アパートやマンションなどの不動産経営では、入居者の喫煙マナーが問題となるケースがあります。特にベランダでの喫煙は他の入居者からクレームを招きやすく、多くの不動産オーナーを悩ませているトラブルのひとつに挙げられます。そこで、ベランダ喫煙の問題点とオーナーができる対策について解説します。
【監修】弁護士 森田 雅也
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目次
ベランダは自宅内の一部であるため「専有部」だと認識している入居者が多いですが、実は区分所有法(建物の区分所有等に関する法律)により「共用部」であることが定められています。
なぜならば、ベランダは建物の外観に影響する箇所であるうえ、火災などの災害発生時に避難経路となるスペースであることから、入居者が自由に利用してしまうと支障をきたす可能性があるためです。ただし、基本的にはその部屋に住んでいる人しか使用できないスペースですので、エントランスや廊下といった一般的な共用部と違い「専有使用権」という権利が認められています。
なお、ベランダの喫煙を咎められた人がよく用いる抗弁が「自宅内なのだから、喫煙するのは個人の自由だ」というものですが、これは誤った解釈です。確かに室内は専有部分ですので、賃貸借契約や使用細則などで定めていない限り、ここで喫煙をすることは個人の自由であり禁止にすることはできません。
しかし、ベランダはあくまで「専有使用権」という権利が認められたスペースであるに過ぎず、区分けとしては「共用部」です。また、前述したとおりベランダは避難経路の役割もあるため、たとえば大きな荷物を置くなども原則として禁止されています。
これらを踏まえると、「自宅内だから喫煙しても良い」という抗弁は成立しないことになり、不動産オーナーや管理組合はベランダで喫煙した入居者に対してやめるように求めたり、裁判を起こしたりすることが可能とされています。
とはいえ、共用部でありながら「専用使用権」がある以上、入居者はそれぞれのライフスタイルに合わせ、ある程度は自由に利用することが認められています。そのため、オーナーや管理組合が入居者に対しベランダでの喫煙をやめさせるよう訴えるには、強い理由と対策が必要といえるでしょう。
では、入居者にベランダでの喫煙をやめさせるには、具体的にどのような手段をとれば良いのでしょうか?
不動産オーナーは交渉が長期化することを視野に入れて対応策を考えておく必要がありますが、早く解決させようといきなり厳しい措置をとってしまうと入居者から反発を招く可能性があります。最初はやさしく周知をして、少し時間を置いても収まらなければ段階を上げていく方法をとりましょう。ベランダ喫煙をやめさせる3つのステップを紹介しますので、参考にしてみてください。
喫煙をやめさせるための措置を講じる前に、まずは賃貸借契約書の禁止事項にベランダでの喫煙について記されているかどうかを確認してください。ベランダでの喫煙が禁止事項に含まれていない場合、喫煙をした入居者は禁止事項にないことを理由に反論してくる可能性があるため、交渉が難しくなることがあります。
また、以下のSTEP3のパートで詳しく紹介する名古屋での裁判事例にあるとおり、たとえ賃貸借契約書の禁止事項になくても、ベランダでの喫煙が不法行為として認められるケースもあります。
当然、ベランダでの喫煙が賃貸借契約書の禁止事項に含まれていれば入居者を注意するための重要な根拠になるので、記されているのか・記されていないのかを確認し、オーナーは対処をしていきましょう。
入居者にベランダでの喫煙をやめさせる最初のステップとしては、張り紙の掲示があります。ベランダ喫煙が禁止であることを明記した張り紙を作成・掲示して、住民全体に周知、啓蒙します。この際に利用する注意喚起文として、以下に文例を紹介します。
張り紙は掲示板だけでなく、エレベーターの中、エントランスホールといった住民の目につきやすい場所に掲示していきましょう。大量に掲載すると建物の美観を損ねてしまう可能性があるので、確実に目に入る場所を数カ所ピックアップして掲示するようにします。
張り紙を掲示してから少し期間をおき、次のステップに進むかどうか検討するようにしてください。なお、すでに大きな苦情となってしまっている場合は、STEP1を飛ばして次のSTEP2から始めるようにしてください。
張り紙を掲示してもベランダでの喫煙が収まらない様子ならば、具体的な喫煙者に対して文書でやめるように通知する必要があります。この際、被害を訴えた人は誰なのか、ベランダで喫煙をしている本人に悟られないように配慮する必要があります。特定されると、注意された入居者が逆恨みして直接反論をするなどのトラブルに発展する可能性があるからです。以下に文例を紹介します。
このようにして文書で通知する以外にも、電話で注意する方法や、直接会って注意する方法もあります。文書だと喫煙している本人が必ず読むかどうかは定かでないため、より確実に止めさせるならば直接口頭で伝える方法をとりましょう。
文書による通知をしても収まらない場合は、より強い警告をして危機感を持たせるように促す必要があります。特に、不法行為として法的手段に出ることを伝えると効果が高くなる可能性があります。
