2021.06.21
賃貸管理

賃貸借契約書の作成の仕方・ポイントを大家さん向けに解説

賃貸オーナーは、専門の管理会社に任せる派と自分で管理をする自主管理派に大きく分けられます。自主管理は管理会社に支払う管理費の負担がないのでコスト面では「無敵」なのですが、賃貸経営に関するすべての業務を自分で行うことになります。

そのなかでもハードルが高いと感じられる業務の1つが、賃貸借契約書の作成です。ほかの管理業務であれば経験から会得していける部分もあると思いますが、法的な効力をもった書類だけに押さえておくべき点は多く、はたしてこれを自分で作ることはできるのだろうか?とお感じの方も多いことでしょう。

そこで当記事では自主管理派オーナー、もしくは自主管理をお考えの賃貸オーナーに向けて、賃貸借契約書を自分で作る方法について、必要な知識と情報を網羅し解説します。法的な効力をもった書類だけにオーナーに不利になってしまうようなことがないよう、しっかりマスターしてください。

賃貸借契約書は自分で作れるか

最初に結論から申し上げますと、賃貸借契約書を自分で作ることは可能です。ただし、それには必要な知識と方法があります。

管理会社を入れている場合であれば賃貸借契約書の作成も管理業務の一環として任せることができます。当然その書面はプロが作成したものなので、オーナーが一方的に不利になるようなものではありません。

この賃貸借契約書を自分で作るとなると、最も重要なのはオーナーが不利になる内容になってしまわないことです。そのため自主管理派オーナーにとって最も神経を使う作業になるかもしれませんが、以下の解説を確認することで、簡単かつ確実に賃貸借契約書を自分で作ることができます。

賃貸借契約書は私文書。自分で作ることは可能

賃貸借契約書は法的な効力をもつ書面ではありますが、私文書の一種です。私文書を作成するのに特別な資格は不要なので、もちろんオーナーが自分で作ることにも問題はありません。しかし、そこに記載されている内容に問題があると、あとになって大きな問題に発展する可能性があるので、記載内容はとても重要です。

つまり、賃貸借契約書は誰が作るのかが問題ではなく、何が書かれているのか問題です。

賃貸借契約書に必要な項目

賃貸借契約書を自分で作る場合に必要な項目は、以下のとおりです。多岐にわたるため8つのチェックリストに整理しました。

チェック1:物件情報

賃貸借契約書が対象としている不動産を特定します。物件の名称や所在地、建て方(マンションの場合は「共同建」になります)、構造、該当物件の階数などです。これを特定することにより、賃貸借契約書の記載内容はその物件のみに適用されます。

チェック2:設備、残置物

エアコンがすでに取り付けられている場合や家具など残置物がある場合、それも賃貸借契約に適用するのであれば設備や残置物についても記載します。記載のない設備や残置物については契約の適用外になるので、入居者がどのように処分しても構わないという取り扱いになります。

チェック3:契約期間、借家契約の種類

契約書には必ず契約期間があるので、賃貸借契約書においても契約の有効期間を記載します。一般的に不動産の賃貸契約は、期間が2年であることが多いので、特に事情がなければ2年を設定することになるでしょう。

また、賃貸借契約には普通借家と定期借家の2種類があります。先ほど一般的に2年が多いと述べたのは、普通借家契約についてです。普通借家契約には2年の契約期間を定めることが多いとはいえ、ほとんどの場合は双方から異論がなければ自動更新される仕組みになっています。それではオーナー側から契約の更新を拒否できるかというと実際には難しく、入居者に大きな落ち度や問題がなければ契約を解除しにくいでしょう。そのため、普通借家契約はオーナーにとって契約解除のフリーハンドが与えられていない契約であると考えた方がよいと思います。

対して定期借家契約は、契約期間が厳格に定められて更新もしない前提になっているため、契約期間が満了した時点で自動的に賃貸契約は終了します。もちろん双方が契約の更新を望むのであれば新たに賃貸借契約を結びなおすことで継続ができるので、契約満了時にオーナーの意向を反映しやすい契約といえるでしょう。ただし、物件の多くが普通借家であるため、定期借家の物件は借主に敬遠される可能性があり、家賃を比較的低く設定せざるを得ないケースもあるようです。

