居住用賃貸建物にかかる消費税の還付については、度々法改正が行われています。不動産にかかる消費税は高額になるため、少しでも有利な方法を選択したいものです。本記事では不動産の消費税還付についての詳細と、不動産を自主管理するオーナーがキャッシュフローを改善して安定した賃貸経営を行っていくためのポイントを説明します。
【著者】水沢 ひろみ
オーナーのための家賃保証
「家主ダイレクト」
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目次
まずは消費税のしくみと、賃貸物件の消費税還付についてわかりやすく解説します。
消費税とは、物やサービスを消費するときに課税される税金です。消費者自身が負担し、事業者が国に納税します。なぜかというと、消費者が物やサービスを消費するたびに税務署に税金を納めるということは現実的ではないからです。そのため、物やサービスを提供した側の事業者が消費者に代わって納税するしくみとなっていて、このように税を負担する者と納める者が異なる税金を「間接税」といいます。
たとえば、以下の図で説明すると、流通段階で製造業者、小売業者、消費者へとかけられた消費税は、最終的には消費者が負担します。この時、二重課税にならないように、小売業者は売上げに対する消費税額2,000円から仕入れに対する消費税額1,000円を控除した差額の1,000円を納付します。
小売業者が仕入れの時に支払った消費税の1,000円は製造業者が納付していますので、製造業者と小売業者の消費税納付額を合わせると2,000円となり、消費者の負担する額と一致します。受け取った消費税から支払った消費税を差し引いた差額を納税すれば小売業者は消費税を負担しなくて済みますし、消費税を受け取って利益を得ていることにもなりません。
ただし、小売業者が仕入れた商品を売ることができなかったらどうでしょうか?
小売業者は、消費者が負担するべき消費税を製造業者への支払いという形ですでに立て替え払いしています。にもかかわらず、商品が売れなければ消費者から消費税を回収できないため、仕入れ時に支払った消費税1,000円を回収できなくなります。こういった場合には、仕入れ時に支払った消費税を還付してもらう必要があるのです。
では、これまでの説明をもとに、事業者用賃貸物件における消費税還付にあてはめて考えてみましょう。不動産の消費税還付を受けるためには課税売上がなくてはなりません。
ところがここで注意しなければならないのは、事業者用賃貸物件のオーナーが不動産を購入した場合と、住居用賃貸物件のオーナーが不動産を購入した場合では、実は同じ不動産でも取得に要した費用は異なり、後者の場合は不動産の消費税還付が受けられないことです。
事業者用賃貸物件のオーナーが不動産を取得する場合、建物の取得にかかった消費税分を売上にかかった消費税分から控除することができます。つまり、建物にかかる消費税分が還付されることになり、結果、消費税の負担を減らして(もしくは負担ゼロで)建物を取得することができます。
一方、住居用賃貸物件のオーナーが不動産を取得する場合、受け取る家賃に対して消費税が課税されないため、取得した不動産にかかった消費税が控除されません。つまり、不動産にかかる消費税はオーナーが負担することになります。
なお、建物には消費税がかかりますが、土地には消費税はかかりません。ですから、問題となるのは建物の取得費用についてです。
たとえば、土地10,000万円(1億円)、建物10,000万円(1億円)、消費税1,000万円の物件を取得したとして以下に説明します。
事業者用賃貸物件のオーナーが不動産を購入した場合には、不動産の取得価格は20,000万円であるのに対し、住居用賃貸物件のオーナーが不動産を購入した場合には21,000万円となってしまいます。
先述のとおり、住居用賃貸物件のオーナーは、本来消費者が負担するはずの消費税を負担しなくてはならない(受け取る家賃に対して消費税が課税されないため)ことから、オーナーの間で消費税還付を受けるためのスキームが考え出され、これまで利用されてきました。
しかし、2020年の不動産投資の消費税に関する税制改正(2020年10月1日以降に引き渡しが行われる物件が対象)が行われ、これらのスキームは事実上封じ込められることになっています。ここでは改めて2つのスキームを紹介するとともに、封じられた理由を説明していきます。
居住用賃貸物件を取得する場合はオーナー側に消費税の負担が生じること、消費税還付を受けるには課税売上が必要なことはすでに説明したとおりです。居住用賃貸物件による家賃収入は非課税売上になることから、いわゆる「自販機スキーム」によって消費税還付を受けようとするやり方が登場しました。
