2023.09.11
税金

相続税のタワマン節税にメス!新たな算定ルールの内容とは

相続税のタワマン節税は今後厳しくなる見通しで、タワーマンション購入による相続税の節税を考えていた人にとっては大きなニュースでしょう。本記事では、相続税のタワマン節税の仕組み、これまでの現状、2024年以降の新ルール適用によって相続税の評価がどう変わるのかを解説します。ぜひこの記事を参考に、しっかりと対策を考えていきましょう。

【著者】水沢 ひろみ

 

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タワーマンション節税とは?

タワーマンションとは、1棟の階数が20階以上あるような高層のマンションを指します。希少な立地条件、かつ地価の高い場所に高層の建物を建てることで、空間を最大限有効に活用することが可能であり、利便性や高級感から富裕層に人気となっています。億を超える高額な物件が多数を占めることから、タワマンに住むことは一種のステータスともいえます。

このタワマンを所有することで節税効果が期待できるという節税スキームが広がり、居住目的に加えて相続税対策としても購入する人が増加し、タワマンの人気にさらに拍車がかかりました。

相続発生の際には、財産を現金で所有しているよりも、不動産で所有しているほうが相続税の評価において有利になるケースが多いことは一般に知られています。ですから、相続対策として不動産を購入することは昔から行われてきましたが、タワマンを購入する場合には、相続税の評価でさらに有利になるケースが多くみられました。

立地に優れたタワマンは人気がありますから、所有している間に賃貸すれば多額の賃貸収入が見込めますし、相続が発生した際に有利となれば、富裕層にとっては大きな魅力です。

しかし、このタワマン節税のスキームが広く知られるようになると、税負担の不公平感から社会的に問題視されるようになりました。では、タワマンを所有することでなぜ相続税対策になるのでしょうか?また、そのスキームは今後も有効なのでしょうか?これらのポイントについて、次章以降で詳しく解説します。

タワーマンション購入で節税する仕組み

相続税算定の基となる財産評価は、相続発生時の時価とされるのが原則です。しかし、不動産の相続税を算定する際、時価の把握が簡単にできるわけではありません。

そこで、土地付き建物の相続税を評価する際には建物と土地に分けて、建物の価額は固定資産税評価額で評価し、土地の価格は路線価等を基に評価するという方法が取られています。そして、それぞれの基準で評価した後に両者を合算した額を相続税の評価額としています。このようにして算定された相続税評価額は、時価の6割前後となるケースが一般的でした。

ところが、いわゆるタワマンと呼ばれるマンションでは、相続税評価額と時価の乖離が大きく、4割前後となるケースが多いことから、相続税対策として注目されるようになったのです。

相続税評価方法と市場価格との乖離が大きくなった原因

タワマンの相続税評価方法と市場価格との乖離がこれほど大きくなった原因は、どのようなところにあるのでしょうか?

マンションを所有する際の敷地利用権は、敷地全体を部屋の面積の割合で共有している状態です。タワマンのような高層マンションでは、狭い土地の上の空間を縦方向に利用することで広い空間を確保しているため、相対的に1部屋ごとの敷地利用権は非常に割合が小さくなります。ですから、タワマンにおいては土地の価値が相続税の評価に反映される割合が少ないということです。

しかし、タワーマンションの時価が高いのは、都心からの距離の近さや利便性、眺望など立地条件の良さや希少性によるところが大きいので、土地の価値が大きく関係しています。それなのに土地の価値が反映される割合が少ないため、これらの要因が相続税の評価に反映されなくなっているという現象が起きているのです。

また、タワーマンションでは高層階になるほど高額で取引される現状があるのにも関わらず、相続税の評価では低層階も高層階も同様の評価になることから、高層階ほど節税効果が高くなるケースが多いのも有名な話です。

建物の固定資産税評価額は再建築価格を目安にしていますので、土地の時価の高い場所に建てても低い場所に建てても、評価は変わりません。

このような要因によって、立地に恵まれ高額で取引されるタワマンほど、相続税評価額と市場価格との乖離が大きくなっていると考えられるのです。

そして、賃貸物件ではさらに評価減を受けられる仕組みもあります。さらに、タワマンを購入する際の資金の一部を金融機関などから借り入れた場合、借入額の分は相続財産からマイナスできるので、場合によってはタワマン以外の相続財産の評価も下げることが可能になります。以下に、令和4年の最高裁判決の事例を基に、タワーマンション購入で節税する仕組みの具体的な計算例を紹介しましょう。

