東京都では、2025年4月から、賃貸住宅を含む都内の新築建物に太陽光パネルを設置することが義務化されました。脱炭素化やレジリエンス向上の促進を目的としており、大手ハウスメーカーが供給する新築住宅等が対象となります。本記事では、賃貸物件を所有するオーナーに向けて、太陽光パネル設置の義務化が賃貸経営に与える影響などについて解説します。
【著者】矢口 美加子
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目次
2022年12月15日、東京都では、賃貸住宅を含む都内の新築建物を対象に、太陽光発電パネルの設置を義務化する条例が成立しました。新制度が義務付けられる対象者は、ビル・マンションなどの大規模建物だと「建築主」、延べ床面積2,000平方メートル未満の建物だと「住宅メーカー」です。
ちなみに2,000平方メートルはコンビニ20店舗分の面積に相当しますので、一般的な規模の賃貸物件であれば、設置が義務づけられているのは住宅メーカーです。本章では、太陽光発電パネルの設置の義務化が賃貸経営に与える影響について解説します。
東京都では、2025年4月から、都内に新築される住宅には太陽光パネルの設置を義務化することが定められました。条例で太陽光パネル設置を義務化したのは、東京都が全国初です。
先ほども述べた通り、住宅を購入する消費者に太陽光パネルの設置義務があるわけではなく、大手住宅メーカーに設置義務があります。ここでいう大手住宅メーカーとは、都内での住宅供給が年間で延べ床面積2万平方メートル以上です。
ただし、「面積が小さい」「北向き」など、住宅の屋根の条件によっては太陽光発電に適さないため、設置しないケースもあります。また、義務対象となるのは新築住宅であるため、すでに建てられている住宅は対象外です。
東京都では太陽光パネルの設置に対して補助制度を実施しており、環境性能の高い住宅の新築時や、既存住宅の断熱改修などを行う際は、補助金を受けることが可能です。詳しくは、東京都のこちらのページをご覧ください。
東京都の小池知事は、太陽光発電パネルの設置の義務化について、2030年までに温室効果ガスの排出量を半減させる『カーボンハーフ』などの実現を確実にすることが目的だと述べました。今回の制度に伴い、ハウスメーカーには、東京都に発電容量の目安の達成状況を毎年報告することを義務づけています。
目標を達成できなくても罰則はありませんが、達成への取り組みが不十分だとみなされた場合、東京都は助言や指導を行う方向です。改善が見られない場合は事業者名の公表を検討しています(※2023年7月現在)。
太陽光パネル設置の費用負担はハウスメーカーにあるため、新しく賃貸物件を建てるオーナーが負担するわけではありません。ただし、パネル代の負担はないものの、以下のような影響が懸念されています。
・建築費がかさむ可能性がある
・売電単価の下落が予想される
太陽光発電の効果を高めるためには、断熱性能と保温性が高い建物にするための建材などが必要になることから、建築費が値上がりする可能性があります。パネル代はかからなくても、総合的にみれば建築費がかさむことが懸念されています。
また、現時点での売電収入は将来的に保証されているわけではありません。これから太陽光パネルを設置した住宅が増えてくると、電気が余る状態が起こりうるため、売電単価の下落も予想されています。
太陽光発電パネルを設置すると、二酸化炭素の排出を抑制し環境にやさしいだけでなく、光熱費を削減できたり、停電時に役立ったりするなどのメリットがあります。ここでは、太陽光発電パネルを賃貸物件に設置するメリットについて紹介します。
太陽光発電パネルを設置すると、太陽光のエネルギーを電気エネルギーに変換することができるため、電気代を減らせます。
賃貸物件の屋根に設置すると、発電した電気をエレベーターや共用廊下の照明といった共用部の電力に充てることが可能です。賃貸マンションの共用部では、電灯(従量電灯)と動力(低圧電力)の両方を契約しますが、年間にするとまとまった金額になります。
エレベーターや照明などの共用部の電気は入居者の生活に欠かせないため、消費電力をオーナーが節約することはできません。しかし、太陽光発電パネルで電気を作り出せば電気代を削減することが可能になります。
太陽光発電パネルで発電した電気は電力会社に売ることができるため、家賃以外の収入が見込めるのもメリットです。容量10kW未満の住宅用の場合、売電価格は1kWhあたり16円(2023年度)で、設置から10年間は固定価格での買い取りが保証されています。
地震や台風などの自然災害が発生すると、マンションなどの賃貸物件の電源も機能しなくなります。太陽光発電パネルを設置していれば、停電時の非常電源として活用できます。蓄電池を同時に設置しておくことで、災害時でも電気を供給できるため、入居者が安心して生活できるでしょう。また、災害発生時でも電源を確保できる点は、他物件との差別化を図ることにもつながります。
