賃貸物件の空室問題で有効とされているのが「フリーレント」です。フリーレントで家賃を一定期間無料にすることで、早めに入居者が見つかる可能性があります。この記事では賃貸物件でフリーレントを活用するメリットについて解説しますので、特に空室問題に関してお悩みの大家さんはぜひ参考にしてみてください。
【著者】矢口 美加子
オーナーのための家賃保証
「家主ダイレクト」
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目次
フリーレントとは、賃貸物件の家賃が一定期間無料になる契約のことです。フリーは無料、レントは賃貸料という意味を表しています。賃貸借契約書に記載されている契約条項を守ることで、定められた期間の家賃が無料になるという仕組みです。
一定期間といっても、2週間程度のケースもあれば、1~3カ月無料の場合もあるなど、賃貸物件により違いがあります。無料になるのは家賃だけで、管理費や共益費は支払うのが一般的です。
所有物件の空室がなかなか解消しない場合、フリーレントを取り入れると入居者が入る可能性が高まります。本章では、フリーレントが空室対策に効果的とされる理由について解説します。
フリーレント契約を結ぶ際、短期間の入居では入居者に違約金などのペナルティが課せられます。フリーレント期間が終了後にすぐに解約されては、大家さんにとって利益がないからです。契約するときには担当者から事前に説明を受けるため、長期で入居する予定の人が契約する傾向があります。一定期間の家賃は入りませんが、長く住んでくれる入居者を集めやすいため、フリーレントは空室対策に効果的であると考えられています。
周辺の類似物件と差別化を図る効果もあります。たとえばワンルームマンションの場合、同じような間取りや設備が多く、立地以外はそれほど大きな違いがありません。このようなときにフリーレント付きの物件があると、入居者からすれば初期費用を抑えられることから、他の物件よりも魅力的に映る可能性があります。家賃の値下げをしなくても同じエリアの他物件と戦えるのが良い点です。
フリーレントは一定期間の家賃が無料になるため、入居時にかかる初期費用を抑えられます。入居時に前家賃として家賃1カ月分がかかる場合、1カ月のフリーレントがつけば家賃分が浮くことになりますので、入居者の負担が軽くなります。
入居者は賃貸借契約が成立したら仲介手数料を不動産会社に支払ううえ、新居に移るときは引っ越し代もかかりますから、何かと出費が多くなります。フリーレントがあることで数万円の費用を安くできると分かれば、入居者が入居を決めるきっかけの1つになります。
大家さんが所有する賃貸物件にフリーレントを導入すると、家賃の値下げをしなくても良いなどのメリットがある一方で、家賃収益が減少するリスクやデメリットもあります。本章では、大家さんへ向けたメリットとデメリットを解説します。
フリーレントの主なメリットとして以下3点があります。
物件は築年数とともに劣化するため、新築時と同じ家賃設定では入居者がなかなか決まらないことが少なくありません。近くに新築物件ができると、家賃を値下げしなければ空室期間が長引くこともあります。しかし、フリーレントをつければ入居者が初期費用を安くできるため、家賃を値下げしなくても入居が決まる可能性があります。
また、「フリーレント付き物件」として他の物件との差別化を図れるため、入居者が見つかりやすくなるのもメリットです。特に学生や単身者などが利用するワンルーム物件では大きな魅力となります。
加えて、物件の資産価値を維持しやすい点もあります。たとえば、家賃を1万円下げて新たに募集した場合、既に居住中の入居者から同じ金額の値下げを要求されるケースがあります。要求されるまま実行してしまうと、家賃収益全体が減収となります。フリーレントならば一時的に家賃が入らないだけで済むため、他の入居者に配慮することなく従来の賃貸経営を継続できます。
一方、フリーレントのデメリットとして以下3点が挙げられます。
フリーレント期間は家賃収入がないため、フリーレントを何回も行うと家賃収益が減少することになります。フリーレント期間が長いほど収益が下がるため、慎重に考えてから実行する必要があります。
また、フリーレントは一定期間の家賃を無料にする制度ため、短期間で解約されてしまえば大家側が損をしてしまいます。そのため、短期間での退去については違約金を設定することが一般的です。ただし、転勤や介護といったやむを得ない事情の場合でも請求することが一般的であるため、違約金をめぐって入居者とトラブルに発展する可能性があります。
フリーレントがついたことで初期費用は抑えられても、家賃と貸室の価値が見合っていないと入居者に判断された場合は、入居者が契約更新をしないで退去する場合もあります。
