不動産投資の「指標」になるものはいくつかありますが、なかでも重視すべきはキャッシュフローです。キャッシュフローが一定してプラスであれば賃貸経営を安定して行えるため、「キャッシュフローを継続してプラスにする」運用方針が重要になってきます。
ここでは、キャッシュフローの定義やその重要性、計算方法、増やすための手段についてご紹介します。
3.キャッシュフローを増やすための8つの運用ポイントとシミュレーション例<
3-1.できる範囲で頭金を多く入れる(=ローン返済額を少なく、利回りの高い物件にする)
3-2.できる限り金利の低いローンを選ぶ
3-3.できる限り返済期間が長いローンを選ぶ
3-4.利回りにこだわりすぎない
3-5.空室率を下げる
3-6.管理費・修繕費を適切に
3-7.コスト削減・キャッシュフロー向上のため自主管理も検討する
3-8.最終的なキャッシュフローが最重要指標
不動産投資においてキャッシュフローを把握することはとても重要です。ここでは不動産投資におけるキャッシュフローの意味と計算式を説明します。
広義の意味での「キャッシュフロー」は、一定期間における実際の現金(=キャッシュ)の流れ(=フロー)、すなわちキャッシュイン(収入・流入)からキャッシュアウト(支出・流出)を差し引いた残りの金額、あるいは事業活動におけるお金の出入りそのもののことを指します。「現金収支」ともよばれます。
企業の取引において、多くは損益計算書に記載されている売上高などは会計上の概念であり、実際のお金の出入金を表しているものではありません(=帳簿上の売上があっても、支払日が来ないと現金は手元にない)。そのためキャッシュフローの把握は企業経営において重要であり、日本では上場企業に「キャッシュフロー計算書」の作成が義務付けられています。
不動産投資において使われる「キャッシュフロー」について明確な定義があるわけではありませんが、一定期間に残ったお金のことを指していることが多いといえます。特にサラリーマン投資家など、融資を受けて(お金を借り入れて)賃貸経営を行う初心者の不動産投資家にとっては、銀行などへの融資返済が確実にできる「キャッシュフローの生み出す投資」ができているかどうかが非常に重要になります。
不動産投資における、簡易的なキャッシュフローの計算式は次のようなものです。
(1)キャッシュフロー=家賃収入-ローン返済-経費
(1)の式における経費をいくらに設定するかは難しいところです。単に不動産管理会社へ支払う管理委託費だけなら家賃収入の5%程度ですが、退去に伴う原状回復費や、突発的な修繕費、将来の大規模修繕工事に備えた積み立てなども考慮する必要があります。空室期間に家賃収入が入ってこない分のマイナスも含めて、おおむね30%の経費がかかると考えておくと、手堅い計算になります。(もちろん空室期間についての想定は築年数や間取りの競争力、エリアでの空室率などを考慮し上下させる必要があります。)
ただし(1)の場合、ローン返済額のうち経費にできない元金の部分を考慮しているものの、税金が考慮されていません。そこでもっと厳密に、以下の計算式もあります。
(2)キャッシュフロー=税引き後利益+減価償却費-返済元金
金融機関が融資審査のために決算書を見る際には、後者の計算式に当てはめてキャッシュフローを算出すると言われています。
ただ、(2)の方式でキャッシュフローを割り出すには、まず税金の計算をする必要があるのでかなり手間がかかります。そこで、賃貸経営の大まかな現状を知りたい時や、購入を検討している物件の収益力を見る時には、最初の簡易的な計算式でキャッシュフローを計算すればよいでしょう。
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キャッシュフローが重要な理由をさらに詳しく説明します。
例えば、家賃収入をローン返済に充てている不動産投資家の場合、家賃収入よりもローン返済額が多ければ、自己資金(キャッシュ)をプラスして毎月支払わなければなりません。それが長く続くと、オーナーの現金が尽きてローン返済ができなくなり、不動産投資自体が失敗に終わってしまいます。
また入居者の家賃滞納、突発的な修繕費用の発生などが起きて、急に現金が必要になる場合もあります。その際、毎月の家賃収入だけではほとんどキャッシュフローがない場合も自己資金を投入せざるを得なくなります。
そのため不動産投資を成功させるためには、常にキャッシュフローが一定してプラスになるような運用を心がけることが重要であること、おわかりいただけると思います。
不動産投資の最終目標は「資産を増やすこと」です。
例えば、利回りが高い物件を買ったとしても、あるいは好条件で融資を引き出せたとしても、不動産投資を行った結果、最後に残るお金が少なければ、何のために投資をしているのかわかりません。
反対にキャッシュが十分に残る状態なら、選択肢の幅が広がります。
このように、不動産賃貸経営を安定的に行うためには、キャッシュフローがきちんと残る状態をつくることが大事なのです。
キャッシュフローを「増やす」にはどうすればいいのでしょうか。ここではキャッシュフローを増やすためのポイントをお伝えします。
購入額に対して家賃収入が多い、つまり利回りの高い物件であれば、当然ながら多くのキャッシュフローを期待できます。
ただし、単に利回りが高いだけではリスクの高い物件の可能性もあるので注意が必要です。
そこでもう一つのポイントとなるのが、ローン返済額です。ローン返済額が少なければ少ないほど、キャッシュフローが増えるからです。そのために、頭金を可能な限り多く入れることが必要になります。
ここでは、ある物件(総戸数4戸のアパートとする)を元にキャッシュフローを計算してみましょう。
表1
物件価格 | 2,800万円 |
想定利回り | 13.54% |
満室時の年収 | 約379万円 |
想定月収 | 7.9万円 |
フルローン(頭金0円、融資額2,800万円)にした場合と、頭金を300万円入れた場合(融資額2,500万円)の返済額を比較します。
