賃貸物件のトイレは、内見者が物件を選ぶときに重要視する場所のひとつです。いくら綺麗にリフォームされた部屋でも、トイレが汚いと内見者から敬遠されてしまう可能性があります。この記事では、賃貸経営を順調に行うためにトイレリフォームを考えているオーナーに向けて、トイレのリフォーム例、費用相場などを解説していきます。
【著者】矢口 美加子
オーナーのための家賃保証
「家主ダイレクト」
こうしたお悩みを抱えている方は、まずは資料ダウンロード(無料)しお役立てください。
目次
水回りは多くの内見者が気にするポイントです。特にトイレは在宅時に何回も利用する場所のため、その部屋の入居を決める判断材料として重視する人が少なくありません。いくら部屋の内部が綺麗でも、トイレが汚ければ入居する気にはなれないものでしょう。トイレは「排せつ」というデリケートな行為をする場所ですので、居心地の良い空間にすることが必要です。
もしも賃貸物件の入居者がなかなか決まらないという場合、トイレなどの水回りが原因になっているかもしれません。したがって、賃貸オーナーは空室率対策としてトイレなどの水回りを重要視すべきだといえます。トイレなどの水回りの印象を良くして、入居者を増やしていきましょう。
賃貸物件のトイレリフォームといっても、具体的にどのような工事があるのでしょうか。本章では賃貸物件のトイレリフォーム例を紹介します。
トイレリフォームの中で広く知られているのが、和式から洋式に変更する工事です。このリフォームの場合、まずは既存の便器や床などを解体して処分します。その後、配管工事や床・壁の下地工事、クロス・床材の張替えといった内装工事をして、最後に洋式便器を設置します。
なお、和式トイレの中には床に段差がある場合があったり、温水洗浄便座付きの洋式トイレにはコンセントの設置も必要となったりします。このように、和式トイレの場合は便器の交換以外にもさまざまな工事が必要になるため、費用がやや高額となります。
和式から洋式に変えるおもなメリットは以下の3つです。
1.足腰に負担をかけにくくなる
2.便器周辺が汚れにくくなる
3.洋式トイレは使い慣れている人が多い
和式は、しゃがむ体勢になって用を足すため、足腰が弱い人には負担がかかりますが、洋式トイレは座るタイプですので楽な体勢で利用することができます。また、和式は用を足すときにどうしても便器の周囲に排せつ物がはみ出しやすいため、まめに掃除する必要があります。その点、便器の中で用を足せる洋式ならば汚れは比較的ひどくなりにくいといえます。
そのうえ、近年の住宅では洋式が設置されていることがかなり多いので、和式より洋式のほうが世代を問わず使い慣れていて違和感なく利用できる点もメリットです。
洋式から洋式へのリフォームとして、節水型トイレへ交換する工事があります。旧型の洋式モデルは1回の洗浄に使用する水量が多いため、水道代が高くなる傾向です。しかし、最新式のトイレは節水型が多く提供されており、少ない水量で洗浄することができます。
工事の内容は基本的に便器の交換となりますが、水圧の関係で工事不可というケースがあります。タンクに貯めた水を使って勢いよく水を流す旧式のトイレと違い、節水型のトイレは使用する水の量が少ないため水圧が弱めです。設置を検討する場合は、リフォーム前に専門業者に下見をしてもらい、水圧に問題がないかどうかを確認しておきましょう。
従来の洋式トイレから節水型トイレに変えるおもなメリットは以下の3つです。
1.水道代が節約できる
2.掃除が楽になる
3.節電できる
「節水型」というだけあり、水道代が節約できるのは大きなメリットです。従来は約10~13リットルの水を使うのが一般的でしたが、最新式のモデルでは6~8リットルというように約半分の量で流せるタイプが提供されています。水道代が安くなるので入居者にとってはうれしいポイントです。
また、掃除が楽になるという点もあります。節水型トイレは水の流れが渦巻き状のため、少ない水でもきれいに汚れを落とせるようになっています。最新機能を持つトイレだと、除菌機能つきや汚れにくい加工つきのタイプも提供されているので、従来タイプよりもトイレ掃除の回数は少なくなることが考えられます。
