不動産経営を始めるにあたって、賃貸物件でクレームが発生した時の対応などに不安を感じて二の足を踏んでいる人は少なくないでしょう。この記事では、賃貸物件のクレーム事例と、大家さんが知っておくべき対策をお伝えします。
賃貸物件ではどのようなクレームが多く発生するのか、オーナーとしてどういった対策が望ましいのかを理解することで、賃貸管理の適切なクレーム対応方法を身につけて、不動産経営の成功への一歩を踏み出してみてください。
【著者】水沢 ひろみ
オーナーのための家賃保証
「家主ダイレクト」
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目次
賃貸物件では入居者からのさまざまなクレームが頻繁に発生しますので、賃貸物件のオーナーは「入居者からのクレームの対応は重要な業務のひとつ」という覚悟をもつことが大切です。クレームをそのままにしていると、状況がますます悪化して回復のための手間や費用が増えてしまうことがありますし、最悪の事態として入居者に退去されてしまう可能性もあります。
また、賃貸物件のオーナーには、法的にも「物件を使用収益」させる義務があります。クレームの放置は不法行為に等しいということになってしまいますので、場合によっては賃料の減額が必要になるケースが生じるかもしれません。これらの内容から、賃貸物件の大家さんは、できるだけ早めにクレーム対応をすることが大切です。
本章では、賃貸住宅において比較的多く発生するクレームの中から、代表的な6つのクレームを紹介します。それぞれの内容に対し、どういう対処ができるかについてもお伝えしますので、各クレームの性質を理解して、賃貸住宅のオーナーとして適切な対応を行いましょう。
騒音に関するクレームは、賃貸住宅においては比較的多く発生するクレームのひとつですが、解決が難しいクレームでもあります。
騒音の感じかたは個人差が大きく、他の人であれば気にならない程度の音でも、騒音として苦痛を感じる人がいます。一般的には自分が出している音の大きさには鈍感になる傾向がありますから、その大きさが騒音といえるレベルであることに気が付かない人は多いです。
また、アパートやマンションなどの集合住宅では、内部の構造上、音が配管を伝わって離れた部屋にまで届くことがあります。そのため、すぐ近くで響いていると思っていた音が、実は思いもよらない所から発生していたというケースもあり、騒音の発生源を突き止めるのは簡単ではない場合があります。
入居者が最終的に騒音のクレームを伝えるまで、長い間すでに我慢をしており、限界を感じている状態に近いことが多いため、その後の対応の仕方によっては感情的なトラブルに発展する可能性が高くなります。問題がこじれて入居者同士のトラブルにまで発展してしまえば、部屋を退去する人が出てくる可能性もありますので、賃貸住宅のオーナーとしてはできるかぎり慎重な対応が必要となるでしょう。
騒音のクレームが発生した時の対処としては、以下を参考にしてください。
①できるだけ正確に客観的な現状を把握する(一方の言い分だけで判断しない)
②エントランスの掲示板に張り紙をするなど、相手方を特定せずに注意を促す
③騒音が収まらない時には、騒音の発生主と推測できる相手に直接伝える
④騒音の被害を訴えている入居者に対応状況について報告し、入居者からその後の経過を確認する
⑤改善が見られない時には、場合によっては騒音の発生主を強制的に退去させることも検討する
悪臭がクレームの原因となることがあり、主には、生ごみの臭い、ペットの臭い、タバコの臭い、飲食店・酪農・工場など周辺環境からの臭いなどが代表的です。
悪臭に関しても、騒音と同様に感じかたには個人差がありますので対応には難しい面もありますが、一定の受忍限度を超える悪臭に長期間さらされることは、心身の健康にも影響を与えかねません。生活する上で不快を感じる悪臭が確認できる場合には、退去者が出る前に対応する必要があるでしょう。
悪臭のクレームが発生した時の対処としては、以下のような流れが考えられます。
①悪臭の程度を客観的に確認する
②エントランスの掲示板に張り紙をするなど、相手方を特定しない形で注意喚起する
③悪臭が収まらない時には、悪臭の発生主と推測できる相手に直接伝える
④改善が見られない時には、管理規約や賃貸契約に基づいて立入調査を行い、悪臭の原因を突き止めて改善を促す
⑤それでも改善されず悪質な場合には、強制退去の勧告をする
