2021.02.12
民法改正

【民法改正による大家への影響】対策は大丈夫?

不動産オーナーにとって、法律は運営の基本方針を決定する重要な要因です。
昨年5月26日に、『民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)』が成立しました。
これにより、賃貸経営においてどのような影響があるのかを本稿では確認していきます。
民法の中で、「債権関係の規定(契約等)」は、民法が制定された1896年以降、100年以上もの間、ほとんど改正が行われてきませんでした。そのため不動産業界での慣習も長い間変化がなかったのですが、今回の改正により業務内容にいくつかの変化が起こることが予想されます。特に、今回の改定では債権関係の合意事項等の契約に関わる規定が見直されており、2020年の施行を目指して、法務省にて準備が進められています。
不動産オーナーとして今回の民法改正でどの箇所が変更となり、どのように影響があるのか、そしてこれから何をするべきかを確認しておくことが大切です。

 

民法改正で注意すること

法律を十分に理解しておくことが、不動産オーナーにとっては重要です。
なぜなら法律によって、オーナーができることとできないことや、回収できる金額が明確になるからです。
また、法律を犯すことによって、オーナー自身に大きな損害が生じてしまうこともありますので注意が必要です。
特に、賃貸経営では賃貸借契約書は入居者とオーナーとの関係にとって非常に大切な書面です。今回の主な3つの変更項目は、「敷金についての定め」、「原状回復についての定め」、「個人保証の極度額についての定め」です。

1つ目の敷金についての定めについては、以前の民法にはなかった「民法第622条の2 敷金」が追加されました。
敷金とは、入居する前の賃貸借契約の時点で、借り主が貸し主に預ける保証金です。
現状では、敷金についてのトラブルが起きていましたが、民法に明文規定がなく、裁判の判例を積み重ねて解釈することによって、紛争を解決してきました。このような解釈には、さまざまなものがあるため一般の人に分かりづらいものでした。そこで、今回は新たに民法にて明記されることになりました。
明記された内容として、敷金が次のように定義されています。「賃料債務等を担保する目的で賃借人が賃貸人に交付する金銭で、名目を問わない」です。今でも、地域によって敷金に相当する呼び方が異なっています。例えば、「礼金」「権利金」「保証金」などです。これらの呼び方を民法では名目と言い、この名目で一定の金額を借り主が貸し主に支払われており、その目的も地域ごとに異なるものでした。そこで、今回は名目にかかわらず、担保目的であれば敷金に相当すると改正されました。今までは、ある名目は敷金ではないので違う解釈ができるなどとの言い訳が行われていましたが、今後はどのような呼び名や名目でも、敷金となります。
2つ目の原状回復についての定めにつきましても、敷金と同様に、今まで、原状回復についてのトラブルが起きていましたが、民法に規定がなく、判例にて解決してきました。
そのため、今回新たに「民法第621条 賃借人の原状回復義務」にて明記されました。
条文内容は、「部屋等の賃借物に損傷が生じた場合、部屋の返還をするときに賃借人は原状回復の義務を負う。しかし、通常の使用状況で発生した損傷や経年変化では、原状回復の義務を負わない」と明記されました。これにより、原状回復の定義が明確になり、原状回復について借り主が不利になっていた部分や、また逆に貸し主が不利になっていた部分などについて、ある一定の境界線が明文化されています。
しかしながら、今回の改正でもまだ不明確な部分も残っています。
明確な部分と不明確な部分を含めて、不動産オーナーが事前に認識しておくことが大切です。

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具体的に何をすればいいの?

今回の敷金の定めと原状回復の定めについての改正により、不動産オーナーの負担が増える傾向があります。また、この改正を知っていない場合は、法律上の負担以外にも多くの負担を負ってしまう恐れもあります。
今後は改正された民法に対して、どのような対処をすればよいのでしょうか。

有効な対策としましては、賃貸借契約書に特約事項を明記し、契約事項を締結することです。
賃借人に個別の負担をしてもらうためには、負担内容をより具体的に特約事項に記載して、賃借人に理解をしてもらい、入居前に承諾を得ておくことが必要になります。
この個別の特約事項として、例えば、ハウスクリーニングの取り決めがあります。
今回の民法改正前から、一部の賃貸借契約書では特約として明記されている事例です。
ただし、この特約においても、賃借人に特に不利な内容にした場合は、契約を締結しても無効になる場合がありますので、記載文面においても今回の市場価格よりも高くしたものではいけません。今回の民法改正の意図を組んで明記をすることが有効です。

また、原状回復についての定めにおいては、国土交通省住宅局の「原状回復を巡るトラブルとガイドライン」を参考にするのがよいでしょう。通常損耗にあたる事例としては、家具の設置による床のへこみや跡、テレビ・冷蔵庫裏などの壁面側の黒ずみなどが取り上げられています。また、通常損耗に当たらない事例としては、引っ越し作業の傷やタバコのヤニやペットの傷などが上げられています。
これらの他に、ガイドラインに明記されていない事項はお互いの話し合いにて決められる場合もありますので、事前に賃貸借契約書に明記して取り決めを行っておくのが良いでしょう。

極度限度額って?

3つ目の個人保証の極度額についての定めにつきましては、賃貸借契約での連帯保証人についての定めが民法第465条2、456条3、465条4に明記されています。

以前は、貸金等債務の連帯保証人の保証内容について細かな名文がありましたが、貸金等債務以外の賃貸借契約の保証人においても、予想外に高額な保証を履行しなければならないケースがありました。例えば、部屋を借りた人が賃借人の落ち度で焼失し、その損害額が保証人に請求されたケースです。
第465条2では、極度額の定めの義務付けについては、すべての根保証契約に適用との明記があります。
今後は、これにより、保証限度額が明記されることになり、またこの金額を見て保証人が保証を承諾しない場合があると予想されます。その対処法としましては、個人の保証人を立てるのではなく、家賃保証会社などに保証を依頼するという手段があります。

まとめ

今回の民法改正は、不動産オーナーにも影響があり、対処を求められるものです。
今回の改正でオーナーに影響がある主な3つの変更項目について、オーナーに不利になる場合もあるので、賃貸借契約書に明記をすることになりますが、入居者から入居申し込みをするときに事前に特約事項を伝え、承諾を得ることが有効です。
そのため、この法律の施行は、2020年との予定ですが、賃貸借契約書は賃借人の同意を得て締結するものですので、この民法が施行される前からの対処をしておくと良いでしょう。
また、不動産業界でも新民法に対しての対処についての準備が始まっていまして、新民法が施行される頃には、不動産業界の慣例となることも予想されます。
引き続き、新民法への対処方法について、多くの情報を注視して、できることから始めましょう。

執筆者
大長 伸吉(不動産投資アドバイザー)
ランガルハウス株式会社代表、年金大家の会主宰
■保有資格
宅地建物取引士、AFP、貸金業務取扱主任者

世田谷区・目黒区を中心に東京の土地購入から銀行融資、設計施工、満室管理、税務相続まで個別に寄り添っている。自身も4棟23室の物件を満室運営中。10年間で3,000回以上の個別相談と250回を超えるセミナーを開催。

 

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