2021.06.23
不動産投資

【連載#1】不動産経営の収支計画はどう作ればいいの?

【厳選】オーナーズ倶楽部編集部 おすすめ書籍を紹介

不動産オーナー、そして将来オーナーになる方にとって、日々の賃貸経営について、そして次の不動産投資については、いつも情報を求め、学びを深めていることでしょう。そこで、オーナーズ編集部では、多くの書籍の中から、良質な1冊を厳選し、その抜粋を紹介してまいります。

著者 広瀬智也

重要なのは「キャッシュフロー」で手元に残る資金

不動産経営は株や投資信託などと違って、買ったら「放ったらかし」ではなく、その物件を経営して利益を上げていかなければいけません。買うときに良い物件を選ぶことも大事ですが、むしろその後の「経営」がそれ以上に大事になってきます。せっかく良い物件を持っていても、リフォームや入居者募集、管理などの経営全般がまずければ利益が上がらず、ローンが収支を圧迫して、物件を手放したばかりかさらには借金が残る……といったことになったら目も当てられません。

健全経営のためには、しっかりとした収支計画を立てなくてはなりません。でも、いきなり収支計画と言われてもピンと来ないかもしれませんね。要は家計と同じで、いくら収入が見込めて、いくら支出があって、最終的に手元にどれくらいのお金が残っていくのかをしっかり把握するということです。難しく考えることはありません。

その収支計画を立てるために重要なのが、キャッシュフローです。キャッシュフローとは、手元に残る現金の流れやお金の出入りのことです。

会社の経営では、損益計算書、貸借対照表のほか、キャッシュフロー計算書が第三の決算書として重要視されています。「黒字倒産」という言葉を聞いたことはありませんか。起業が損益計算書上では利益が出ていて黒字なのに、キャッシュフローに詰まって倒産するという現象のことです。これは不動産経営にも当てはまり、利益が出ているのにあまりお金が残らず、果てには物件を手放さなくてはいけない……という事態も起こり得ます。ですから、このキャッシュフローを把握せずに、投資をしたり、経営したりするのは、地図を持たずに知らない町を歩くようなものだと思います。

正しいキャッシュフローの計算式

「キャッシュフローなんて、言われなくてもちゃんと計算してるよ」と思われる方も多いでしょう。しかし、私がコンサルタントとしてたくさんの大家さんと接してきた経験上、キャッシュフローの計算式を正確に把握している方のほうがそれほど多くないのも事実です。

「キャッシュフロー」の計算を
①「家賃収入」―「経費」―「ローン返済」
あるいは
②「家賃収入」―「経費」―「返済元金」+「減価償却費」
と考えていませんか?実はこれこそ、不動産経営で失敗しやすい落とし穴なのです。

ではキャッシュフローの前に、まず「収支」から見てみましょう。企業でいうと、損益計算書(PL)ですね。

まずは売り上げがあります。家賃収入、礼金、敷金の償却。次に経費(清掃費、共用部分の電気代、リフォーム代)、支払い金利、減価償却費などですね。経費を差し引いた所得に対し、所得税と住民税(法人なら法人税)が課税され、残ったのが税引き後利益です。

さらに一歩進めて、税引き後利益にローンの返済額や減価償却費を計上して、つまり、
「税引き後利益」―「返済元金」+「減価償却費」
という計算式に当てはめて、税引き後のキャッシュフローを見ることです。

返金元本をマイナス、減価償却費をプラスするわけ

「税引き後利益」は、確定申告をして税金を支払ったあとの手元に残る利益です。

「返済元金」は、金融機関から借り入れしている金額です。確定申告では、この返済元金は経費になりません(利息のみ経費になります)。でも、実際には手持ちの資金から返していき、それによって資金が減るので、「税引き後利益」からマイナスの計算をしています。

では、減価償却費は「経費」なのになぜ足して考えるのかと言えば、実際には現金の支出を伴わない費用だからです。減価償却費とは、建物、設備などの固定資産を取得後、費用配分の原則に基づき、その耐用期間にわたる各事業年度に配分したものです。例えば、居住用建物について木造であれば22年、鉄骨造で34年、RC(鉄筋コンクリート)造で47年かけて償却していくと決まっています。

