投資家が不動産投資をする場合、金融機関のアパートローンなどを利用して物件の購入代金を用意するのが一般的です。その際、家賃収入に対してどのくらいの割合の金額を毎月返済していくのかが重要なポイントとなります。この記事では、返済比率の計算方法やシミュレーションについて紹介します。
【著者】矢口 美加子
オーナーのための家賃保証
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目次
不動産投資の返済比率とは、収益物件から得られる年間の家賃収入における、アパートローンなどの年間返済額の割合です。不動産投資で得られる収益のうち、どのくらいの割合を金融機関へ返済するのかを示すもので、返済比率が低いほどゆとりのある賃貸経営を行えることを表します。返済比率が低ければ手元に残る収益は多くなるため、空室や修繕など、突発的に発生するリスクにも対応できるからです。
反対に、返済比率が高いということは、収入におけるローン返済額の割合が高いということですので、月々のキャッシュフローに余裕がなくなります。そのため、突然大きな支払いが発生すると、最悪の場合は返済金を滞納してしまうというリスクを抱えています。
返済比率の計算方法は以下の通りです。
ここで注意したいのは、返済比率は「収益物件を満室で経営している場合」で計算されるということです。そのため、考えていた金額よりも実際に手元に入る家賃収入額が少なくなることはあり得ます。
また、返済比率の計算にはローン返済額を算入しますが、物件を購入する前の状態では金融機関への金利や返済期間などは確定していません。そのため、ローン返済額を具体的に割り出したいときには、各金融機関が提供しているローンシミュレーターを使用すると良いでしょう。わざわざ金融機関まで出向かなくても、インターネットで毎月のローン返済額を簡単に計算することができます。必要な情報は「物件価格」「自己資金額」「返済期間」「金利」などです。
返済比率は算出されたローン返済額を年間家賃収入で割ることにより計算できますが、この計算式の通りに必ずしも満室経営になるとは限りませんので、空室が出た場合でもゆとりのある経営を行なうためには「空室数も考えたうえでの家賃収入」で計算することをおすすめします。
不動産投資は金融機関から融資を受けて行うのが一般的ですが、家賃収入に対して返済比率が高すぎると収入のほとんどが返済金になるため、ローンの返済が困難になってしまいます。したがって、家賃収入に見合った返済比率に設定することが必要です。
一般的に、不動産投資における理想的な返済比率は「40~50%以下」と考えられています。理由としては、返済比率が低いほど安定的な不動産経営を行うことができるからです。万が一、空室が発生して損失が10~20%出たとしても、40~50%以下の返済比率に抑えておけば手元に30%程度は残ることになります。
不動産経営には、管理会社へ支払う管理費や固定資産税などの各種税金、建物や設備機器の修繕費など、さまざまなランニングコストがかかります。このように何かと出費がありますが、返済比率を50%以下にしておくことで余裕のある不動産経営を行える可能性が高くなります。
返済比率が高いとキャッシュフローに余裕がなくなることはすでに説明しましたが、返済比率を高くすると返済期間が短くなることから、返済金額をあえて多めに設定するオーナーもいます。ただし、無理な金額で返済していくと、空室などのリスクが発生した場合に返済金を滞納してしまうことが考えられます。そこで、ここでは返済比率が高い場合のシミュレーションをしてみましょう。
家賃収入に対するローンの返済比率を60%にし、シミュレーションをしてみます。
【返済比率60%の場合】
毎月の家賃収入(満室時) | 100万円 |
毎月のランニングコスト(家賃収入の20%) | 20万円 |
空室による損失(家賃収入の15%) | 15万円 |
毎月のローン返済金(家賃収入の60%) | 60万円 |
手元に残る金額 | 5万円 |
返済比率60%でシミュレーションをすると、満室時の毎月の家賃収入が100万円だとしても、そこからランニングコスト・想定される空室損・ローン返済金を差し引くと、手元に残る金額はわずか5万円になってしまいます。これは満室時の家賃収入に対して5%の割合です。この場合、修繕費など突発的な費用が発生した場合には、たちまち赤字経営になってしまいます。
この結果から、家賃収入の半分以上を返済する「返済比率60%」は、想定外の支出が発生した場合には対応することが非常に難しいというリスクを抱えていることが分かります。