普通借家契約か、定期借家契約か。賃貸借契約書を作成する際には、このどちらを選ぶべきかを考慮して書面に反映します。

チェック4:金銭に関する取り決め

賃貸借契約書のなかでも非常に重要なのが、金銭に関する取り決めです。家賃や共益費、敷金(保証金)はいくらなのか、そして退去時に返還するのはいくらなのかといった金額を取り決め、契約書に記載します。

また、家賃は「いつの分」を「いつまで」の支払うのかといった支払い期限に関する取り決めも必要です。あまり考えたくないことですが、家賃の滞納が発生した場合はどうするのかといった点にも言及し、滞納が続いた場合は契約解除になるといった主旨の記載があると実際に滞納が発生したときの対応に役立ちます。

さらにもう1つ、金銭に関する取り決めで重要なのが連帯保証人です。入居者本人が家賃の支払いを怠ったり支払い不能に陥った場合は連帯保証人が本人に成り代わって家賃を負担することになります。家賃の未収を防ぐためにとても重要な記載事項ですが、誰が保証人になるのかによって記載事項が異なります。

保証会社が連帯保証人となる場合は「家賃債務保証業者」の欄に業者の所在地や商号、電話番号、そして家賃債務保証業者登録番号を記載します。個人が連帯保証人となる場合はその人を特定するために住所、氏名、電話番号、そして極度額を記載します。

この極度額というのは民法の改正によって盛り込まれたもので、2020年より施行されています。連帯保証契約において、連帯保証人が保証する金額の限度を定めることが義務づけられました。連帯保証人が無制限に保証を求められることによって負担が大きくなることを防ぐためのものであり、連帯保証人欄に極度額の記載がないと契約書そのものが無効になります。

チェック5:貸主と管理者の情報

貸主とはオーナーのことで、管理者とは管理会社を入れている場合は管理会社に関する情報です。「誰の物件で、誰が管理するのか」を記載することにより、賃貸借契約の当事者を特定します。

チェック6:入居者の情報

オーナー側の情報に続いて、入居者の情報も記載します。誰が入居するのかという情報に加えて、契約者のほかに同居人がいるのであれば同居人についての情報も記載します。

このように同居人についても契約書に記載するのですから、入居後に同居人が増えた場合はオーナーにそれを伝え、同意を得なければなりません。無断で増えた同居人を住まわせることはよく見られることですが、これは契約違反です。

チェック7:解約、違約金について

入居者が退去を希望する場合の通知方法、いつまでに通知する必要があるのかといった取り決めをします。逆にオーナー側から契約を解除する場合はいつまでにどのような方法で通知するのかといった取り決めを契約書に記載します。

一般的に入居者は1ヵ月前までに解約予告をするのが契約書の通例となっており、オーナー側の契約解除は6ヵ月前までに予告することと記載されている契約書が多く見られます。

普通、賃貸借契約の契約期間は一般的に2年間であると述べました。この契約期間中に退去することは契約の途中解約になるわけですが、そこで違約金は発生するのでしょうか。実際にはそういった取り決めになっている賃貸借契約書は少なく、途中解約であっても予告期間までに通知したものであれば違約金は発生しないというのが普通です。

チェック8:ハウスクリーニング条項などの特約

一般的な取り決めに加えて、特約を設ける場合は特約事項も記載します。よくあるのはハウスクリーニング費用の負担などですが、それを含めて以下のような条項が見られます。

・退去時のハウスクリーニング費用負担
・タバコ関連など禁止事項(室内禁煙、ベランダ禁煙など)
・その他ゴミ出しのルール順守、迷惑行為の禁止など

これらについても賃貸借契約書にしっかりと記載しておくことにより、トラブルになっても「契約書に書かれていないから」という抗弁を防ぐことができます。

賃貸借契約書を自分で作るメリットとデメリット(リスク)

賃貸借契約書を自分で作ることには、どんなメリットとデメリット(リスク)があるのでしょうか。それぞれ3つずつ列挙してみました。自分で作ることを検討されている方は、この両方を精査してご判断ください。

