2021.06.21
賃貸管理

あなたもできる自主管理のススメ#04: 「ルームクリーニング」から学べる収益向上のヒミツ

所有物件の収益を大きく向上させる「自主管理」について、その仕組みとノウハウを解き明かす本連載。この第4回では、いよいよ実際の物件管理業務を解説します。最初に考えたいのが「ルームクリーニング」。簡単で費用対効果が高いだけでなく、オーナーとして思わぬ副次効果も期待できるものです。収益増に物件価値向上と、結果が出るからますます楽しい、すぐにできる物件管理の実務をご紹介しましょう。

物件管理はルームクリーニングからはじめよう

それまで管理会社を通じて業者に丸投げしていた物件の管理業務を、大家さんが自分でやるといっても、すぐに何でもできるわけではありません。そこで、まずはルームクリーニングからはじめることをおすすめします。

ルームクリーニングといえば、それは“お部屋の掃除”ですから、多少面倒ではあるものの、まぁできるかな、と思う方もいるかもしれません。しかし、実際には、効率よく、また入居者の退去後の限られた時間に短時間で行うことは意外に難しいものです。

そこで業者に依頼すると、意外と費用も嵩み、業者によって仕事の質もピンキリであることがわかります。これを自分でこなせるようになれば、維持管理コストはかなり圧縮できるようになる。そう確信した私は業者さんに頼み込んで現場にいき、自分も手伝いながら細かなノウハウを教えてもらうことにしました。

「こんな大家さんは、はじめてだ」

その業者はそういって最初はあきれていましたが、アルバイトの学生がひとり増えたような感じで、いろいろと教えてくれました。そのとき私がたたき込まれたことのひとつに「光るものは徹底的に光らせる」というのがありました。キッチンの蛇口、風呂のカランなど、金属でできたところは、とにかく徹底的に磨いて光らせる。これによりルームクルーニング後の印象が大きく変わることがわかりました。ちなみに使っている道具は、市販されているふつうの住宅・家具用合成洗剤でした。

このほか、プロのクリーニングのコツとして、部屋の隅ほど、ていねいに掃除することを学びました。これは“四角い部屋をまるく掃除をしてはいけない”、という意味だけではなく、たとえば換気扇や窓、便器の裏側、エアコンの内部など、ふだん手の届かないところを、念入りに掃除することを意味します。これも、仕上がり効果が高く、内見者の客付けにもつながることがわかりました。

また、これにより便器や換気扇、エアコンなどの部屋の備品の現況がわかり、クレームになる前に先手を打って修繕できるようになったことも、収穫でした。

自分でやれば自分の物件に愛着が湧く

ルームクリーニング業者は、もちろん頼んだ部屋以外の清掃はしてくれません。共用部分の汚れがどんなにひどくても、そんなことはお構いなしです。

ところが大家が自分で現場にいってルームクリーニングをやれば、その部屋以外の部分の清掃もすることができます。トイレやバスルームなど狭い場所にこもって作業していると、たまには外の空気を吸いたくなります。そんなときに玄関や廊下、階段など共用部分の汚れが目につきます。すかさずこうした部分の汚れも雑巾で拭いてやると、思った以上にピカピカになって驚くことがあります。

また各部屋の玄関ドアの横などに設置された給湯器も、ほこりを被っていることが多いのですが、これも簡単に汚れを落とすことができるのです。雑巾で丁寧に拭くことにより、見違えるほどきれいになり、物件内覧時に効果絶大です。

面白くなった私は、ほかにも玄関トビラの上部分、共用階段の手すり、共用廊下の床や壁など、どんどん掃除をしていきます。これらは、雑巾の水ぶきだけで、十分きれいになります。気づくと自分の物件は、ピカピカに輝く状態になっていました。

つまり、大家さんが自分でルームクリーニングをはじめると、その息抜きに共用部分のクリーニングまでできてしまうのです。これは一石二鳥というか「一石三鳥」ぐらいの効果があります。

入居希望者が内見に訪れたとき、いくら専有部分がピカピカに磨き上げられていても、共用部分が薄汚れていては、せっかくのルームクリーニングも台無しです。大家自ら行うルームクリーニングは、小さな手間で物件価値を高められる優れた手立てなのです。

入居者に大家の存在を印象付けるチャンスに

業者に頼めばワンルームなら2時間ぐらいでルームクリーニングは終わってしまいます。ところが、こうして共用部分の清掃まで自分でやると、場合によっては10時間ぐらいかかってしまうことも少なくありません。

「そんなにかかるの?」とあきれる読者もいるでしょうが、この時間が実は重要なのです。

10時間もいれば、その物件の昼の顔も夜の顔も実感することができます。また入居者の多くと顔を合わせますから、入居者がどんな生活をしているのか、だいたいわかってきます。そしてここが重要なのですが、ルームクリーニングや共用部分の清掃を自分でやっている姿を見せることで、大家としての自分の存在を入居者に印象づけることができます。

ネット上での「炎上」が話題になります。メールや掲示板への常軌を逸した書き込みは、ネットの匿名性が原因だとする説があります。大家さんと入居者の関係も同じで、紙の上だけの契約関係だと、何か問題が起こったときにこじれやすいのですが、こうして顔と顔を会わせてコミュニケーションがとれれば、何か問題がおきても早い内に解決できるのです。