悪臭の原因が工場や事業場などの周辺環境からの臭いである場合には、市役所や町村役場の環境課に相談してみることをおすすめします。「悪臭防止法」や「悪臭に関する法令や条例」などに基づいて対応してもらえる可能性があります。
ゴミ出しのルールが守られていないと、カラスや野良猫などによってゴミが荒らされ悪臭の原因にもなり、周辺の衛生状態が悪化してしまいます。ゴミ出しのルール違反は放置するとますますエスカレートする傾向がある上に、入居者だけではなく近隣の住民からの苦情にも発展する可能性がありますので、早急に対応しなくてはなりません。
ゴミ出しに関して生じるクレームには、具体的には以下のような原因が考えられます。
このようなゴミ出しのクレームが発生した時の対処としては、次のような流れで対応をします。
そのほかにも、普段からゴミ集積所の周りを清潔に保ち、入居者に対してゴミ出しに関するルールを周知しておくなど、心理的にルール違反を起こしづらい環境を整えておくこともとても大切です。
ほかの物件との差別化を図り、入居率アップを狙うために、入居条件をペット可とすることは空室対策のひとつとして有効です。ただしその際には、入居条件をペット可とすることで、ペットのクレームが発生するリスクも十分理解しておく必要があります。
ペットに関して寄せられる代表的なクレームとしては、
などがあります。これらのクレームを予防するには、
など、賃貸契約書にペット飼育に関する事項を詳細に取り決めて、入居時点で入居者の同意を得ておくことをおすすめします。それにもかかわらずルールが守られていないような場合には、エントランスの掲示板などで注意を促した上で、個別に対応し、改善されなければ退去勧告をすることも必要になります。
なお、ペット不可の物件であるにも関わらずペットを飼っているようなケースでは、契約内容を再度説明して、ペットの飼育を辞めるか退去してもらうかを勧告する必要があるでしょう。
賃貸経営において意外と多く発生し、発生した際の被害が大きくなる可能性があるのが、水漏れのクレームです。
水漏れのクレームの原因は、
などがあります。
水漏れの原因となった部屋だけでなく下の階にまで被害が及ぶケースもありますので、水漏れが発生した際には専門の修理業者を手配するなど、被害が拡大する前にできる限り早急に対応しなくてはなりません。
また、その際に問題となるのが、修理や損害賠償などの費用負担についてです。水漏れの原因が経年劣化など入居者の過失と関係ない場合にはオーナーが負担し、入居者側の過失が原因である場合には入居者が負担することになるのが原則です。
しかし現実には、水漏れの原因が経年劣化などに起因するのか、入居者の不適切な使用法に起因するのか、判別が難しいケースもあります。このように水漏れの原因が特定できない場合には、オーナーの費用負担で修理した後に詳しく原因の調査を行い、当事者で費用負担について話し合う必要があります。被害の状況によっては水で濡れた家財などに対する損害賠償の問題も生じてきますので、水漏れが発生した時の状況を写真などで残しておくことをおすすめします。
なお、オーナーが加入している火災保険の契約内容によっては、水漏れによる被害の修理費用は火災保険の補償対象になる可能性があります。水漏れ事故の修理費用がオーナー負担となる場合には、保険会社に連絡して確認してみましょう。
修理費用が入居者負担となる場合には、入居者の加入している火災保険の内容によって補償対象となるかが決まり、補償対象とならない場合には入居者自身が負担することになります。ただし水漏れの被害が大きく、下の部屋にまで損害が発生してしまった際には、火災保険の補償範囲ではなく個人賠償責任保険の範疇となります。入居者が個人賠償責任保険に加入していれば保険で補償されますが、そうでない場合には入所者が負担する必要があります。
エアコン・浴室乾燥機・食器洗い乾燥機など、備え付け設備が動かないといった設備不良に関するクレームもしばしば発生します。
設備不良に関するクレームは、
によって誰が修理費用を負担するかが異なるので、確認が重要です。
はじめから備え付けられていた設備であれば、入居者の使用法に問題があったなど、入居者側に過失がある場合を除いては、オーナーが費用を負担して修理するのが一般的です。
ただし、はじめから備え付けられていた設備であっても、以前の入居者が備え付けたまま置いて行った設備をそのまま使用しているようなケースでは、故障の際の責任の所在があいまいです。後のトラブルを防ぐためには、賃貸契約を結ぶ際にどこまでがオーナーの責任で取り付けた設備であるのかを明らかにして、故障した際に責任の範囲はどうなるのかについて同意を得ておくことが大事です。
