不動産を取得した際に必ずやらなければならないことが、所有者として申請する登記です。所有権の登記をしなければ法的に所有者として認められないため、売買や相続の手続きを円滑に行えなくなります。この記事では不動産登記費用について分かりやすく解説します。不動産登記の種類別の算出方法や軽減措置などにも紹介しますので、これから不動産を取得する予定のある人は、ぜひ参考にしてみてください。
【著者】矢口 美加子
オーナーのための家賃保証
「家主ダイレクト」
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最初に、不動産登記の概要や種類について見ていきましょう。
不動産登記とは、不動産に関する情報を登記簿に記載して一般公開する制度のことです。手数料を納めれば誰でも権利関係を確認できるため、不動産取引を安全かつ円滑に行うことができます。
建物の登記事項証明書の見本はこちらです。
出典:法務省資料(※PDFへとびます)
登記事項証明書には以下の情報が記載されています。
不動産登記が行われることによって、その不動産に関するあらゆる情報を誰でも確認できるようになるため、不動産の購入を控えている人は現地確認だけでなく不動産の所有者・面積・抵当権の有無などを調査しておくことが必要です。
登記されている人が「所有者である」と法的に認められることになるため、不動産購入後は第三者に所有権を主張するためにも登記を行っておくことが大切です。
不動産登記の種類にはいくつかあり、目的に合わせて選択します。本章では、投資用物件において必要となる可能性が高い登記の種類を紹介します。
所有権保存登記とは、新築の建物に対して行われ、それまでに所有権登記が行われていない建物に関して最初に行われる登記のことです。所有権保存登記が行われなければ、所有権や抵当権などの権利に関する登記を行うことができません。所有権保存登記をすることで権利部(甲区)の登記記録が記載されます。
所有権保存登記を行うことで、売買や相続といった所有権の移転や抵当権設定など、不動産の権利関係に関する登記ができるようになります。所有権保存登記をしていないと所有者として主張できないため、不動産を取得したら登記申請は必要です。
所有権移転登記とは、不動産の所有権が移ったことを公に示すための登記のことです。売買や相続などで所有者が変わった場合に行われ、不動産を取得しても手続きをしていなければ法的に所有者であると認められません。
真の所有者であることが認められないと、さまざまなリスクが発生する可能性があるので、不動産を取得したら真っ先に行うのが一般的です。売買の場面では、買主が代金を決済するのと同時進行で売主は所有権移転登記の手続きを行います。移転登記・不動産の引渡し・代金の支払いは同時履行が原則です。
変更登記とは、登記後に登記名義人の住所や氏名などに変更があった場合に行われる手続きのことです。転勤などで住所が変わったり結婚などで氏名を変更したりした場合などに行われます。令和3年の不動産登記法の改正により、令和8年4月までに不動産所有者の住所・氏名変更の登記申請が義務化されることになりました。具体的な日にちは今後定められる予定です。
更正登記とは、登記が行われた時点ですでに錯誤(記入ミス)や遺漏(記入漏れ)がある場合に、当事者が申請して登記を訂正する手続きのことです。申請人によるミスの場合は更正登記が行われますが、登記官が間違えた場合は職権で登記が訂正されることもあります。
抵当権の設定は、金融機関が申込者から住宅ローンなどの融資を受けた時に行われます。金融機関は、債務者によるローンの返済が困難になった場合に備え、担保となる不動産に抵当権を設定します。登記事項証明書の権利部(乙区)に、債権者である金融機関名・債権額・借入日などが記載されるため、買主は抵当権の設定について確認することができます。
債務者が住宅ローンを完済した後、債務者によって行われる手続きが抵当権の抹消です。抵当権の抹消手続きは金融機関ではなく名義人自身が行いますが、必要書類は金融機関から受け取れます。住宅ローンを完済しても自動的に抵当権がなくなるわけではないため注意しましょう。
不動産登記には費用がかかります。自分で登記する場合は登録免許税だけを納めますが、専門家(司法書士など)へ依頼する場合は報酬も合わせて支払います。本章では登録免許税の算出方法と、専門家へ依頼した場合の報酬額相場について解説します。
売買や相続などによる所有権移転登記、建物を新築したときの所有権保存登記、金融機関から借り入れした場合の抵当権設定登記では、それぞれ法律で定められた登録免許税を納付します。
登録免許税額は原則、以下の計算式で計算されます。
不動産の登記に関する主な登録免許税の税率について解説します。
土地の所有権の移転登記において発生する登録免許税の税率は、下表の通りです。
内容 | 課税標準 | 税率 |
