2023.02.06
不動産投資

不動産投資の損益通算とは?目的と計算例、注意点などを解説

「不動産投資が赤字でも、本業の所得と損益通算すれば節税効果がある」という話を聞いて、損益通算を利用した節税の仕組みに興味を持っている人がいるかもしれません。この記事では、損益通算のやり方や節税するしくみについて計算例とともに解説していきます。

不動産投資の本来の目的は、少しでも多く利益を出すことです。そのための手段のひとつとして損益通算を上手に利用できるように、その仕組みや注意点について学んでいきましょう。

【著者】水沢 ひろみ

 

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損益通算とは?

まずは、損益通算についての一般的な解説から始めていきます。

損益通算の概要

損益通算とは、利益から損失を差し引くことによって、最終的に計上する利益を圧縮することです。不動産投資においては、不動産所得で生じた赤字を他の所得から差し引くことで、トータルの所得を少なく計上できるしくみのことを指します。

所得が少なくなれば、所得にかかる税金も少なくなります。ですから、副業として不動産投資を行う会社員などは、本業の給与所得からすでに源泉徴収されている税金が還付される可能性もあります。これをもって「不動産投資は赤字でも節税効果がある」と解説されていることがありますが、トータルの利益が減ってしまっては節税しても意味がありません。

不動産投資の損益通算が節税対策として意味があるのは、会計上の利益と現実のキャッシュフローのズレによって、会計上は赤字になっていてもキャッシュフローは黒字というケースです。会計上の利益と現実のキャッシュフローとの間にズレが生じるのは、以下の理由からです。

  • 会計上の利益を計算する際には、現実のキャッシュアウトを伴わない会計上の費用である減価償却費を計上できるから
  • 現実にはキャッシュアウトがあっても、費用計上できない項目があるから(不動産取得のためのローンの元本部分など)
  •  
    損益通算を節税に利用しようとする際には、これらのしくみを理解する必要があります。

    損益通算できる所得、できない所得

    税法上の所得は10種類に分類されていますが、その中には損益通算できる所得とできない所得とがあります。所得とは、収入から必要経費を差し引いて計算した金額です。

    【税法上の所得10種類】

    給与所得
    事業所得
    利子所得
    配当所得
    譲渡所得
    不動産所得
    一時所得
    退職所得
    山林所得
    雑所得

     
    これらの所得の中で損益通算できる所得は以下の4つであり、それ以外の所得は損益通算をすることができません。

    事業所得
    譲渡所得
    不動産所得
    山林所得

     
    では、この4つの所得について詳しく解説していきます。

    事業所得

    事業所得とは、農業や漁業、工業、商業、サービス業等の事業から生ずる所得のことです。

    【注意!】
    不動産投資によって生じた所得は、事業的規模であるか否かに関わらず、「事業所得」ではなく「不動産所得」になります。

    譲渡所得

    譲渡所得とは、不動産や株式、ゴルフ会員権などの資産を譲渡することから生じた所得のことです。

    【注意!】
    事業用の商品の譲渡は「事業所得」、山林を譲渡したことで生じた所得は「山林所得」となり、「譲渡所得」には該当しません。

    不動産所得

    不動産所得とは、土地や建物等の不動産を貸付けることで生じる所得を指します。

    【注意!】
    食事を提供するなど、単に不動産を貸し付けるに留まらないようなケースでは、「事業所得」または「雑所得」となるので注意してください。

    山林所得

    山林所得とは、山林を取得してから5年超過後に立木のまま、または伐採した材木を売却するなどで生じた所得のことです。

    【注意!】
    土地も含めて山林全てを売却する場合には、土地の部分は「譲渡所得」に該当します。取得して5年以内に材木等を売却する場合には、「事業所得」、または「雑所得」に該当します。

    不動産所得で損益通算する目的は「節税のため」

    上記で解説したように、不動産所得は給与所得等と損益通算ができます。そのため、会社員が副業として不動産投資を行って赤字が生じた時には、確定申告することで、給与所得から一旦源泉徴収された税金が還付される可能性があります。

    給与所得に課税される所得税と住民税は、所得が大きくなればなるほど多額になりますので、不動産所得の赤字と通算することで所得が圧縮できれば、所得の多い人ほど高い節税効果を得ることができるのです。

