2021.06.21
空室対策

入居者を解約・退去させない!賃貸経営のカナメ「テナントリテンション」とは

安定した賃貸経営のためには「入居者の解約率を下げる施策」が重要です。これは「テナントリテンション」と呼ばれ、少子高齢化の賃貸住宅需要において注目が集まります。入居者の退去による収入のロスは大きいものです。これを避けるための対策「テナントリテンション」について、「解約で発生するコスト」「解約率の高い物件の特徴」「解約率を下げるための考え方と方法」という3つの視点から解説していきます。

賃貸経営のカナメ「テナントリテンション」とは

テナントリテンションとは「入居者の保持」を意味します。ひらたくいえば、入居者にずっと住み続けていただくために、オーナーが努力や工夫をすることです。

安定経営を実現しているオーナーは、「空室を埋めること」とともに「解約・退去を防ぐこと」も重視しています。なぜなら、いくら空室を埋めても解約が頻繁に発生すれば、入居者募集のためのコストや本来得られたはずの逸失家賃が発生してしまうからです。

防げるもの、防げないもの……賃貸経営には2種類の解約がある

テナントリテンションを考える上で重要なのは、「賃貸経営の2種類の解約」を意識することです。

1つめの解約の種類は「入居者満足度に関係なく発生する解約」です。たとえば、学生が卒業とともに解約する、会社員や公務員が転勤で退去するといったケースです。これらはテナントリテンションができているか否かに関係なく起こるものです。

対して2つめは「入居者満足度が低くて発生する解約」です。たとえば、部屋の住み心地が悪いので退去する、隣室の騒音がひどいので解約するといったケースです。いうまでもなく、こちらの解約は、テナントリテンションによって防げます。

テナントリテンションができていないオーナーの勘違い

空室率の高い賃貸物件を保有しているオーナーでありがちなのは、「入居者満足度をいくら高めても解約は防げない」という勘違いです。転勤、卒業、結婚など人生の環境の変化で入居者は退去する……だから、入居者満足度を高める努力はムダといった考え方です。

これは、前出の「入居者満足度に関係なく発生する解約」と「入居者満足度が低くて発生する解約」を仕分けていないために起こる勘違いです。たしかに前者はテナントリテンションをしても効果はありません。しかし、後者はテナントリテンションがそのまま反映されます。やはり安定経営のためには、テナントリテンションが欠かせないものなのです。

解約・退去によってオーナーが負担するコストはどれくらいなのか

次に、賃貸物件の解約が発生したとき、どれくらいのコストがかかるかを、あらためて整理してみましょう。日本地主家主協会では、賃貸物件の1室に解約が発生したときのコストや逸失家賃の例として次の目安を挙げています。

・仲介会社への成功報酬:家賃の1ヵ月分
・本来得られた空室期間の家賃:3ヵ月分
・原状回復費用:家賃の2ヵ月分

じつに、解約によって家賃の6ヵ月分ものコストなどが発生するのです。仮に、家賃8万円の部屋であれば、解約が発生しなかった場合と比較して48万円もの差になります。もちろん、所有する部屋数が増えるほど、テナントリテンションができていないことで負担するコストや逸失家賃は増えます。

解約・退去を抑えるためのテナントリテンションの基本

ここからは、テナントリテンションの基本的な考え方と具体的な方法を解説していきます。まず、基本的な考え方ですが、入居者はお客様という意識を徹底することが大切です。「オーナーの方が偉い」「物件を貸してあげている」という昔ながらの大家さんの意識がわずかでもあるなら捨てるべきです。

賃貸経営をビジネスと捉えれば、入居者は利益の源泉となるお客様です。そう考えれば、「快適に住んでいただこう」「こんな工夫をしたら入居者に喜んでいただける」といったテナントリテンション発想に自然になるはずです。

「部屋を貸してあげている」という感覚は、「住ませてほしい」という人があふれていた過去のことです。賃貸マーケットの競争が激しくなっている現在ではまったく通用しません。テナントリテンションを進めるにあたっては、「住んでいただいている」という意識を徹底させましょう。

入居者が不満に感じること:1位「騒音」2位「住宅設備」3位「入居者の質」

次に、テナントリテンションができていない「解約率の高い賃貸物件の特徴」を見ていきます。

これを知るには、AlbaLinkが実施した「賃貸物件を借りて後悔する瞬間についての意識調査」が参考になります。この調査は、2021年1月に行われたもので、賃貸物件を借りたことがある男女500人を対象としたアンケート調査となります。

まず、「賃貸契約で後悔したことがある?」の問いでは、「ある」と回答した人が約7割と大多数を占めました。大半の入居者が賃貸物件に不満を抱いている事実は、テナントリテンションの効果を感じさせる結果です。


出典:訳アリ物件買取PRO – 賃貸契約で後悔したことがある人は約7割!調査結果からわかった契約前に絶対しておくべき2つの対策とは?

そして、具体的な「賃貸契約で後悔した理由」については次の結果になっています。この内容は入居者の生の声だけに、テナントリテンションを実行する上で大きなヒントになります。


出典:訳アリ物件買取PRO – 賃貸契約で後悔したことがある人は約7割!調査結果からわかった契約前に絶対しておくべき2つの対策とは?