本当にベランダでの喫煙が不法行為として訴えられるのか疑問に感じるかもしれませんが、実際に名古屋地裁が2012年に出した判例で、ベランダで喫煙した住民に対し損害賠償を命じたケースがあります。この際の判決では、ベランダで喫煙した住民に5万円の賠償が命じられました。
マンション上階の住人から階下のベランダで喫煙していた住民に対しベランダでの喫煙をやめるように何度も申し入れをしていたものの、一向にやめなかったために、「精神的損害を与えた」とされたからです。
このような判例が実際にあったことを踏まえて交渉すれば、より優位に立てる可能性があります。
ベランダでの喫煙による苦情が発生した場合の対応を解説してきましたが、オーナーとしてはできればこうしたトラブルができるだけ起こらないような予防策を講じておくのがベストだといえます。
しかし、前述したように、ベランダは「共用部」でありながら「専有使用権」が認められたスペースでもあるため、入居者にはある程度の自由な使い方が許されています。そのため、ベランダでの禁煙を求めるならば、「入居者にベランダ喫煙をやめさせるステップ」の冒頭でもお伝えしたとおり、前もって賃貸借契約の禁止事項に含めておくことがおすすめです。
また、もっとも効果的なのは敷地内を「全館禁煙」にする方法です。集合住宅のベランダや室内は「周囲の状況に配慮しなければならない」とされているものの、喫煙自体は禁止されていないため、独自のルールを定めなければ禁煙にすることができません。全館禁煙としてしまえば、ベランダ・室内・外回り・屋上などのすべての場所で喫煙不可となるため、もしも喫煙者を発見すれば即注意することが可能です。
それに加え、全館禁煙をルールにしたマンションやアパートであれば日常的に喫煙する人はそもそも入居しにくくなるので、オーナー側は喫煙によるクレームのリスクを大きく減らせる可能性があります。さらに、物件としてのイメージアップに繋がる可能性も期待できます。
その反面、あまりにも厳しい規則を定めると、入居者が集まりにくくなるリスクも高くなる点にも注意が必要です。
では、ベランダでの喫煙問題のようなマンション共用部のリスクを軽減するために、オーナーはどのような対策をとれば良いのでしょうか?考えられる策はこちらの2つです。
まず、入居者とのやり取りを不動産管理会社などへ委託する方法があります。不動産経営では、こういった喫煙問題以外にも、家賃滞納、入居者募集、入居者からの苦情などといったさまざまな問題に対応しなければなりません。
特に入居者とのやり取りはもっとも難しく手間のかかる業務であるため、こうした業務を不動産管理会社などへ委託することはおすすめの方法だといえます。不動産管理会社への委託の場合は委託料がかかりますが、オーナーが自主管理するのに比べると大きくリスク軽減や負担を減らすことにつながります。
なお、委託先としては、不動産管理会社だけでなく家賃保証会社の中にも入居者とのやり取りをフォローアップしてくれるサービスが存在します。たとえば、株式会社Casaが提供する「家主ダイレクト」は、賃貸経営で起こりがちなお金の問題に対するサポートが受けられるのが特徴です。オーナーは安定した家賃収入の確保に加え、家賃滞納時の対応や、滞納が長期化した場合の法的手続きなども保証してもらうことができます。
家賃保証会社の場合、利用料は入居者が支払うため、基本的にはオーナー側に負担は発生しません。家賃保証だけでなく不動産経営に関わるさまざまなサポートもしてほしい、入居者とのやり取りを一任したいといったオーナーはぜひ家賃保証会社の利用を検討してみてはいかがでしょうか。
もうひとつの方法として、一棟物件でなく区分所有マンションを管理するというのもあります。区分所有であれば自分が所有する区画だけ管理すれば良いため、共用部分に対する責任は軽減するといえます。
近年では、入居希望の需要が高いワンルームマンションを購入して不動産投資を始める人が増えていますが、区分所有マンションであればベランダでの喫煙問題が発生するケースは比較的少なくなるため、低リスクで不動産投資を行いたいオーナーには特におすすめです。
ベランダは建物の外観に影響すること・災害発生時に避難経路となることから、入居者にとっては専有部ではなく共用部として扱われている場所です。しかし「専有使用権」という権利があるため、ある程度は自由に使用することができます。ベランダを含む共用部のリスク・トラブルを軽減させるためには、入居者とのやりとりを家賃保証会社や不動産管理会社へ委託する方法がおすすめです。
【監修者】森田 雅也
東京弁護士会所属。年間3,000件を超える相続・不動産問題を取り扱い多数のトラブル事案を解決。「相続×不動産」という総合的視点で相続、遺言セミナー、執筆活動を行っている。
経歴
2003 年 千葉大学法経学部法学科 卒業
2007 年 上智大学法科大学院 卒業
2008 年 弁護士登録
2008 年 中央総合法律事務所 入所
2010 年 弁護士法人法律事務所オーセンス 入所
著書
2012年 自分でできる「家賃滞納」対策(中央経済社)
2015年 弁護士が教える 相続トラブルが起きない法則 (中央経済社)
2019年 生前対策まるわかりBOOK(青月社)
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