2023.05.30
不動産投資

不動産投資でフルローンは可能?メリットとリスク、計算例

不動産投資で組むローンのひとつに、物件価格の全額を借り入れする「フルローン」があります。フルローンを利用すると、手持ち資金が少なくても不動産投資を行えるというメリットがありますが、一方でリスクも抱えています。本記事では、不動産投資でフルローンを利用する場合のメリットやリスクなどについて詳しく紹介します。

【著者】矢口 美加子

 

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フルローンとは?

フルローンとは、頭金を入れずに購入費用の全額を金融機関からローンで借り入れてまかなうことです。不動産投資の場合は、物件購入費用の全額を金融機関からの融資で調達します。

近年では頭金なしのフルローンを提供する金融機関が増えており、自己資金がなくても不動産投資を行うことができる機会が増えてきました。自己資金が少ない、あるいは自己資金を使いたくない人に向いているローンです。

なお、物件購入時に必要な登記費用や諸費用などは融資対象になりません。

オーバーローンとの違い

不動産投資を行う際は、物件費用だけでなく登記費用や融資事務手数料などを借り入れることも少なくありません。物件費用に加えて諸経費を借りる場合は「オーバーローン」となります。フルローンとオーバーローンの違いは以下の通りです。

・フルローン(物件価格と同じ金額の融資)
・オーバーローン(物件価格に諸費用をプラスした金額の融資)

オーバーローンは借り入れ金額が増える傾向があるため、返済金はフルローンより多くなる点に注意が必要です。

◆オーバーローンについては、こちらの記事をご覧ください。
オーバーローンは危険?不動産投資で組みにくい理由とリスク

不動産投資でフルローンを利用するメリット

不動産価格は高額なため、物件を購入するときはアパートローンなどを利用するのが一般的です。フルローンで借り入れした場合の大きなメリットとしては➀自己資金を残しておくことができる②大きくレバレッジをかけられる、という2つがあります。それぞれ解説します。

自己資金を残しておくことができる

すでに述べた通り、フルローンでの借り入れには頭金を用意する必要がないため、自己資金を残しておけるのがメリットです。近年では不動産価格が高騰していることから、頭金を用意する場合はある程度のまとまった資金が必要となっています。そのため、頭金を支払ってしまうと預貯金が少なくなり、キャッシュフローが厳しくなる可能性があります。フルローンの活用は、手元資金を残しながら賃貸経営を行いたい人に向いています。

大きくレバレッジをかけられる

レバレッジ(Leverage)とは、借り入れを利用することで、自己資金のリターンを高める効果が期待できることをさします。小さな力で大きなものを動かす「てこの原理」をイメージすると分かりやすいでしょう。

不動産投資では数千万円単位の購入資金が必要な場合もあり、借り入れをして高額な物件を購入するケースが大半です。自己資金が少なくても、借り入れる資金を利用することにより利益を打ち出すことができるようになります。

不動産投資でフルローンを利用するリスク・注意点

フルローンには前章で紹介したメリットがある一方、借入金額が多くなることからリスクを抱えている点には注意しなければなりません。ここでは、不動産投資でフルローンを利用するリスクと注意点について解説します。

月々の返済額が大きくなる

フルローンの場合、頭金を入れずに購入費用全額を借り入れるため、借入金額が多くなり、月々の返済額も大きくなります。金利や借入期間が同じでも金利負担は高くなるため、頭金を入れて購入した場合に比べると最終的な返済総額が大きくなる点には注意が必要です。不動産投資は長期間にわたって行うため、無理のない返済比率で借り入れすることが重要です。

キャッシュフローが悪化する可能性がある

賃貸経営では修繕費や税金、火災保険料などのランニングコストがかかるため、返済比率が高まるとキャッシュフローが悪化する可能性があります。そのため、無理のない返済ができるのかどうかを十分に試算してから借り入れることが必要です。

キャッシュフローとは賃貸経営におけるお金の流れを示すもので、キャッシュフローが悪化すると現金での支払いができなくなることを表します。さらに借り入れをするとますます資金繰りが悪化するので、現実的に支払える返済金額を設定するようにしましょう。

金融機関の審査が厳しくなる

フルローンで借り入れすると借入金総額が高くなるため、金融機関の審査が厳しくなるという点もあります。借入金額が高ければ毎月の返済金額は多くなるため、確実に返済できる能力を求められます。借り入れする人の収入や職業だけでなく、物件の資産価値も含めて審査されるので、人によっては希望の金額通りに融資を受けられないことがあります。

なお、フルローンが通りやすい物件の特徴としては、新築物件であること、土地の資産価値が高い物件であることの2点が挙げられます。新築物件は中古物件より金融機関からの評価が高いため、フルローンの審査が通る可能性は高くなるといえます。築浅のうちは建物の修繕費もかからないことから、健全なキャッシュフローを維持することができます。

土地の資産価値が高いのも有利だといえます。建物は年数が経つほど老朽化が目立つため資産価値が減少しますが、土地は劣化しません。フルローンで返済している間も土地の資産価値はほぼ変わりませんから、立地条件が良い場所にある物件を選ぶと良いでしょう。

