項)から「10年間行使しないときは、消滅する」(旧民法第167条第1項)と規定されていました。

また、債権の種類によっては10年よりも短い短期の消滅時効が各別に規定され、賃料債権は「年又はこれより短い時期によって定めた金銭の給付を目的とする債権」として5年が消滅時効とされていました。

この点改正民法では、債権の種類ごとの短期消滅時効の規定が廃され、債権については原則として「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき」又は「権利を行使できる時から10年間行使しないとき」に権利は時効消滅すると規定されています。

当該改正による不動産賃貸業への影響については、賃料債権については原則として旧民法と同様の5年の消滅時効にかかるものと考えられるため、特段の影響はないものと考えます。債権者である賃貸人は、賃料が弁済期を過ぎていることの認識があれば賃借人に対して賃料請求ができるため、基本的にその時から「債権者が権利を行使することができることを知った時」として短期消滅時効が進行すると考えられるからです。

不動産売買に関係する改正

(1)    瑕疵担保責任から契約不適合責任への変更(改正民法第562条~第566条)
旧民法下では、「売買の目的物に隠れた瑕疵があったとき」には、買主は売主に対して、契約の解除及び損害賠償請求ができました。
このような売主の責任を瑕疵担保責任といい、その法的性質には諸説あったものの、物の個性に着目した特定物の売買について売主に無過失責任を法定したものという解釈が通説的でした。

この点、改正民法では、引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約内容に適合しない場合に、買主は売主に対し、履行の追完、代金の減額請求、損害賠償請求や解除をすることができる旨に変更されました。
当該改正は、売主の責任を債務不履行の特則へと変更するもので、対象は不特定物も含まれることや過失責任となる点が旧法下の瑕疵担保責任と異なります。

 (2) 売買目的物の滅失等についての危険負担(改正民法第567条)
旧民法下では、売買契約締結後、売買の目的物である建物の引き渡し前に、天災など売主に責任がない事由によって建物が滅失してしまった場合、売買契約にて特則がない限り、実際に建物の引き渡しを受けられなくても、買主は売主に対して代金を支払わなければなりませんでした。

この点、改正民法では、売主が買主に売買の目的物である建物を引き渡した場合には、引き渡し後に当事者双方に責任のない事由によって建物が滅失等しても買主は代金を支払わなければならない旨規定され、建物の引き渡しを境に危険負担が売主から買主に移転することとなりました。

当該改正により、目的不動産の引き渡し前の天災等で建物が滅失等した場合、危険を負担する売主は買主から代金の支払いを受けられません。当該不利益を回避するためには、引き渡し前の危険を買主が負担する旨の特約を結んでおくことが必要となります。

将来発生する賃料債権の譲渡(改正法第466条の6)

旧民法下では、未だ弁済期にない将来発生する債権の譲渡について明文規定はありませんでした。
この点、改正民法では、将来債権が譲渡できることや対抗要件を具備できる旨を明文で規定しています。対抗要件具備の方法は、既発生の債権譲渡と同様であり、また旧民法での方法と変わりはありません。
当該改正により、賃貸人にとっては資金調達の選択肢が増えたと考えられます。

新設された定型約款に関する規定の適用の有無(改正法第548条の2~第548条の4)

旧民法下では、規定のなかった定型約款についての規定が、改正民法で規定されました。改正民法では、定型約款を「定型取引において、契約内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体」、定型取引を「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」と定義して、定型約款が契約内容とみなされるための要件や開示義務や約款変更に関するルール等を規定しています。

不動産賃貸業においても、不動産業者があらかじめ作成した定型的な契約書等が使用されることが多々あり、定型約款の規定が適用されるようにも思えます。しかしながら、不動産取引は賃借人等の個性に着目した個別的な取引であることから、原則として定型取引に該当せず、よって定型約款の規定の適用も受けないと考えられます。

また、定型的な契約書等もあくまで「ひな型」であり、実際には賃借人等との間で個別に修正されているため、定型約款に該当しないと考えられます。

よくある質問事項

Q.遅延損害金を請求するまでの間に法定利率の変動があった場合、いずれの法定利率が適用されますか。
A.遅延損害金を支払わなければならない時点での法定利率が適用されます。
Q.売主が契約に従い、売買契約の内容に適合した建物を買主に引き渡そうとしたにも関わらず、買主の都合で受領がされなかった間に生じた天災等で建物が滅失した場合、実際に引き渡せていない以上、代金の支払いは受けられないのでしょうか。
A.代金の支払いが受けられます。
売主が契約内容に適合する目的物をもって、その引き渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み又は受け取れない場合には、当該履行の時以降の危険は買主が負担することが改正民法上明文にて規定されています(改正民法第567条第2項)。

 
【執筆者】森田 雅也
東京弁護士会所属。年間3,000件を超える相続・不動産問題を取り扱い多数のトラブル事案を解決。「相続×不動産」という総合的視点で相続、遺言セミナー、執筆活動を行っている。

経歴
2003 年 千葉大学法経学部法学科 卒業
2007 年 上智大学法科大学院 卒業
2008 年 弁護士登録
2008 年 中央総合法律事務所 入所
2010 年 弁護士法人法律事務所オーセンス 入所

著書
2012年 自分でできる「家賃滞納」対策(中央経済社)
2015年 弁護士が教える 相続トラブルが起きない法則 (中央経済社)
2019年 生前対策まるわかりBOOK(青月社)

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