2021.06.21
不動産トピックス

国税庁が景気変動で初となる「路線価の減額補正」を実施!コロナの影響はこんなところにも

2021年1月に経済界や不動産業界で注目された、国税庁による路線価の減額補正(減額修正)。景気変動による影響では初の減額補正となりました。この記事の前半では路線価の減額補正の意味と対象エリア、後半では減額補正の原因となったインバウンド客減少の状況をお伝えします。

「路線価を減額補正」を主要メディアが一斉に報じた

2021年1月26日・27日において、主要メディアが「路線価の減額補正が行われたこと」を一斉に報じました。見出しの一例は次の通りです。

・路線価を減額補正 大阪3地点、景気変動では初
(日本経済新聞)
・激減インバウンド、地価大打撃 路線価、初の減額補正――大阪・ミナミ
(朝日新聞)
・大阪市繁華街で地価大幅下落 インバウンド低迷影響か―路線価を減額修正・国税庁
(時事ドットコム)

これらの見出しを見ただけで、「路線価の減額補正」の対象になったのは大阪市繁華街ミナミで、その原因が(新型コロナ感染拡大による)インバウンド需要の激減ということがおおまかにわかります。

ただ、これまで路線価の減額補正自体があまり行われてこなかったため、不動産にくわしい人でも「路線価の減額補正って何だ?聞いたことないな」というケースも多いのではないでしょうか。

「路線価の減額補正」の意味とは?なぜ、大阪が対象になった?

相続税・贈与税を算定するときの指標となる路線価は通常、時価の80%程度に設定されています。しかし今回、新型コロナ感染拡大の影響でインバウンド客が激減した影響で大阪市の繁華街3エリアの地価が大幅に下落。本来、時価の80%程度のはずの路線価が時価を下回るエリアが出てきたため、減額補正を行って調整するというのが今回の「路線価の減額補正」の背景です。

具体的な減額補正の方法は、土地を相続・贈与した場合の評価額を「路線価×地価変動補正率」で調整します。

この項で解説した内容をまとめると下記のようになります。

▽本来:時価>路線価(時価の80%程度)
▽新型コロナの影響:時価<路線価
▽結果:「路線価×地価変動補正率」の減額補正により調整

減額補正された対象エリアは?補正率は?

具体的に、今回「減額補正を行う」と国税庁が発表した大阪市の3エリアは下記になります。いずれも2020年1月~9月の間に地価(時価)が23%下落しました。そのため、2020年7月~9月に対象エリアの土地を相続・贈与した場合は減額補正の対象になります。

・心斎橋筋2丁目
・宗右衛門町
・道頓堀1丁目
(すべて大阪市中央区)

実際の減額補正では上記3エリアの2020年1月1日時点の路線価に「0.96 %」の補正率をかけて減額調整が行われます。式にすると下記のようになります。

・(2020年1月1日時点)の路線価×補正率0.96 %

注意したいのは、国税庁から今回発表された3エリアは、あくまでも「路線価の減額補正の第一弾」となる可能性が高いということです。ほかにも地価下落(2020年1月~9月の間)が著しいエリアがあり、追加分の減額補正が2021年4月に公表される見込みです。対象となるのは大阪市中央区のほかエリアに加えて、名古屋市中区錦3丁目なども可能性があります。なお現時点で、東京や首都圏で減額補正の対象になるエリアはないようです。

大阪のインバウンドが本格的に回復するのはいつ頃?

最後に今回、路線価の減額補正の原因となったインバウンドがいつ頃、どのように戻ってくるのかについて考えてみます。

まず、日本全体のインバウンド客数の月別推移は次の通りです。新型コロナ感染拡大によってほぼ壊滅したインバウンド需要は2020年後半から微増傾向にあるとはいえ、かつての勢いには、ほど遠い状況です。


出典:JTB総合研究所 – インバウンド 訪日外国人動向

もちろん、国内インバウンドをけん引してきた大阪も苦境が続いています。2021年1月の関西空港の入国者数(外国人)は1万920人で前年比98.5%減(速報値)。こちらも全国と同様、微増傾向にありますが低水準が続きます。

では、いつになったらインバウンド需要が戻るのか。これについては、ワクチン、変異ウイルス、東京オリンピックなどいくつもの要因が絡むため、正確な予測は難しい面があります。

それを前提に、世界観光機関(UNWTO)が2021年1月に示した「世界観光指標」を確認してみましょう。同機関の専門委員に対するアンケートでは国際観光の回復開始時期について「2022年」という回答が半数を占めています。


出典:国連世界観光機関(UNWTO)駐日事務所 – 報道発表資料

注意したいのは、上記はあくまでも回復“開始”時期です。同機関の専門家の大多数は、国際観光が2019年水準まで戻るには「2023年~2024年後半」までかかると見ています。

JTB総合研究所のデータを参考にすると、インバウンドの回復イメージとしては、まず近隣のアジア諸国が比較的早い段階で戻り、その後、時間をかけて欧米諸国が戻ってくる流れになる可能性が高いでしょう。

直近2020年12月のインバウンド客数(全国)を国別で見ると、上位はアジア各国が占めています。実数では、中国(1万8,400人)、ベトナム(1万5,700人)、インドネシア(3,300人)、韓国(2,800人)などです。欧米はアメリカの1,300人が最大で、EUは大半 の国が数百人レベルで回復が大きく遅れています。

このアジア各国のインバウンドを早い段階でどこまで引き上げられるか。これがインバウンド回復の大きな鍵になりそうです。

コロナ禍の不動産市場への影響は意外なところから。幅広く市場動向を確認したい

コロナによる不動産市場や賃貸市場への影響は、東京からの転出超過や中古マンションの販売数の増加、そして入居者からの家賃減額請求の増加など、一部に見られつつありましたが、地価の下落については、インバウンド需要の大幅減という意外な要因から表面化しました。

ワクチン接種も始まったもののコロナウイルス感染症の影響は長期に及んでいることから、これからもまた、意外なところからリスクを発生させることは否定できません。さまざまな経済指標や市場動向を注意深く見ていく必要がありそうです。

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