上記の「賃貸契約で後悔した理由」のうち、テナントリテンションによって解決できる可能性があるのは次の項目です。

・騒音トラブル
・設備がいまいち(水回りに不満含む)
・住民の質が悪かった

解約・退去を抑えるためのテナントリテンションの方法

最後に前項の調査結果を参考にしながら「解約・退去を抑えるためのテナントリテンションの方法」を考えていきます。

テナントリテンション1:共有部を清潔にする

一棟物件を所有しているオーナーは、「共有部を清潔にすること」がテナントリテンションに欠かせないポイントになります。この「当たり前のこと」ができていない賃貸物件も数多くあるので要注意です。あらためて、所有物件の共有部の状態を確認してみましょう。

「管理会社に任せているから大丈夫だろう」と思っていたのに、実際に賃貸物件を訪れていたら、集合ポスト周辺はチラシが散乱、共有部はゴミだらけというケースもあります。そのため、オーナー自身の目で現地調査することが大事です。チェックするタイミングは清掃業者が入った翌日などがおすすめです。もちろん、管理会社に予告せず、賃貸物件を訪れないと意味がありません。

清掃の翌日にチェックして共有部が荒れているなら「清掃をしていない」、あるいは「清掃を手抜きしている」可能性が高いです。その場合、業者を指導するか、変更する必要があります。

テナントリテンション2:騒音トラブルにしっかり対応する

前出の「賃貸契約で後悔したこと」調査で、後悔した理由の1位が「騒音トラブル」だったように、このテーマにどう向き合うかは入居者満足(テナントリテンション)を大きく左右します。

とくに木造アパートは音が漏れやすいので、騒音トラブルをどう扱うかは重要です。騒音トラブルに対応するコツは、両者の話を丁寧にヒアリングすることです。神経質な入居者もいるため、日常的な物音を騒音と捉えている可能性もあります。ときには追加で、ほかの入居者をヒアリングして事実関係を確認することも必要です。

管理会社と契約している場合は、彼らが騒音トラブルに対応してくれますが、任せっぱなしにすると退去に発展するリスクがあります。ヒアリング内容を報告してもらった上で、どのように対処するかを話し合うのが望ましいでしょう。

テナントリテンション3:入居者ニーズのある設備を導入する

「賃貸契約で後悔したこと」調査で2番目に多かった意見は、「設備がイマイチ」というものでした。だからといって、最新の住宅設備をやみくもに導入するのは効率的ではありません。入居者が魅力を感じる、ニーズに合った住宅設備を導入するのがポイントです。

入居者に人気のある住宅設備は、全国賃貸住宅新聞が毎年発表している「人気設備ランキング」が参考になります。2020年の単身者向け物件の人気設備は次の通りです。

1. インターネット無料
2. エントランスのオートロック
3. 宅配ボックス
4. 浴室換気乾燥機
5. ホームセキュリティ
参考:全国賃貸住宅新聞 – 2020 人気設備ランキング発表

インターネット無料はファミリー向け物件でも1位です。導入コストもそれほどかからないため、まだ導入していない場合は契約するのが賢明です。

テナントリテンション4:住民の質をコントロールする

「賃貸契約で後悔したこと」調査で3番目に多かった意見は、「住民の質が悪かった」というものでした。この結果が示しているのは、入居者審査を甘くすれば長期的に見たときに入居者の質が悪くなり、解約率が高まるリスクがあるということです。

とはいえ、入居者審査を厳しくしすぎれば、空室率が高まる可能性もあります。「家賃設定」「稼働率」「入居者の質」の3要素のバランスを考えながら、それぞれの賃貸物件にふさわしい審査基準を設けるのが得策です。

少なくとも「空室を埋めたいから審査基準は甘くていい」「誰でもいいから入ってくれればいい」という考え方は避けるべきです。

まとめ:テナントリテンションを行う4つの確認事項

ここでは賃貸経営のカナメともいえる「テナントリテンション」の重要性・考え方・方法などをお伝えしてきました。本稿のハイライトは次の通りです。

まず、テナントリテンションとは入居者の保持のことであり、「入居者満足度が低くて発生する解約」を抑えるものでした。解約・退去が発生すれば、オーナーは家賃の6ヵ月分のコストを負担することを忘れてはいけません。

テナントリテンションをするうえで基本の考え方は、「入居者はお客様」というものです。この意識を徹底すれば、自然にテナントリテンション発想になります。そして、テナントリテンションの具体的な方法は次の内容です。

・共有部を清潔にする
・騒音トラブルにしっかり対応する
・入居者ニーズのある設備を導入する
・住民の質をコントロールする

ただ上記はあくまでもテナントリテンションの一例です。入居者満足度を高めるために定期的に贈りものをしたり、バーベキューなどのイベントをしたりしているオーナーもいます。ようは、テナントリテンションには数多くの選択肢があるということです。入居者の特性などを考慮しながら、その賃貸物件に合うテナントリテンションを行いましょう。

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