太陽光発電パネルを賃貸物件に導入する場合、メリットだけでなくデメリットもいくつか存在しますので、本章で詳しく説明します。
以前と比べれば安価になったとはいえ、太陽光発電パネルを設置するには初期費用がかかります。太陽光発電パネルの設置費用の目安は100万円ほどですが、メーカーにより金額は大きく異なります。自治体によっては太陽光発電の設置にあたり補助金制度を独自に設けているところもあるため、活用すると良いでしょう。
なお、設置した後も、定期的なメンテナンス費用、故障した際の部品交換・修理費用、老朽化したパネルの撤去費用などがかかります。設置する際は、どのくらいのランニングコストが発生するのかを事業者に聞いておきましょう。
以前に比べると太陽光発電パネルの設備コストが低減したため、売電価格の下落が進むことが予想されています。先述の通り2023年度の売電単価(FIT単価)は1kWhあたり16円で、2024年度も同程度が見込まれているものの、2009年度からの買い取り価格の推移からも分かるように、将来的に下がる可能性はあるでしょう。
10kW未満(太陽光単独) | 10kW未満(ダブル発電) | |
---|---|---|
2009年度 | 48円 | 39円 |
2010年度 | 48円 | 39円 |
2011年度 | 42円 | 34円 |
2012年度 | 42円 | 34円 |
2013年度 | 38円 | 31円 |
2014年度 | 37円 | 30円 |
2015年度 | 出力制御対応機器設置義務なし…33円、あり…35円 | 出力制御対応機器設置義務なし…27円、あり…29円 |
2016年度 | 出力制御対応機器設置義務なし…31円、あり…33円 | 出力制御対応機器設置義務なし…25円、あり…27円 |
2017年度 | 出力制御対応機器設置義務なし…28円、あり…30円 | 出力制御対応機器設置義務なし…25円、あり…27円 |
2018年度 | 出力制御対応機器設置義務なし…26円、あり…28円 | 出力制御対応機器設置義務なし…25円、あり…27円 |
2019年度 | 出力制御対応機器設置義務なし…24円、あり…26円 | 出力制御対応機器設置義務なし…24円、あり…26円 |
2020年度 | 21円 | 21円 |
2021年度 | 19円 | 19円 |
2022年度 | 17円 | 17円 |
2023年度 | 16円 | 16円 |
ダブル発電とは、太陽光発電システムに加え、別の機器も併用することで、売電量を増やす方法です。具体的には、➀太陽光発電システムと天然ガスの発電システムを併用、②太陽光発電システムと蓄電池を搭載した電気自動車を併用、③蓄電池に蓄えた電力を放電して太陽光発電システムで生み出した余剰電力を収益化、の3つです。
2010年度には1kWhあたりの売電単価は48円(10kW未満:太陽光単独)であったものの年々下がり続けており、将来的には現状よりもさらに下がる可能性があります。
太陽光発電は天候や環境などで発電量が変動します。晴れると発電量は多くなりますが、雨や曇りの日は少なくなり、日射量によって左右されるため、必ずしも年間を通して安定した電力を作り出せるとはいえません。
年間の推定発電量は地域により違いがあり、天気が安定しやすい中部・近畿地方は推定発電量が比較的多いといえます。九州・沖縄地方は温暖ですが、台風の影響を受けやすいため、不安定な時期もあります。
賃貸経営と太陽光発電パネルの設置は相性が良いといえ、所有物件の屋根に太陽光発電パネルを設置すればオーナーは家賃以外の収入を得ることができます。
東京都では2025年4月から新規に建築する賃貸物件において太陽光発電パネル設置の義務化を開始しますが、2023年7月時点ではまだ太陽光パネルを設置している賃貸物件はそれほど多くありません。災害が発生しても非常電源として役立つので、太陽光発電パネルの設置は他の競合物件との差別化につながるでしょう。
太陽光発電で作り出した電気を入居者が使えるようになれば、入居者は電気代を安くすることができます。電力を自給する賃貸住宅は、地球だけでなく入居者の家計にもやさしいため、オーナーは入居者満足度の高い物件としてアピールできるでしょう。賃貸物件のオーナーは太陽光発電パネル設置のメリットとデメリットを踏まえ、検討してみてはいかがでしょうか。
太陽光発電パネルを設置して自前で電気を作り出せるようになると、オーナーだけでなく入居者にとってもメリットがあります。その上、他の物件との差別化を図れるため、空室対策になったり、入居者の長期入居につながったりする可能性が期待できるでしょう。ぜひ賃貸物件の太陽光発電を検討してみてはいかがでしょうか。
宅地建物取引士、整理収納アドバイザー1級、福祉住環境コーディネーター2級の資格を保有。家族が所有する賃貸物件の契約や更新業務を担当。不動産ライターとしてハウスメーカー、不動産会社など上場企業の案件を中心に活動中。