スマートロックとは、物理的な鍵がなくてもドアの解錠・施錠が可能なキーのことです。セキュリティ性や利便性が高いため、入居者に人気があり、賃貸物件を所有する大家にとっても鍵の管理に手間がかからないなどのメリットがあります。本記事では、スマートロックを賃貸物件で導入する際の費用や注意点などについて解説します。
【著者】矢口 美加子
オーナーのための家賃保証
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目次
スマートロックとは、スマートフォンなどのデバイスで自宅のドアの解錠や施錠ができるキーのことです。物理的な鍵を持たなくてもドアの開閉ができるので、鍵の紛失によるトラブル発生の心配がありません。
スマートロックを設置するときは、ドアについている錠の仕様によって導入することができるスマートロックが決まるため、現在のドアの鍵の仕様を確認してから購入することが必要です。なお賃貸物件の場合には、取り付け・交換がしやすい「貼り付けタイプ」が主流となっています。
スマートロックの取り付け方法には3種類あるため、それぞれ解説します。
ドアに穴を開けて固定するタイプのスマートロックは、ズレたり落ちたりすることがないのが良い点です。ただし、ドアに穴を開けることになるため原状回復ができない点に注意が必要です。取り付ける時にはその点を考慮しながら選ぶようにしましょう。既存の鍵はそのままで、上側のスペースに追加で穴を開けて取り付けます。
貼り付けるタイプのスマートロックは、賃貸物件でもっともよく使われています。粘着テープで貼り付けるだけなので工事が必要なく、手軽に取り付けられます。取り付ける場所のホコリや汚れを取った後、両面テープでスマートロックを貼り付けます。
シリンダーを外して取り付けるスマートロックも提供されており、強く固定できるのがメリットです。ドアや鍵を傷つけなくても元に戻せる製品もあり、賃貸物件でも利用しやすいといえます。シリンダーを外すのはやや手間がかかるため、費用はかかりますが専門業者に依頼することがおすすめです。
スマートロックはセキュリティ性が高いため入居者に人気のツールですが、大家が賃貸経営を行う上でもさまざまなメリットがあります。ここでは、大家側から見たメリットについて紹介します。
スマートロックを導入すると、物件の内見時に物理的な鍵が不要となるため、不動産会社と鍵のやり取りをする必要がなくなります。そのため、効率よく不動産会社に内見を実施してもらえるのがメリットです。
スマートロックを導入している物件の内見の場合、まずはキーを使用する予約をWeb上で行い、不動産会社の担当者が時限式の電子キーをメールで受け取ります。そうすると、指定された時間内だけスマートフォンでの解錠・施錠ができるようになります。
通常、内見が終わったら大家は担当者から鍵を返却してもらいますが、内見が終わるのが遅くなると、すぐに返却してもらえないこともあります。鍵の返却が遅くなると紛失のリスクが高まりますが、スマートロックならば物理的な鍵ではないため返却のやりとりが発生しません。
内見希望者が一人で内見する場合でも、時限式の電子キーをメールで送付すれば事足りるので、大家や不動産会社の担当者がわざわざ現地に向かう必要がありません。物件所在地が遠かったり、自主管理であるため鍵のやり取りを手間に感じたりする場合にはメリットを感じやすいでしょう。
通常、入居者が退去すると鍵の交換を行いますが、スマートロックの場合はその必要がありません。国土交通省が示している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によると、本来ならば鍵の交換費用は物件管理上の問題であるため、貸主(大家)が負担するものとされています。
特約で借主に負担してもらうこともできますが、中には納得しない借主もいるため、揉める可能性がないとはいえません。しかし、スマートロックならば鍵交換が不要ですので、貸主・借主の双方が交換費用を負担せずに済みます。
スマートフォンで退去者の利用権限を解除したり、新しい入居者に利用権限を付与したりするなどをデータ管理できるため、今までのように大量の鍵管理をする手間が省けます。
築年数が古くオートロックがついてない物件は、そうではない物件に比べれば当然、セキュリティ面で劣ります。しかし、仮にオートロックがついておらず、貸室のドアの鍵がディンプルキーなどの防犯性の高い鍵ではなく、一般的なシリンダー錠であっても、スマートロックを取り付ければセキュリティ面を高めることが可能になります。
