物件の収益をより大きくしていくために、自主管理を始めたい大家さんも多いことでしょう。しかし、この自主管理に対する最大の壁といわれるのが、入居者付け、客付けともいわれる業務です。賃貸事業は、入居者がいてはじめて成り立ちます。自主管理大家は、どのようにして新しい入居者を募集し、契約をするのか。不動産仲介業者とのよい連携策と合わせて、ベテラン大家のノウハウをまとめていきましょう。
著者 川村龍平
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賃貸オーナーの大半は、管理業務を管理会社に委託しています。ですから、いざ物件管理を自分で行う、としても、その業務内容もやり方もわからず、躊躇してしまうのもわかります。とくに物件の入居者を募る入居者付け、客付けとも呼ばれる業務は、最大の壁といえるでしょう。
ここで、私は提案したいのです。入居者の募集は、自力ですべてやろうとしない。仲介業者に働いてもらうということです。やはり不動産仲介業者は情報の発信力、そして集客力においてスケールメリットがあります。彼らにしっかり利益を得てもらえるように準備し、働いてもらうように努めるのです。そのための私の経験をまとめてみます。
不動産仲介業者は、入居者と大家の間に立ち賃貸契約の仲介を行うことで、収益を上げています。扱う物件が多くなればなるほど入居者希望者へ適した提案ができ、成約できるので、取扱い物件を増やすことは基本的に歓迎しています。
彼らは、物件の仲介をし、成約することで、入居者から仲介料を受け取り、また賃貸オーナーからも広告料を受け取ります。これが不動産仲介業者の収益となります。地域にもよりますが、入居者からの仲介料も賃貸オーナーからの広告料も、ともに家賃の1か月分が相場ですから、賃貸オーナーはこの金額を目安に依頼すれば、基本的には仲介業務をしてくれるはずです。
ただし、実際には、これがなかなかうまくいかない。それは、不動産仲介業者が、物件管理業務も行っていることが多いためです。物件の管理業務も行っている不動産仲介業者は、その物件に入居者があってはじめて管理業務が成り立つので、まずは自社の管理物件のほうに入居者付け、客付けをしたがります。そのため、仲介だけの物件の紹介、案内は優先順位が下がり、極端な場合は、管理とセットでないと仲介業務を引き受けてくれない、という会社も出てくるほどです。
そこで、自主管理大家はどうするか。私の場合は、とにかく足で稼いで複数の不動産仲介業者を訪問し、仲介を依頼しました。物件の所在地に近く、また最寄り駅に近い業者を1件1件、訪問して回ったのです。
不動産仲介業者の中には、物件の管理は行わず、入居者付け、客付けを専門とする業者も存在します。店舗の外見からは見分けがつかないので、とにかく複数の業者を訪問して、依頼をしました。私の経験では、10件訪問して6,7件はいろよい返事をもらえませんでしたが、3、4件は、仲介に積極的な業者に出会うことができました。こうして不動産仲介業者の集客力を活かすだけでなく、入居希望者へ所有物件をマッチングさせる機会を増やし、入居者付け、客付けをすることに成功したのです。
この複数の仲介業者への仲介依頼の際に気をつけたいのは、仲介委託契約の種類です。不動産仲介業者に入居者付け、賃貸付けを依頼するとき、業者と結ぶ仲介委託契約には3種類あります。専任媒介、専属媒介、そして一般媒介契約です。このうち複数の業者へ仲介を依頼できるのは一般媒介契約となります。
専任や専属媒介契約は、対象物件を独占的に仲介できるため、業者はこの契約を求めてくることがあります。しかし先に述べたように、一社独占としながら、管理業務を委託しないことから入居希望者へ紹介する優先順位を下げられては困ります。一般媒介契約とすることを、しっかりと伝えましょう。ちなみに専任であれば、他の業者はNGですが、大家が自分で入居者を見つけて契約をすることはできます。対して専属では、それすらできない契約となりますので、注意が必要です。
この不動産仲介業者との仲介委託契約時に、家賃や管理費、特記事項といった入居者との契約に関する賃貸条件や物件の情報を伝え、あわせて仲介の際の広告費についても取り決めをします。広告費は1か月分を目安に、地域の相場程度は用意をするようにしましょう。また、入居者との契約書の内容は、国土交通省の『賃貸住宅標準契約書』を参考にすればよいでしょう。
この入居者の契約における家賃の取り決めに関しては、連帯保証人をつける、または家賃債務保証会社をつける方法があります。私の場合は、すべての物件に家賃債務保証会社をつけることを契約の条件にしています。それは、入居者の審査を自ら行うには限界があるためです。