家賃収入に対してローンの返済比率が高くなると、さまざまなリスクを引き起こします。ここでは代表的な3つのリスクについて解説します。
第1のリスクは「急な支出に対応できない」ことです。すでに説明してきた通り、返済比率が高いと家賃収入の多くを返済に充当するため、手元に残る金額は少なくなります。これでは安定したキャッシュフローで経営することができません。
たとえば「給排水配管の修繕費が発生した」「貸室の流し台が水漏れするため交換することになった」など、賃貸経営には突発的な支出があるものです。特に修繕費は高額になることが多いので、ゆとりのあるキャッシュフローが必要です。ほとんど余裕のないキャッシュフローで経営をしていると、想定外の支出が発生した場合に対応できない可能性があります。
第2のリスクは「想定以上の空室に対応できない」ことです。シミュレーションでは空室損を15%と仮定して計算していますが、転勤など入居者の都合で急に退去をすることもあるため、想定以上の空室が発生する可能性を考えておく必要があります。すぐに入居者を募集したとしても、立地条件によってはなかなか入居が決まらない場合があるので、マイナス分が長引くことも考えられます。
このように空室が続いても、毎月の返済額が変わることはありません。そのため、返済やランニングコストの支払いなど、資金繰りに困る可能性は考えられます。
第3のリスクは「金利上昇リスクに対応できない」ことです。アパートローンを変動金利で借り入れた場合は、金利情勢の変化によって金利が変動します。
変動金利を選ぶ理由として一般的なのは、ローンの金利を設定するときに固定金利よりも安かった、というケースです。しかし、金利情勢には波があるため、運用をしている間に金利が上がる可能性は十分考えられます。そうなると、元本がなかなか減らずに返済額が多くなってしまうというマイナス現象が現れることになります。
変動金利の場合、半年ごとに金利の見直しが実行されます。変動金利から固定金利への移行は基本的に可能ですが、変更すると返済負担が大きくなる可能性があるため、借り換えをする場合はシミュレーションをしてから金融機関を選びましょう。
返済比率が60%などと高い場合についてのリスクは、これまでの内容で理解できたのではないでしょうか。ただ、返済比率が低いというのもまったくリスクがないわけではありません。ここでは、返済比率が40%と低い場合のシミュレーションを見ていきましょう。
家賃収入に対するローンの返済比率が40%だと、以下のシミュレーションになります。
【返済比率40%の場合】
毎月の家賃収入(満室時) | 100万円 |
毎月のランニングコスト(家賃収入の20%) | 20万円 |
空室による損失(家賃収入の15%) | 15万円 |
毎月のローン返済金(家賃収入の40%) | 40万円 |
手元に残る金額 | 25万円 |
返済比率40%でシミュレーションをすると、満室時の毎月の家賃収入が100万円の場合、最終的に手元に残る金額は25万円となり、ある程度まとまった金額となります。満室時の家賃収入の25%も残ることになるため、キャッシュフローにかなり余裕が出るといえます。
中には、不動産投資をする際の理想的な返済比率=40%という考え方もありますが、実際のところ40%の返済比率を実現できる物件はそう多くはありません。したがって、現実的には50%のラインが適切な返済比率とされています。ちなみに返済比率が50%の場合、手元に残る金額は15万円で、家賃収入の15%となります。
返済比率40%を設定すると手元に残る金額が大きいのはメリットですが、そのぶん返済期間が長くなりますのでリスクはあります。返済比率は低ければ低いほど良いというわけでもないので、返済比率を設定する場合にはさまざまなリスクと照らし合わせながら決めることが重要です。
返済比率が低いと、返済金額が少ないため安定した経営を行うことができますが、その反面で「返済期間が長期化する」というリスクを抱えています。そして、返済期間が長くなれば、そのぶん多く利息を支払うことになりますので、総返済額は増えることになります。
また、そもそも低い返済比率を維持するのは難しいという点もあります。賃貸経営には波があり、必ずしも満室経営が確約されているわけではありません。空室が続けば家賃収入は減るため、当然ながら実際の収入に対する返済比率は高くなってしまいます。そのため、満室時での家賃収入を基にして返済比率を低く設定しても、実際に維持するのは難しいといえるのです。
