2021.06.21
賃貸管理

賃貸退去時の費用で大家さんの負担は?トラブルを回避する方法を解説

入居者が賃貸物件から退去する際には、室内の状況を確認します。もし室内に破損や不具合など、元の状態とは異なる箇所があった場合、修繕をしなければなりませんが、この費用を入居者と大家のどちらが負担するのか、じつは判断に困ることも多いのではないでしょうか。

今回は賃貸退去時の費用について、室内の修繕費用などは大家さんと入居者のどちらが何を負担するのか、賃貸退去時に大家さんが確認すべきポイント、トラブルを回避するための注意点などについて解説します。入居者の退去時のトラブルをなくすためにも、ぜひ確認していきましょう。

賃貸退去時の費用負担の原則

賃貸退去時に発生する費用は原則として借主と貸主のどちらが負担するのでしょうか。室内を借りたときの状態に戻す原状回復については、しばしばトラブルの原因になります。まずは、原状回復に関する基本的な考え方について確認しましょう。

1.「原状回復」と「原状復帰」の違い

「原状回復」と「原状復帰」は似たような言葉ですが、どのような違いがあるのでしょうか。実はこの2つは意味に大きな違いはありません。原状回復は法律用語、原状復帰は建設用語で使う場面が異なる言葉です。原状とは元の状態という意味で、原状回復は賃貸物件でいえば入居したときの状態に戻すことを意味します。一方の原状復帰は建設現場で工場などを解体する場合、完全に更地(原っぱ)にする必要があることから使われるようになった言葉です。

2.原状回復の負担の法律的な解釈

原状回復の定義について、国土交通省が作成した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」に次のように記載されています。

原状回復とは、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること。

【引用】国土交通省 原状回復をめぐるトラブルとガイドライン

借主の義務についての表記になっていますが、通常に使用していても発生する経年変化や通常損耗までは原状回復の義務はないとされています。

原状回復の費用負担の法律的な解釈については、2020年に改正された民法621条で次のように規定されています。

賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りではない

【引用】民法第六百二十一条 賃借人の原状回復義務

賃借人に原状回復の義務はありますが、賃借人の責任によってできた損傷でないものは回復の義務がないことが明文化されています。

原状回復において大家さんが負担しなければならないケースとしては、おもに2つ考えられます。1つは、経年変化や自然損耗による修繕です。経年変化とは畳が日焼けするなど、普通に使用しても時間の経過とともに変化するものをいいます。自然損耗は、カレンダーを壁に貼る場合につく画鋲の跡などが該当します。2つめは、古くなった設備の交換や、築年数の経過により行う物件の大規模修繕費用などです。

借主と大家さんが負担する分担例は、下記国土交通省のガイドラインに詳細が記載されていますので、参考にされるとよいでしょう。

参考:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」

【参考】原状回復で大家さんが負担する費用の具体例
 
上記、国土交通省のガイドラインに例示されている原状回復の費用分担のうち、大家さんが負担する費用を抜粋すると以下のようになります。
 
【賃借人が通常の住まい方、使い方をしていても発生すると考えられるもの】
・家具の設置による床、カーペットのへこみ、設置跡
・畳の変色、フローリングの色落ち
・テレビ、冷蔵庫の後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気ヤケ)
・壁に貼ったポスターや絵画の跡
・エアコン(賃借人所有)設置による壁のビス穴、跡
・クロスの変色(日照などの自然現象によるもの)
・壁等の画鋲、ピン等の穴(下地ボードの張替えは不要な程度のもの)
・地震で破損したガラス
・網入りガラスの亀裂(構造により自然に発生したもの)

【次の入居者を確保するための化粧直し、グレードアップの要素があるもの】
・畳の裏返し、表替え(特に破損していないが、次の入居者確保のために行うもの)
・フローリングワックスがけ
・網戸の張替え(破損等はしていないが、次の入居者確保のために行うもの)

ここに記載した事例に当てはまる部分は、大家さんの負担としてあらかじめ費用を準備しておく必要があります。ガイドラインに記載されていない部分や、賃借人と賃貸人のどちらが負担するか微妙なグレーゾーンの部分もあるため、迷ったら不動産管理会社に相談してみるとよいでしょう。

 

3.敷金は退去時の「原状回復」費用なのか?

これまで敷金というと退去時の原状回復のために大家さんや不動産管理会社が預かっておくお金という解釈が一般的でした。ところが、先に紹介したように、2020年の民法改正により敷金の返還について、次のように明文化されました。

次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない

【引用】民法第六百二十二条の二

そのため大家さんは改正前よりも敷金返還ルールをしっかり確認する必要が生じています。

敷金について関西には「敷き引き」という独特の習慣があります。賃貸借契約における敷金の一部を返還しない特約を設けるという商習慣です。関東でいう礼金にあたる性格のお金で、「保証金4ヵ月、敷き引き2ヵ月」となっていれば、2ヵ月分は退去時に一切返還されないという仕組みです。

今回の民法改正では礼金に対しては触れていないため、関西の敷き引きが礼金の性格であれば大きな変化はない見込みです。しかし、改正民法第622条の2で敷金の定義について「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう」と規定しています。そのため、契約時に「担保目的ではない」と明記されていない場合は返還する必要が生じる可能性があります。

大家さんのための5つの退去時費用軽減方法

一時的にせよ空室が出るのは大家さんにとってはマイナスです。なので、退去時にかかる費用はできる限り抑えたいところです。退去時費用を抑えるには以下のような5つの方法が考えられます。

