2024.05.01
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明け渡し訴訟とは?手順・流れから弁護士費用まで詳しく解説

不動産経営中の物件に長期にわたり家賃を滞納している入居者がいる場合など、問題のある入居者に対して明渡訴訟を検討すべき事例が生じることがあります。この記事では、明渡訴訟に関する基本的な内容と、手順・流れ・弁護士費用等について解説します。ぜひ参考にしてみてください。

【著者】水沢 ひろみ

 

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明け渡し訴訟とは?

問題のある入居者を立ち退かせるための方法に、明渡訴訟があります。本章では明渡訴訟の基本的な内容について説明しますので、家賃の滞納や契約違反行為等、入居者による問題行動が生じた時に備えて、概要を理解しておきましょう。

明け渡し訴訟の概要

家賃を長期間に渡って滞納している、他の入居者へ影響が出るほどの迷惑行為があるなど、賃貸物件から立ち退いて欲しい入居者を強制的に退去させるための訴訟を明渡訴訟といいます。

明渡訴訟を提起すると、裁判所が賃貸物件のオーナーと入居者の両方の主張を基に、入居者を強制的に退去させることが妥当といえるかの判断を下します。ただし、明渡訴訟を提起しても、その経過において裁判所から和解を勧告されることがあり、両当事者が和解内容に納得できれば和解が成立するケースもあります。

また、明渡判決が得られたとしても、オーナー自身が入居者を強制的に立ち退かせることは認められていません。明渡判決が得られた後も入居者が物件に居座って立ち退かないような場合には、強制執行という手続きをとって退去させる必要があります。

まずは任意交渉で円満解決を目指す

明渡訴訟を提起すれば問題が確認できるとしても、いきなり明渡訴訟を提起するのではなく、まずは任意交渉から始めて円満解決を図ることが望ましいとされています。たとえば家賃滞納の場合、まず電話や書面等で支払いの督促をし、それでも支払いがなされない場合には内容証明郵便を送るという流れで進めます。

内容証明郵便を利用すると郵送した内容や日付の記録が残ることから、相手方に内容を伝えた事実を証拠として残すことが可能です。内容証明郵便を送る際には、家賃の滞納額や支払期日を明記し、記載した期日までに支払いがなされなければ賃貸借契約は解除する、という旨を記載することが必要です。

内容証明郵便を送ることで「入居者に対して、滞納している家賃の請求をきちんと行っていた」という証拠を残すことになるため、その後の手続きを円滑に進めるうえでも内容証明郵便を送ることは大切です。

明け渡し訴訟を検討したいケース

オーナーが部屋の明渡訴訟をするには、オーナーと入居者との間で「信頼関係が破壊された」と認められる事情があり、契約の解除が可能であることが必要です。どのような場合に当事者間の信頼関係が破壊されたと考えられるのか、以下の3パターンで見ていきましょう。

家賃を長期間に渡って滞納されている

明渡訴訟を検討したいケースとして、家賃を長期間に渡って滞納されている場合があげられます。

賃貸借契約は、お金の貸し借りなどのような一般的な契約とは異なり、オーナーと入居者との間の長期にわたる信頼関係に基づく契約であると考えられています。また、生活の本拠となる部屋の賃貸借契約をオーナー側から簡単に解除できるとなったら、入居者にとって酷な結果をもたらす可能性が高くなるため、入居者の保護という視点も重視されています。

それらの点から、部屋の賃貸借契約を解除するためには、入居者に賃貸借契約の継続が著しく困難となる背信的行為があり、「入居者とオーナーの間の信頼関係が破壊されている」と判断できることが条件と考えられています。

どの程度の事情があれば「信頼関係の破壊」となるのかは、賃料滞納の期間や金額、滞納の理由等を総合的に勘案して個別的に判断されることになります。一般的には1カ月程度の滞納で解除が認められる例はないものの、裁判所の判断では3カ月程度の滞納が解除においての1つの基準とされています。

