以前は賃貸物件に入居するには連帯保証人が必須でした。しかし社会情勢の変化や法律改正により、最近では家賃保証会社の利用が増えています。
折しもコロナ禍により入居者の家賃延滞について社会的関心が高まり、国による補助金制度も整えられてはいますが、これからの賃貸経営に不安を抱える大家さんもいるのではないでしょうか。
この記事では賃貸経営を行っている大家さんに向けて、今後ますます利用が増えると考えられる家賃保証制度について、特に、家賃保証会社の役割、仕組み、利用して得られるメリット、選び方などを詳しく紹介します。最後までお読みいただくことで、大家さんの賃貸経営の一助となるでしょう。
目次
ここでは家賃保証会社とは何か、家賃保証会社のニーズが最近高まっている理由を説明します。
家賃保証会社とは、従来は連帯保証人が担っていた役割の代行などを主なサービスとする企業のことです。
従来の連帯保証人の役割は大きく以下の2つになります。
家賃保証会社は、このような連帯保証人の役割を代わりに担います。入居者は家賃保証会社へ「保証料」を支払うことにより、連帯保証人を立てることができなくても身元を保証してもらえ、賃貸借契約を結ぶことができます。
そして大家さんにとっては、万が一入居者が家賃を滞納したときでも、家賃保証会社が入居者の代わりに家賃を立て替えてくれるので、賃貸経営のリスクが軽減されます。
2020年4月に改正民法が施行されました。賃貸経営に関わる分野でも、さまざまな制度変更が起きています。
たとえば、改正前は連帯保証人の保証額は「上限無し」でした。そのため貸主側は、借主側が家賃滞納を何ヵ月しても、急に失踪しても、物件に大きな物損的被害を与えても、連帯保証人に全て請求できたのです。逆に、連帯保証人は、どんなに大きな金額であっても請求されたら支払う義務がありました。
しかし改正民法では連帯保証人を保護する観点から、賃貸契約の際、契約書に必ず「連帯保証人の極度額」を明記しなければならなくなりました(極度額の定めが無い=連帯保証契約自体が無効)。
仮に入居者が家賃を300万円分滞納したとしても、契約書に連帯保証人の極度額が200万円と記載されていれば、連帯保証人は200万円しか支払う義務はなく、大家さんは100万円の滞納分を取り戻せないことになります。
現在でも、賃貸物件に入居する際には連帯保証人を立てることが必須の物件もあります。しかし、上記のように連帯保証人の役割や負担範囲が民法改正によって変化していることから、家賃保証会社を利用する動きが広がっています。家賃保証会社を利用する場合は、極度額の設定は不要となります。
そのほか、以下の理由から、賃貸物件をめぐる動きにおいて、家賃保証制度はニーズを高めています。今後はますます家賃保証制度と家賃保証会社を利用する動きが増えると考えられます。
同時に、家賃保証会社の中にもさまざまなサービスがあるため、家賃保証会社を選ぶ前に、大家さんや入居者は十分に各会社のサービス内容、保証範囲を確認する必要があります。
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家賃保証会社は従来の連帯保証人としての役割を果たすだけでなく、それ以上のサービスを提供している場合もあります。家賃保証会社のサービス内容は企業ごとに異なるので、契約内容を必ず確認しましょう。まとめると、家賃保証会社の主な役割は以下のようになります。
入居者の審査を行い、大家さんに対して入居者の身元保証を行います。入居者は連帯保証人を立てなくても、保証料を支払うことで賃貸契約を結ぶことができます。
入居者が家賃を滞納してしまった場合、入居者に代わって大家さんに家賃を支払います。
これについては、以下の2つの方法があり、家賃保証会社によって異なっています。
①毎月の家賃を一括して大家さんに支払うシステムの場合
②入居者から毎月の支払いは大家さんに直接振り込まれるが、滞納があった場合のみ家賃保証会社が代納する場合