そして、節水だけでなく節電ができるのもメリットです。近年の最新型トイレは使わないときに節電機能が働き、余分な電気代がかからないモデルが主流となっています。月々はわずかでも年間だとある程度の金額になるので、ランニングコストが安くなる点は入居者にとっても良い点だといえます。
トイレのリフォーム工事には、便器の交換だけでなく、クロスや床の張替えといった内装を一新するフルリフォームもあります。内装も変えることで、見違えるように綺麗なトイレ空間を実現することができます。また、手洗いカウンターや手すりを付けて、トイレの利便性を向上させるのも良い方法です。特に高齢者を対象とする賃貸物件の場合は、体を支えるための手すりがあると転倒防止にもつながり重宝します。
トイレをフルリフォームすることによるメリットは以下の3つです。
1.新しく清潔なトイレ空間に生まれ変わる
2.嫌な臭いがなくなる
3.トイレ内の雰囲気に違和感がない
トイレは毎日使う場所ですので、不衛生で暗い雰囲気だと、使うたびに不快な気持ちになってしまう人もいるでしょう。排せつというデリケートな行為をする場所だからこそ、明るく清潔な空間であれば、快適に利用できるようになります。
また、トイレの嫌な臭いはクロスや床に染み込んでいることが多いため、新しいものに張替えると臭いの解消につながります。近年のクロスは消臭効果があるので、クリーンな空気を持続できるようになります。
築年数が経過している賃貸物件の場合は、便器と同様にクロスや床なども劣化しているものです。そのため、便器を交換するだけでは内装が古いままとなってしまい、トイレ内の雰囲気に統一性が見られなくなってしまう可能性があります。フルリフォームならば、便器・クロス・床などが一新されるため、トイレ空間を新しく生まれ変わらせることが可能です。
古くなったトイレのドアを新しく交換すると、部屋の雰囲気を明るくすることができます。新しいタイプのドアはデザインが豊富で見た目にもおしゃれなものが多く、気密性が高いので、音漏れや臭い漏れを防げるのがメリットです。
トイレに設置するドアの種類は、大きく分けると「開き戸」「引き戸」「中折れ戸」の3タイプがあります。賃貸物件で一番多いのは開き戸です。外開きにする場合はスペースが必要ですので、外部のスペースを確保することが必要です。一方、中開きにすると外に出るときにトイレ内のスペースが狭くなるという点があります。
高齢者向けのトイレには引き戸が向いています。体を動かさずに開閉でき、開けたドアも邪魔にならないので出入りするのが簡単です。近年では力を入れずに開閉できる引き戸が提供されています。また、間取りが狭い物件の場合は、中折れ戸も向いています。開閉したときのスペースが開き戸ほど多く取らず、引き戸のようにドアを収納するスペースも必要ないからです。
トイレのリフォームをするときは、賃貸物件の入居者層に合った内容で施工することが重要です。たとえば、所有物件のターゲット層は一人暮らしなのか・ファミリーなのか、また、年代は若いのか・高齢者であるのかなどにより違いがあります。賃貸物件の立地や土地柄、どのような人が入居者で多いのかによってリフォーム内容を決めていくようにしましょう。
具体的な例を挙げると、都心にある一人暮らし用の賃貸ワンルームマンションの場合、トイレはコンパクトな間取りで十分です。高齢者向けの場合は介護を見据えてある程度の広さが必要だと考えられ、体を支えられる丈夫な手すりを設置することも必要です。ターゲット層と合わないのに過剰にリフォームすることは余計なコストになるため注意しましょう。
トイレは毎日利用する場所であるため、賃貸物件の場合、入居者が常に快適に使えるようになると長く住み続けてくれる可能性が高まります。
トイレリフォームにかかる費用や工事期間について紹介します。それぞれをまとめた表が以下の通りです。設置する便器のグレードにより工事費用には違いがあります。
施工内容 | 工事費用 | 工事期間 |
---|---|---|
和式から洋式便器へ交換 | 15~60万円 | 2~3日 |