減価償却費は、損益計算書では経費として 計上されるため、その分だけ「税引き前利益」は減少します。でも、実際には資金の流 出がないため、キャッシュフローを計算するにあたって加算しているわけです。

では、実際の数字を例に解説していきましょう。

【物件の収支例】

  • 家賃収入 月額25万円
  • 経費月額2万円
  • 固定資産税 年間18万円
  • 減価償却費 年間80万円
  • 支払金利 月額4万円
  • 返済元金 月額10万円
  • 税率30%

※不動産のほかに所得があると想定

①「家賃収入」―「経費」―「ローン返済」で計算すると、
25万円 – 2万円 – 14万円 = 9万円(月額)となり、年間108万円のキャッシュフローとなります。

でも実際の支出には税金もありますし、必要経費として認められる「減価償却費」もあります。不動産経営では、その規模が大きくなればなるほど、実質一番大きくなる「コスト」は税金です。所得税と住民税の合算は最高で55%もの税率になります。

まずは一番大きいコストである所得税を算出しましょう。そのためには、課税所得額を把握します。課税所得とは、家賃収入から「経費、固定資産税、減価償却費、支払金利」といった必要経費を差し引いた額です。

300万円(家賃収入)-24万円(経費)- 18万円(固定資産税)-80万円(減価償却費)-48万円(支払金利)=130万円(年間)

課税所得130万円に対し、税率30%で39万円の税金がかかります(不動産以外にも所得があると想定)。

130万円(課税所得額)-39万円(税金)-120万円(返済元金)+80万円(減価償却費)=51万円(年間)

51万円というのが、年間で手元に残る金額です。①の108万円という計算と倍の開きがあります。

キャッシュフローがプラスだと思っていたのに、税引き後キャッシュフローで見ると実はマイナスだったというのは、よく聞く話です。またキャッシュフローを押さえておかないと10年後には投資金額の元も取れずに、「お金が思ったより貯まらない」という疑問だけが残ることになりかねません。

確定申告している方なら、確定申告書と、銀行の返済予定表で返済した元金の合計を計算することで、その年度のキャッシュフローの結果を算出することができます。

そうすることで新たに物件を買う際、手元に残るお金がマイナスにならないような買い方をしたり、手持ちの物件でキャッシュフローが悪くなるのを機に売却したり、よりリスクの少ない判断が下せます。

※画像をクリックするとAmazonに飛びます

『2時間で丸わかり! 不動産経営のきほん大全』
【連載#1】不動産経営の収支計画はどう作ればいいの
【連載#2】どうすればキャッシュフローは良くなるの?
【連載#3】「キャッシュフロー」が悪化するのはどんなとき?
【連載#4】「ローンを多く受けるのと少なく抑えるのとどちらがいい?」
【連載#5】物件を持っておくか売却すべきかはどう判断する?
【連載#6】銀行っていっぱいあるけど、どこに相談すればいい?
【連載#7】「融資が通りやすい物件、通りにくい物件ってあるの?」
【連載#8】融資を受けやすい人、受けにくい人を教えて
【連載#9】「慣れていない人は、どうやって銀行に相談すればいいの?」

 

<著者プロフィール>
広瀬智也(ひろせ・ともや)
1972年北海道札幌市生まれ。1995年に東京大学法学部卒業後、日商岩井(現、双日)の法務部、上海法人にて勤務。2000年、株式会社エリアクエストにて、事業用不動産の賃貸仲介業務を行い、同社の取締役として東証マザーズに上場。2004年、不動産事業を手がける株式会社不動産投資アドバイザーを創業。
現在は、株式会社バンブーインターナショナルにて、不動産・飲食事業を行う。2014年、一般社団法人相続オールインワンの理事に就任。個人・法人で賃貸不動産を所有してきた経験から、不動産経営に関するコンサルティングやセミナーを行う。著書・翻訳書に、『家賃収入が月収を超える!』(小社)、『キャッシュフローを生む不動産投資』(かんき出版)、『世界の不動産投資王が明かす お金持ちになれる「超」不動産投資のすすめ』(東洋経済新報社)などがある

PREV あなたもできる自主管理のススメ#06:最大の壁「入居者付け」も、実際は“やればできる”仕事のひとつ
NEXT コロナが賃貸経営に与えた影響は?データから見る「大家さん」として知っておきたいこと

関連記事