賃貸物件からの退去時、入居者には原状回復の義務があります。きちんと原状回復されているかどうかを確認するために行うのが、退去時の立会いです。しかし原状回復については誰がその費用を負担するかによって双方の利害が相反しているため、トラブルに発展しやすいものです。
事実、退去時のトラブルは原状回復に関するものがほとんどで、本来は入居者の責任による原状回復が必要なのにそれを認めないケースや、費用負担を避けるために問題箇所を隠したり偽装したりするといった悪質なケースもあります。汚損1つにしても責任の所在をはっきりさせなければトラブルの原因になるので、今回は退去立会い時のトラブルを回避する方法を7か条で解説します。
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A:油汚れの放置は、善管注意義務違反にあたる可能性があります。基準を示して交渉すれば入居者に負担してもらうことができます。
退去時の原状回復に関する費用負担には、明確な基準があります。国土交通省が定めている「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が基準となっており、これによると入居者の故意や過失、善管注意義務(善良な管理者の注意義務)の違反、通常の使用を超えるような使い方による損耗や損傷はいずれも入居者に原状回復の義務があると定義されています。
【参考】国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について
経年劣化は入居者の落ち度ではないので原則としてオーナーが負担するものですが、何か特別な設備がある場合などはその責任の所在をどうするのか、そのほか契約における特約条項などについてもしっかり確認をしましょう。トラブルを防ぐのも解決するのもすべて、契約書がその根拠となります。
退去立会いのトラブルは誰にもメリットがないので、できるだけ避けたいものです。そこでありがちなトラブルを回避するために、以下の7か条を実践してください。
管理会社などに委託をしている場合であっても可能な限りオーナー本人も退去時の現場に立会いましょう。何事も自分の目で見ることはとても大切で、退去時の立会いは一度しかない大切な機会です。その機会を無駄にしないためにもオーナー自身が確認し、必要に応じて写真を撮っておくことも強くおすすめします。
退去時の確認は、やはりプロの目でしっかりとチェックするのが無難です。オーナーがその道のプロであればよいのですが、そうではない場合、もしくは自信がない場合は管理会社やリフォーム業者など、プロに同席してもらってプロの目で退去時確認をしてもらいましょう。
退去の立会いは家財道具がすべてなくなった状態、つまり引っ越しの準備が完了した状態で行いましょう。そうでなければ家財道具に隠れた部分の汚損や破損などを見つけにくくなるからです。逆に家財道具がすべてなくなった状態での退去立会いを渋る入居者には、「何かある」と考えたほうがよいかもしれません。
原状回復費用の負担については、国土交通省のガイドラインに準拠するべきであると述べました。多くの賃貸契約書や原状回復のトラブルが起きたときの「落としどころ」がこのガイドラインに準拠しているため、このガイドラインから逸脱することがなければ比較的スムーズに解決できるようになります。
退去時の立会いは、オーナー側だけでなく入居者(退去者)も立ち会って行われます。そこで確認した内容はすべて口約束にせず、書面に残しておくことが重要です。そして入居者の同意を証明するためにサインをしてもらいます。また、あとになって何らかの連絡の必要が生じたときのために、退去後の連絡先を確保しておくことも忘れないようにしましょう。
原状回復の費用負担だけでなく、実務的な部分にも気を配りましょう。入居者が使用していた光熱費やインターネット回線使用料などの契約が残っているとオーナーが勝手に解約することもできないので、入居者がこうした契約について手続きを済ませているかもチェック項目になります。
退去時の立会いというと室内の汚損や破損にばかり注目してしまいがちですが、室外もしっかりとチェックしましょう。破損や汚損だけでなく、忘れ物が発生する可能性が高く、自転車や子供の乗り物などの置き忘れがないか、退去時のごみ出しは適切におこなわれているかといった点もチェックすることで、よりスムーズに退去手続きを完了させることができます。
トラブルの発生しがちな退去立会いですが、そのおおよそが、それぞれの常識に基づいた主張に起因しています。まずは現状の事実確認をオーナー自ら行うこと、そして、国交省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」や契約書の記載事項など、明確な基準に則って負担を整理することが重要です。また合意を得たら、書面に残すことも忘れずに行いましょう。
この退去時の立会いに、管理会社などがあればプロの同席も求めてみましょう。プロがどんなところに目を光らせているのかを見て学べる機会となるでしょう。
さらに、このとき、可能であれば退去者に退去の理由を尋ねてみてください。本人の事情によるものではなく物件に何か不満があるのであれば、それを知ることで物件の価値改善に役立てることができます。
このようにオーナーも自ら参加することを心がけて経験値を高めることが不動産オーナーとしてのキャリアアップにつながります。入居者の退去は残念な部分もありますが、トラブルは避けて、次のチャンスへつなげる機会にしていきましょう。