また、入居者の過失により鍵が紛失してしまうことがありますが、スマートロックならば紛失するリスクがありません。そもそも実体がないので、知らぬ間に合鍵を作成されることもなく、セキュリティが高いのがメリットです。
賃貸物件を選ぶ際に入居希望者が重視する要件のひとつが「セキュリティの高さ」ですから、スマートロックを物件に導入していれば入居率は高まる可能性があります。
スマートロックを導入するにあたり、鍵交換や内見時の鍵のやり取りなどの手間が省けるといったメリットがある一方、いくつか気をつけたい点もあります。ここでは、賃貸物件にスマートロックを導入する注意点について解説します。
スマートロックを賃貸物件に導入する際は、初期費用がかかります。スマートロック本体の料金は、1万円~4万円程度が相場です。取り付けるタイプによっては専門業者に設置工事を依頼することになり、別途工事費も発生します。物件数が多い場合は、ある程度のまとまった金額が発生することになります。
また、製品によっては月々のレンタル費用が発生するタイプもあります。
参考価格として、日常生活のトラブルの解決を行う「生活救急車」の作業料金を紹介します。ホームページによると、鍵の新規取り付け代は27,500円+部品代、夜間・早朝料金は8,800円、出張・見積り・キャンセル料は無料となっています。
▶生活救急車のホームページはこちら(レスキューラボのサイトへ移動します)
なお、もしもスマートフォンや専用のカードキーを持ち忘れるなどして開かない場合、出張費用の目安は2万5千円~4万円前後です。入居者にはあらかじめ大体の費用を知らせておくようにしましょう。
玄関ドアや玄関錠(サムターン)の形状によっては、取り付けできないスマートロックの製品もあります。以下のタイプだと、スマートロックの取り付けが難しい場合があります。
導入する際は、ドアやサムターンの形状に適しているかどうかを確認しましょう。
オートロックつきの物件の場合、スマートロックで鍵が不要だとしても、オートロック開錠時に鍵を出すのであまりメリットにならない可能性があります。「解錠の手間がかからない」のがスマートロックの魅力であるため、メリットをあまり感じない入居者がいることが考えられます。
スマートロックにはさまざまなタイプがあり、取り付け方法や費用などもそれぞれ違いがあります。ここでは、スマートロックの解錠方法と費用相場について紹介します。
ハンズフリータイプのスマートロックは、特に子育て世帯が多く入居するファミリータイプの物件に向いています。ドアに近づくだけでカギが解錠されますので、 子供を抱っこしているときや買い物帰りで荷物が多い時などには特に便利です。アプリで最大20名まで合鍵の付与ができるタイプもあり、家族全員で使用することも可能です。
ただしハンズフリー方式は貼り付けるタイプが多く、スマートロックが落下してしまったり、ずれてしまったりする点には注意が必要です。
主な製品の費用相場や取り付け方法は以下の通りです。
製品名 | 取り付け方法 | 費用(本体価格) |
---|---|---|
SADIOT LOCK 2(ユーシン・ショウワ) | 付属の両面テープで貼り付ける | 13,200円(税込) |
bit lock MINI(ビットキー) | 付属の両面テープで貼り付ける | 年額5,980円(税込)/月額550円(税込) |
スマートフォン操作タイプのスマートロックは、スマートフォン本体がカギ代わりとなり、アプリによって施錠・開錠が可能です。スマートフォンがあれば確実にロックを解除できるのがメリットです。ただし、スマートフォンを所有していないと使用することができないため、独身の社会人や学生などと比較的年齢層が若く、単身者が多い賃貸物件に向いているといえます。スマートフォンの電源が切れると使えない点にも注意が必要です。
主な製品の費用相場や取り付け方法は以下の通りです。
製品名 | 取り付け方法 | 費用(本体価格) |
---|---|---|
セサミ mini スマートロック(CANDY HOUSE JAPAN) | 付属の両面テープで貼り付ける | 10,780円(税込) |
hornbill スマートドアロック(Hornbill) | ドアに穴を開けて設置する | 22,980円(税込)※2023年6月現在 |