前章で挙げたようなクレーム全般に共通して、クレーム発生時に大切なポイントとして大きく3点があります。いざクレームが発生した時に慌てないように、しっかり心に留めておいてください。
入居者からのクレームが発生した時には、緊急性があるかどうかを最初に判断しなくてはなりません。特に電気・ガス・水道などのインフラ系は、とにかく早く対応する必要があります。入居者の生活に即座に支障が出るだけでなく、水漏れ被害など、さらに被害が拡大するケースもあるからです。
専門の修理業者の連絡先を手元に用意しておくなど、いつ何が起こっても即座に対応できるように、日頃から準備しておくことをおすすめします。被害を最小限に抑えるためには、初動が肝心となることを忘れないでください。
ただし、クレームの原因が入居者所有の設備である場合には、入居者の責任で解決すべき問題ですのでオーナーが対応する必要はありません。必要があれば修理業者を紹介するなどの対応で十分でしょう。
水漏れや設備不良のケースなどのように、クレーム解決のために費用負担が生じる際には、大家と入居者のどちらの負担になるのかを判断しなくてはなりません。
その際の判断基準としては、入居者の原状回復義務に関する考えかたが参考になります。これによると、入居者の故意や過失など、使用法に問題があると考えられる時には修理費用は入居者が負担すべきであり、それ以外は原則としてオーナーが負担することになります。
ただし、費用負担に関して賃貸借契約時に特約が設けられていれば、その特約の内容にしたがって費用負担が決まります。ですから、負担関係があいまいになりやすい項目に関しては、あらかじめ賃貸借契約時に負担すべき範囲と金額を明確に定めておくと、トラブルを避けることができるでしょう。
入居者同士のトラブルは、特に冷静な対応を心がける必要があります。一方の言い分だけを聞いて、すべて真に受けて判断するのは危険です。現状を確認した上で、両者の意見を聞き、冷静に対処することが大切です。
たとえば、「〇号室からクレームがあります」などと特定の部屋番号は出さないなど、入居者同士がお互いの相手に対して悪感情を抱かないように細心の注意を払いましょう。これは、ゴミ出し・悪臭・ペット・騒音といった住人同士でトラブルに発展しやすいもの全般にいえることですが、近隣住人同士のトラブルは深刻な問題に発展しやすい傾向があります。深刻化して退去者が出るような事態は避けるようにしましょう。
賃貸住宅で自主管理を行う大家さんは、本記事で紹介したような多種多様なクレームが寄せられる可能性がありますので、常に備えておく必要があるでしょう。
しかし、副業で賃貸経営を行う大家さんの場合、24時間フルでクレーム対応を受け付けるのは現実的ではありません。とはいえ管理会社にすべて委託するのはコスト面で不安という場合には、家賃保証サービスを利用する方法があります。
たとえば、株式会社Casaが提供する「家主ダイレクト」には、住まいのサポートとして、コールセンターで問合せを一次対応してもらえるサービスが用意されていますので、自主管理を行う大家さんには心強い味方となるはずです。
そのほかにも、水漏れなどの緊急のトラブルが発生した際、24時間駆けつけ対応が可能といったサポートも行っています。さらに家財保険がセットになっているので、入居者が家財保険に未加入というようなリスクを減らすこともできます。入居者募集のサポートや、孤独死保険が付帯しているのも心強いポイントでしょう。
「大家さんの負担はゼロ」で利用できるため、ぜひ自主管理を行う大家さんは検討してみてはいかがでしょうか。
賃貸住宅でよくあるクレーム例と、大家さんが知っておくべき対策についてお伝えしました。対応に当たっては、緊急性の判断と費用負担、慎重な対応が肝心であることを心に刻んでおくことが大切です。
賃貸経営では、クレームの対応は避けては通れません。そのため、クレームが発生した時にどのように対処するのかを事前にシミュレーションしておくことが重要です。解決に向けての自分なりの道筋を準備して、賃貸経営の成功に向けて、一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。
かつて銀行や不動産会社に勤務し、資産運用に携わった経験を活かし、現在は主に金融や不動産関連の記事を執筆中。宅地建物取引主任、証券外務員一種、生命保険募集人、変額保険販売資格など保険関係の資格や、日商簿記1級など、多数の資格を保有し、専門的知識に基づいた記事の執筆とアドバイスを行う。