①のほうが、滞納の有無にかかわらず、毎月の家賃は必ず決まった日に家賃保証会社から大家さんに支払われるので安心で便利です。
家賃の滞納があった入居者に対して、滞納家賃の回収を行います。
通常は大家さんが家賃滞納した入居者に電話をかけたり、直接訪問したりする手間と精神的負担がかかりますが、それらの繁雑な業務を家賃保証会社が代行してくれるため、大家さんにとってはありがたいサービスといえるでしょう。
入居者が物件から退去する際には、入居前(入居契約を結ぶ前)の状態に部屋を戻す義務があります。これを原状回復といいます。大きな損耗などがある場合、修繕の必要があり、そのための費用を敷金から充当することが一般的です。敷金で不足する場合は入居者が支払うのですが、なかには追加の費用を支払えない入居者もいます。そのような場合も、家賃保証会社が修繕費用を支払ってくれる場合もあります。
家賃保証契約によって異なるため、原状回復費用について、特に大家さんはしっかりと確認しておく必要があるでしょう。
これまで入居時に支払う「敷金」は、家賃滞納時の補填や退去時の原状回復のための修繕工事費用の保証金として預ける意味合いがありました。2020年4月施行の改正民法では、この点についてルールが明らかにされています。
民法改正までの判例などに基づき、「原状回復とは、借りた当時のままの状態まで戻すことではない」「通常の使用による傷み、経年劣化によるものは借主が負担する必要はない」とされました。
ただし、たとえば「煙草で畳やフローリングが焼け焦げて穴が開いた」「煙草の臭いが壁紙に染みついて取れない」などの場合は、入居者負担で原状回復させることになります。
入居者が長期間家賃を滞納したまま支払わない場合は、立ち退きや家賃の支払いを大家さんが求めて、裁判になるケースもあります。
しかし入居者をすぐに立ち退かせることはできません。立ち退きの強制執行は、さまざまな手続きを踏まなければならず、最低でも半年、なかには2年程度かかる場合もあります。また裁判になると、訴訟費用がかかります。
家賃保証会社を間に入れることで、そもそも家賃滞納は起きなくなります。滞納家賃の回収も家賃保証会社が行ってくれます。それでも万が一訴訟問題が発生した場合は、家賃保証会社のなかには裁判費用などの法的手続費用を保証してくれるところもあります(各家賃保証会社の契約内容によって異なります)。
家賃保証制度と、家賃保証会社の役割について見てきました。ここでは、特に大家さんが家賃保証会社を利用するメリットとデメリットについてお伝えします。
家賃保証会社を使う最大のメリットは、「家賃滞納の心配がない」ことです。
近年は景気の減退、雇用の不安定化、世界的規模の感染症流行(新型コロナ)などの社会情勢の変化により、入居者が家賃滞納するケースが増えているとされています。従来の連帯保証人制度では、滞納された家賃を大家さんは連帯保証人に請求できますが、実際には支払いを渋る、連絡が取れないなどのトラブルも起こり得ます。
それに比べて、家賃保証に加入していれば、家賃滞納があっても大家さんにはしっかり毎月家賃が支払われます。家賃保証会社を利用することで、家賃滞納のリスクを大きく下げることができるのです。
家賃保証会社は入居者審査をしっかり行い、家賃滞納のリスクが少ない入居者を選んでくれます。
なぜなら、滞納があれば損害を被るのは大家さんではなく家賃保証会社だからです。滞納のリスクを避けるためにも、大家さんや物件を管理する管理会社への支払いのためには、身元や職業など属性のある程度しっかりした、家賃をきちんと払ってくれる入居者を選んでくれるはずです。
大家さんにとっても、入居者審査を厳しくしてもらうことで、入居者同士のトラブルなども軽減できるため、メリットが大きいといえるでしょう。
家賃滞納があった場合、入居者への督促や家賃回収は、家賃保証を利用していれば大家さんは何もする必要はありません。家賃保証会社が代行してくれます。
