屋上防水工事は、建物の寿命を伸ばすために欠かせない工事のひとつです。屋上のメンテナンスが必要な時期に適切な防水工事を行うと、長い期間にわたり建物を利用することができます。この記事では、屋上防水工事の必要性や施工内容、費用などについて詳しく解説をします。屋上防水工事を検討しているオーナーはぜひ参考にしてください。
【著者】矢口 美加子
オーナーのための家賃保証
「家主ダイレクト」
こうしたお悩みを抱えている方は、まずは資料ダウンロード(無料)しお役立てください。
目次
マンションなどの建物寿命を伸ばすなら、屋上防水工事は欠かせません。では、屋上防水工事とはどういうものをさすのでしょうか。また、メリット・デメリットは何でしょうか。本章でそれぞれ説明していきます。
屋上防水工事とは、マンションなどの建物の中に雨水などが入り込んで雨漏りなどが起こらないようにするために行う工事です。一般的な瓦屋根の住宅は屋根に勾配があるため、雨が降っても雨水は自然に流れ落ちてしまいますが、マンションやビルなどの建物の屋上は平らなことが多いため、排機能は強くありません。
定期的に適切な防水工事を施さないと防水層が弱ってしまい、雨漏りや劣化の原因となるため、オーナーは所有する建物の屋上防水の点検や修繕を行う必要があります。もしも屋上にひび割れや破損などが起こって雨漏りが発生すると、雨水が少しずつ内部に浸透して天井裏や部屋の中へ漏水します。マンションなどの賃貸物件の場合、濁った水の不快な臭いが発生したり、拭き掃除が発生したりするなどで、入居者に不快な思いをさせてしまうことが考えられます。
なお、漏水によって入居者の家財を傷めた場合は、オーナーは損害分を賠償しなければなりません。オーナーはただ単に入居者に貸室を引き渡すだけでなく、貸室を使用・収益に適した状態におかなければならないことは義務とされています(民法601条)。したがって、入居者が快適につつがなく日常生活を行える環境を整えておくことが求められるのです。
また、漏水による影響から、マンションやビルの内部にある鉄筋にサビが発生し、劣化してしまうリスクも高まります。建物の強度が弱まるなど安全性に問題が出てくるため、建物の資産価値が下落するのを防ぐためにも屋上防水工事は重要だといえます。
屋上防水工事で屋上のひび割れや浮き、水溜まりなどを早めに補修することで、建物の耐久性を維持することができます。早めに劣化を防ぐことができれば、そのぶん長期的に建物を使用できるため、安定した賃貸経営につながると考えられます。
そのうえ、建物の状態が良ければ売却するときにも高めに売れる可能性があります。また、一般的に防水工事の耐用年数は10~20年と長期間であるのもメリットです。定期点検は5年に1度などであるため、一度防水工事を行えば、大抵の場合においては本格的な修繕はしばらく必要ありません。
ただし、屋上防水工事の内容により違いがありますが、工事にかかる費用は1平方メートル辺り7,000円~9,000円(100平方メートルだと70~90万円)程度と、比較的高額な点はデメリットといえます。それに加え、屋上防水工事は屋根の形状や劣化の内容により工法が決定されるため、費用を抑えるために工法を省いたり指定したりすることはできません。基本的には業者が提示した金額で依頼することになります。
また、当然ながら工事中は屋上を使用することはできないため、人の出入りが多い屋上だと不便に感じられる場合もあります。
劣化を放置しておくと建物内部にまで被害が及び、修繕金額が高額になってしまう可能性が高いので注意しましょう。
屋上防水工事を検討すべき状態は大きく4つに分かれ、1.雨漏り、2.ひび割れ・雑草、3.水溜まり、4.防水シートの浮きや破れ、となります。それぞれの理由について解説をしていきます。
雨が降った時に部屋の天井から漏水する場合は、屋根の防水層が劣化して雨漏りが発生していることが考えられます。雨漏りが頻繁に起こると、天井部分が黒く変色し、天井材が剥がれてきます。特に、マンションの最上階は屋上からの浸水で被害を受けやすいので注意が必要です。
屋上の防水層や下地にひび割れが発生している、あるいはひび割れした場所から雑草が生えているといったケースも修繕のサインです。ひび割れた隙間に雑草が根を張ると、防水層の劣化が早まるため注意しなければなりません。
屋上のひび割れは、長期間にわたって雨や風、紫外線を浴びることにより、防水層が劣化してひびが入ることが要因のひとつです。また、地震や台風などによる揺れなどでひびが生じることもあります。
屋上に発生する水溜まりも注意が必要です。経年劣化や地震による揺れなどで防水層が破損すると、防水層が劣化して水溜まりが発生します。くぼみができると排水が上手くできなくなり、水が溜まります。くぼんだ場所に落ち葉や汚れが溜まると雨水がさらに排水されにくい状態になり、水溜まりが長期間にわたると防水層の劣化スピードが早まるため、注意しなければなりません。
すでに防水シートを使用して施工しているものの、防水シートに浮きや破れが発生している場合も修繕のサインです。施工してから長い年数が過ぎると、防水シートが浮いてきたり破れてしまったりすることがあります。防水シートはシート状の材料を専用の接着剤で貼り付けることにより防水層を作りますが、年数が経つと密着性が弱くなってしまうという側面があります。
防水シートの浮いた隙間に雨が入り込むと、結露や雨漏りが発生する可能性があるため、なるべく早めに修繕する必要があります。
屋上防水工事は大まかに分けると4種類あります。それぞれの耐用年数や費用相場、工期の一覧表は以下をご覧ください。
