2021.06.21
賃貸管理

あなたもできる自主管理のススメ#03:入居者とのコミュニケーションが自主管理の前提だ

所有物件の収益を大きく向上させるための戦略「自主管理」について、その仕組みとノウハウを解き明かす本連載。しかし、実際の自主管理業務を想定すると、なにから始めればいいのか、不安に思うこともあるでしょう。とくに気になるのが、入居者からのクレーム対応です。本連載の3回目として、この入居者とのコミュニケーションの重要性について、解説します。入居者とはいえ、赤の他人。よい関係を構築できるのか、不安に感じるものですが、じつはしっかりした対応ができれば、たくさんのメリットを生み出せます。確認していきましょう。

著者 川村龍平

入居者からクレームがきたときこそチャンス

物件からの収益を改善するために、物件管理を管理会社任せとせず、自ら管理する「自主管理」が重要であることは、本連載の1,2回目においてすでに詳しく述べました。ここからは、実際に自主管理を行っていく上で、大家さんとしてまず実践すべきことを解説していきましょう。

参考:あなたもできる自主管理のススメ#01:収支を見れば、儲かる大家さん業が見えてくる
参考:あなたもできる自主管理のススメ#02:管理会社に頼らない=収入が増える本当の理由

自主管理大家になるためにもっとも大切なポイントは、まず入居者とのコミュニケーションを普段からとることです。そして、入居者とのコミュニケーションをとる機会としてもっとも有効なのは、入居者からクレームがきたときです。

たとえば、「エアコンが冷えない」「シャワーからお湯が出ない」「換気扇がうるさい」「水が詰まってあふれた」こんなクレームが入居者からきたときがチャンスです。

電話などでクレームがきたときは、間違っても「気のせいじゃないですか」「少し様子を見てください」などと簡単な対応で会話を終えてしまってはいけません。

「いつからそうなりましたか」「どんなときにそうなりますか」などと、連絡してきた入居者が迷惑に思うくらい、ていねいに、そしてしつこくたずねるのがポイントです。こうすることで、まずこちらがクレームを真剣に聞く姿勢があることを印象づけられます。

そして、電話やメールで解決する方法があれば、できるだけ相手に説明して解決法を探りましょう。電化製品やインターネットの問題などは、物件ではなく機器の問題であることもあります。電源を一度リセットする、初期化をしてただくことを検討いただく、など、一度、基本的な部分を確認していきながら、冷静に会話が進められるように関係を整えていきます。

その後、問題が解決できなければ、すぐにあなたが現場にいくか、業者を手配する、というステップを踏んでいきます。

このとき、クレームへのご対応は、基本的には電話が望ましいです。最近では入居者がメールやSMSでの対応を望む場合にはそちらでもよいですが、文字ベースでのコミュニケーションは、先方の緊急度合やテンションの状態がわかりにくい傾向があります。電話にも増して、ていねいな対応を心がけましょう。

なお、ライフラインに関するクレーム、とくに水回りの問題は、より迅速な対応が求められることは確認しておきたいところです。ほおっておくと入居者が生活を維持できなくなるだけでなく、場合によっては周囲の物件にも被害が発生する場合があります。

クレームへの初動の効果は、入居者とのよい関係構築だけではない

入居者とのよい関係を構築するには、クレーム対応の初動において、以下の部分までを一気にやることが大切です。

・すぐに反応する、ご連絡をする
・しつこいくらい状況を把握し、初歩的な解決方法を確認、提案する
・現場へ足を運ぶ、または業者を手配する

仮に暑い日にエアコンがうまく作動しなくても、大家さんがすぐに対応してくれ、業者を手配してくれた……。その事実でたいていの入居者がその場は納得してくれます。

ところが、ここでいい加減な対応をして入居者に不信感をもたれてしまうと、後々いろいろと問題がこじれてしまう可能性があります。訴訟だ!損害賠償だ!という言葉を直ぐに口にする入居者も増えてきました。

管理会社に丸投げすることは、この大切なチャンスを失うことにもなるのです。連載第二回で既述した「自分の物件ではないので、そこまではやれない」という管理会社の現場担当者の本音を思い出しましょう。

さらに機器の故障などを小さなクレームの内に処理しておくことは、費用対効果の面からも重要です。

たとえば暑い日にこそきちんと動いてほしいエアコンが正常に動かないのは、重大な故障の前触れかもしれません。シャワーの温度もそうです。つまり「ステージ1の異常を見過ごすな」ということです。