    たとえば、給与所得2,000万円の会社員が、不動産投資により発生した500万円の赤字と損益通算すれば、トータルの所得は1,500万円になるので500万円分の税金が戻ってくる計算になります。

    ただし、この節税効果が意味を持つのは、繰り返しになりますが、帳簿上は赤字でもトータルのキャッシュフローは黒字である場合です。いくら節税できてもキャッシュフローがマイナスでは意味がないことを忘れないでください。

    帳簿上は赤字でもキャッシュフローは黒字という状態が生じるのは、利息を除いたローンの支払額が減価償却費よりも小額の場合です。減価償却費とは、不動産の取得価格を法定の耐用年数に渡って費用として計上していくしくみです。現実のキャッシュフローとは異なるタイミングで費用計上が行われるため、減価償却を行うことで帳簿上は赤字でもキャッシュフローは黒字という状態が生じうるのです。

    不動産投資初期にはローンの支払額に占める利息の割合が大きいため、利息を除いたローンの支払額が減価償却費よりも少なくなることが多くなります。しかし、しだいに計上できる利息が少なくなり、減価償却費よりもローンの元金返済額が大きくなると、「不動産投資のデッドクロス(※)」という状態が生じます。

    デッドクロスが生じると、「キャッシュフローが赤字なのに帳簿上は黒字」という状態が起り得ます。ですから、節税対策として不動産投資を行うのであれば、デッドクロスが生じる前に不動産を売却することが必要だといえるでしょう。

    ◆デッドクロスについては、以下の記事を参照してください。
    不動産投資のデッドクロス|原因と対応策、シミュレーション

    不動産所得で損益通算する流れ

    次に、不動産所得で損益通算する流れを解説します。

    まず、以下のそれぞれの所得を計算します。

    給与所得
    利子所得
    配当所得
    雑所得
    事業所得
    不動産所得

    次にこれらの所得を合計していきますが、先に説明した通り、事業所得と不動産所得は赤字になる可能性のある所得で、損益通算をすることができる所得です。そこで、これらの所得がマイナスであれば、それ以外のプラスの所得から差し引くことで損益通算することができます。

    不動産所得で損益通算するシミュレーション例

    では、損益通算するとどのくらいの節税ができるのか、具体的な数字で考えてみましょう。不動産所得が500万円の赤字というケースで、「課税所得が900万円のケース」と「課税所得が1,800万円のケース」で比べてみます。

    【損益通算前の課税所得が900万円のケース】

    課税所得900万円-不動産所得の赤字500万円=400万円(損益通算後の所得)
     
    課税所得900万円に対する所得税(税率33%):1,434,000円(損益通算前)
     
    課税所得400万円に対する所得税(税率20%):372,500円(損益通算後)
     
    住民税所得割(税率10%):50万円(500万円×10%)
     
    還付金額:(1,434,000円-372,500円)+50万円=1,561,500円

     
    【損益通算前の課税所得が1,800万円のケース】

    課税所得1,800万円-不動産所得の赤字500万円=1,300万円(損益通算後の所得)
     
    課税所得1,800万円に対する所得税(税率40%):4,404,000円(損益通算前)
     
    課税所得1,300万円に対する所得税(税率33%):2,754,000円(損益通算後)
     
    住民税所得割(税率10%):50万円(500万円×10%)
     
    還付金額:(4,404,000円-2,754,000円)+50万円=2,150,000円

     
    この2つのケースから、不動産所得の赤字が同じ500万円であっても、損益通算前の課税所得が多いほうが節税効果はより大きいことが分かります。これは、日本の所得税は所得が多くなるほど税率が高くなる累進課税制度を採用しているためです。このように、不動産投資で赤字が生じた際の損益通算による節税効果は、所得の多い人ほど大きくなります。

    【所得税の税率】

    参考:国税庁 – No.2260 所得税の税率

    不動産投資で損益通算する注意点

    損益通算についてある程度の理解ができたかと思いますが、実際に不動産投資で損益通算する際には、いくつかのポイントに注意する必要があります。損益通算が認められていないケースもあるので、以下に解説します。