家賃の督促で電話をかけたり、一戸ごとに訪ねていくのはとてもストレスのかかる作業です。家賃保証会社を利用することで、大家さんの負担が軽減されます。
2章でも紹介したとおり、家賃保証会社のなかには入居者が物件に与えた損害がある場合、原状回復費用を立て替えてくれるサービスを提供しているところもあります。また、家賃滞納、入居者同士のトラブルなどにより起きた訴訟について、訴訟費用を負担してくれる事業者もいます。いずれも契約内容によりますが、大家さんのリスクや負担、不安は、大きく軽減されるでしょう。
家賃保証会社を利用することで、質の良い入居者を増やせて、空室対策にもなります。
すでに見たように、賃貸借契約ではこれまで、連帯保証人を立てて契約することが一般的でした。現在では家賃保証を利用することで、入居者にとっても手軽に、連帯保証人を探す手間もなく、安心して部屋を借りることができます。
賃貸借契約ではこれまで、連帯保証人を立てて契約することが一般的でした。しかし民法改正や社会情勢の変化、個人のライフスタイルの変化などにより、連帯保証人制度そのものが見直されています。家賃保証サービスを利用することで、連帯保証人を立てられない人も含めて入居可能な方を増やせることから、物件への入居者促進になり、ひいては空室対策にもつながります。
また大家さんにとっては、家賃保証会社がしっかりと審査を行い滞納のリスクが低い入居者を選んでくれるため、結果的に空室を減らすことができ、長期間の安定した賃貸経営が可能になります。
家賃保証会社のサービス内容によりますが、連絡が途絶えた入居者の安否確認を、警察と一緒に代行してくれる家賃保証会社もあります。
近年は孤独死や自殺などが社会問題化しており、賃貸経営をしている大家さんにとってはリスクのひとつとなっています。自分の持っている物件で孤独死や自殺があった場合は速やかに対応しなければなりませんが、たとえ大家さんの所有物件でも、入居者の居室に勝手に入ることはできません。そこで、安否確認サービスが付帯していることで、孤独死や自殺といったリスクを見越した対応が可能になります。
その他、孤独死や自殺が判明した後の物件の清掃や原状回復などの費用を負担してくれる場合や、その間の家賃を補填してくれるサービスもあります。基本的な契約ではなくオプション特約の場合が多いようですが、家賃保証会社を選ぶ際に、そのようなこまやかなサービスもあるかどうか尋ねてみましょう。
続いては、家賃保証会社を利用するときの主なデメリットを2つ、見ていきましょう。
家賃保証会社の家賃保証は基本的に入居者が月々負担するものですが、大家さん向けの付加サービスや特約などを利用する場合は、大家さんにも負担が生じます。
しかし、これまで見てきたように家賃保証を利用しない場合と比較すると、大家さんの手間や負担を大きく軽減することができます。さらに滞納や孤独死といったリスクにも対応できるため、費用対効果はよいといえます。
大家さんにとっても入居者にとってもメリットの大きい家賃保証ですが、家賃保証会社が倒産してしまうと、大家さんはそれまでの滞納家賃を回収できず、入居者も保証してくれる立場の者がいなくなるなど、トラブルになります。
実際に、倒産してしまった家賃保証会社は過去に存在します。このようなリスクを回避するためには、まずは実績が豊富な業界大手を選ぶことが大切です。その他、入居者審査は甘くないか、会社の決算状況などはどうなっているかなど確認し、健全な経営をしている家賃保証会社を選びましょう。
賃貸経営のリスクを軽減してくれる家賃保証会社は、どのような点に注意して選べばよいのでしょうか。ここでは安心できる家賃保証会社の選び方を紹介します。
大家さんにとって最も大切な項目といえます。家賃保証会社を使いこなすことで、大切な収益物件を効率よく運営でき、入居者に対しては快適な環境を提供することができます。入居者とお互いに気持ちよい賃貸借契約が結べるよう、家賃保証会社のサービス内容をよく理解しておきましょう。