表2
頭金の額 | 融資額 | 月々の返済額 |
0円 | 2,800万円 | 92,752円 |
300万円 | 2,500万円 | 82,814円 |
計算上、月々で約1万円、年間で12万円のキャッシュフローが増えることになります(実際は経費等かかるためこの通りではありません)。
例えば上の物件で金利が1%変わると以下のようになります。
表3
金利 | 融資額 | 月々の返済額 |
1% | 2,500万円 | 70,570円 |
2% | 2,500万円 | 82,814円 |
同じ借入金額、借入期間でも、計算上は月に約12,000円、年に144,000円のキャッシュフローが増えることになります(実際は経費等かかるためこの通りではありません)。
返済期間が25年しかない場合、どうなるでしょうか。(上記の、金利1%・融資額2,500万円の物件の場合)
表4
返済期間 | 融資額 | 月々の返済額 |
25年 | 2,500万円 | 94,217円 |
35年 | 2,500万円 | 70,570円 |
返済期間が長い方が月々の返済額は少ない=キャッシュフローは大きく増えることになります。
利回りが高い方がキャッシュフローは増える計算になりますが、物件の広告では「表面利回り」が使われていることがほとんどです。表面利回りは経費を含まず空室率等も加味していないため、実際の収益とは異なります。
例えば表1を見ると、利回り約14%と優良物件に見えますが、諸条件が以下の通りだとするとどうなるでしょうか。
表5
物件価格 | 2,800万円 |
想定利回り | 13.54% |
満室時の年収 | 約379万円 |
想定月収 | 7.9万円 |
所在 | 首都圏某区 |
交通 | JR某線主要駅 徒歩30分 |
▽条件
キャッシュフローを増やすためには「借入金額は少なく、金利は低く、借入期間は長く」して、「ローン返済額を抑える」ことが重要です。
しかしこの物件の場合、
(1)築年数が30年を超えている中古物件のため、軽量鉄骨造の減価償却期間は最長でも27年で終了しています。そのため減価償却費を経費に入れることはできません。また融資も非常に難しくなります。
(2)空室が多いため、現状の実質利回りは以下のようにかなり低くなります。
▽概算
(92万4,000円(現況収入)-諸経費20万円)÷2,800万円(※購入時の諸経費を加味しない)
≒2.6(%)
(3)物件自体に瑕疵が多く、大規模修繕または建て替えが必要と思われるため、実際のキャッシュフローは、今後さらに悪くなると考えられます。
(4)主要駅から徒歩30分近くかかるため、不便であり、居住者のニーズに応えられていない可能性が高いです。
このように、一見利回りが高くても、物件の条件をよく見定めないと収益もキャッシュフローも悪化する、ということがわかります。
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空室率を下げることで家賃収入を安定して得られるため、キャッシュフローも良くなります。空室率を下げるためには投資初期からの地域調査・ニーズ調査が重要になります。
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上記の物件は築年数が経過しているとはいえ、雨漏りや建物の傾斜があるなど、適切な管理と定期的な修繕が行われていなかった可能性があります。
物件はこまめなメンテナンスによりその寿命をある程度延ばすことができます。ある程度の期間ごとに中規模~大規模な修繕が必要なことも初めから視野に入れ、長く安定した賃貸経営を行うために修繕費用の積み立てと長期的な計画は必須です。そのためにも、キャッシュフローを増やしておくことが重要になります。
「自主管理」を取り入れることも、賃貸経営にかかるコスト削減・キャッシュフロー改善の効果が期待できます。
管理委託費用は毎月継続的にかかる費用です。月々の支払いはそれほど大きいものと感じないかもしれませんが、累積すると、業務内容にもよりますが年間で数百万以上必要になる場合もあります。委託している管理業務の内容を見直し、自主管理にできそうな場合は検討してみる価値があるといえるでしょう。
これにより、月々かかっていた管理委託費用を、建物や設備の修繕費、将来的な大規模修繕費用の確保などに充てることができます。また、余剰金を入居者に対して何らかの形で還元することで、空室対策にもなるでしょう。
自主管理は物件オーナーの手間や時間がかかります。株式会社Casaが提供する自主管理をサポートしてくれる「家主ダイレクト」の利用を検討してみてはいかがでしょうか。
キャッシュフローだけを重視してとにかく長期のローンを組んでしまうと、元金がなかなか減らず、返済が終わるまで長期にわたって金利上昇や空室リスクにさらされるというデメリットもあります。あくまで長期的な目線でリスクを織り込んだ計画を立てることが重要です。
一時的に収支のバランスが悪化したとしても、結局は「最終的なキャッシュフロー」が不動産投資における一つの重要な指標になります。物件保有中はキャッシュフローがプラスで推移し、残債の減少額と将来的な売却までを含めてトータルで収支を見て、最終的にいくらの利益が得られたかで、不動産投資の成否が決まるのです。
不動産投資におけるキャッシュフローの重要性についてみてきました。
キャッシュフローを増やすためには、以下の7つのポイントに注意しましょう。
(1)できる範囲で頭金を多く、ローン返済額を少なくする
(2)できる限り金利の低いローンを選ぶ
(3)できる限り返済期間が長いローンを選ぶ
(4)利回りは高い方がよいものの、こだわりすぎない
(5)空室率を下げる
(6)長期的な視野で、管理費・修繕費の積み立てを行う
(7)最終的な収支を見据える
不動産投資の成功のために、キャッシュフローの重要性を理解し、運用に役立ててください。
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