具体的な計算例(令和4年の最高裁判決の事例)

事例として、金融機関から約10億円の借入を行い、合計で約14億円のタワマンを2棟購入したケースを紹介します。この場合、従来の計算方法で計算した結果、この物件の相続税評価額は合計で3億3,000万円という計算になりました。

先ほど説明したように金融機関からの借入はここから差し引いて計算できるため、結果として相続財産は6億円以上のマイナスと評価することが可能です。そしてこのマイナス分はそのほかの財産から控除できるので、タワマン以外に相続財産があっても、このマイナス分と相続税の基礎控除(※注)の合計分までは相続税がかからないはず、ということになります(あくまで計算上の話であり、これが国税局で認められるかは別の問題です)。

注:相続税の基礎控除とは、相続財産の中で相続税がかからない範囲の金額をさし、以下の計算で求められます。

相続税の基礎控除額=3,000万円+(600万円×法定相続人の数)

 

2024年以降は新ルール適用により節税が難しくなる可能性

これまでのように極端な節税目的でタワマンを購入する事例が目立つようになりましたが、極端な節税に利用されることは、相続税評価の基準を定めた本来の趣旨からは大きく外れるといえます。

タワマンとタワマン以外の相続税の乖離が大きくなり、公平性に欠ける状況が問題とされ、令和5年の税制改正の大綱では、マンションの相続税評価の適正化に関する内容が盛り込まれました。これにより、2024年度以降、マンションの相続税評価についての制度改正が行われる見通しです。

このようなタワマン節税の現状や今後の見通しなどについて、以下で詳しく解説していきましょう。

発表された新たな算出ルールについて

令和5年の税制改正の大綱を受けて、国税庁がマンションの相続税評価の見直し案を公表しました。具体的には、相続税評価額と市場価格の乖離の原因と考えられる敷地持分の狭小度・築年数・総階数・所在階の4つの指数を用いて、タワーマンションの評価額の修正を検討することとしています。

これらの指数の乖離率を予測して、相続税評価額が市場価格(理論値)の60%になるように修正するとされています(市場価格の60%という目安は、現在の一戸建ての評価と足並みをそろえる意図があります)。

相続税評価額が市場価格の60%以上である場合には、従来通りの評価を行うことになります。具体的には、

  • 居住用のマンションであること
  • 総階数が2階以下の物件や居住用部分が3以下でそのすべてが親族の居住用である物件(二世帯住宅等)以外であること
  •  
    等を条件として、以下の方法で評価することとされています。

  • 相続税評価額が市場価格理論値の60%未満となる場合には、市場価格理論値の60%になるよう評価額の修正を行う
  • 評価水準が60%~100%のケースは、現行の方法で評価する
  • 評価水準が100%を超えるケースでは、100%となるよう評価額の減額を行う
  •  

    相続税評価額の修正=相続税評価額(現行の評価法)×マンション一室の評価乖離率×最低評価水準0.6(定数)

     
    参考:国税庁 – マンションに係る財産評価基本通達に関する有識者会議について

    要するに、従来の評価方法による相続税評価額が市場取引価格と比較して大幅に低くなるケースでは、市場価格の約6割の水準に評価されることになります。たとえば、2億円のタワマンを購入して相続税評価額を8,000万円と計算しても、評価額は1億2,000万円として修正されるということです。

    このことから、今後タワマンの相続税節税効果は期待できなくなるということを覚えておく必要があるでしょう。

    これまでにとられてきたタワマン節税への対策

    これまでにも、タワーマンションを利用した節税に対しては、さまざまな対策がとられてきました。

    平成29年度税制改正では、固定資産税の算定の際に、実際の分譲価格を反映して按分計算して評価することで、取引額が高額になる高層階になるほど固定資産税が高くなるように見直しが行われました。