話が飛びますが、進行すると手術の難しい食道がんも、ステージ1で発見すれば内視鏡で簡単に除去できるといいます。それと同じで、ステージ1の段階で故障を見つければエアコンや給湯器の取り替えという大事に至らず、最少の出費で対処できる可能性が高いのです。

このように入居者からのクレームに迅速かつ丁寧に対応することは、入居者とのよい関係構築を図る上でも、修理箇所を早期に発見するという意味でも非常に重要だということがおわかりいただけたでしょうか。

隣人同士のトラブルも早期に対処

機器についてのクレームだけでなく、「となりの部屋がうるさい」といった隣人とのトラブルも同じです。

騒音というものは人によって感じ方が違いますし立場によっても違いますから、解決の難しい問題です。対処を誤ると騒音源の入居者が居座って、逆に周囲の入居者が集団で退去するような、とんでもない事態に発展しかねません。ここでも重要なのは大家さんによる早期の対処です。

まずは「うるさい」と言ってきた入居者の話をよく聞き、そして、周りの入居者(騒音源と思われる入居者も含めて)にも「うるさくありませんか?だいじょうぶですか?」といった質問を投げかけてください。このとき、決して誰かを犯人扱いをするような聞き方をしてはいけません。事実確認をていねいに、粘り強く行っている姿勢をしっかり見せることが重要となります。こうした初動で、おおおその問題は解決します。

これでもし、ふたたび同じような騒音のクレームが来るようであれば、今度は「何時に、どのような騒音が発生したのか」について、クレームを発した入居者にくわしく聞きます。また、次に発生した場合に備えて、記録をしておくよう、お願いしましょう。

こうして騒音の発生時間と具体的な状況がわかったら、あらためて、周囲の入居者に(騒音源と思われる入居者も含めて)、質問して回ります。このように何度も大家が足を運び、声をかけていると、自分かもしれない、と入居者から申し出が出てきます。こうして、入居者全体の意識が変わり、問題が解決していきます。地道に粘り強く、あくまで冷静に話を聞き続けることで、大家と入居者の関係が構築され、入居者同士の関係も好転していくわけです。

なお、「騒音源」が入居したての方の場合は、本人に悪意はなく、自分の行為が隣人に迷惑を及ぼしていたことに気づいてない場合も多いのです。そんなときは大家が間に入っての対処が早ければ早いほど、互いに気持ちよく生活することができます。逆に対応が遅れれば遅れるほど、入居者同士、互いに感情的なしこりが残り、大家さんへの不信感も増していきます。

もっとも重要なのは家賃の滞納の芽を摘むこと

早期に対処ということでいえば、家賃滞納への対処が自主管理大家さんにとっては、もっとも重要です。

月末の午前中になると大家さんは家賃の入金確認に大忙しです。お昼までにはチェックを終え、入金の確認がとれない入居者には電話を入れます。

ここで電話がつながれば、入金が確認できないことを伝えます。ほとんどの入居者は、この段階ですぐに入金してくれるので「滞納」という事態には至りません。

問題はごくまれにいる「常習的な滞納者」です。人間にはうっかり忘れることがありますから、だれでも家賃の振り込みを忘れることはあります。ところがここでいう「常習的な滞納者」は、こちらから催促しても、平気で払わないという人です。解雇になったとか、病気になったとか、親からの仕送りがなくなったとかいった突発的な出来事が原因ではなく、手許にお金はあるのに、家賃を払わないという人が世の中には存在するのです。

こういう人がいるのを知ったのは専業の大家さんになってすぐのことでした。そのころは専業大家をはじめたばかりで戸数も少なかったので、入金が確認できないと直接たずねていって督促をしていました。そのときこの「常習的滞納者」に出会ったのです。

「常習的滞納者」を叱って親代わりに

彼は地方から出て来て大学に入ったばかりでした。直接会って入金が確認できないことを伝えると、へらへらしていて態度はけっしてよくありませんでした。「すみません。すぐに払います」とその場は取り繕うのですが、入金はありません。次の月も同様でした。こちらもとうとう親に電話をしました。一人暮らしを始めたばかりの大学生だからと大目に見ていたのですが、それが逆効果で、ついに半年経ってしまったのです。4万2,000円の家賃が半年分、25万円を超える滞納額です。学生が簡単に払える金額ではありません。