金利上昇のリスクがある

メガバンクからアパートローンで借り入れをした場合の金利は、2.5%~4.6%が一般的です。しかし金利は市場動向で変動するため、今は安くても将来上がる可能性があり、金利負担が重くなる可能性があります。返済額が上がるとキャッシュフローが悪化するため、賃貸経営によくない影響を与えます。

近年では新型コロナウイルスの感染拡大やロシアによるウクライナ侵攻などの影響から世界的なインフレが進んだため、各国で政策金利の上昇が発生しています。日本でも2022年12月に日本銀行が金融緩和政策を修正し、長期金利の変動許容幅を0.25%程度から0.5%に拡大すると発表しました。この拡大により、実質的な利上げに結びつくのではないかと懸念されています。

諸経費の部分は借り入れできない

不動産を購入する場合は、物件購入費用だけでなく、仲介手数料・税金・登記費用などとさまざまな諸経費がかかります。フルローンは不動産の購入価格と同じ金額の融資であるため、諸経費の部分は借り入れできず、自己資金でまかなうことになります。

自分で諸経費を調達するのが厳しい場合は、オーバーローンを活用するケースもあります。ただし、オーバーローンはフルローンよりも借入金額が高いため、返済金額はさらに高額になります。家賃収入に対して返済比率の割合が多くなるので、安易に利用するのはおすすめできません。

フルローンを利用した場合の計算シミュレーション

フルローンを利用してアパート経営の利回りを計算するには、物件を購入するためのローン返済額を考慮した利回りをさす「返済後利回り」を使用します。収益性が高くても、金利の高いローンを組んでいると手元に残る家賃収入が少なくなるので、ゆとりのない賃貸経営になってしまいます。そのため、返済後利回りを考慮しながら不動産投資を行うことが必要です。

ここでは、フルローンを利用した場合と、一部自己資金を頭金に入れた場合とで、それぞれ計算シミュレーションを行います。返済後利回りの計算式は以下の通りです。

返済後利回り={年間家賃収入-年間の必要経費-年間ローン返済額}÷(物件購入価格 + 初期費用)× 100

 
以下の条件で計算します。

【利回りシミュレーションの条件】

家賃:6万
戸数:10戸
物件価格:6,000万
自己資本:0円
初期費用(物件価格の10%):600万
返済期間:30年
借り入れ金利:2.5%
満室時の年間家賃収入:720万
年間ローン返済額:284万(参考)
年間必要経費総額(年間家賃収入の15%):108万

 

フルローンの場合

上記のアパートの場合では、返済後利回りは以下の計算式で計算します。

【フルローンの場合の返済後利回り】

返済後利回り={720万(年間家賃収入)-108万(年間必要経費)-284万(年間ローン返済額)}÷{6,000万(物件購入価格)+600万(初期費用)}×100

=(328万÷6,600万)×100=4.97%

 
フルローンで購入した場合、返済後利回りは4.97%です。返済後利回りは2%以上あることが望ましいとされていますので、このケースの場合は基準を満たしているといえます。

頭金を入れた場合

次は、自己資金1,000万円を頭金として入れた場合です。上記のアパートの場合では、返済後利回りは以下の計算式で計算します。

【頭金1000万円を入れた場合の返済後利回り】

返済後利回り={720万(年間家賃収入)-108万(年間必要経費)-284万(年間ローン返済額)}÷{6,000万(物件購入価格)+600万(初期費用)-1,000万(頭金)}×100

=(328万÷5,600万)×100=5.86%

 
頭金1,000万円を入れて購入した場合、返済後利回りは5.86%です。フルローンと比較すると、返済後利回りは0.89%増えたことがわかります。頭金を入れれば借入金額は少なくなるので、その分だけ返済後利回りは高くなります。

不動産投資でフルローンを選ぶときに大切なこと

すでに述べてきたことの繰り返しとなりますが、大切なことですので再度お伝えします。フルローンを利用すれば少ない自己資金でも不動産投資をする機会を得られますが、その反面では返済額が高くなるというリスクを抱えています。高額な返済金に追われるのは本末転倒ですので、利用する際には十分考慮してから実行するようにしましょう。

また、不動産価格は高額であるため、取得するには多額の購入資金が必要になります。大抵の場合はアパートローンなどの借り入れで資金調達を行い、返済期間が10年以上などと長くなります。長期的な投資となりますので、賃貸経営を継続していくには安定したキャッシュフローが必要です。

突発的に発生する修繕費用などにも対応できるよう、月々の返済額を設定することが大切です。そのためにも、年間家賃収入に占めるローンの年間返済額の割合(返済比率)は、なるべく低い状態であることが理想的です。返済比率の目安は40%以下にしましょう。フルローンを組む時は、キャッシュフローや返済比率を細かく計算しておくようにしてください。

◆不動産投資の返済比率については、こちらの記事をご覧ください。
不動産投資の返済比率|高い・低いによるリスクと計算例

フルローンの利用はキャッシュフローや返済比率を考えてから実行しよう

フルローンで借り入れすれば、自己資金が少なくても不動産投資を実行することはできます。しかし、返済金額が高くなるため、安易に利用するのは禁物です。長期的に返済しながら賃貸経営を継続していくため、キャッシュフローや返済比率を考慮し、借り入れするようにしましょう。

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