売買 | 不動産の価額 | 1,000分の20 (令和8年3月31日までの間に登記を受ける場合1,000分の15) |
相続・共有物の分割 | 不動産の価額 | 1,000分の4 |
贈与・交換・収用・競売等 | 不動産の価額 | 1,000分の20 |
出典:国税庁 – No.7191 登録免許税の税額表
相続・共有物の分割の税率は1,000分の4です。土地の価額が1,000万円の場合は、1,000万円×0.004%=4万円の登録免許税額を納めます。また、売買・贈与・交換・収用・競売等の税率は1,000分の20ですので、土地の価額が1,000万円の場合は1,000万円×0.02%=20万円となり、20万円を納めます。
建物の登記に関する税率は以下の通りです。
内容 | 課税標準 | 税率 |
所有権の保存 | 不動産の価額 | 1,000分の4 |
売買または競売による所有権の移転 | 不動産の価額 | 1,000分の20 |
相続または法人の合併による所有権の移転 | 不動産の価額 | 1,000分の4 |
その他の所有権の移転(贈与・交換・収用等) | 不動産の価額 | 1,000分の20 |
出典:国税庁 – No.7191 登録免許税の税額表
新築した建物を登記するときの所有権保存や、相続や法人の合併などで取得した建物の所有権移転登記の税率は1,000分の4です。不動産価額1,000万円の建物の所有権保存・移転という場合、登録免許税は4万円を納めます。
売買・競売・贈与などの所有権移転登記の税率は1,000分の20ですので、不動産価額1,000万円の建物の場合は20万円を納付します。
抵当権を設定するときの課税標準額は「債権金額」です。税率は1,000分の4となり、債権金額が1,500万円という場合は1,500万円×0.004%=6万円の登録免許税を納めます。
一方、抵当権の抹消や配偶者居住権の抹消、所有者の住所または氏名変更の登記などの場合、課税標準は「登記する不動産の個数」です。税率は不動産1個につき1,000円となります。土地と建物のそれぞれで設定されている抵当権を抹消する場合は、合計2個分の2,000円を納めます。
不動産登記の手続きを専門家へ依頼する場合の報酬額の相場について解説します。
日本司法書士会連合会のアンケート調査では、売買においての所有権移転登記の報酬は、関東地方で約5万円が平均価格であることが示されています。そこに含まれる業務内容は、所有権移転登記手続きの代理業務と売買契約書の作成および登記申請です。
上記に加えて面識のない登記義務者(売主)の本人確認情報の作成も行う場合は、約9万円が相場です。報酬は司法書士事務所により違いがあり、業務内容が複雑になるほど手数料の額も上がります。
日本土地家屋調査士会連合会のアンケート調査では、各登記においての報酬の全国平均は以下となっています。
【令和4年度 土地家屋調査士業務報酬に関する調査】
登記内容 | 報酬の全国平均 |
土地地目変更登記 | 46,589円 |
建物表題登記 | 85,174円 |
建物表題変更登記 | 91,082円 |
出典:日本土地家屋調査士会連合会 – 業務報酬統計資料
土地家屋調査士に依頼する場合は、登記の種類にもよりますが約4万円〜9万円程度の報酬が目安です。
令和5年度の税制改正により、登録免許税の一部は税率が軽減されることが決定されました。それにより、土地の売買による所有権の移転登記等の税率も軽減されます。以下が軽減措置の内容です。
登記の種類 | 本則 | 軽減措置適用期限 ※令和8年3月31日まで |
所有権の移転登記 | 2.0% | 1.5% |
所有権の信託登記 | 0.4% | 0.3% |
たとえば土地の価格が1,000万円の場合、令和8年3月31日までの間に登記を受けると税率は1.5%です。このケースでは通常20万円の登録免許税が15万円に軽減されます。
登録免許税は国税であるため、個人が安くすることはできませんが、司法書士など専門家への報酬は相見積もりをとることで手数料を抑えることが可能です。
ただし、アパートローンなどを借り入れて物件を購入する場合、融資先の金融機関や不動産会社が司法書士を指定してくることがあります。登記は自分で行うこともできますが、司法書士などが指定されている場合は自分でやりたくてもやらせてもらえないため、注意が必要です。
不動産登記費用は登記の目的によって税率が異なり、売買より相続のほうが低く設定されています。登録免許税は不動産価格が課税標準額となるため、資産価値が高い不動産は税額が高くなります。投資用物件の購入時に行う登記で司法書士などの専門家に依頼する場合は、相見積もりを取って適正価格のところに依頼しましょう。
宅地建物取引士、整理収納アドバイザー1級、福祉住環境コーディネーター2級の資格を保有。家族が所有する賃貸物件の契約や更新業務を担当。不動産ライターとしてハウスメーカー、不動産会社など上場企業の案件を中心に活動中。