「君はどう思っているか知らないが、家賃の滞納というのは犯罪と同じなんだよ。このままではちゃんとした社会人になれないよ」

私は彼を真剣に叱りました。そこで彼はようやく目が覚めたようでした。毎月の家賃に少しずつ上乗せして滞納分を返済し始めたのです。そのためにアルバイトもはじめていました。こんなことがあってから私も彼もことが気になったので、掃除やメンテナンスでそのアパートに行くたびに声を掛けるようになりました。もちろん彼が迷惑がるようであれば、やめるつもりでしたが、彼もむしろ積極的にコミュニケーションを求めてくる様子でした。

2011年の東日本大震災の時も、たまたま彼の住んでいたアパートに掃除にいっていました。彼の部屋のドアを叩くと返事があるので、すぐに外へ出ろといっていっしょに避難したこともあります。

気がつくと私は彼の東京の親代わりみたいな存在になっていました。彼は最終的に滞納額をすべて返済し、私のアパートに8年ほど住んでくれました。そしてある日のこと、突然菓子折を抱えた彼がやってきて、「田舎に帰って家業を手伝うことにしました」というのです。そして、私に叱られたことで自分が世間の常識からずれていることがわかった。もしあのままだったらどうなっていたかと考えると怖くなると私への感謝の気持ちを伝えてくれました。私も「ほんとうにいい青年になったなあ」と声をかけました。

このときほど大家さんになってよかったと思ったことはありません。

家賃保証会社は大家さんの頼もしい味方

現在は家賃保証会社ができて、家賃保証の仕組みが充実したので、私も直接入居者に家賃の滞納を督促することは少なくなりました。

家賃保証会社のいいところは、大家さんにとってもっとも心配な家賃の収集に特化している点です。管理会社と違って入居者の募集や入居契約、入居中の管理業務や退室手続きなどに関与することがないため、敷金・礼金減額など募集条件を大家さんが決める際の自由度が高くなります。

ですから家賃保証会社を利用すると家賃の滞納リスクを排除できるだけでなく、入居時の初期費用を抑えることができるので、賃貸物件の競争力が上がるという利点も生まれます。また連帯保証人が不要となりスムーズに契約できます。これらの利点は大家さんだけでなく入居者にとっても大きな利点になるのです。

なお、家賃保証会社のサービスには、収納代行型と代位弁済型の2種類があります。収納代行型は、家賃保証会社がすべて家賃の入金をすべて代行してくれます。毎月の入金は家賃保証会社からなされ、大家と入居者とのやり取りは発生しません。対して代位弁済型の場合は、大家が入居者からの振込の有無を確認し、振り込まれていないときは、大家が指定の期日までに家賃保証会社へ連絡、入居者の代わりに家賃を支払ってもらうよう手配する必要があります。家賃収入の管理の手間を考えると、収納代行型のサービスのほうが圧倒的に利便性は高く、おすすめです。

大家業は、対人的な仕事が大半。入居者との関係構築が自主管理成功のカギとなる

そもそも、大家業というのは対物的な仕事ではなく、対人的な仕事である、と私は感じております。入居者がいてこそ、売上がある。大家業がビジネスであれば、売上はいつも最重要課題でしょう。ですから、入居者と向き合い、よい関係を構築し、入居を続けてもらうことによって、安定した収益が見込めるのです。

ことクレームについても、迅速ていねいな対応ができれば、入居者の不安感や怒りを鎮めます。ねばり強く話を聞いて回れば、1つのクレーム事案を奇貨として、他の入居者の小さなクレーム要望も吸いあげることができます。結果、アパート全体のよい雰囲気を高めることにも繋がるのです。住みやすい、よい雰囲気は各入居者の長期入居に繋がり、キャッシュフローの安定化に貢献します。

著者 川村龍平(かわむら・りょうへい)
横浜国立大学経済学部国際経済学科卒業後、第一勧業銀行、モルガンスタンレー証券会社にて、債券トレーダーとして機関投資家向けビジネスを行う。2002年、渋谷に一棟ビルを購入、サラリーマン大家をスタート。2005年11月より専業大家となる。現在ビル3棟、アパート4棟、ワンルーム3戸を個人保有し経営中。本人訴訟からペンキ塗りまで全て自主管理する。純資産10億円。あと2年で主な借金は完済予定。現在実質借金ゼロ経営を継続中。2020年6月に初の著書『不動産経営 誰も教えてくれないお金の残し方』(幻冬舎)を上梓

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