リモコンキー・カードキー・スマートウォッチなどで施錠・解錠できるタイプのスマートキーです。子どもや高齢者など、スマートフォンを持っていない人でも使用できるため、ファミリータイプの物件に向いています。もちろん、スマートフォンでも対応可能です。
外出時にスマートフォンを忘れても指紋認証や暗証番号で解錠できるので、入居者が締め出される可能性が少なく、大家や管理会社の手間がかからない点はメリットです。マルチデバイスに対応できるため、本体価格は比較的高めです。
主な製品の費用相場や取り付け方法は以下の通りです。
製品名 | 取り付け方法 | 費用(本体価格) |
---|---|---|
GR-50T(東邦金属工業株式会社) | ドアに穴を開けて設置する | 32,890円(税込) (※2023年6月現在のAmazonでの販売価格) |
Qrio Lock(Q-SL2)(Qrio) | 付属の両面テープで貼り付ける | 25,300円(税込) |
顔認証で解錠するスマートロックが、AIアシスタント方式です。カメラの前に立つと、AIが入居者と他人を見分けて解錠・施錠を自動で行うため、スマートフォンなどを所持していなくても大丈夫です。クラウド上で顔情報や鍵が管理されているため、大家の鍵管理の手間が軽減されるメリットがあります。ただし導入費用が高いため、じっくり検討してから実行するのをおすすめします。
主な製品の費用相場や取り付け方法は以下の通りです。
製品名 | 取り付け方法 | 費用(本体価格) |
---|---|---|
Bio-IDiom (NEC) | システムを構成して設置 | 3台によるサーバーレス構成の場合で300万円(税別)から |
スマートロックを導入する場合、事前に起こり得るアクシデントに対して対応策を考えておくと安心です。
よくあるトラブル例としては、入居者が何らかの原因によりスマートロックを解錠できず、部屋の中に入れないというケースです。このようなときに毎回、大家や管理会社が現場に行くのは大変です。そのため、使い方の注意点などを入居者に伝えておくことが、トラブルを防ぐポイントといえます。
ここでは、そのほかの代表的なトラブル例と、発生した時の対応方法について解説します。
基本的にスマートロック本体は電池式ですので、たとえ停電が発生しても使用することはできますが、電池が切れてしまうと作動しません。電池交換は数カ月単位で行われるため、いつ交換したのか分からなくなってしまうとトラブル発生の元となり得ます。対策としては、大家や管理会社はスマートロック本体に電池交換の日付シールを貼っておき、電池切れを防ぐようにすることです。
また、スマートロックは機械のため、故障がつきものです。故障による締め出しの場合は、専門業者でないと対応できないため、サポートセンターに連絡します。入居者にもあらかじめ連絡先を教えておきましょう。
スマートロックはスマートフォンの専用アプリを利用し、Wi-FiやBluetoothの通信によって情報をスマートロックへ送信し、解錠するというシステムです。そのため、Wi-Fiなどの通信状態が良くないと正常に動作しないことがあります。大家は物件の通信状態を把握し、問題のない環境を整えておくことが必要です。
通信トラブルの対応策としては、入居者には念のため、外出時に物理的な家の鍵も持っておくように伝えておくことが挙げられます。
スマートロックの中にはオートロック付きの製品があり、スマートフォンやカードキーを部屋の中に置いたまま外出してしまい、うっかり締め出されてしまうといったトラブルが起こることがあります。
スマートフォンを鍵として使用する場合は、ごみ出しなどのちょっとした用事でも、外に出る際には必ずスマートフォンを携帯するよう入居者に知らせます。スマートフォンは常に携帯するということを入居する際に強く意識づけることが肝心です。
スマートロックはセキュリティ性や利便性が高いため、入居者にとっては魅力的な設備です。一方、大家も鍵管理の手間が省ける上、内見時に不動産会社と鍵のやり取りをする必要がないので時間や労力を省けるのがメリットです。入居者の退去時に鍵交換をする必要もないため、長期的に見るとコストも抑えられます。ぜひ賃貸物件にスマートロックの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
宅地建物取引士、整理収納アドバイザー1級、福祉住環境コーディネーター2級の資格を保有。家族が所有する賃貸物件の契約や更新業務を担当。不動産ライターとしてハウスメーカー、不動産会社など上場企業の案件を中心に活動中。