加えて、アパートローンを借りる際には「満70歳未満」などの年齢制限があります。中高年の年齢で借り入れをすると返済期間が短くなりますので、返済比率を低くすることはそもそも難しいという場合もあります。
返済比率が今よりも低くなればキャッシュフローはより安定し、余裕のある不動産経営が実現する可能性が高まります。ここでは、不動産投資の返済比率を下げる方法について解説していきます。
金銭的に余裕のある人におすすめなのが、自己資金額を増やすことです。収益物件を購入するときに、頭金として自己資金を多めに入れると、融資額が少なくなるため返済比率を下げることができます。ローンの融資額が少ないほど返済期間は短くなり、元金にかかる金利も減りますので、毎月のローン返済額を低くすることが可能です。
しかし、経済的に余裕のない人が行うと資金ショートを起こす可能性がありますので、おすすめできません。たとえば、多額の修繕費や空室による家賃減収が発生した場合、ローンの返済がきつくなることもあり得るからです。
また、自己資金を多く入れるとレバレッジ効果(小さい資金で投資効果を上げ、さらに収益性を高める)が小さくなってしまうことにも注意しましょう。たとえば2,000万円の自己資金がある場合、借り入れをしなければ2,000万円の物件しか購入できません。しかし、2,000万円を借り入れできれば4,000万円の物件を購入できます。それぞれの物件の利回りが同じ8%だとしても、借り入れをしたほうが年間収益から年間利息額を引いた実質利益は高くなります。
したがって、アパートローンなどを借りて家賃収入の多い物件を購入したほうが収益は高くなることが考えられます。
返済期間を延長することにより、毎月の返済額を減らして返済比率を下げる方法もあります。しかし、返済期間が低い場合のリスクの箇所でも述べましたが、返済期間を延ばすと金利も増えてしまうため、返済総額が多くなってしまうのはデメリットといえます。
また、人によっては金融機関に認めてもらうことができない可能性があり、誰もが返済期間を延長できるとは限りません。担保となっている物件の状況により断られる可能性があります。どうしても返済期間を延長したいという場合は、ほかの金融機関に借り換えを相談してみるのも良い方法です。
自己資金に余裕がある人は、前倒しでローンを返済する「繰り上げ返済」をするのをおすすめします。繰り上げ返済をすると毎月の返済額を減らせるため、返済比率を下げることが可能です。元金も少なくなるので利子が下がり、総返済額を減らせるようになります。
ただし、金融機関によっては、繰り上げ返済をする際に手数料が発生する場合があるので確認が必要です。手数料は金融機関により違いがあるのできちんと調べておきましょう。
なお、自己資金に余裕がない人は繰り上げ返済をすると手持ち資金がなくなってしまうため、よく検討してから実行するようにしてください。不動産経営は建物の修繕費などで思わぬ出費が発生することが多いため、ゆとりのあるキャッシュフローが理想といえます。
ローンを借り入れている金融機関と交渉して金利を下げるのも良い方法です。金利が下がれば毎月の返済額が少なくなるため返済比率は下がります。
ただし、金利についてはローンを組んでいる人の属性や信用度により違いがあります。「資産家である」「過去に不動産取引を多くしている」「社会的地位が高い」などに該当する人は、金融機関が交渉に応じてくれる可能性があります。しかし、不動産取引の実績が少ない人や勤務年数が3年以下の人にとってはハードルが高いといえます。
それなので、購入する時点で複数の金融機関にローンの審査を申し込み、その中で金利が低い金融機関から借り入れをすることが現実的だと考えられます。不動産は高額なため返済期間が長くなるのは一般的であり、総返済額に占める金利の割合は決して少なくありません。金利を見直すことにより収益が上がることも期待できます。
不動産投資をする際に利回りと同じくらいに重要なのが、家賃収入に対するローンの返済比率です。返済比率が高すぎると、手元に残る金額が少ないため安定した経営をしにくいですが、低すぎても返済期間が長期化するなどのリスクがあります。そのため、50%程度の返済比率が「無理なく」「効率的に」賃貸経営ができる理想的な数値といえるでしょう。不動産投資をする際には、利回りだけでなく返済比率にも注意して運用計画を立てるようにしてみてください。
宅地建物取引士、整理収納アドバイザー1級、福祉住環境コーディネーター2級の資格を保有。家族が所有する賃貸物件の契約や更新業務を担当。不動産ライターとしてハウスメーカー、不動産会社など上場企業の案件を中心に活動中。