賃貸物件を経営していると、物件のリフォーム費用は修繕費としてその年に費用計上できるのか悩むことがあるのではないでしょうか?リフォーム費用は他の経費と比べて金額が高くなる傾向が高く、規模によっては納税額への影響が大きくなります。そこで、オーナーが悩みやすい修繕費と資本的支出の違い、計算の方法について解説します。賃貸経営の収益性を最大限にするために、この記事をぜひ役立ててみてください。
【著者】水沢 ひろみ
オーナーのための家賃保証
「家主ダイレクト」
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目次
リフォーム費用は、「修繕費」として支出した年に全額費用計上できるケースと、「資本的支出」として取得原価に含め、原価償却費として物件の耐用年数に渡って費用計上するケースに分かれます。大雑把にいえば、費用の計上時期が早まるのか・遅くなるのかの違いであるため、最終的に費用計上できる金額に大きな差はないともいえます。
しかし、早めに費用を修繕費として計上すれば税金の負担を先延ばしにできるため、そのぶん早くキャッシュを回収でき、再投資に資金を回せるというメリットは考えられるでしょう。いっぽう、資本的支出にすれば毎年の費用負担を平準化できるため、安定的に利益を得られるという側面もあります。
では、具体的に修繕費と資本的支出はどのような基準で分ければよいのでしょうか。それぞれが該当するケースを説明していきます。
修繕費とは、維持管理・原状回復のために支出したと考えられる、建物や設備などの修繕の費用をさすことが一般的です。文字どおり、「元の状態を維持するため」または「元の状態に戻すため」にかかった費用です。たとえば以下のようなケースです。
修繕費に該当する場合には、支出した年の確定申告の際に、全額費用計上することが可能です。
いっぽう、建物や設備の修繕のために支出した金額が耐用年数の延長につながる場合、価値の増加になると考えられる場合は資本的支出とされることが一般的です。国税庁のホームページでは、以下のケースは資本的支出になると明記されています。
(1) 建物の避難階段の取付けなど、物理的に付け加えた部分の金額
(2) 用途変更のための模様替えなど、改造や改装に直接要した金額
(3) 機械の部分品を特に品質や性能の高いものに取り替えた場合で、その取替えの金額のうち通常の取替えの金額を超える部分の金額
出典:国税庁 – No.5402 修繕費とならないものの判定
つまり、具体例を挙げると以下のようなケースです。
これらは、固定資産の耐久性を高めたり価値を高めたりすると考えられるため、先述の修繕費とは違い全額を必要経費にすることはできません。こういったケースのように、価値を高めるために費やしたと考えられる部分は資産として計上し、毎年、減価償却費として処理することになります。
なお、税金は1年間に得た利益に対して課税されますが、その利益は収益から費用を差し引いて計算されます。
この時、収益から引かれる費用は、その年の収益を得るために必要とされた分を計上するため、次の年以降に得られる利益に対応する分は翌年以降に計上する、という考え方が採られています(※これを「費用収益対応の原則」といいます)。つまり、資本的支出に該当する分は、建物の価値を高めることで将来に渡って収益の増加に貢献すると考えられるので、その年数に応じて費用計上すべきと考えられているのです。
資産を計上して減価償却処理をする場合は、毎年、確定申告の際に減価償却費を計上する必要があること、初年度に一括で費用とする処理ができないため税負担が初年度に集中することを覚えておく必要があります。
修繕費とされるのか資本的支出とされるのかによって会計処理は異なるため、具体的な場面では、支出した費用がどちらに該当するのかといった判断基準があると分かりやすいといえるでしょう。性質上、判断が難しいケースもあるため、修繕費と資本的支出の判断基準を以下のフローチャートにして紹介します。
(※当フローチャートは筆者作成)
まず、修理・改良の金額が20万円未満である場合、もしくは約3年以内の期間を周期として行う修繕である場合は、たとえ資本的支出であっても修繕費とすることが認められています。