    ただし、この規定は平成29年1月2日以後に新築されたマンションに適用されることになっているため、それ以前に建てられたマンションは対象外となります。また、この改正は固定資産税の「税額計算の見直し」であって、「固定資産税の評価」の見直しについての改正ではないため、相続税法上の評価には直接の影響はないといえます。

    しかし、令和4年4月にタワマン節税を否認した最高裁判決が出され、タワマン節税に関心のある人たちの注目を集めました。その内容としては、約13億円でタワーマンションを購入し、銀行からの多額の借り入れを利用することで、相続税算定の基礎となる評価額を基礎控除の範囲内に抑え、相続税の申告を0円としたケースです。(※上記の計算例)

    このケースでは、

  • 貸し付けた信託銀行側の証拠によって、被相続人と相続人には最初から相続税軽減のための意図があったと認定できること
  • マンション購入時点で、被相続人の年齢がかなり高齢であったこと
  • 約6億円あった本来の相続税の課税価格を、基礎控除以下の2,800万円にまで下げ、相続税額を0円としたこと
  • 相続発生から9カ月ほどしか過ぎておらず、相続税申告書の提出前にもかかわらず相続人が購入したマンションを、相続税評価額を大きく上回る額で売却していること
  •  
    など、タワマンを利用した節税であることがあからさまな事例であったため、最高裁で財産評価基本通達6項の適用対象と判断し、相続税額を2億4千万円とする国税庁の更正処分を適正と認めました。

    財産評価基本通達6項では、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と定められています。

    このように、明らかに相続税逃れのための意図があると判断されるケースでは、これまでもタワマンを利用した節税は否定されるリスクがありました。2024年以降に新ルールが適用されることになると、ケースごとに判断されていたルールが統一され、一律に判断されることになると考えられるでしょう。

    節税だけを目的とした不動産投資は避けよう

    相続税に限らず、税金対策のために行う不動産投資は、国税庁に目を付けられる可能性があります。申告した相続税額を国税庁に否定され、追徴課税されることになれば、本来の相続税額以上の税額を支払わなくてはならないリスクがあります。

    立地に恵まれ、利便性が高く、高いステータスのシンボルでもあるタワマンは、人気が高く高額で取引されていますので、資産としても高い価値があります。

    しかし、不動産の価値は経済社会の動向によって大きく左右されます。

    現在は首都圏の不動産価格が上昇し、高額で取引されていても、資産価値の下落がはじまる可能性があり、将来的に処分を考えた時には、当初意図した価格で手放せるとは限らないことも考慮しておく必要があるでしょう。

    さらに、高度な耐震性・免震性を持つ巨大で精密な構造のタワマンは、メンテナンス費用もまた高額にのぼることへの留意も必要です。メンテナンス費用は建物の築年数が経つほど増えていきますが、将来建物が老朽化し、メンテナンス費用が高額になった際に、区分所有者同士で費用が負担できなければ、スラム化するリスクもないとはいえません。そのうえ、納税者の過度な節税を防ぐため、税法は頻繁に改正が行われます。

    ですから、節税だけを目的とした不動産投資は決しておすすめできません。不動産投資を行う際には、投資物件の長期的な収益性や出口戦略などを慎重に見極めたうえで、トータルで判断することが求められます。

    相続税のタワマン節税の新ルールを理解して不動産投資をしよう

    「タワマンを購入すると相続税が大幅に節税できる」という節税スキームが広まり、富裕層と呼ばれる人たちの中でタワマンへの投資が広がりました。これによって、タワマンとそれ以外の不動産との間で税負担の不公平が広がり、国税局から問題視される事態となっていましたが、現在新たなルールの制定が検討されており、2024年以降に導入される見通しです。

    それを受けて今回は、相続税のタワマン節税の仕組みや2024年以降の新ルール適用の内容等について解説しました。

    節税を巡り、今までもさまざまなスキームが考え出されてきましたが、行き過ぎた節税策はその度に何らかの方法で防がれてきました。過度な節税を意図した対策は、却って大きく損をするリスクもはらんでいることを心に留めて、思わぬ追徴課税を避けつつ収益最大化を目指してみてください。

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