2021.06.21
税金

【贈与税と相続税、どっちが得?】税率や控除の違いを解説

贈与税と相続税は、どちらを利用したほうが得なのでしょうか。ある程度の資産を持つ人であれば考えてしまう疑問です。両者は税率や基礎控除が違い、それぞれに税優遇制度が設けられています。どちらが節税になるかは各家庭の状況に合わせて判断する必要があります。ここでは、贈与税と相続税の税率や控除の違いを解説し、よりよい資産譲渡がなされる方法について考えます。

贈与税と相続税、どっちが得なのか?

贈与税と相続税のどちらを選べば得なのかはよく話題になることです。しかし、どちらが得かは一概にはいえません。両者の特性を知った上で判断する必要があります。

贈与税と相続税は「見かけの税率」だけで比較してはいけない

贈与税と相続税は見かけの税率にかなり差があります。しかし、見かけの税率だけで比較しないことが大事です。相続税は資産に対してまとめて課税されますが、贈与税は、被相続人が生きているうちに、少しずつ贈与して基礎控除内に収めること可能です。

下表のように税率だけ比較すると贈与税が高いですが、基礎控除内で少しずつ贈与できるため、早めに生前贈与を行うことで税負担を抑えることができます。したがって、見かけの税率だけで贈与税のほうが不利とはいえないのです。

遺産、資産の額により生前贈与で相続税を減らす対策を行う

相続税は遺産、資産の額によって課税の有無が異なります。相続税の基礎控除は「3,000万円+法定相続人の数×600万円」です。法定相続人が1人の場合は3,600万円以下の相続額であれば、相続税は課税されません。したがって、基礎控除に及ばない相続資産しかなければ、あえて生前贈与する必要もないことになります。

しかし、資産が多くある人にとっては、生前贈与することで相続税を減らし、節税が行える場合があるので、相続対策をする必要があります。

贈与税と相続税の税率と実際に払う税額

では、贈与税と相続税の税率と実際に払う税額を比較してみましょう。

贈与税と相続税の税率の比較

贈与税と相続税は税率の区分は同じですが、基準になる課税金額に大きな違いがあります。

贈与税の「基礎控除後の課税価格」とは、その年度に贈与された合計額から基礎控除110万円を差し引いたのちの価格をいいます。合計額が110万円以下なら税率は0%となります。

相続税の「法定相続分に応ずる取得金額」とは、法律に規定された相続分に応じて計算された取得金額のことをいいます。たとえば、相続人が配偶者と子1人であれば相続分はそれぞれ1/2の金額となります。

▽贈与税と相続税の税率と課税価格・金額の違い

贈与税(特例税率) 相続税
基礎控除後の課税価格 税率 控除額 法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
200万円以下 10% 1,000万円以下 10%
400万円以下 15% 10万円 3,000万円以下  15% 50万円
600万円以下 20% 30万円 5,000万円以下  20% 200万円
1,000万円以下 30% 90万円 1億円以下  30% 700万円
1,500万円以下 40% 190万円 2億円以下 40% 1,700万円
3,000万円以下 45% 265万円 3億円以下 45% 2,700万円
4,500万円以下 50% 415万円 6億円以下  50% 4,200万円
4,500万円超 55% 640万円 6億円以超  55% 7,200万円

※20歳以上の子どもか孫に贈与した場合。
 
参考:国税庁- No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)No.4155 相続税の税率
 

同じ額を「贈与」「相続」した場合に払う税額の比較

では同じ額を渡す場合、贈与税と相続税ではどの程度税金の支払額に差があるのでしょうか。5,000万円を相続した場合と、5,000万円を500万円ずつ10回に分けて贈与した場合で比較してみましょう。

・5,000万円を相続した場合(法定相続人1人)
5,000万円から基礎控除3,600万円を引いた1,400万円に対し相続税が課されます。税率が15%、控除額が50万円なので1,400万円×0.15-50万円=160万円が相続税額となります。

・5,000万円を500万円ずつ10回に分けて贈与する場合(贈与税特例税率の場合)
まず500万円から基礎控除の110万円を引いた390万円が課税価格となります。税率が15%、控除額が10万円なので、390万円×0.15-10万円=48万5,000円が贈与税額となります。10回贈与するので、485万円が合計の贈与税額になる計算です。

この比較だけをみると、贈与のほうが税負担は大きいと感じるかもしれません。しかし、単純な税率だけで比較できないのも事実です。それは非課税枠の範囲内で贈与することができるからです。例えば毎年100万円ずつ10回に分けて贈与した場合だと、基礎控除110万円以下で贈与するため、贈与税はかかりません。

非課税枠を活用することを意識してやり方を変えてみましょう。毎年100万円ずつ10回に分けて贈与し、その後相続が発生したとします。この場合、5,000万円のうち贈与した合計額の1,000万円を引いた4,000万円から、基礎控除3,600万円を引いた400万円が相続税の対象になります。税率が10%、控除額ゼロなので、400万円×10%=40万円が相続税額となります。生前贈与を利用することにより、5,000万円を相続した場合よりも、160万円-40万円=120万円も相続税を安くすることができます。

