賃貸経営を行う上では、適切な賃料の設定は非常に重要です。仲介会社などから提示された価格が適正なのかが分からないまま、なんとなく家賃を設定しているという場合、見直しの必要があるかもしれません。
この記事では、賃料査定の種類や査定額を決める流れ、依頼先の見極め方などについて解説します。この記事を参考に、大家として賃料が適正かどうか判断できる知識をつけていきましょう。
【著者】水沢 ひろみ
オーナーのための家賃保証
「家主ダイレクト」
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目次
賃貸物件を貸し出す際に、賃料の目安となる金額を不動産会社がさまざまなデータを用いて算定することを「賃料査定」といいます。不動産会社が査定した賃料は、その賃料で実際に貸し出せることを保証するものではありませんが、賃貸物件のオーナーが具体的な賃料を設定する際の参考として役立ちます。
後ほど詳しく説明しますが、賃料査定には、過去の取引事例など物件に関わる一般的な情報を利用して査定する「机上査定」と、具体的な物件の状況からより詳細に査定する「詳細査定」という方法があり、場面に応じて使い分けられています。
賃貸物件の賃料を設定するにあたって、必ずしも不動産会社の賃料査定を受ける必要はありません。ですが、大切な賃料の設定を慎重に行うためには、信頼できる不動産会社の査定を利用し、キャッシュフローの改善を目指してみることがおすすめです。
賃貸経営においては、賃料の設定が非常に重要となることはいうまでもありません。設定した賃料が相場より高すぎれば、入居者が決まらずに空室が続いてしまうことになります。
しかし、一度賃料を下げると入居者の入居期間中は賃料を上げることは難しくなりますので、その影響は長い期間に及びます。また、現在入居している入居者の賃料から大きく引き下げて入居者の募集を行えば、現在の入居者から賃料引き下げ交渉を受ける可能性も生じるでしょう。
空室期間の長期化は賃貸経営の収益性を大きく損ないますので、できる限り避けたいものです。とはいえ、賃貸不動産を取得するために要した資金や年間の経費以上の収益は最低でも確保しなくてはなりませんので、賃料見直しによって赤字になることも問題です。適切な賃料が設定できなければ、賃貸経営の継続は難しいといえるでしょう。
そこで、次の章では賃料査定の方法などについて詳しく解説していきます。十分な知識を身につけて、適切な賃料の設定に役立ててみてください。
不動産会社が行う賃料査定の方法としては、大きく次の2つに分けられます。それぞれの特徴や査定にあたり必要なものを紹介しますので、賃料査定で不動産会社を訪れる際にはぜひ参考にしてください。
机上査定とは、周辺エリアにおける類似物件の過去の取引事例などを基に賃料の査定を行う方法をさします。実際に現地を訪れることなく、一般的なデータを用いて机上で査定を行うことから、机上査定もしくは簡易査定と呼ばれます。
短時間で多数の査定が可能であるため、おおよその相場を知って、その後の検討課題の参考として利用したいという人には便利です。
机上査定を行う際には、物件の写真や図面、登記簿などの資料があると、より正確な査定が可能になります。不動産会社に依頼する際には、これらの資料を用意しておくとスムーズに査定の依頼ができるでしょう。
詳細査定とは、不動産会社の担当者が実際に現地を訪れて、物件の状態を詳細に調べた上で査定する方法のことです。訪問査定と呼ばれることもあります。
部屋の向きや日当たりの状態、見晴らし、周辺の環境、部屋の内部の設備や劣化の程度など、書類やデータのみでは確認できない細かな情報まで加味して査定が行われますので、机上査定に比べるとより現実的な賃料の査定が可能になります。
詳細査定を依頼する際には、机上査定で必要となる上記の書類に加えて、建築設計に関する書類、重要事項説明書、契約書、管理費・修繕積立金の金額が分かる書類、リフォーム履歴など、さらに詳しい資料を求められることもあります。
これらの結果、より精度の高い査定が行われますので、今後の具体的な資金計画を考えて実際に賃料を設定する際には、詳細査定の結果が非常に参考になるでしょう。
これまでの通り、賃料査定の方法には机上査定と詳細査定があり、それぞれの方法によって査定額の差が生じる可能性がありますが、それ以外にも賃貸借契約の方法による違いから査定額が変わる可能性があります。
そこで本章では、査定額に影響を与える可能性のある「契約方法の特徴の違い」について説明します。
普通借家契約は、部屋の賃貸借契約において一般的に利用されている契約方法です。普通借家契約では、通常1年以上の賃貸借期間を定めて契約し、契約期間経過後も原則として契約の更新が可能とされています。