業者に頼む場合に、仕事ぶりをチェックできる

もうひとつ自分でルームクリーニングを行う大きなメリットがあります。

それはルームクリーニングを自分ですることによって、自分の賃貸物件を清潔かつ快適に保っておくためのノウハウを身につけることができる点です。そして、そのノウハウがわかればルームクリーニングだけでなく、日常の清掃業務を行う業者の仕事もきちんと評価できるようになります。

私は現在100戸ほどの賃貸物件を管理していますが、世の中にはもっと多くの賃貸物件を管理している大家さんもいます。これだけ大きな規模になってくると、すべての物件について自分だけでルームクリーニングするというのは現実的ではありません。ましてや共用部分の日常的な清掃作業となると、とても手が回りません。ですからルームクリーニングや日常の清掃業務をだれかにお願いすることになります。

その際、頼りになるのがルームクリーニングや共用部分の清掃の経験です。いままで自分自身でやってきたわけですから、チェックポイントは手に取るようにわかります。どれくらいの時間と手間がかかるかもわかっています。つまりルームクリーニング業者の仕事ぶりをきちんとチェックできるようになるということです。

ルームクリーニングに限らず業者に仕事を発注する際にもっとも重要なのは、料金に見合った質の作業を行ってくれるかどうかです。これを見極める目を持っていないと管理会社を通すにしろ直接発注するにしろ、適切な料金で発注できず、結局、大きなコストを負担することになります。

ペンキは下手な業者に発注しろ

たとえば建物の維持管理に欠かせないペンキ塗りです。

ペンキというものは建物の外壁などに使われていて、木部や鉄部などが水分によって腐ったり錆びたりしないように守ってくれる役割があります。ですから、ある一定の厚さ以上に塗らないと本来の性能を発揮できません。私は大手のペンキ会社のお客様相談室に問い合わせて詳しく調べたのでわかりますが、一斗缶ひとつで塗れる壁の広さは決まっていて、それ以上広く塗ると決められ防水性能がだせません。

ところがうまいペンキ職人は薄く薄く塗ることで使うペンキの量を抑えてしまうことがあります。もちろん素人には、それが薄いのか厚いのか判断できません。むしろ薄くむらなく塗られた方がきれいに見えるので騙されてしまいがちです。ペンキ職人がなぜそんなことをするかといえば、余ったペンキを他の現場に回すことで、経費を抑えるためです。

もちろん塗装工事の見積には、塗装する面積と使うペンキの量は明記されていますから、これは契約違反です。とはいえそれを現場で見抜くことはなかなか難しいことです。そこで「ペンキは下手な業者に頼め」ということになるのです。下手な職人は薄くむらなく塗ることができないので、どうしても厚く塗ることになり、防水性能もよくなるというわけです。

これは半分冗談ですが、こんな話を笑いながら現場の職人にするだけで、「こいつはよく知っているな」と思わせることはできるでしょう。

物件価値向上のヒントは現場にころがっている

ここで私が述べたいのは、自主管理大家として現場、つまり自分の賃貸物件に足を運べば、そこには賃貸物件の維持管理を進める上での重要なヒントが転がっているということです。

先のペンキ屋の件も、知識だけ知ってもだめです。実際に現場にいって職人の作業を見てはじめて効果があるのです。

賃貸物件の共有部分を定期的に清掃する場合も同じことがいえます。私もそうですが、多くの自主管理大家が、近所の主婦にこの仕事をパート仕事として任せています。でもこれも最初から任せてしまってはダメです。最初は自分で週に二度とか決めて、現場にいき定期的に清掃業務をやってみることが大切です。

そうすると、たとえばエントランスに花を植えてみようとか、通路の脇に木を植えようとかいろいろなアイディアが湧いてくるものです。そしてそれをひとつずつ実行していくと、自分の物件への愛着がましていくのです。

賃貸物件の経営は、ハードではなくてソフトが重要です。アパートやマンションをつくるだけではなく、愛着のある、いわば心のある管理が大事なのです。心のある管理は、物件が磨き込まれ、入居者にも伝わります。すると問題の少ない物件になるから入居者も長くいつき、安定経営につながります。磨き込まれた物件は家賃も下がりにくく、かつ、退去者も少ないので、満室になりやすい構図が生まれるのです。

著者 川村龍平(かわむら・りょうへい)
横浜国立大学経済学部国際経済学科卒業後、第一勧業銀行、モルガンスタンレー証券会社にて、債券トレーダーとして機関投資家向けビジネスを行う。2002年、渋谷に一棟ビルを購入、サラリーマン大家をスタート。2005年11月より専業大家となる。現在ビル3棟、アパート4棟、ワンルーム3戸を個人保有し経営中。本人訴訟からペンキ塗りまで全て自主管理する。純資産10億円。あと2年で主な借金は完済予定。現在実質借金ゼロ経営を継続中。2020年6月に初の著書『不動産経営 誰も教えてくれないお金の残し方』(幻冬舎)を上梓

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