    赤字だと土地取得時のローン利子分は損益通算できない

    不動産所得を計算する際、不動産を取得するために借り入れた借入金の利子は、必要経費として収入から差し引くことができます。

    しかし税法上、土地取得時のローン利子分は損益通算の対象とはならないと決められているため、不動産所得が赤字であっても、ローンの利子の中の「土地に関する部分」は損益通算することができません(※「建物に関する部分」は損益通算できます)。

    参考:国税庁 – No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算

    ではここで、全額借入を利用して土地と建物を5,000万円で購入したケースを考えてみましょう。購入金額のうち土地に関する部分が3,000万円、建物に関する部分が2,000万円、利息が2%と仮定すると、土地購入に関わる借り入れ利息は60万円、建物購入に関わる借り入れ利息は40万円となります。

    ➀不動産取得時のローン利子分や減価償却費を含む、その他の必要経費控除後の不動産所得が100万円という赤字のケース:
    建物購入に関わる借り入れ利息分にあたる40万円は損益通算が可能ですが、土地購入に関わる借り入れ利息分にあたる60万円は損益通算が認められません

    ②不動産取得時のローン利子分や減価償却費を含む、その他の必要経費控除後の不動産所得が60万円という赤字のケース:
    赤字の額が土地購入に関わる借り入れ利息分の60万円と同額なので、損益通算はできません

    このように、不動産所得の赤字から「土地購入に関わる借り入れ利息の金額」を控除した額が損益通算可能となり、不動産所得の赤字が土地購入に関わる借り入れ利息より少ない時には損益通算はできない、ということになります。

    【注意!】
    ここで説明しているのは、不動産所得と不動産所得以外の所得との間で損失と利益を相殺できるか否かということですので、不動産所得同士での損益の通算は認められています

    「A不動産の所得が100万円」「B不動産が80万円の赤字」というケースでは、土地購入に関わる借り入れ利息の金額に関係なく、A不動産の利益からB不動産の損失を差し引いて、不動産所得は20万円となります。

     

    国外の中古不動産は損益通算できない

    国外の中古不動産は年数が経過しても大きな価値の減少がなく、中古でも建物の価格が高いため、減価償却費を多額に計上できます。そのため、以前は節税に利用されるケースが多く存在していました。

    しかし令和3年に税制が改正され、国外の中古建物の不動産所得に損失が生じても、「簡便法」によって耐用年数を計算した減価償却費は生じなかったものとみなされることになりました。このことから、国外の中古不動産によって生じた損失は事実上、損益通算の対象から外れることになり、節税目的で国外の不動産に投資するメリットは減少したといえます。

    参考:国税庁 – No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算

    別荘などのリゾート物件は損益通算できない

    通常の生活に必要とは考えられない資産に関して生じた損失についても、他の所得と損益通算することは認められていません。不動産投資においては、「主として趣味、娯楽、保養または鑑賞の目的で所有する不動産」が生活に必要ない不動産とされており、別荘などのリゾート物件は損益通算できないため、注意が必要です。

    不動産投資で大切なのは「節税ではなくキャッシュフロー」

    ここまで損益通算について解説してきましたが、不動産投資の目的は収益を上げることであり、損益通算で節税することは本来の目的ではありません。

    税務申告上は不動産所得が赤字であっても、キャッシュフローは黒字という状態であればその時点での節税効果はありますが、そのままその状態が続くわけではなく、先ほど説明したデッドクロスが生じれば逆の現象が起こります。減価償却と損益通算を利用した節税スキームも存在しますが、節税対策を目的として不動産投資を行うのであれば、当初から出口戦略まで想定して計画を練る必要があります。

    ですから、損益通算による節税効果は副次的なものとして考え、本来の不動産投資によってキャッシュフローを最大化することを目指すことが望ましいといえるでしょう。

    ◆減価償却と損益通算で節税する点については、こちらの記事が参考になります。
    不動産投資の節税|効果が高い人と選ぶべき物件をチェック!

    不動産投資で赤字が生じたら損益通算で節税を

    この記事では、不動産投資の損益通算に興味を持っている人に向けて、損益通算のやり方やしくみについて解説しました。不動産投資で赤字が生じた時には、損益通算することで支払う税金を減らすことが可能ですので、しっかり知識を身につけて節税することをおすすめします。

    ただし繰り返しになりますが、節税にばかり気を取られて、不動産投資本来の目的を見失わないようにすることが大切です。

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