2021.06.21
賃貸管理

あなたもできる自主管理のススメ#05:小さなアイディアの積み重ねが維持管理費を抑える

所有物件の収益を大きく向上させるための戦略「自主管理」について、その仕組みとノウハウを解き明かす本連載。本連載第5回では、物件管理業務の全体をまとめます。大家さんはどこまでを自分で管理でき、どこからは業者に任せるのか。全体を理解して、自主管理業務への自信を深めていきましょう。

著者 川村龍平

自分でできることは自分でやる

自分でできることは自分でやるのが自主管理大家の大原則。業者にたよるのではなく、自分で広く情報を集めて、どこまでできるかチャレンジする。それを楽しむゆとりも大切です。

話がすこし古くなりますが、テレビ放送が地デジへ移行する際のことです。アンテナの立て直しから各部屋への配線など、一切の作業を業者に頼もうとしたら100万円の見積になりました。6部屋の木造アパートです。見積額に驚いた私は、いろいろ探してみると、いい機器がみつかりました。さっそく取り寄せ、自分で設置をしてみたら、なんと5万円で済んでしまいました。

このように現在の日本では、機器のコストより、それを取り付けるための人間のコスト、つまり人件費の方が圧倒的に高いので、どこまで自分でできるか試してみる価値は十分にあります。

資格が必要なものは業者に頼む

とはいえ賃貸住宅に関わるすべてのことが大家さん自身でできるわけではありません。典型的なのは賃貸住宅の中に張り巡らされた電気関係の配線です。これは電気工事の資格をもった人間しかできないことなので、大家さんが手を出してはいけません。

電気系統でとくに気になるのは、エントランスを照らす照明です。これが消えかかったり、周囲を包むケースが変色していたりすると、アパートやマンション全体が安っぽく見えるので、常にきれいな状態に保っておきたい。これもけっこう頻繁に取り替えたり清掃したりといった作業が必要なので、つい自分でやってしまおうと思いがちですが、これは電気工事専門の業者に頼んだ方がいいケースです。

自主管理大家が自分で行える物件管理

このほか、専門的な知識や資格がいる管理業務としては、マンションなどの消防設備や受水槽の定期検査、エレベーターの管理などでしょうか。これらは比較的規模の大きな物件において必要であり、外部の業者に委託して実施します。しかし、戸建てやアパートなど規模の小さい物件では、おおよその管理業務を大家が自ら行うことができます。

1つひとつの管理業務はどれも、業者に頼むとけっこうなコストがかかります。これを自分で行えば、ほとんどは用具や材料費のみとなります。以下、私の経験をふまえて、まとめてみました。それぞれに、業者に依頼した場合の費用感も記すので、参考にしてみてください。

▽大家さんが自分でできる管理業務

管理業務 所要時間 必要な用具 業者へ依頼した場合の費用感
ルームクリーニング 1部屋2時間~ 清掃用具 6畳ワンルームで3万円~
ペンキ塗り 壁面1枚:1日~ ペンキ材 壁面1枚5万円~。ドアの表だけで2万円~
蛍光灯取り換え 1本:5分~ 高足脚立 3,000円~
IHヒーター取り付け 1時間~ IHヒーター 機器込みで、2.5万円~
壁面清掃 半日~ 高圧洗浄機 1回3万円~
鍵の交換 1時間~ 鍵の種類による 1.5万円~
外灯交換 2時間~ 外灯用照明器具 業者:1.5万円~
定期清掃 1回1~2時間、月2回 掃除用具のみ 管理会社への依頼で1万円~

蛍光灯のLED化はいまや常識

共用部分の照明を蛍光灯からLEDに交換するのは、もはや常識です。私の所有する物件はすべてLEDに交換しました。ランニングコストは圧倒的に低いです。交換にかかる時間はものの5分、費用は業者に依頼すれば数千円は覚悟するところ、自分で行えば蛍光灯代のみとなります。

IHヒーター取付も自分で

古いワンルームマンションでは、キッチンのコンロが渦巻き方の電熱器のままになっていることがあります。これがあるといかにも古めかしいキッチンに見えてしまいます。これもひとつ1万円ほどで最新のIHヒーターに取り替えることができます。自分で交換する場合、所要時間は1時間程度でしょう。

定期清掃の強い味方「高圧洗浄機」

賃貸物件の外壁は汚れが目立つ割には、洗浄が難しい部分です。私は定期清掃にいくとき必ず高圧洗浄機をもっていくことにしています。お気に入りはドイツ製のケルヒャー高圧洗浄機。2万円前後という値段の割には重宝しています。高いところにも高圧の水が届き、驚くほどきれいになります。作業時間は半日程度でしょうか。雨の日に作業を行えば、周囲への影響も少なくはかどりやすいです。

鍵交換も慣れれば自分でできる

入居者が替わる度に鍵交換をするのは、いまや常識ですが、これも業者に頼むとけっこう費用がかかります。それに合い鍵の管理も安心して自分でやりたい。普通に使われているシリンダー鍵であるMIWA製のものなら5,000円から6,000円程度で手に入ります。所要時間は1時間程度とみておけば十分です。

保険は賢く良いものを

物件の具体的な管理業務とあわせて、覚えておきたいことに保険があります。それは「施設賠償責任保険」です。たとえば「エアコン」「給湯器」「ポンプ」などの設備機器が故障した場合、その修理費をカバーしてくれます。大型の設備の故障は、その交換に数十万円かかるので、非常に大きな保障となります。

これまでの火災保険や地震保険は、火災・水害・台風、地震などによる被害に限定されており、機器の故障による被害には対応していませんでした。今後はこうした保険を活用すれば機器の修理費用を低く抑えることができます。

物件管理でかかった費用は、すべて経費計上できる

大家さんが自ら物件管理を行ったとき、材料費や用具代などの領収書は、すべてしっかりとっておきましょう。これらの費用はすべて経費として計上できるのです。これにより節税が可能となるため、さらに収益がアップすることになります。このときに大事なのが、領収書を正しく保管し、用途を記録しておくことです。複数の物件管理をすると、領収書の数も膨大となります。整理し、こまめに仕訳して、確定申告に備えましょう。

維持管理費を大きく抑える自主管理は、物件の価値向上にもつながる

物件管理のすべてを管理会社へ委託しているオーナーにとっては、自主管理の実際やその工数は、なかなか想像できないものかもしれません。しかし、ルームクリーニングから1つずつはじめてみると、そのおおよそは自分でもできるものばかりであることに気づくことでしょう。そして、実際にやってみると、かかるコストの低さに驚くはずです。

連載4回目でも書きましたが、物件へ手を入れれば入れるほど、物件が磨き込まれていきます。物件の雰囲気、オーラがよくなり、入居者も居つき、また新規の客付けもしやすくなります。自ら物件を管理することは費用面だけではない魅力があるのです。

川村龍平(かわむら・りょうへい)
横浜国立大学経済学部国際経済学科卒業後、第一勧業銀行、モルガンスタンレー証券会社にて、債券トレーダーとして機関投資家向けビジネスを行う。2002年、渋谷に一棟ビルを購入、サラリーマン大家をスタート。2005年11月より専業大家となる。現在ビル3棟、アパート4棟、ワンルーム3戸を個人保有し経営中。本人訴訟からペンキ塗りまで全て自主管理する。純資産10億円。あと2年で主な借金は完済予定。現在実質借金ゼロ経営を継続中。2020年6月に初の著書『不動産経営 誰も教えてくれないお金の残し方』(幻冬舎)を上梓

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