入居者が契約更新を希望する限りはそれまでと同様の条件で更新され、特別な事情がない限りオーナー側から契約の更新を拒むことはできないものの、オーナー側に契約の更新を拒むことのできる「正当事由」があればその限りではありません。しかし、正当事由があると認められるハードルは高いため、普通借家契約を結ぶ際には基本的に長期間貸し出すことが前提になります。
入居者側からの解約はできますが、その際には解約の数カ月前には予告が必要であったり、一定の金額の支払いが必要となったりするなどについて、事前に契約書で定めておくことが一般的です。
なお、賃貸借期間を1年未満として契約すると、「期間の定めのない契約」とみなされて、入居者とオーナーのどちらからでも、いつでも自由に解約の申し入れが可能となってしまいます。そのため期間は1年以上とする必要がありますが、実際の契約場面において賃貸借期間は2年契約とされることが多いです。
普通借家契約には、オーナーの都合で契約の更新が拒絶されてしまい、賃借人の地位が不利になることを防ぎ、賃借人の保護を行う意図があります。これにより、オーナーには契約の更新拒絶ができないという不利益がある反面、他の契約方法に比べて賃料の設定は高くできるというメリットがあります。
オーナー側の契約の更新拒絶が制限されている普通借家契約に対して、定期借家契約(リロケーション)とは、賃貸借の期間をあらかじめ定めて契約する方法です。定期借家契約は期限が定められていますので延長はできませんが、両者が合意すれば再契約をすることはできます。
契約期間終了後に更新する義務はありませんので、オーナーが貸したいと希望する期間だけ貸し出すことが可能です。契約期間経過後に確実に家を明け渡してもらえる定期借家契約は、転勤などで長期間家を空ける場合にその期間だけ貸し出したいというニーズがある際には便利な方法です。
当然ながら、入居者は契約期間経過後には物件を明け渡さなくてはなりません。定期借家契約の期間が短い場合には、「その期間だけ住めればよい」という希望を持つ入居者を探すのが難しくなります。また、入居者の利用が制限されるぶん、普通借家契約で貸し出す場合と比べると、賃料は安く設定されることが多くなるのはデメリットといえます。
サブリース契約とは、オーナーが不動産会社に対して物件を貸し出す契約を結び、入居者は不動産会社との間で賃貸借契約を結ぶという方法です。サブリース契約を利用することによって、オーナーは部屋の空室期間中も家賃を保証されるため、空室のリスクから解放されます。
また、入居者の募集や賃貸物件の管理業務も不動産会社が行うため、時間に余裕がないオーナーでも負担なく不動産投資を行えるというメリットもあります。
しかし一方で、オーナーが受け取る賃料は、入居者が不動産会社に支払った賃料から10~20%前後の手数料を差し引かれた金額になりますので、収益性の面からは他の契約形態よりも劣ることになります。さらに、サブリース契約を結んでいても契約当初の賃料が長期間保証されるわけではなく、一定期間経過後に保証賃料の見直しが行われるのが一般的です。
そのため、もともと収益率の低い物件の場合には、サブリース契約を利用することでキャッシュフローがマイナスになってしまうケースも考えられます。利用を検討する際には慎重なシミュレーションが必要となるでしょう。
賃料査定は実際にはどのように行われるのでしょうか?賃料査定が行われる流れについて以下に解説していきます。
賃料査定を行うには、条件が類似している物件との比較が基本になります。不動産の賃料は物件によって多少の差があるものの、物件の条件によっておおよその相場が決まっているため、類似物件の相場を調べることは大変参考になるからです。
類似物件との比較を行う際には、
などのデータを可能な限り集めます。
これらの情報収集の際には、「レインズ」という不動産会社が共通で利用しているデータベースや不動産情報サイトなどを利用します。できるだけこれらの条件に近い物件の取引データを調査し、現在募集中の物件の家賃相場、現実に成約した物件の家賃相場などを参考にして、賃料の査定の目安にします。
募集中の物件の家賃は、物件のオーナーの希望が反映された価格であるため、実際の相場よりも高い傾向があります。一方、過去の取引事例は入居者の需要とマッチした価格として、より現実味のある価格といえるでしょう。
類似物件との比較を行い、取得したデータを基にして、おおよその坪単価の平均を算出します。この平均坪単価に物件の面積を掛けることで、査定対象の物件の平均的な賃料が計算できます。
不動産の物件にはおおよその相場がありますが、実際には物件ひとつひとつに個性があり、まったく同じ条件の物件は存在しません。ところが、上記で計算された平均賃料は類似物件のデータを基にした平均的な賃料であるため、個々の物件の特徴を反映していません。そこで、物件の独自の特徴を反映させて物件の実際の賃料を査定するには、加算・減額などの調整が必要になります。