洋式から節水型トイレへ交換 | 15~30万円 | 1日 |
便器交換を含めたフルリフォーム | 20~50万円 | 1~2日 |
トイレのドアを交換 | 4~20万円 | 1日 |
手すりの設置 | 3~10万円 | 半日 |
手洗いカウンターの設置 | 10~50万円 | 1~3日 |
壁紙交換 | 3~5万円 | 1~2日 |
床材の交換 | 1~6万円 | 1~2日 |
和風改造用便器 | 6~13万円 | 1日 |
トイレリフォームには補助金が出る場合がありますが、補助金の条件は自治体によりさまざまで、自らが住むための居住用物件でないならば補助金はゼロというケースも多いです。ただし、介護保険に関しては賃貸物件でも利用できる場合があります。次章で詳しく解説していきます。
意外に知られていませんが、公的介護保険制度は賃貸住宅でも利用することができます。基本的には自分が所有する住宅であることが要件ですが、一定の条件の下であれば、賃貸物件でも介護保険を利用した住宅のリフォームができる場合があります。そのため、ケースに応じて自治体に相談することをおすすめします。この場合、介護保険を利用する人は入居者となり、オーナーが許可したうえで介護保険を利用した住宅の改修が可能です。
介護保険で改修できる工事には以下のようなものがあげられます。
1.手すりの取付け
2.段差の解消
3.引き戸等への扉の取替え
4.洋式便器等への便器の取替え
したがって、トイレのリフォームに関しては上記4点のすべてが該当します。
支援される金額は要支援、要介護を問わずに定額で20万円となり、支給限度基準額20万円の9割である18万円が上限となります。高齢の入居者がいる場合には、介護保険を利用して入居者が住みやすい環境をつくるのも良い方法だといえます。
賃貸物件のトイレをリフォームする際には、リフォームに掛けられる費用の収支をシミュレーションしておくことが必要です。トイレのリフォームは、設置する便器のグレードや内装のオプションなどによって、かなり金額に開きが出ます。あらかじめ予算を決めておいて、その範囲内で収まるように便器などを選びましょう。
もしも予算がオーバーするならば、リフォーム内容に合わせてオーナー自身でDIYできないか検討してみるのも良い方法でしょう。それに加え、リフォーム業者はたくさんありますので、必ず相見積もりをとるようにすることも重要なポイントです。
また、上でも説明しましたが、ターゲット層を考えてどこをリフォームするか検討しておくことも大切です。たとえば、一人暮らしの会社員や学生などがターゲット層の場合は掃除しやすい節水タイプのタンクレストイレを設置するなど、入居者のライフスタイルを考えてリフォームするようにします。高齢者の場合はトイレ内に手すりを付ける、床の段差をなくすなど、安全性を高めるリフォームが適しています。
なお、トイレをリフォームして部屋の居住環境が良くなったために、家賃を値上げしたいと考える場合があります。このようなときは、必ず周辺の家賃相場を良く調べてから実行するようにしましょう。いくらトイレを綺麗にして居心地の良い部屋になったとしても、あまりにも周辺の家賃相場よりも高い場合は入居者が入りにくくなります。トイレ空間が快適ならば入居者の満足度が高まり、長く入居してくれる可能性があるので、トータル的に考えて家賃を設定するようにします。
入居者が入居を決めるポイントとして、「水回りの空間」がいかに快適であるかが大きいといえます。中でも、トイレは排せつというデリケートな行為をする場所なので、入居者が気持ちよく使える空間が必要です。トイレのリフォームはキッチンやバスルームほど高額なコストがかかりませんので、比較的リフォームしやすいといえます。ぜひ賃貸物件の空室対策として、トイレのリフォームを検討してみてはいかがでしょうか。
宅地建物取引士、整理収納アドバイザー1級、福祉住環境コーディネーター2級の資格を保有。家族が所有する賃貸物件の契約や更新業務を担当。不動産ライターとしてハウスメーカー、不動産会社など上場企業の案件を中心に活動中。