あなたがもし自分の物件について「なんか手残りが少ないなあ」と感じているのなら、それは、管理費の負担が大きな割合を占めることは前回の記事で解説しました。物件の収益を大きく向上させる本連載「自主管理のススメ」第2回では、管理費を委託する管理会社の実態について解説をします。管理会社はその事業構造上、必ずしも大家さんの収益を優先できない部分があります。管理会社に頼らないことで、物件収益を向上できる理由について、詳しく解説していきましょう。
目次
多くの大家さんは、管理会社が自分の味方、あるいは仲間だと思っているでしょう。しかし、本当にそうでしょうか。
たとえば契約の更新について考えてみましょう。管理会社に任せている場合、いい加減な管理会社は、更新期日の2カ月前に「更新どうしますか?」と入居者に声をかけます。もう少しまともなところでは、2カ月前ぐらいに「●月●日までに契約更新の意思表示をしてください」といった内容の書類を入居者に送ります。
いずれにしても、入居者が「退室する」と答えれば、書類を送ったりして退室手続きを始め、同時に大家さんにも連絡をします。決して「なぜ退室するのか」と入居者にたずねたりはしませんし、「退室しないでくれ」と頼んだりもしません。事務的に手続きを進めるだけです。
更新についてのこうした流れは、管理会社に更新手続きを依頼している大家さんにとっては、当たり前のことかもしれませんが、私のような自主管理大家は違います。入居者が契約を更新しないことは、放置できる問題でありません。
大家さんにとって入居者に更新を繰り返してもらうことは至上命題です。入居者が契約の更新をせず退室してしまうと、さまざまな問題がおこります。
まず1つは空室期間ができるという問題です。退室期限の1カ月前に退室の意思表示をされてから、次の入居者を探すための手を打っても、退室1カ月後から入居してくれる人が決まるとは限りません。
多くの場合、次の入居者が決まって家賃が入ってくるまでに、2カ月から3カ月の空室期間ができます。当然、その期間は家賃が入ってきません。そして恐ろしいことに、いくら空室期間が長引いても、銀行の返済は待ってくれません。
さらに退室者が出れば、その部屋は次の入居者を募集するため、原状回復をしたりクリーニングをしたりする必要があり、その分の費用がかかります。
私の経験から言えば、それまでの入居者が更新をしないで退室してしまうと、ほぼその部屋の家賃5カ月分ほどの損失が生じます。
この損失は、本来入居者が契約を更新してそのまま住み続けてくれれば生じなかったものです。ですから自主管理大家は、いま住んでいる人が契約を更新し、引き続き住んでもらうためにあらゆる手を尽くします。
まず更新期日の最低でも3カ月ほど前には、更新時期を迎えた入居者に直接連絡をとり、退室の意志があるかどうか探りを入れます。もちろん私のように6棟も賃貸物件をもっていると、すべての部屋に対して探りを入れるのは難しい場合もあります。とはいえ、日頃から入居者とコミュニケーションがとれていれば「あそこは今度の更新時期が危ない」という具合に、入居者の動向はある程度わかるようになるものです。
探りを入れて相手が「退室したいと思っている」と話したら、まずはその理由をたずねます。中には就職や栄転、結婚など、大家としても喜んで送り出してあげたいような退室理由もあります。また、住んでみたら道路を走る車の音がどうしても気になるとか、日当たりの悪さが我慢できないというような場合もあります。こういうケースは退室の意思が固く、どうにもなりません。
ところが話を聞いてみると、こちらの出方次第では退室を思いとどまってくれる入居者もいるのです。
私のアパートに住む中国人夫婦のケースです。更新の有無を打診すると、赤ちゃんができて生活費が嵩む。ついてはもっと家賃の安いところに引っ越そうかと思う、といいます。そこで私はこう言って説得しました。
「今回は特別です。更新料は半額でいいですよ。火災保険も私が立て替えておきますね」