自販機スキームを簡単に説明すると、まず、物件完成前あるいは物件購入後に敷地内に自動販売機を設置しておきます。この時、まだ非課税売上の家賃収入は発生させていません。設置した自動販売機から先に課税売上(自動販売機の売上)を発生させておき、不動産を取得した期の売上を自動販売機の販売手数料のみとし、課税売上割合を上げておきます。すると、家賃収入発生前の課税売上は100%ということになり、多額の消費税還付を受けられていました。
なお、このスキームを使って消費税の還付を受けるには課税事業者になる必要があり、課税事業者の申請をしなければなりません。課税事業者は課税売上割合に応じて消費税の還付を受けるため、仮にこういったスキームを使わず家賃収入だけの場合、非課税売上だけとなって還付を受けることはできません。
しかし、そういった自販機スキームは2度の税制改正によって封じられるようになりました。まずは2010年3月に消費税法が改正され、先述のように課税事業者を申請して消費税還付を受けた場合、その後の3年間は免税事業者に戻れないようになったのです。
しかし、一定の抑止力はあったもののまだ抜け道が残っていたことから、2016年度に2度目の改正。高額特定資産とされる1,000万円以上の固定資産などを取得した翌事業年度から課税事業者となり、3期は免税事業者に戻れなくなったことで、自販機スキームは意味のないものとなったのです。
金地金スキームも節税のための方法として流行しました。金地金スキームとは、簡単にいえば課税売上を作るために「金地金」を売買することで消費税還付を受けるというもので、課税売上を作るために自動販売機を設置する自販機スキームと似たしくみです。金地金スキームの場合、売買を繰り返すことで、建物を購入する費用にかかる消費税を一部課税仕入にでき、売買で発生するコスト分の消費税は仕入税額控除ができたのです。
しかし、この金地金スキームも、2020年10月以降に居住用賃貸建物を購入した場合は仕入税額控除を認めないこととされ、税制改正で封じられることとなりました。
住居用賃貸物件では課税売上はほとんど発生しないので消費税の還付は受けられないことをこれまで紹介してきましたが、居住用賃貸物件を事業用として賃貸あるいは売却する場合、建物を取得してから3年以内にのみ控除することが可能です。
居住用賃貸物件を事業用として賃貸する場合は取得してから3年目の課税期間に、売却する場合は売却年度に、一定金額を仕入控除額として加算調整を行うことができます。
※課税賃貸割合とは、対象となる期間の居住用賃貸物件に対する賃貸料のなかに消費税が課税される賃貸料(事業用の賃貸料)がいくらあったかを示す割合のことです。
何が居住用賃貸建物とされるかについては、以下のもの以外となります。
(1) 建物の全てが店舗等の事業用施設である建物など、建物の設備等の状況により住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物
(2) 旅館又はホテルなど、旅館業法第2条第1項《定義》に規定する旅館業に係る施設の貸付けに供することが明らかな建物
(3) 棚卸資産として取得した建物であって、所有している間、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかなもの
出典:国税庁 – 居住用賃貸建物(住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物の範囲)
要するに、建物のすべてが店舗の事業用施設、旅館やホテル、売れるまでのあいだ居住用貸付を行わないことが明らかな建物以外は、居住用賃貸建物とみなされます。
オーナーが居住用賃貸物件を事業用として賃貸あるいは売却する場合、消費税の還付を受けるためには課税事業者の届け出が必要になります。
もともと、居住用賃貸物件のオーナーは免税事業者であることが多いです。消費税の納税義務者となるのは基準期間(個人事業者はその年の2年前、法人は2期前の年度のこと)の課税売上が1,000万円を超えた場合とされていますが、居住用賃貸物件の家賃収入は非課税ですのでオーナーの課税売上が1,000万円を超えるケースはあまり考えられません。そのため、居住用賃貸物件のオーナーは免税事業者がほとんどだと想定されます。
しかし、消費税の納付や還付といった消費税の申告をするには、オーナーが「課税事業者」になっていなければなりません。そのため、消費税の還付を受けるのに課税事業者の届出を出しておく必要があるのです。
課税事業者となるためには税務署に「消費税課税事業者選択届出書」を提出します。適用を受けたい年の前年度中に提出する必要がありますが、法人を新しく設立した場合には設立年度中に提出することで1年目から適用されることになります。