1.退去時の立会いをしっかり行う

1つめは最も基本的なことですが、退去時の立会いをしっかり行うことです。原状回復で借主の負担になる箇所を多く発見できれば、その分大家さんの負担が軽くなります。借主とともに確認するので、チェックする箇所を一覧表にしておくとお互いにわかりやすいでしょう。

退去時の立会いについては、3章で詳しく説明します。

2.日頃から室内の確認を行う

日頃から室内の確認を行うと、早い段階で修繕すべき箇所が見つかるかもしれません。室内の使い方に問題がある場合は、入居者に伝えて改善してもらうこともできます。時期については、マンションの火災報知設備(非常ベル)の点検が6ヵ月ごとに行われるので、同じタイミングで各戸の点検を行えば入居者に手間をとらせなくて済みます。

3.入居者の審査を厳正に行う

入居者の審査を厳正に行うことも費用の軽減につながります。室内を丁寧に使ってくれる入居者を選ぶことで、傷みや損傷が少なくなり、結果的に退去時の修繕費用も軽減されます。原状回復の費用が少なければ入居者にも多くの敷金を返還できるので、お互いのために望ましい形になります。

また、善良な入居者であれば丁寧に使ってくれるだけでなく、家賃の滞納などもないと思われますので、いろいろな面でリスクの少ない賃貸経営を行うことができます。

4.退去の後のハウスクリーニング代を抑える

入居者が退去すると、次の入居者を募集するためにハウスクリーニングを行う必要があります。
箇所別のクリーニング費用の相場は下表のとおりです。

▽ハウスクリーニングにおける場所別・費用の相場

場所 費用相場
浴室 1万2,000円~1万8,000円
キッチン 1万2,000円~2万円
レンジフードや換気扇 7,000円~1万3,000円
トイレ 6,000円~9,000円
洗面所 7,500円~1万円
床のクリーニング・ワックスがけ 8,500円~1万5,000円
エアコン 8,000円~1万6,000円
総額 6万1,000円~10万1,000円

※2021年現在、インターネット上に掲載のある各業者の費用より編集部調べ

相場表にあるように、業者によってかなり費用に差があるので、安くて作業も丁寧な業者を見つけることで負担を減らすことができます。日ごろからインターネットなどでリサーチしておくことが望ましいでしょう。

5.ペット禁止を明文化する

多くの賃貸物件ではペットの飼育を禁止していますが、入居時にしっかりルールとして明文化することが大事です。違反して飼ったことにより生じた損傷や臭いなどがあれば、原状回復時に借主の費用負担にすることができます。「ペット可」としている物件の場合は、どの程度の損傷なら借主の負担になるのかを決めておく必要があります。

賃貸退去時の立会いについて

賃貸退去時の立会いは、退去後の修繕費用を賃借人と賃貸人のどちらが負担するかを明確にするために行います。先述したように民法の改正で賃借人と賃貸人の負担割合が明文化されましたので、あとでトラブルにならないように慎重に確認する必要があります。立会いのタイミングや、立会いの時の確認項目の準備について、確認しましょう。

1.退去時立会いを行うタイミング

退去時立会いのタイミングとしては引っ越しする日から解約日までの間に行う必要があります。原状回復が目的の立会いですので、部屋の荷物がすべて運び出された時点で行うのがベストです。空室になったことで確認がしやすくなり、入居時との比較が容易になります。

2.賃貸退去時の立会い、大家さんが確認すべきこと

賃貸退去時の立会いで大家さんが確認すべきこととして、以下のようなポイントがあります。

3.退去後の引っ越し先や連絡先を聞いておく

これは必ず行う必要があります。敷金返還に関する連絡をはじめ、退去後に連絡しなければならないことが出る可能性があります。退去後間もない時期は郵便物や荷物が届くこともあるでしょう。

4.ライフラインの停止手続きをしたか確認する

電気・ガス・水道・インターネットなど、ライフラインに関する停止手続きをしてあるかも確認しましょう。停止手続きを忘れていると、次の入居者が早く決まった場合に新規使用手続きに支障が出る場合もあります。

5.原状回復の確認を行い、費用負担割合を確定する

引っ越しの日に、荷物をすべて運び出したら賃借人とともに室内をチェックし、原状回復の費用負担割合を確定します。可能であればリフォーム業者に立ち会ってもらい、修繕箇所の見積金額を出してもらえばスムーズに退去してもらえます。見積もりが出たら、賃借人に了承のサインをもらうようにしましょう。

◆あわせて読みたい
原状回復費用は誰が負担すべき?貸主と借主の責任負担と費用の相場観

立会い後、別の修繕必要箇所が見つかったらどうする?

立会いが終わったあとに修繕が必要な箇所が見つかった場合はどうすればよいのでしょうか。明らかに賃借人が作った傷や汚れであれば費用を請求することは可能です。敷金の返還は1~2ヵ月以内で、しばらく預かっているため、実際には請求ではなく敷金から差し引く形になるでしょう。

ただし、すでに立会いを行って双方で確認したはずですので、あとから請求しても納得してもらえない可能性があります。トラブルにならないよう、新たに見つかった箇所の写真を撮って丁寧に説明することが大事です。

まとめ:退去時立会いをしっかり行えばトラブルを回避できる

ここまで賃貸退去時の費用や、大家さんの負担について国土交通省のガイドラインを基に詳しく見てきました。民法の改正は、どちらかというと借主に有利な改正といえます。それだけに、大家さんにとってはルールの範囲内で少しでも費用を抑える工夫が必要になります。原状回復の費用負担で損をすることがないように日ごろから対策を打っておくことが大事です。

退去時に立会いをしっかり行うことでトラブルを回避し、スムーズに次の入居者を迎えられるように準備しておきましょう。

文・丸山優太郎

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