このように、贈与の仕方によっては相続税よりも有利になる場合があるのです。ただし、毎年同じ100万円を同じ時期に10年間贈与し続けると「連年贈与」とみなされる恐れがあります。連年贈与とみなされると1つの贈与として課税される場合があるので注意が必要です。

連年贈与とみなされないためには、毎年贈与契約を結ぶ、多少の税額を払ってでも贈与額を調整する、贈与を受ける本人が通帳や印鑑を保管するなどの対策が必要です。

贈与税と相続税の控除と安く抑える活用方法

次に、贈与税と相続税の控除と安く抑える活用方法について考えてみます。

贈与税の控除と非課税になる特例の活用方法

贈与税の控除と非課税になる特例の活用方法には以下のようなものがあります。

・暦年贈与
1月1日から12月31日までの1年間の間に贈与することを暦年贈与といいます。年間110万円の基礎控除があるため、贈与額が110万円以下であれば贈与税はかかりません。

・生活費としての贈与
生活費や教育費などの資金を贈与する場合は、原則として課税されません。親族間で家族を扶養するための資金に課税するのは適切ではないからです。ただし、生活費として渡された資金を投資に使った場合などは贈与税が課されます。

・各種特例の利用
贈与税には以下のような特例があるので、利用できるものは利用しましょう。

(1)配偶者控除の特例
夫婦間で居住用の不動産または不動産の購入資金を贈与する場合は、「配偶者控除の特例」を利用できます。贈与税の基礎控除の110万円に加えて、最大2,000万円までの贈与が非課税となります。生前贈与加算(相続開始前3年以内の贈与が、相続資産に加算される制度)の対象外である点も有利です。

(2)住宅取得等資金の贈与非課税の特例
親または祖父母から子どもや孫に対して、住宅を取得するために贈与する場合は、「住宅取得等資金の贈与非課税の特例」を利用できます。贈与税基礎控除の110万円に加えて、最大1,500万円の贈与税が非課税となります。特例の1,500万円という金額が適用されるのは、新築等にかかる契約(消費税10%の場合)の締結が2020年4月1日~2021年3月31日までの間に限られます。

(3)結婚・子育て資金の贈与非課税の特例
親または祖父母から子どもや孫に対して、結婚や子育ての資金を贈与する場合は、「結婚・子育て資金の贈与非課税」の特例を利用できます。贈与税基礎控除の110万円に加えて、最大1,000万円の贈与税が非課税となります。ただし、結婚資金としては最大で300万円までです。

(4)教育資金の贈与非課税の特例
親または祖父母から子どもや孫に対して、教育資金を贈与する場合は、「教育資金の贈与非課税」の特例を利用できます。贈与税基礎控除の110万円に加えて、最大1,500万円の贈与税が非課税になります。ただし、学校や塾等へ直接支払われるもの以外の資金は最大500万円までです。

・障害者への贈与
障害者へ生活費や治療費に充てるために、一定の信託契約に基づいて資金を贈与する場合は、贈与税が非課税になります。非課税枠は、特別障害者である特定障害者へ贈る場合は最大6,000万円まで。特別障害者以外の特定障害者へ贈る場合は3,000万円までとなっています。

・生命保険を活用する方法
生命保険などの保険契約で、契約者が子ども、被保険者が親、受取人が子どもの場合は贈与税が非課税になります。贈与の方法は、親から子どもに贈与税非課税範囲内(年間110万円以下)で保険料と同じ額の現金を贈与し、子どもは受け取った現金で保険料を支払います。ただし、生命保険料を受け取るときは金額によっては所得税がかかる場合があります。

・不動産の活用
節税のために不動産を活用することもできます。贈与税を計算する不動産評価額は、不動産の市場価格(実勢価格)の7割となります。したがって、5,000万円の現金で5,000万円の不動産を購入して贈与すれば、贈与税の課税価格は3,500万円として評価されます。

【参考】相続時精算課税制度の利用は要注意

相続時精算課税制度を利用すると、2,500万円まで贈与税から控除できます。高い節税効果が得られる制度ですが、注意すべき点があります。

まずこの制度は、名前のとおり、相続時に精算して課税する制度です。贈与時に課税されなかった贈与資産は、相続が発生したときにあらためて相続資産と合算されます。贈与税の課税を先送りする性格が強い制度ですので、いずれは払うものと理解しておく必要があります。

また、相続時精算課税制度を利用すると、以後暦年課税制度は二度と利用できなくなります。贈与額が100万円だった年に、基礎控除の110万円以内だから大丈夫と勘違いして未申告にすると、20%の贈与税が加算されてしまうので注意が必要です。

暦年課税を使って110万円の基礎控除の範囲で細かく贈与したほうが節税になる場合もあるので、両者を比較して判断する必要があります。

相続時精算課税制度は、贈与額が2,500万円に達するまでは繰り返し使えます。ただし、2,500万円を超えた部分は20%の贈与税が課税されます。そのため、税負担が重くなることがある点もデメリットです。