支払った消費税を計算する方法には、「個別対応方式」と「一括比例配分方式」の2種類があります。
従来、自販機スキームや金地金スキームを利用する際には一活比例配分方式を選択する必要がありましたが、事業用物件の消費税還付では個別対応方式を選んでも問題はありません。事業用物件に対する賃貸料はもともと課税売上であるからです。
居住用賃貸物件を事業用とする場合、なにが課税対象なのかオーナーは理解しておく必要があります。課税対象になるもの・ならないものは以下のとおりです。
課税対象となるもの
非課税となるもの
店舗や事務所は居住用賃貸物件にならないので、それらの家賃収入は課税売上となります。同様に、駐車場として整備されている場所も施設の貸付けとなって課税売上に含まれます。逆に、駐車場として整備されてない更地の場合は土地の貸し付けとみなされ、消費税はかかりません。
また、入居者から電気・ガス・水道の使用料を徴収している場合も課税されます。入居者に代わって料金を支払うのはサービスの提供にあたると考えられるからです。
退去時の原状回復工事代も課税対象です。入居者には原状回復義務があるので、オーナーが入居者に代わって工事をしたことはサービスの提供とみなされるからです。原状回復工事代を敷金から差し引いて精算する場合、消費税分も一緒に差し引かないと本来入居者が負担するはずの消費税をオーナーが負担することになってしまいます。
一方、礼金や敷金のうち入居者に返還しないものは非課税となります。入居者に返還しないお金は家を借りる権利を設定するための対価と考えられるものの、住宅の貸付けにかかって発生するものであることから非課税とされています。 それに対し、礼金や敷金のうち入居者に返還するものは、単なる預かり金であってサービスの対価ではないため消費税は発生しません。
また、法人に社宅として貸付けを行った場合は、目的は居住用の住宅の貸付けとなりますので非課税です。事務所として貸付けた場合には課税対象ですが、住宅の使用目的によって課税対象か非課税かが変わるので注意が必要です。
電気・ガス・水道の使用料を共益費とし、使用料にかかわらず一定の額を徴収する場合、家賃と同様であるとみなされるため非課税となります。
居住用賃貸物件の消費税還付は、2020年の法改正で完全に否定されることになりました。不動産にかかる消費税は高額になることが多いので、賃貸経営を行うオーナーにとっては悩ましい問題のひとつでしょう。
国税庁の判断で居住用賃貸物件にかかる消費税は還付できないとなったら、オーナーが今後考えるべきは全体的なコスト削減とキャッシュフロー向上となります。物件の管理にかかる費用を少しでも削減し、空室リスクや家賃滞納リスクを減らすことで、キャッシュフローを向上する方法を探ることがますます大切になるでしょう。
そこでおすすめできるひとつの方法は、家賃保証サービスの検討です。家賃保証サービスといっても、保証会社によってサービスの内容は異なりますので、一例として「家主ダイレクト」を紹介します。
家主ダイレクトは、自主管理を行うオーナーが安定した賃貸経営を行えるようにサポートする家賃保証サービスです。
通常、家賃保証会社の利用料は入居者側が支払いますが、家賃滞納が発生したときの滞納分は家賃保証会社が負担するため、オーナーは費用負担なしで入居者の家賃滞納リスクから解放されます。家賃保証会社が入居者の口座から家賃分を引き落とし、オーナーへ毎月決まった日に送金するしくみなので、オーナーはキャッシュフローを安定させられるのもメリットです。
所有する物件に空室が発生した際には、家主ダイレクトが独自の仲介会社ネットワークを利用して入居者を紹介するサービスを備えていますので、空室リスクの負担を軽減させることもできます。このように、家賃保証会社を利用することによって賃貸経営のキャッシュフローが向上し、安定した賃貸経営が目指せるでしょう。
居住用賃貸物件の取得にかかる消費税の還付は認められず、そこに発生する消費税はオーナーが負担しなければならないことになっています。そこで不動産オーナーに求められるのは、管理のコストを可能な限り抑えてキャッシュフローを高めていく経営を行うことです。そのための選択肢のひとつとして家賃保証会社の利用を検討してみてはいかがでしょうか。
オーナーのための家賃保証
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かつて銀行や不動産会社に勤務し、資産運用に携わった経験を活かし、現在は主に金融や不動産関連の記事を執筆中。宅地建物取引主任、証券外務員一種、生命保険募集人、変額保険販売資格など保険関係の資格や、日商簿記1級など、多数の資格を保有し、専門的知識に基づいた記事の執筆とアドバイスを行う。