夫婦はとても喜んでくれ、そこまでしてくれるならとすぐに更新してくれました。そしてまた2年が経って次の更新時期がきました。すると、今度は子どもが床を汚してしまった。これからもいろいろと汚しそうだ。迷惑をかけるから出ていく。そんなことをいいます。そこで、こちらから床の張り替えを申し出て、さらにそれまでバランス型の古い風呂釜だったのを、最新式の給湯器に交換することにして、契約を更新してもらうことにしました。
私がどうしてここまでするのかは、もうおわかりでしょう。退室によって家賃5カ月分の損失が生じるなら、更新料を半額にするなどおやすいことです。床の張り替えやバランス釜の撤去もいつかはやらなければならないことです。それをするだけで更新してもらえるなら、御の字というやつなのです。
ちなみに更新業務は、自分の物件であれば、宅建などの資格は必要ありません。大家さんに代わって不動産会社が行う場合に必要なだけです。ですから、それまで使っていた契約書があれば、それをひな形にしてパソコンで契約書をつくり、新たな契約期間などを記入すれば、誰でも簡単に作成、契約更新ができます。
また普通は契約の更新時に、入居者に火災保険に入り直してもらうことになります。これは入居者が自分の過失で火事を出したり、故意や過失で室内を壊したり汚したりしたときに、その修理費用に当てるものです。天災による被害に遭ったとき、家財を保証してくれるものもあるなど、保険によって保証の範囲はいろいろです。ただ内容はともかく、こうした保険に入るための手続きを大家さんが行うには「小額短期保険募集人」の資格が必要です。
といっても、この資格はごく簡単に取得できます。特定非営利活動法人少額短期保険募集人研修機構が実施する「少額短期保険募集人試験」に合格すればよいのです。この試験は択一式50問のテストを60分で受験するもので、試験料は4,000円ほど。テキストをあらかじめ読んでおけば、誰でも合格できる簡単なものです。
したがってこの資格をとっておけば、更新手続きは誰にも頼らず行うことができます。更新手続きを管理会社に頼っていては無理ですが、自分でできるなら募集時に「更新手数料ゼロ物件」としてアピールするのもいい考えです。賃貸住宅に住む人間にとって、あの更新料というものは、意味のわからない出費の最右翼ですから、更新料なしで住み続けられる物件は、これからの厳しい不動産業界にあって、空室対策の上で大きな強みになると思います。
また、この「少額短期保険募集人」の資格があれば、損害保険会社の代理店となるため、入居者との契約をする毎に保険会社から手数料が入りますから、更新時の収入がゼロになるというわけではないのです。
ただ更新時にこうした諸々の判断ができるのは、大家である私が自分で更新業務を行っているからこそです。管理会社は、ここまではやってくれません。
私はあるとき管理会社の更新担当者にたずねてみたことがあります。
「どうして、もっと親身になってやってくれないのですか。退室者が出たら大家さんはすごく困るのですよ」
すると彼は言いにくそうにしながら、こう本音を漏らしました。
「自分の物件ではないのですから、そこまではやれません……」
たしかにこれは管理会社の現場で働く社員の本音だと思います。
しかし、大家さんから更新業務を委託されている管理会社の社員が事務的に更新手続きを行うのは、決して「自分の物件ではない」からだけではありません。更新業務を委託されている管理会社は、同じ大家さんから新規の募集や入居時の契約手続き等を委託されている場合も多く、更新時に退室者が出ても損はしないからです。むしろ管理会社にとっては退室と入居は頻繁にあったほうが儲かるのです。
どういうことかというと、退室があれば必ず原状回復とリフォームが必要になります。管理会社を利用している大家さんは、原状回復やリフォームも管理会社を通して依頼するケースがほとんどです。その際に管理会社は建築会社と大家さんの間に入って利ざやを稼ぎます。
さらに新規に入居者を募集する際の広告費にも同じ仕掛けがあります。そして新規入居者が決まれば仲介手数料の一部が、これまた管理会社に落ちるのです。