エリアにおける需要とマッチしていれば、そのぶん賃料を高く設定しても入居希望者は見つかる可能性が高くなりますし、反対にミスマッチな物件であれば賃料の減額が必要となるケースもあります。ですから、賃料査定の際に加算・減額などの調整を行うには、物件が建っているエリアの需要の傾向を調べる必要があります。
具体的には、
などを調べ、そのエリアでより需要の高い条件を絞り込んでいきます。
ファミリー層に人気のエリアであれば、ファミリー向けの物件に比べて、ワンルームマンションの需要は低いことが予測されます。子育てや家事がしやすいように、システムキッチンや食器洗い乾燥機付きのキッチン、追い焚き機能付きのバスなどの設備が整っている物件は人気が高いと考えられます。また、子どもの声や走り回る音でクレームが生じないように、床や壁などの遮音性の高さも加算のポイントになるでしょう。
女性の一人暮らしが多いエリアでは、セキュリティ対策のしっかりした物件の需要が高いと予測できます。部屋にはモニター付きインターホン、エントランスやエレベーターには防犯カメラなどを備え、部屋のドアはオートロックにするなど、セキュリティ対策が行き届いている物件の人気は高くなるでしょう。
反対に、同じ一人暮らしでも単身の男性が多いエリアであれば、コンビニエンスストアや飲食店、遅くまで営業しているスーパーが近くにあるような物件のほうが一般的には需要が高くなる傾向があります。
このように、エリアの需要にどのような傾向があるかによって、物件に求められる条件は異なることが分かります。これらの条件と査定の対象物件の現状とを比較して加算・減額などの調整を行い、最終的に妥当と考えられる査定金額を算定します。
賃料査定を行うにあたっては、信頼できる不動産会社を選ぶことが大切です。賃料査定の結果は、査定担当者の需要予測や賃貸経営の戦略をどう考えているかという判断に大きく左右されるからです。ここでは、信頼できる不動産会社を選ぶポイントについて紹介します。
賃料査定において信頼できる不動産会社を選ぶためには、不動産会社の規模や実績などが参考のひとつになります。大規模に事業展開している不動産会社であれば、過去の取引事例など豊富なデータの蓄積を基に、より精度の高い査定結果が得られる可能性が高くなります。
なお、単に不動産会社の規模だけではなく、自身が保有する物件の所在地エリアにおける取引事例の多い不動産会社であることも大切です。エリアによって賃貸需要は大きく異なりますので、それらを的確に見極めて査定できる力が重要となるからです。
不動産会社を選ぶ際には、担当者に十分な提案力があるか、きめ細かな対応が期待できるかなど、担当者の対応を見極めることも大切です。
査定の根拠をしっかりと説明でき、対応・提案内容が良い担当者であれば、提案された査定結果を基に入居者の募集を行い、その後の賃貸管理の相談にも乗ってもらうなど、その後の賃貸経営でも信頼して取引することができるでしょう。
取り扱う不動産の内容によって、主に不動産売買を中心に行う不動産会社もあれば、賃貸管理を専門とする不動産会社もあります。賃料査定を依頼するのであれば、賃貸管理を専門とする不動産会社であることを確認しましょう。
売買を専門とする不動産会社に比べて、賃料査定に関する独自のノウハウや実績から、より信頼できる査定が期待できるはずです。
賃料査定の種類や査定額を決める方法、信頼できる不動産会社の見極め方などを紹介しました。不動産賃貸経営の目的は、家賃収入からより多くのキャッシュフローを手にすることです。そのためには、空室のリスクを避けながら、可能な限り家賃の設定を高くする必要がありますが、最適な家賃の設定は意外に難しいものです。
賃料の査定額には、それぞれの物件の需要の高さをどう評価するか、長期的な投資戦略をどう考えているかという査定担当者の判断も反映されるため、算定された査定額は必ずしも皆一致するとは限りません。また、査定額が合理的であったとしても、その賃料で入居者が決まるとも限りません。
そのため、オーナーは査定額の判断の根拠が納得できるものであるかを判断した上で、自分なりの投資戦略にかなった賃料の設定をすることが大切だといえるでしょう。ぜひ本記事を不動産投資の収益性を高めるために役立ててみてください。
かつて銀行や不動産会社に勤務し、資産運用に携わった経験を活かし、現在は主に金融や不動産関連の記事を執筆中。宅地建物取引主任、証券外務員一種、生命保険募集人、変額保険販売資格など保険関係の資格や、日商簿記1級など、多数の資格を保有し、専門的知識に基づいた記事の執筆とアドバイスを行う。