企業が業界内だけでなく、幅広く社会に対して貢献しているかどうかも確認するとよいでしょう。大家さんや入居者など賃貸にかかわる全ての人、それ以外の広く地域社会が抱える課題に対し、どのように持続性のある貢献を目指しているかで企業のスタンスが見えてきます。
上記のほかにも、家賃保証会社を選ぶ際に、さまざまな着目点があります。
・会社の基本スペック:資本金 サービスの継続年数
実績や会社の規模、顧客満足度などをチェックします。
・基本契約形態:代位弁済なのか、収納代行なのか
収納代行は、毎月の家賃回収と大家さんへの支払いを家賃保証会社が行うものです。一方の代位弁済は家賃滞納があった場合のみ、大家さんからの連絡を受けた家賃保証会社が立て替えて家賃を支払います。大家さんは入居者から振り込まれる家賃を確認して入居者に連絡し、滞納が確実になったら、保証会社へ連絡する流れです。この際、免責期間があるため、保証会社への連絡は速やかに行いましょう(後述)。
このように、収納代行のほうが安定した家賃収入が得られます。大家さんの管理の負担を考えると、収納代行のほうがスムーズな賃貸経営につながるといえます。
・コスト関連:初回保証料、更新料
サービス内容によって入居者が負担する額は異なります。さまざまな契約パターンごとにかかる費用の見積もりも出してもらいましょう。
・保証内容(免責期間、保証期間、保証対象、代弁弁済日、免責期間など)の詳細説明
たとえば代位弁済サービスの場合は、滞納があったとき、大家さんから家賃保証会社に連絡をして家賃を立て替え支払いしてもらいます。この「連絡をする」ことが決められた期間(免責期間)を超過した場合、滞納されている家賃を保証してくれない家賃保証会社もあります。
保証内容は、契約の前にすべて確認しましょう。これらのサービス内容を丁寧に説明してくれるか、資料がわかりやすいかなども家賃保証会社を選ぶひとつの基準となるでしょう。
「家賃保証」に似たサービスに「サブリース」「空室保証」があります。簡単に家賃保証との違いを説明します。
・サブリース(一括借り上げ)
大家さんがサブリース会社と「一括で物件を借り上げる賃貸借契約を結ぶ」ものです。家賃はサブリース会社から大家さんに毎月支払われます。
家賃保証と似ていますが、サブリースは借地借家法による「賃貸借契約」にあたるため、大家さん=貸主、サブリース会社=借主になっています。将来的にサブリース契約を打ち切りたいと思っても、大家さんから契約解除はできません。また、転貸になるため、入居者の支払う敷金、礼金、更新料はサブリース会社の収入になります。
サブリースについてはトラブル事例も多く、裁判事例も増えているため、契約の際は注意が必要です。
・空室保証
物件に空室が出たら、空室の家賃を契約に従って一定の割合で保証するサービスです。空室になった場合の保証なので、家賃滞納などには対応していません。
管理サービスは別途のことが多く、契約が追加で必要になることから費用が上乗せになります。また、保証期間に制限があります(たとえば「築5年までの物件に限る」など)。
上記、家賃保証との違いをよく理解して契約を進めてください。それぞれの保証が必要であれば検討してみてもよいでしょう。
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この記事では、賃貸経営を行ううえで安心を得られる「家賃保証」サービスについて説明しました。
「家賃保証会社」は、このサービスを提供することで大家さんと入居者、双方を支えています。民法改正により連帯保証人制度の変更もある中、家賃保証会社は今後ますます重要な役割を担うと見なされています。また、家賃滞納への補償だけでなく、賃貸経営に関するさまざまなサービスを提供している家賃保証会社もあります。
賃貸経営で大切な役割を担う「家賃保証会社」について、この記事で理解を深めていただき、家賃保証会社のサービスをうまく利用していただければ幸いです。
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