もう1つのデメリットとして、不動産の場合は節税対策になる「小規模宅地等の特例」を利用できない上、相続ならかからない不動産取得税や登録免許税がかかる点も気をつけたいところです。

以上のように、この制度はデメリットも多いため、現在では利用する人が少ないといわれます。2,500万円という数字だけで有利と思い込まないことが大事といえそうです。

 

相続税の控除と税額軽減になる特例の活用方法

一方、相続税の控除と税額軽減になる特例の活用方法には、以下のようなものがあります。

・贈与税額控除
「贈与税額控除」とは、贈与税と相続税が二重課税になることを防ぐための制度です。贈与税には、相続開始前の3年以内に贈与した場合は、相続時に相続資産として組み戻されるというルールが存在します。しかし、贈与した時点で贈与税を支払っている場合、相続時に組み戻された分にも相続税が課せられると二重課税になってしまいます。

「暦年贈与」の場合は、相続税の課税価格に加算された贈与資産の支払い済み贈与税を、相続税額から控除することができます。「相続時精算課税」を選択している場合は、支払った贈与税がある場合に同じく相続税額から控除されます。すでに納めている贈与税額が相続税額を上回る場合は、相続税は非課税です。控除しきれなかった贈与税は還付を受けることができます。

・配偶者控除
「配偶者控除」とは、配偶者が相続する遺産の評価額1億6,000万円まで非課税になる制度です。仮に1億6,000万円を超えたとしても、法定相続分までは税金がかかりません。配偶者の法定相続分は下表のとおりです。

▽法定相続人による配偶者の法定相続分

法定相続人 配偶者の法定相続分
配偶者と子ども 遺産の2分の1
配偶者と親 遺産の3分の2
配偶者と兄弟姉妹 遺産の4分の3
配偶者のみ 遺産のすべて

 
・未成年者控除
「未成年者控除」とは、満20歳以下の相続人が相続や遺贈によって資産を取得した場合に、相続税から控除を受けられる制度です。控除額は「相続開始からその人が20歳になるまでの年数×10万円(1年未満の期間は切捨て)」という基準で計算されます。たとえば、未成年者の年齢が15歳6ヵ月の場合、15歳として計算されるので、5年×10万円=50万円が控除額となります。

・障害者控除
「障害者控除」とは、85歳未満の障害者が相続人になる場合に税額控除される制度です。相続税額から控除額が差し引かれます。障害者は症状の程度によって「一般障害者」と「特別障害者」に分かれます。計算式は以下となります。

一般障害者 (85歳-相続した年齢)×10万円=控除額
特別障害者 (85歳-相続した年齢)×20万円=控除額

・相次相続控除
「相次相続控除」とは、相続が相次いだ際に税金の控除を認める制度です。相続が相次ぐとは、父親が亡くなって(1次相続)から3年後にまた母が亡くなって相続が発生(2次相続)するようなケースです。1次相続から2次相続までの期間が10年以内の場合、相続税額から一定の額を差し引くことができます。

・小規模宅地等の特例
「小規模宅地等の特例」とは、被相続人と一緒に住んでいた土地を相続した場合、330㎡まで相続価格が80%減額される制度です。一例として8,000万円の土地を相続し、特例を使った場合と、使わなかった場合の税額の差は以下のとおりです。

(1)ケースA:小規模宅地等の特例を使わない場合(法定相続人1人)
相続価格8,000万円から基礎控除の3,600万円を引いた4,400万円に課税されます。4,400万円に対する相続税率は20%、控除額は200万円なので、4,400万円×0.2-200万円=680万円が相続税額となります。

(2)ケースB:小規模宅地等の特例を使った場合(同)
相続価格が8,000万円から80%減額され、1,600万円になります。1,600万円から基礎控除の3,600万円を差し引くので、土地の相続税額はゼロになります。

680万円の相続税額が、特例を利用することによってゼロになる大変大きな優遇税制です。

まとめ:贈与税と相続税の特性を理解し、最善の資産譲渡を行うことが大事

「贈与税と相続税、どっちが得?」というテーマで両者の税率や控除の違いをみてきました。結論をいうと、どちらが得かはケースによるということです。

相続税には「3,000万円+法定相続人の数×600万円」という基礎控除があります。かなり大きな控除額のため、ほとんどの人は相続税の課税対象にはなりません。国税庁の調べによると、平成30年中に亡くなった人(被相続人)は5万638人です。そのうち相続税の課税対象になった人は3,388人で課税割合はわずか6.7%に過ぎません。

資産額が少ない人であれば、特定の人に贈与したい場合でない限り、普通に相続させれば非課税で済みます。しかし、相続税の基礎控除を上回る多額の資産がある場合は、相続対策として生前贈与が必要になります。

贈与税には年間110万円の基礎控除をはじめ、さまざまな控除がありますので、上手く利用すれば節税効果を得られるはずです。贈与税と相続税の特性を理解して、ケースバイケースで最善の資産譲渡を行うことが求められます。

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