もちろん表向きは、不動産の賃貸借契約に関するこうしたさまざまな業務を、同じ会社がやってはいけないということになっていますが、実態がそうなっていないことは周知の事実です。
話をまとめてみると、大家さんは入居者になるべく契約を更新してほしいが、大家さんから更新業務を委託された管理会社は、更新してもらえば手数料が入るし、更新してもらわなくても、それなりに儲かるということです。
手数料をもらって更新業務を行っている以上、管理会社は大家さんの利益を第一に考えるべきです。しかし管理会社にとっては、どちらでも儲かる。また管理を行う一方、新規入居者の募集や入居手続きも行っているような場合は、むしろ更新してもらわない方が儲かる。管理会社はこういう立場にあるのです。こういう立場にある管理会社が大家さんの味方であるはずがない。それが大家としての私の根本的な考え方です。
更新手続き1つを見てもそうですが、ほかにもいろいろあります。日々不可欠な共用部分や外構の清掃、入居者からの細かなクレームへの対応、機器の修理、躯体の点検修理などを管理会社に丸投げした場合、すべてに同じようなことがおきます。
私の経験から言えば、日常の清掃作業を管理会社に任せれば、自分で直接やる場合の5倍から10倍のコストがかかります。大家さんが直接近所の人にパートとして清掃を頼むときとくらべても2倍から3倍かかるはずです。
入居者からのクレームへの対応も、きめ細かさや丁寧さでは大家さんの対応に及ぶべくもなく、このときの不満が更新をせずに退室につながることも少なくありません。機器の修理や躯体の点検修理は、当然、直接頼むより割高になります。
こうした話を私が行っているセミナーで披露すると、その後の懇親会などで必ずでるのが、「川村先生だからできるので、私ら普通の大家にはそこまではできません」という言葉です。あるいはもっと直接的に「私はそこまでやりたくない。そんなことをするために大家になったのではない」という人もいます。
つまり面倒なことは管理会社に丸投げして、自分の物件から上がってくる収益だけを得たいということです。
残念ながら「大家さん業」はそんなに甘いものではありません。もちろん親から借金のまったくない賃貸物件を相続したとか、生業がほかにあって、そこからの収益で賃貸物件を現金で購入したといった人は別です。自主管理より割高になる管理会社に丸投げしたとしても、借入金の返済がないわけですから、キャッシュフローは太いままでびくともしません。
ただ私の経験からすると、こうしたキャッシュフローに余裕のある人ほど、自主管理を行い、太いキャッシュフローをさらに太くしています。
逆にキャッシュフローがやせ細って「黒字倒産」に陥りそうな人に限って、「そこまではやりたくない」として、自主管理に踏み切れば自分の収益になるはずのお金を、管理会社へ貢ぎ続けているのです。
やはり、私の結論は変わりません。自分の物件で最大限の収益を上げたいなら、管理費にメスを入れる。物件管理を管理会社に丸投げせず、自主的に行う「自主管理」大家となる。これ以外に、収益改善の道はみつかりません。
しかし、いざ「自主管理」と考えるとき、不安を覚える大家さんも多いことでしょう。そのもっとも大きなものは、入居者と直接対応することへの不安ではないでしょうか。そこで本連載の次回では、この入居者とどのように付き合い、向き合うべきかを取り上げます。この入居者に関わる不安を克服すれば、賃貸オーナーとしての喜びを得られ、また、収益においても安定した賃貸経営が可能となります。
著者 川村龍平(かわむら・りょうへい)
横浜国立大学経済学部国際経済学科卒業後、第一勧業銀行、モルガンスタンレー証券会社にて、債券トレーダーとして機関投資家向けビジネスを行う。2002年、渋谷に一棟ビルを購入、サラリーマン大家をスタート。2005年11月より専業大家となる。現在ビル3棟、アパート4棟、ワンルーム3戸を個人保有し経営中。本人訴訟からペンキ塗りまで全て自主管理する。純資産10億円。あと2年で主な借金は完済予定。現在実質借金ゼロ経営を継続中。2020年6月に初の著書『不動産経営 誰も教えてくれないお金の残し方』(幻冬舎)を上梓