修繕費か資本的支出かが明確ではないときは、支出した金額が60万円未満の場合、もしくは支出した金額がその固定資産の前事業年度終了における取得価額の約10%相当額以下である場合は、修繕費として費用を計上することが可能です。
法人の場合には、支出した金額の30%相当額、もしくは固定資産の前事業年度終了の時における取得価額の10%相当額のうち、どちらか少ないほうの金額は修繕費、残額は資本的支出(ただし取得原価に含める処理を継続して行っている場合)としての処理が認められます。
フローチャートでも紹介していますが、60万円を超える費用であっても、修繕費であることが明らかな場合には修繕費として処理することができます。具体的には以下のようなものです。
これらは建物の現状を維持するために必要な工事ですので、全額修繕費として処理できます。しかし、屋根の改修工事や外壁塗装工事であっても、材料や仕様を従来よりもグレードアップした場合には、建物の価値が増加したとみなされるので資本的支出に該当します。
支払ったリフォーム費用が修繕費に該当するのか、それとも資本的支出に該当するのかは、リフォームの内容によって決まることは先述のとおりです。しかし、リフォーム工事に先立って、どのような工事内容にするかを決めるときや、修繕費と資本的支出のどちらを選択すべきなのかが工事内容からは明らかでないとき、その選択の参考として以下にいくつかのケースを紹介します。
修繕費として一括で費用計上すれば、そのぶんその年の利益が減少するので、利益にかかる税金は少なくなります。ただし、資本的支出とする場合に比べると、そのあとの税金や国民健康保険の保険料はそのぶん高くなる可能性があります。自身のキャッシュフローの状況などを勘案して、どちらが良いか選択する必要があります。
ひとつ上で説明したとおり、修繕費として一括計上することでその年の利益は大きく減少するため、もしも融資を考えているのであれば資本的支出にしたほうが良い場面もあります。
税金を減額することができるのは、費用計上することでその年の利益を少なく計上できるからです。しかし、修繕のために支出した金額がその年の利益を超える場合には、資本的支出にして毎年均等額を費用計上していくほうがメリットは大きいと考えられます。
どちらにするべきか判断に迷う場合、資本的支出にすることをおすすめします。資本的支出にすべきところを修繕費として処理していると、万が一、税務署に指摘された場合に過少申告加算税を徴収されてしまうリスクがあるからです。
賃貸マンションをリフォームする場合には、「建物が完成している」ことと、「いつでも入居できる状態になっている(入居募集を始めている)」ことの2つの条件に当てはまらなければ「賃貸事業が始まった」とはいえません。したがって、賃貸事業を始める前の段階では、たとえ原状回復に該当するリフォームであっても資本的支出として資産計上しなければなりません。
実際に入居していなくても募集を始めていれば「事業開始後」と見なされますが、まだ建物が完成していない・リフォームが終わっておらず入居できないといった状況では賃貸事業が開始しているとはみなされないため注意しましょう。中でも、築古物件を購入してリフォームをしようと考えているオーナーは特に気を付ける必要があるでしょう。
賃貸物件のオーナーは、リフォームなどの修繕費用の支出が発生した場合に、その費用は修繕費・資本的支出のどちらなのか判断が難しいケースも多々あるでしょう。もちろんリフォームの作業内容によっても異なりますが、判断に迷う場合、オーナーは個々の事情によってメリットが大きいほうを選択することがあります。
キャッシュの早期回収の観点からは一括費用処理のほうがメリットはあると考えられますが、その場合には来年以降の償却費が減り、税金や国民健康保険料などが上がる可能性もあります。このように、賃貸経営は長期的視野をもち、トータルでの収益性の最大化を実現することが大切です。ぜひこれらを念頭に置いて総合的に判断をしていきましょう。
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かつて銀行や不動産会社に勤務し、資産運用に携わった経験を活かし、現在は主に金融や不動産関連の記事を執筆中。宅地建物取引主任、証券外務員一種、生命保険募集人、変額保険販売資格など保険関係の資格や、日商簿記1級など、多数の資格を保有し、専門的知識に基づいた記事の執筆とアドバイスを行う。