フリーレント期間の会計処理について気になる大家さんもいるでしょう。フリーレント期間の会計処理には、フリーレント期間の家賃収入はないので記帳をしないやり方と、賃料の総額を、フリーレント期間を含む賃貸借期間で按分して処理するやり方があります。それぞれ説明します。
フリーレント期間中は家賃収入が入らないため、帳簿には記載しないのが一般的です。そのため、フリーレント期間が終了してからの家賃収入を不動産所得として計上します。
以下の条件でシミュレーションしてみましょう。
【仕訳】
・フリーレント期間中は仕訳なし
・フリーレント期間終了後
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
地代家賃 | 80,000 | 現預金 | 80,000 |
フリーレント期間中は計上しないやり方は、次に紹介するやり方よりも簡単に処理できるため、計上しない方式を採用するのが一般的です。
中途解約に関する特約が賃貸契約で記載されている場合は、賃料総額を賃貸期間で分割して計上する方法が使われ、処理方法がやや複雑になります。以下の条件でシミュレーションしてみましょう。
【仕訳】
・フリーレント期間中
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
地代家賃 | 70,000 | 未払金 | 70,000 |
・フリーレント期間終了後
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
地代家賃 未払金 |
70,000 10,000 |
現預金 | 80,000 |
フリーレント物件で中途解約ができない契約の場合は、賃貸借契約を結んだ時点で賃貸借期間の家賃収入の合計金額が確定しているとみなされます。したがって、家賃収入の合計金額をフリーレント期間も含めた賃貸期間で按分して処理するのが通例の処理方法です。
フリーレントを上手に活用することによって、賃貸経営における収益を改善できる可能性があります。ここでは、フリーレントの効果を高めやすいケースについて解説します。
空室期間が長い物件では、比較的フリーレントの効果を高めやすいといえます。空室ということは家賃収入がゼロということですから、早めに対策を立てることが必要です。たとえば家賃が6万円のアパート1室の空室期間が8カ月に及んだ場合、損失額は48万円です。物件を維持するには固定資産税や火災保険料などの支出があるため、家賃収入が入らなければ赤字になってしまいます。
フリーレントをつけることで入居者は初期費用の負担が軽くなるため、入居しやすくなります。万が一すぐに退去してしまう場合は違約金を請求できるので、空室をそのまま放置しておくよりもメリットがあるといえます。
新築物件は資産価値が高いため、比較的家賃を高めに設定しても集客できる可能性があります。そこにフリーレントを付けることで、お得なイメージを与えることが可能です。もちろん周辺の類似物件との家賃相場を考慮することも大切ですが、部屋の中や設備が新しく綺麗であるなど、新築ならではの付加価値を活かせます。
フリーレントを付けるとしても、最初に高めの家賃で設定しておけば、次の更新時もそれほど家賃を下げずに契約できる可能性が高まります。
フリーレントを導入するときは、以下の点に注意しながら実施することが必要です。
フリーレント期間中の家賃収入はゼロのため、長期間で設定してしまうと家賃収入の減益へとつながります。通常、フリーレント期間は1カ月程度に設定されるのがほとんどですが、物件の条件によりさらに長く設ける場合もあり、大家さんとしては設定期間の見極めが必要であるといえます。
フリーレントを導入するタイミングも重要です。フリーレントをすぐに付けなくても入居が決まる場合もあるため、空室が長引きそうなタイミングで実行するようにしましょう。
さらに、フリーレント契約による短期解約には、違約金などのペナルティが付きものです。入居者と揉めないために契約書には短期解約のペナルティを明記し、口頭でも説明することを忘れないようにします。また、共益や管理費はフリーレントの対象外であり支払いが必要となるため、契約の時点で伝えるだけでなく、契約書にも記載するようにします。
空室が発生すると家賃が入らなくなるため、大家さんが得られる収益は少なくなってしまいます。賃貸経営には税金や保険料などといったランニングコストがかかるため、家賃が入らないと赤字経営になることもあります。
フリーレントを利用すれば、家賃を下げなくても入居者が入りやすくなるのがメリットです。一定期間にわたり家賃収入が入りませんが、長期的に入居する借主と契約できる可能性が高いため、長い目で見れば賃貸経営にプラスとなります。フリーレントを上手に活用して収益性の高い賃貸経営を目指しましょう。
宅地建物取引士、整理収納アドバイザー1級、福祉住環境コーディネーター2級の資格を保有。家族が所有する賃貸物件の契約や更新業務を担当。不動産ライターとしてハウスメーカー、不動産会社など上場企業の案件を中心に活動中。