連帯保証人をつけるのは、入居者が家賃を支払えない場合などに、保証人にその債務を保証してもらうためです。しかし、その連帯保証人が設定した極度額分の保証を行えるかどうかを、個人として調べることはむずかしく、また手間もかかります。その点、家賃債務保証会社であれば、信用情報もあわせて入居希望者を審査してくれるので安心できます。
私は実際にCasa社のサービス「家主ダイレクト」を利用していますが、Casa社の審査を通った入居者では一度もトラブルがなく、また、滞納が発生してから申告しなければならない代位弁済と違って、前月末には必ず家賃が入金される仕組みなので、非常に便利に使っています。
このほか、入居者との契約書の内容として、更新料も設定します。この更新料は1ヵ月としておきましょう。また特記事項の欄も見逃せません。ここに、短期解約の場合の違約金や禁止事項、たとえば、火災リスクの観点からストーブの使用禁止、騒音トラブルの観点から楽器の演奏禁止など、物件管理のために決めておきたい事項を書いておくようにしましょう。
自主管理大家が、実際に入居者付け、客付けを行うため、複数の不動産仲介業者と仲介の契約を結ぶべきことについて、またその注意点も解説をしました。しかし、これだけでは満室経営にはまだ足りません。続いては、仲介業者に物件の価値を知ってもらうことが必要です。入居者に物件の説明をするのは仲介業者ですから、物件が魅力的であり、早く決まる可能性が高いことを知れば、積極的に物件紹介をしてくれるようになります。収益効率の点から優先度が上がる、というわけです。
不動産仲介業者と契約をすれば、物件紹介用のチラシ、いわゆるマイソクを作ってくれますが、これだけでは足りません。もっとしっかり入居希望者に響く物件の情報を、正確に伝える必要があります。そのため、私は物件の外観から内観、キッチンやトイレ、設置している収納などの設備を写真に撮りました。周囲にあるコンビニや見晴らしのいい景色など、文字だけではなかなか伝わらない、物件の価値を写真とあわせて説明できるようにしたのです。
撮った写真は、パソコンに取り込んで、Wordでレイアウトし、それぞれに説明を付けて、特製のチラシとして印刷をしました。これをラミネート加工して、仲介業者の数だけ作成し、あらためて業者を訪問したのです。担当者にこのチラシを見せながら直接説明をすると、強く印象に残ったのか、すぐに内見希望者を見つけてくれ、成約することができました。
日ごろから磨き込み、魅力を高めている物件ですから、どの部分が入居者へのアピールポイントとなるのかは、オーナーがいちばんわかっています。もし管理委託をしているなら、管理会社はここまではやってくれず、通り一遍の紹介にとどまってしまうことでしょう。むずかしいとされる入居者付け、客付けにおいても、自主管理大家ならではの強みを生かすことができました。
自主管理大家の最大の壁とされる物件の入居者付け、客付けですが、複数の不動産仲介業者に依頼すること、適切な費用をかけること、そして、物件の価値をよりアピールすること、この3点により対策できることを説明しました。まずはこれらを面倒がらずに1つひとつ行うこと、とくに不動産仲介業者との交渉を、勇気をもって行うことが重要です。仲介業者は収益を上げることが目標なのですから、その仕組みを理解し適切な予算を与えれば、喜んで仲介業務をしてくれるのです。不安に思うことはありません。自信をもって、仲介業者を訪問していきましょう。
最後に、入居者付け、客付けにおけるもっとも効果的な対策は、こうして一度入居した入居者に、長く賃貸契約を続けていただくことです。そうすれば新たに入居者を探す手間もコストもかからず、安定した賃貸経営が可能です。
本連載の3~5回で紹介をしてきたように、入居者とよい関係を構築し、物件を磨き込んで魅力を高めていけば、自ずと入居者の満足度は向上し、結果、退去リスクは減っていきます。このような入居者管理、物件管理は、管理会社ではなかなか行うことができません。つまり、自主管理大家の強みが、壁とされる入居者付け、客付けにおいても最大の効果を発揮することになるのです。
物件を愛し、入居者としっかり付き合っていくこと。この自主管理大家の業務すべてが、キャッシュフローを含む賃貸経営のすべてに好循環を及ぼすことを、ぜひ知っていただきたいと思います。
<著者> 川村龍平(かわむら・りょうへい)
横浜国立大学経済学部国際経済学科卒業後、第一勧業銀行、モルガンスタンレー証券会社にて、債券トレーダーとして機関投資家向けビジネスを行う。2002年、渋谷に一棟ビルを購入、サラリーマン大家をスタート。2005年11月より専業大家となる。現在ビル3棟、アパート4棟、ワンルーム3戸を個人保有し経営中。本人訴訟からペンキ塗りまで全て自主管理する。純資産10億円。あと2年で主な借金は完済予定。現在実質借金ゼロ経営を継続中。2020年6月に初の著書『不動産経営 誰も教えてくれないお金の残し方』(幻冬舎)を上梓