賃貸借契約書を自分で作るメリット3つ

賃貸借契約書を自分で作ると、以下の3つのメリットが考えられます。

・賃貸契借約書を自分で作るメリット1:コストの節約
賃貸借契約書を自分で作るオーナーはおそらく、賃貸管理全体を自主管理にしていることでしょう。管理会社に支払う管理費は家賃の5%~10%程度が目安といわれているので、自主管理であればその分がまるまる節約になります。1戸あたり、1か月あたりの節約分はそれほど大きくないかもしれませんが、管理する戸数が多くなり、自主管理の期間が長くなると節約効果はどんどん大きくなります。

・賃貸借契約書を自分で作るメリット2:契約内容を自分で理解しやすい
日本人はあまり契約書の内容についてシビアになることが少ない国民性のため、既存の契約書があればその内容にあまり細かい関心を持たない人が多いと思います。しかし、契約書を自分で作るとなると話は別です。記載内容を間違えることで自分が不利になるかもしれないと思えばおのずと関心は高くなり、契約内容を自分で理解しやすくなります。

・賃貸借契約書を自分で作るメリット3:賃貸オーナーとしての経験値が高まる
契約内容を理解することは、オーナーにとっては有益です。契約違反があればすぐにそれを察知することができますし、常に自分が不利にならない立ち振る舞いをできるようになります。こうしたことは賃貸オーナーとしての経験値を高め、今後さらに管理戸数を増やして事業規模を拡大していくのにあたって大いに役立つスキルとなります。

賃貸借契約書を自分で作るデメリット(リスク)3つ

メリットの次に、契約書を自分で作ることによる3つのデメリットとリスクについて解説します。

・賃貸借契約書を自分で作るデメリット1:手間がかかる
ここまで賃貸借契約書を自分で作る方法を解説してきましたが、その印象はいかがでしょうか。「手間がかかる」「難しそうだ」など、方法を知ったものの自分には無理なのではないかという不安をお持ちの方も多いのではないかと思います。難しさを感じないとしても、やはり賃貸借契約書を自分で作るとなると手間がかかるのは避けられないデメリットです。

・賃貸借契約書を自分で作るデメリット2:ミスによって不利になるリスク
法的な効力を持った書類だけに、記載内容にミスがあったり漏れがあると、オーナーにとって不利な契約になってしまうリスクがあります。しかも自主管理の場合はその契約書を精査してくれる専門家がいないため、ミスに気づかないまま契約が成立してしまう恐れがあります。

・賃貸借契約書を自分で作るデメリット3:漏れによるトラブルの可能性
契約書で明記しておくべきことが明記されていないまま契約が成立すると、何か問題が起きたときにその責任の所在や解決方法が記載されていないため、交渉で解決するしかありません。契約書に記載があればそれを根拠とすることができますが、根拠がない交渉はトラブルに発展する可能性が高く、これも契約書を自分で作ることによって考えられるリスクです。

つまるところ、ミスなく、意図通りに作成できるかどうかが、賃貸借契約書を自分で作成する際のポイントとなるといえるでしょう。

ひな型(テンプレート)から簡単に賃貸借契約書を作る方法

賃貸借契約書を自分でゼロベースから作るのは、確かに難しいでしょう。ミスや漏れの原因になりますし、プロでなければ膨大な手間と時間を要するかもしれません。賃貸借契約書の書面はどの賃貸借契約であってもそれほど大差はないので、ある程度出来上がっているひな型を利用するのが安心で確実です。

ここでは信頼できるひな型をご紹介します。

国土交通省の「賃貸住宅標準契約書」を確認しよう

国土交通省が作成し、公開している「賃貸住宅標準契約書」があります。日本全国で取り交わされている賃貸借契約書の多くがこの標準契約書をもとに作成されており、最も信頼できる基準と見なすことができます。

この「賃貸住宅標準契約書」には、家賃債務保証業者型(保証会社が連帯保証をする場合)と、連帯保証人型(個人が連帯保証人になる場合)の2種類があります。用途に応じて国土交通省のホームページからダウンロードできるので、ぜひご活用ください。

