年末、収益物件の収支をまとめていると気づくことがあります。「あれ、じつは手残りがほとんどない……」。このように、安定して収益が上がるはずの不動産投資なのに意外に利益が出ていないというオーナー、大家さんも多いのではないでしょうか。じつは、これには明確な理由があるのです。本稿では、キャッシュフロー表を見ながら、賃貸オーナーとして儲かるための方法を解説します。
目次
ここにひとつのキャッシュフロー分析表があります。現実に存在するアパートのキャッシュフロー分析表なので、あまり詳しく属性を紹介することはできませんが、自己資金ゼロ、つまりフルローンで購入したアパートです。そのため返済金の割合がかなり高くなっています。このキャッシュフロー分析表を5年分見てみます。
▽図1:とあるアパートのキャッシュフロー分析表
※上図の所得税は地方税も含んで試算
まず、確認したいのが家賃収入です。こちらは年間835万2,000円です。
ここから借入金を元利均等で年間654万4,588円ずつ返済していきます。さらに固定資産税を毎年30万円と想定。そして管理費が賃料の5%ですから、年間41万7,600円となります。これらの合計726万2,188円を家賃835万2,000円から引いたものが粗利(Net)になります。ここでは年間108万9,812円になります。
ここで、この粗利(Net)に対して管理費がどのくらいの割合となっているのかを見てみましょう。粗利(Net)108万9,812円に対して管理費は年間41万7,600円ですから、約38%になります。
「毎月入ってくる家賃収入の5%だから、ま、いいか」
そう考えがちな管理費ですが、借入金返済や経費などを支払って預金通帳に残ったお金、これが粗利(Net)ですが、この粗利(Net)ベースで見ると、管理費は実に38%にも当たるということがわかります。
では、この粗利(Net)108万9,812円は、このアパートのその年度毎の事業収益といえるのでしょうか。
答えは「ノー」です。アパートの純粋な「事業収益」を算出するには、年度毎の所得税や地方税、事業税などを計算し、それを粗利(Net)から引いてやらなくてはなりません。これが「税引き後手残り額」で、このアパートの純粋な「事業収益」になります。
このケースではそれがどうなるか、見てみましょう。ここでは、290万円までの控除がある個人事業税は除いて、所得税+地方税だけについてみていきます。
所得税額を求めるには、まず課税所得、つまり課税対象となる額を計算します。それが図1の中央から少し下、「課税所得」の部分です。この部分は、減価償却の進み具合や、借入金利息の減少によって毎年変化していきます。
初年度は課税所得額が24万6,588円で所得税額が3万6,988円、税引き後手残り額は105万2,824円になります。初年度は粗利(Net)108万9,812円と、それほど大きな差はありません。
ところが5年目を見ると、税引き後手残り額は78万5,853円と30万円ほど少なくなっています。これは減価償却費の定率部分の額が大幅に減ったことと、借入金の利息返済分が若干減ったことが原因です。その結果このアパートの事業収益は30万円も少なくなってしまったのです。
なお、このアパートは平成28年以前の購入例です。減価償却費の計算は定率法を用いています。この定率法は、平成28年以降から廃止になり、定額法に一本化されていますので、ご注意ください。
つまりこのケースでは5年後の税引き後手残り額、つまりこのアパートの年間事業収益78万5,853円に対して、管理費を年間41万7,600円払うことになるのです。割合で比べてみると、管理費は税引き後手残り額、つまりこのアパートの年間事業収益の実に約53%に相当すると見ることができます。
このように、年々続く不動産経営において、管理費は大きな負担となっていきます。家賃が変わらなければ、管理費はその金額も変わりませんが、税引き後の手残り額である事業収益は、経費(借入金の利息、減価償却費)の減少による税額の増大により、徐々に減少していきます。したがって事業収益に対する管理費の割合はどんどん大きくなっていくのです。
要するに、減価償却費や借入金の利息の急減などで税引き後の手残り額がどんどんやせ細っていく中で、変わらず払い続ける管理費41万7,600円の支出は妥当なのか、よく考えるべきだということです。
極端な話、もし仮にこの管理費をゼロにできれば、キャッシュフローはぐっと太ってきます。このケースでは5年後の税引き後手残りも、1.5倍ほどになる計算です。
もちろん建物の維持管理にコストはかかります。しかし不動産業界で慣例として行われているような管理費、あるいは管理手数料という呼び名で家賃の5%をとるというようなざっくりした決め方でいいのかということです。
さらに言えば、この管理費、管理手数料は、管理会社の行うどんな業務の対価なのか。つまり管理費を支払うことで管理会社が何をしてくれるのかについては、ケースバイケースというか、はなはだ曖昧です。
また通常の管理費のほかに、更新手続きの際に別途手数料を請求されることもあります。管理会社経由で請求される修繕費や原状回復費にも別途手数料が請求されることもあるのです。こうした管理費まで考慮すると、収益の中に占める割合が更に大きくなる場合も少なくありません。
こうした問題について熟考した結果たどりついた私の結論が、自主管理でした。賃貸物件の管理を自ら行い、管理会社へ支払う5%の管理費を削減し、オーナーの収益とするということです。さらにいえば、2年毎に発生する更新料も含めます。このほか、管理会社経由で発注する修繕を自己発注することでリフォーム費用を大幅削減し、周辺部分で発生する経費並びに手数料を、これもまた大家自らの収益にする、ということです。
図1をあらためて見てください。不動産の賃貸事業は実に単純です。収入の部は家賃のみ。経費として認められる支出も極限られたもので、しかもほとんどは税金であったり、借入金の利息返済分であったりと、大家さんの努力で圧縮できるようなものは少ないのです。その中で唯一大家さんの努力で圧縮することのできるものがあります。それが維持管理コストです。これは運営コストと言い替えてもいいでしょう。
これを極力抑えてキャッシュフローをより太くすること。それが大家さん業成功への近道です。
この点から考えると、何の対価なのかもわからないようなあいまいなお金を管理費、あるいは管理手数料として管理会社に支払うという選択はあり得ない。それが私の判断でした。そこから「完全自主管理大家」として私が辿った道筋については、拙著「不動産経営 誰も教えてくれないお金の残し方」(幻冬舎)で事細かに述べたので、ご興味のある方はご参考になさってください。
ただ、ここで私が強調したいのは、あなたがもし自分の物件について「なんか手残りが少ないなあ」と感じていたとしたら、ここで紹介したような方法で、税引き後手残り額と管理費の額を比べてみてください。そうすれば、一方にやせ細っていくばかりのキャッシュフローがあるにもかかわらず、あなたがどれだけ「巨額」の管理費を管理会社に払っているかがわかるはずです。
この「巨額」の管理費の事実について知ったら、やることはひとつだけです。不動産会社への管理業務の丸投げという愚かなことはやめることです。管理会社以外の賃貸付けネットワークの迅速な構築をし、そして、一日でもはやく自主管理大家の仲間入りをしましょう。
著者 川村龍平(かわむら・りょうへい)
横浜国立大学経済学部国際経済学科卒業後、第一勧業銀行、モルガンスタンレー証券会社にて、債券トレーダーとして機関投資家向けビジネスを行う。2002年、渋谷に一棟ビルを購入、サラリーマン大家をスタート。2005年11月より専業大家となる。現在ビル3棟、アパート4棟、ワンルーム3戸を個人保有し経営中。本人訴訟からペンキ塗りまで全て自主管理する。純資産10億円。あと2年で主な借金は完済予定。現在実質借金ゼロ経営を継続中。2020年6月に初の著書『不動産経営 誰も教えてくれないお金の残し方』(幻冬舎)を上梓