以上のことから、明渡訴訟を検討する際には、入居者が正当な理由もなく家賃を3カ月以上滞納している場合が1つの基準になるといえます。

迷惑行為があり他の入居者へ影響が出ている

騒音や異臭などの迷惑行為があり、ほかの入居者へ影響が出ている場合にも、契約の解除が可能と考えられています。

民法によると、「建物の賃借人は、契約や通常考えられる用法に従って建物を使用収益する義務がある」とされています(民法第594条、同法第616条)。つまり、賃貸物件の入居者は、通常考えられる用法に従って、ほかの入居者等に迷惑をかけることなく、平穏に日常生活を送ることが当然であるとされます。

そのため、入居者が迷惑行為を行い、再三にわたって注意しているにも関わらず迷惑行為が止まない場合には、オーナーは入居者の用法に従った使用収益に対する義務違反を理由として、契約を解除することができると考えられているのです。

契約解除が可能と考えられる迷惑行為の程度としては、日常生活上の受忍限度を超えるか否かが判断の目安です。騒音を例にすると、普通に生活していて生じる生活音程度であれば当然入居者同士の受忍限度の範囲内である考えられます。ところが、騒音の程度がはなはだしく、時間帯や頻度等を勘案してほかの入居者の生活に支障が生じるレベルであれば、受忍限度を超えると判断して契約解除の対象となることがあります。

賃貸契約にあたっては、迷惑行為があった際には契約を解除できるという特約が付されるケースもあります。しかしこのような特約の有無にかかわらず、入居者の行為が受忍限度を超えていると判断できる場合には、オーナーとその入居者との間の信頼関係は破壊されたとして、オーナーは入居者に対する催告をすることなく契約解除は可能と考えられています。

契約違反があるものの改善されない

契約違反があるものの、たびたび注意しても改善されないという場合も、契約の解除を検討すべきケースの1つです。先ほども述べたように、建物の賃借人は契約に従って建物を使用収益する義務があるとされているため、契約違反の程度が著しい時には契約解除が可能だと考えられます(民法第594条、同法第616条)。

  • ペット飼育禁止物件にもかかわらずペットの飼育をしている
  • オーナーに無断で部屋のリフォームをしている
  • 現実に入居している人数が契約した人数をオーバーしている
  • 居住用の物件を事務所等の他の目的で使用している
  •  
    たとえば、上記のようなケースが考えられます。ただし、裁判になった際には、背信行為と認めるに足らない特別の事情があるとされる場合には、解除の対象とならない可能性もあります。この場合にも、契約違反の程度がオーナーと入居者の信頼関係を破壊したといえる程度であるかが判断の基準とされています。

    明け渡し訴訟の流れ

    改めて、明け渡し訴訟の流れを整理してお伝えします。

    賃貸借契約の解除

    家賃の滞納や迷惑行為などがあり、口頭や書面等で改善を促しても効果がない時には、内容証明郵便を送付します。それでも問題行動が改善されなければ、賃貸借契約を解除する旨を伝えます。入居者の問題行動が改善されない場合には、信頼関係が破壊されたこと等を理由として賃貸借契約の解除が可能となります。

    裁判所へ明け渡し訴訟の提起

    賃貸借契約を解除したものの、入居者が明渡請求に応じず自主的に退去しようとしない場合には、オーナーは明渡訴訟を提起します。もしも入居者が裁判に出席することなく、何ら対応しない場合には、オーナーの明渡請求の主張がそのまま認められることになります。

    明け渡し訴訟の必要書類

    明渡訴訟の際に必要となる書類は以下の通りです。

    訴状
    不動産登記事項証明書(登記簿謄本)
    固定資産評価額証明書
    代表者事項証明書(原告または被告が法人の場合)
    予納郵便切手(約6,000円)
    収入印紙(手数料として訴額に応じて納付)
    最低限必要と考えられる証拠書類
    賃貸借契約書
    賃貸借契約解除の通知をした内容証明郵便
    内容証明郵便に関する配達証明書

     