なお、お手本として使えるPDF版と、編集してそのまま契約書として使えるWord版の2種類があります。

▽国土交通省の公開する賃貸住宅標準契約書

【出典】国土交通省『賃貸住宅標準契約書』について

インターネットから手に入る賃貸借契約書のひな型

国土交通省以外にも、インターネット上で賃貸借契約書のひな型が配布されています。以下のサービスから、ひな型のデータをダウンロードし、必要箇所を編集することで賃貸借契約書として用いることができます。

・「賃貸契約書・賃貸借契約書」の書式テンプレート(bizocean)
・建物賃貸借契約書(一般社団法人日本民事紛争等和解仲介機構)
・賃貸借契約書テンプレート(経費削減実行委員会)

これらのほかにも多くのテンプレートが配布されていますが、基本的にどの契約書も国土交通省の標準契約書に準拠した内容になっているため、確実性を高めるのであれば国土交通省のひな型を利用するのが望ましいでしょう。

賃貸借契約書を自分で作る場合のTIPS

最後に、賃貸借契約書を自分で作る場合のTIPSとして、3つの注意点にも触れておきたいと思います。

賃貸借契約書は3部用意する

賃貸借契約書を自分で作る場合であってもひな型を利用する場合であっても、契約書自体は3部用意しましょう。1部は貸主(オーナー)、もう1部は借主(入居者)、そしてもう1部は保証人が保有します。それぞれの書面に効力を持たせるために、3部すべてに署名と捺印、割印をします。

ひな型を使う場合であっても内容を熟読する

当記事では契約書作成の省力化と確実性のためにひな型の利用をおすすめしていますが、だからといってひな型の読まず、内容を把握もしていないのは問題です。契約書は双方の合意事項を書面化したものなので、自分が作ったわけではないひな型による契約書であっても、そこに署名と捺印をした時点ですべての内容に合意したことになります。

あとから「知らない」「読んでいない」と抗弁をしてもそれは通用しないので、ひな型を編集して賃貸借契約書を作る場合であっても内容はしっかりと熟読し、そのうえで契約を締結するようにしてください。

紛失に備えてスキャンデータやコピーを取っておく

取り交わした契約書はオーナーも1部保有することになりますが、その契約書はコピーを取るか、スキャンデータとして保存するなどバックアップを保管するようにしましょう。

賃貸借契約は長期にわたるため、契約書を紛失したり汚損する可能性は少なからずあります。契約書自体がなくなってしまう事態に備えて、そこに何が書かれていたのかをいつでも読み返せるようにするためのバックアップです。契約書がなくても契約内容を把握していればトラブルになっても対応可能なので、できれば紙だけでなくスキャンデータなどデジタルデータとしても保管しておくのが望ましいです。

賃貸借契約書の自作は、ひな型をベースに、正確な内容理解が条件となる

自主管理派オーナーにとって大きなハードルとなる賃貸借契約書を自分で作る方法について解説してきました。記事中でご紹介したひな型を使った方法であれば、自分にもできるのではないかと手応えを感じていただけたのではないでしょうか。ひな型を使うと比較的簡単に賃貸借契約書を自分で作ることができますが、それでも内容を熟読してご自身もしっかり理解するようにしてください。

それに加えて、入居者にもその内容を十分に説明しましょう。管理会社が入っているのであれば説明も管理会社の仕事ですが、自主管理の場合はオーナー自らが説明することになります。契約を締結する際には金銭に関わる部分や契約期間、契約解除について、特記事項など特に重要な部分は口頭での説明も加えることで万全を期して臨みましょう。

【コラム】賃貸借契約は電子契約でも可能?

賃貸借契約は電子契約で締結しても有効となります。電子契約であれば、紙の印刷や郵送も必要なく、手間や費用が節約できます。

さらに、「Owner WEB」なら、賃貸借契約書をフォーム入力で簡単に作成し、そのまま電子契約で契約を行うことが可能です。保証契約とまとめて締結することができ、入居後も安心して賃貸経営を行うことができます。

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