雨漏りが発生すると、居室の天井から水漏れするなどの被害が生じ、建物の内部や入居者の家財に損害を与える場合があります。入居者の過失ではない雨漏りは大家に修繕義務があるため、直ちに傷んだ箇所を直さなければなりません。本記事では、賃貸物件のオーナーに向けて雨漏りの修繕について詳しく解説します。
【著者】矢口 美加子
オーナーのための家賃保証
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経年劣化などといった入居者の過失ではない理由による賃貸物件での雨漏りは、大家に修繕義務があります。大家は入居者から賃料を支払ってもらう権利がありますが、その一方でさまざまな法的義務を負うことになるからです。
賃貸借契約における大家の基本的義務としては、以下の3つが挙げられます。
1.目的物を使用収益させる義務
2.目的物の修繕義務
3.費用償還義務
ここでは法的な根拠とあわせて、大家に雨漏りの修繕義務があることについて解説します。
「使用収益させる義務」とは、賃貸借契約の目的が達成できるように、賃貸物を適切に使用収益させる義務をさします。つまり、大家が入居者と賃貸借契約を結んだ場合には、入居者が住居として問題なく使用できる状態を提供しなければなりません(民法601条)。
雨漏りがあると入居者の部屋が水浸しになり家財などが損害を受けるため、日常生活に支障をきたします。なお、老朽化などのように、入居者の過失によらない原因で雨漏りが発生した場合、修繕する義務があるのは物件の使用者(入居者)ではなく所有者である大家側です。
家賃を受け取っているにもかかわらず、入居者が平穏無事に生活できる部屋の環境を提供できない場合、大家は「目的物を使用収益させる義務」を果たしているとはいえないのです。
大家は入居者が部屋を問題なく使用できるように、不具合が発生した場合は修繕する義務を負っています。そのため、入居者の過失によらない理由による雨漏りが発生した場合は、屋根など傷んだ箇所を修繕しなければなりません(民法606条)。
特約により、修繕義務を貸主と借主で分担する取り決めを決める(修繕特約)ことがありますが、老朽化による不具合の場合は特約に関係なく貸主が負担するものとされています。ちなみに、大家が修繕など賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときには、入居者はこれを拒むことができません。
貸主が遠方に住んでいる、あるいは何らかの理由により雨漏りの修繕を早めに対応できない場合には、借主が代わりに修繕し、後から立て替えた修繕費を貸主に支払ってもらうケースもあります。貸主には「費用償還義務」があるため、借主が立て替えた修繕費用を支払わなければなりません。(民法第608条)
賃貸借契約においては必要費と有益費があり、雨漏りや漏水など不動産の現状を維持するための行為にかかる費用は必要費に該当します。貸主は借主から立て替えの請求を受けた場合、ただちに支払うように規定されています。
なお、物件の価値を増加させる費用である有益費の場合、入居者は賃貸借契約の終了時に貸主に対して請求することが可能です。この場合、貸主は物件価値が増えた分の価格、あるいは借主が支払った価格のいずれか低い金額を選んで支払います。
雨漏りが発生したら、二次被害を防ぐことが必要です。ここでは、入居者にやってもらうことと大家がやるべきことをそれぞれ説明します。
雨漏りが発生したとき、入居者にやってもらうことは以下の3点です。
・家財などを移動してもらう
・貸主または管理会社にすぐに連絡する
・雨漏りしている箇所を撮影してもらう
まず、雨漏りしている場所の近くにある家具や家電を移動してもらいましょう。雨水が当たると家具が傷んだり家電が故障したりするため、応急処置として安全な場所に移します。
次に、貸主または管理会社にすぐに連絡してもらいます。なお、入居時に床や壁の損傷があり、入居者がそれを放置していたために被害が広がった場合は、修繕費用を請求する可能性があることを入居者へ伝えます。この点については、できれば賃貸借契約書にも記載しておくと良いでしょう。
雨漏りの場所や原因を究明するために、証拠として雨漏りしている箇所を撮影してもらうことも必要です。撮影した写真は、雨漏りの原因を探るヒントとなるからです。
雨漏りについて入居者から連絡を受けた場合、大家がやるべきことは以下の3点です。
・現場を確認する
・応急処置をして工事業者を手配する
・雨漏りしている部分を修繕する
まず、雨漏りの状態を確認するために現場へ駆けつけましょう。自主管理の場合は大家自身で確認することが必要です。水で漏れている部分にビニールシートをかけたり、バケツを置いたりして応急処置をします。
雨漏りか配管関係からの水漏れかを確認するのは素人では難しいため、専門業者に修理を依頼し、修繕を行います。
すでに説明したとおり、原則として大家は入居者が問題なく日常生活を過ごせる住環境を提供することの対価として家賃を受け取ります。そのため、雨漏りなどが発生した場合は修繕する義務があります。
大家が放置し続けていると、入居者から損害賠償を請求される可能性があるので注意が必要です。雨漏りによって入居者の家財などが被害を受けた場合、入居者は修理費用や買い替え費用の損害賠償を大家へ請求することができるからです。
また、賃借人(入居者)が賃貸人(大家)に対して、相当な期間を定めて修繕を求めたにもかかわらず期間内に修繕されない場合には、賃借人は賃貸借契約を解除することが可能です。退去されてしまう可能性もあるので、大家はくれぐれも雨漏りを放置しないようにしましょう。
雨漏りを放置すると、建物の金属部分が腐食して錆びたりシロアリが発生したりして、建物内部の損傷が進んでしまいます。雨漏りが発見されたら早めに修繕しましょう。
雨漏りの修繕にかかる費用相場と工事期間は、以下をご覧ください。修繕範囲の広さや内容により、費用相場や工事期間は大きく変動します。
雨漏りが発生した部位 | 費用相場 | 工事期間 |
---|---|---|
屋根 | 5万円~75万円 | 1日~2週間 |
天井 | 7万円~15万円 | 3日~1週間 |
ベランダ | 5万円~20万円 | 1日~5日 |
外壁 | 5万円~100万円 | 3日~2週間 |
窓枠 | 5万円~25万円 | 1日~3日 |
火災保険は自然災害にも適用されるため、自然災害による雨漏りなら補償の対象となります。たとえば台風による強風で屋根瓦が破損したり、雹(ひょう)が降ったためにベランダの床板が破損したりした場合です。
なお、火災保険適用の要件は雨漏りの原因が自然災害によるものであり、経年劣化や第三者が故意に行った被害は対象とはなりません。また、雨漏りは「水災」ではありません。適用されるのは「風災」「雪災」「雹災」などで、以下のようなものが挙げられます。
災害名 | 発生した理由 | 被害例 |
---|---|---|
風災 | 台風などの強風による被害 | ・瓦のズレ ・飛来物による破損など |
雪災 | 大雪・雪崩などによる被害 | ・積雪による重みで屋根が破損 ・雪解け水による被害 |
雹災 | 雹による被害 | ・雹による屋根やベランダなどの破損 |
保険会社による審査で認定されたら保険金が支払われます。
雨漏りが発生すると、建物の内外部が腐食あるいは破損するなどの被害が生じ、そのまま放置しておくと損傷が広がります。シロアリが発生する原因にもなるため、すぐに修繕することが必要です。雨漏りが見つかったら大家はなるべく早めに対応して、建物の被害を食い止めるようにしましょう。
宅地建物取引士、整理収納アドバイザー1級、福祉住環境コーディネーター2級の資格を保有。家族が所有する賃貸物件の契約や更新業務を担当。不動産ライターとしてハウスメーカー、不動産会社など上場企業の案件を中心に活動中。