    判決

    裁判所へ明渡訴訟を提起し、裁判所がオーナーの請求を認めれば、入居者に建物を明け渡すことを命じる判決が出されます。しかし、明け渡しを命じる判決が出された後、入居者が自ら退去しない場合に、オーナーが勝手に入居者の持ち物を運び出したり鍵を交換して入居者が立ち入れないようにしたりすることは許されていません。入居者が居座り続けるような場合には、以下のように強制執行という手続きによって部屋から立ち退かせる方法を検討します。

    強制執行

    強制執行とは、法律上の義務を履行する責任を負う者が自ら責任を果たさない場合に、強制的に義務の履行を実現させる手続きのことを指します。賃貸借契約の場合は、部屋の借主がオーナーの建物明渡請求に従わない場合に、強制的に立ち退かせる手続きのことです。

    具体的には、執行官と呼ばれる裁判所の職員が室内の残置物を運び出し、部屋の鍵を交換し、強制的に入居者を部屋から退去させます。入居者が不在であったり、鍵を開けずに閉じこもったりしていても、強制的に開錠して執行され、運び出した残置物は倉庫で保管されます

    オーナーは弁護士への依頼を検討しよう

    入居者に問題がある場合に、賃貸物件のオーナーが自ら明渡訴訟を提起することは可能です。ただし、明渡訴訟を提起するためには法律に関する専門的な知識が必要になりますし、訴訟が長期に及べばその間に新たな入居者へ部屋を貸し出すことができず、機会損失につながるリスクもあります。

    専門的知識を有する弁護士に依頼すれば、円滑な訴訟手続きが可能となり、入居者と直接やりとりする必要もなくなるため、その間の労力もかかりません。賃貸物件のオーナーが明渡訴訟の提起を考えているのであれば、弁護士へ依頼することをおすすめします。

    明け渡し訴訟の弁護士費用について

    明渡訴訟を弁護士に依頼するにはどれくらいの費用がかかるのか、実際の法律事務所の料金を調べたものを以下にまとめます。明渡訴訟を依頼するかどうか相談するための相談料として、1時間につき5千円~1万円の相談料をとる事務所が多いです。以下の料金の中に含めて一律としている法律事務所や、初回は無料相談という事務所もあります。

    法律事務所 着手金 成功報酬
    A法律事務所 一律34万円(税込37万4000円)
    B法律事務所 35万円 55万円
    C法律事務所 44万円 60万円
    D法律事務所 38万円 22万円(事実関係に争いがない場合)
    38万円 66万円(事実関係に争いがある場合)

     
    このほか、強制執行が必要になった時の弁護士費用として、法律事務所により開きがあるものの、10万円~60万円ほどが必要です。また、これらの弁護士費用以外に、訴額に応じて納付する収入印紙代、強制執行の予納金、交通費等の実費が必要となります。

    なお、強制執行を行う際には、部屋の中にある入居者の荷物を運び出すために執行補助者として民間の業者を手配しなくてはなりません。入居者の荷物の量にもよりますが、ワンルームだと20万円前後、ファミリー用の間取りだと60万円前後になることが一般的です。

    これらを総合すると、明渡訴訟を提起して強制執行で入居者に立ち退いてもらうまでには、100万円~200万円ほどの費用が必要になると考えられるでしょう。

    家賃滞納が生じたら明け渡し訴訟を適切なタイミングで検討しよう

    明渡訴訟を提起して強制執行により部屋の明け渡しが完了するまでには、多額の費用と時間、労力が必要になります。本来であれば、これらの費用は入居者が負担すべきものといえますが、長期にわたって家賃を滞納しているような入居者であれば、そもそも支払い能力があることは期待できないでしょう。法的な手続き費用等を保証してくれる保証会社を利用していないオーナーの場合には、全額自己負担になる可能性は多くなります。

    また、家賃を滞納されてから無事に明け渡しが完了して次の入居者が入居できるようになるまで、場合によっては1年以上も家賃の入金が滞る可能性があります。そう考えると、家賃滞納に対する対策や、法的な手続きに対する知識、備えの大切さが実感できるのではないでしょうか。普段から長期の家賃滞納が生じないように気を配り、問題のある入居者に対しては適切なタイミングで明渡訴訟を行う等、適切な対処をすることをおすすめします。

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