屋上防水工事の種類 | 施工内容、特徴 | 耐用年数 | 費用相場(1平方メートル辺り) | 工期 |
---|---|---|---|---|
ウレタン防水工事 | ・ウレタン塗料を塗って防水する方法 ・安価だが耐久性は低い |
10年程度 | 7,500円前後 | 2日から7日程度 |
シート防水工事 | ・シート状の防水素材を使って防水する方法 ・施工が簡単で比較的安い |
10~15年程度 | 7,000円前後 | 1日から5日 |
FRP防水工事 | ・プラスチックとガラス繊維の塗料を使って防水する方法 ・どのような形状でも防水可能 |
10年程度 | 9,000円前後 | 1日から3日 |
アスファルト防水工事 | ・アスファルトを屋上に張り付けて防水する方法 ・防水効果が高い |
15~25年程度 | 8,000円前後 | 1週間前後 |
それぞれの防水工事について詳しく解説していきます。
ウレタン防水は、ウレタン塗料を使用して屋上などを防水する方法です。液体状のウレタン樹脂を塗り付けて塗布した材料が固まると、弾力性のあるゴム状の防水膜ができあがります。
塗料を使用するため防水する場所の形状を問わないのがメリットで、複雑な形状の屋上でも施工することができます。また、ウレタン塗料の単価はリーズナブルなので、工事費用が抑えられるのも良い点です。
なお、アスファルト防水やFRP防水よりも安く施工できますが、それらに比べると耐久性は低くなります。また、基本的には10年ごとに塗り直しをする必要があり、その都度メンテナンスコストがかかるのはデメリットといえます。
ウレタン防水には、密着工法と通気緩衝工法の2つがあります。
種類 | 工法 | 特徴 |
---|---|---|
密着工法 | ウレタン防水材を塗布して補強布を張り付ける。さらにウレタン防水材を塗り、所定の厚さに仕上げる | ・下地の乾燥が不十分な状態だと、膨れなどのトラブルが発生しやすい |
通気緩衝工法 | 通気性が高い緩衝シートを張り付けた上にウレタン防水材を塗布する | ・安全で信頼性の高い工法 ・下地に溜まった水分を外部に排出する |
シート防水は、塩化ビニールシートやゴムシートなどの防水シートを使用して防水する方法です。シートを貼っていく工事なので、施工は比較的簡単といえます。施工費用がリーズナブルな上に耐久性が優れているため、先述のウレタン防水よりもメンテナンスの回数は少なく済むというメリットがあります。
シート防水には密着工法と機械固定工法の2通りがあり、以下のような特徴があります。いずれも施工は比較的簡単で短期間で済むのがメリットですが、シートを貼り付ける工法のため、複雑な形状や凸凹した下地への施工には向いていません。広く平面的な場所に適した防水工法となります。
種類 | 工法 | 特徴 |
---|---|---|
密着工法 | 塩化ビニールシートを接着剤で貼り付ける | ・工期が短く、歩行が可能 ・膨れが発生しやすい |
機械固定工法 | 固定ディスクを使用して、防水シートを屋根下地に固定する | ・上からシートを被せるので古い防水層の撤去が不要 ・下地処理が最低限で済むため工期が短い |
FRP防水は、プラスチックとガラス繊維の塗料を使用して防水する方法です。できあがった防水層は継ぎ目のない状態となるため、美しさやデザイン性を重視する場合に使用されます。
工事方法は、床の上にFRPのシートを敷き、その上に樹脂を塗って硬化させます。硬化した後はプラスチックのように硬い床面になりますが、そのままでは紫外線に弱いため、トップコートという塗料を重ね塗りします。
FRP防水の特徴は、防水工事のなかでもっとも短い工期(1日〜2日)である点、軽量なので重さに弱い建物に向いている点、防水性と耐久性が高い点です。また、塗料を塗る工事のため、塗装場所の形状を問いません。
ただ、防水工事の方法のなかでも、施工費用やメンテナンス費用が比較的高めです。また、伸縮性がそれほどないので、木造などで使用すると亀裂が入ってしまう可能性があります。そのうえ、硬化するまでポリエステル樹脂特有の刺激臭がするのも特徴です。コンクリートなどの素材が使われている場所に向いている施工方法です。
アスファルト防水は、合成繊維不織布のシートに、溶かしたアスファルトを染み込ませてコーティングする工事です。シートを液体状の防水材兼接着剤で張り付ける工法となるため、シート系防水と塗膜防水の2つの機能を兼ね備えています。
アスファルト防水には、常温工法(冷工法)、トーチ工法、熱工法の3通りがあり、以下のような特徴があります。
種類 | 工法 | 特徴 |
---|---|---|
常温工法(冷工法) | 火気を使用せずに粘着層とシール材で処理する | ・多くの現場で採用されている ・環境にやさしい ・施工したコンクリートにしっかりと付着する |
トーチ工法 | トーチバーナーの直火でルーフィング材をあぶりながら溶融し、防水層を形成する | ・シートを隙間なく溶着するので防水効果が高い ・煙が出ず臭いが少ない |
熱工法 | 熱で溶かしたアスファルトを使用して2~4枚のルーフィングシートを積み重ねる | ・独特の臭いや煙の発生 ・火災のリスクがある |
アスファルト工法は耐久性が高く、一度施工すると耐用年数が15~25年程度と長期間であるのがメリットです。耐久性に優れているため、メンテナンスを頻繁にしにくい大型建造物の屋上に向いています。ただし、アスファルトを高熱で溶かす際に異臭や煙が発生するため、近隣周辺に配慮することが必要です。
DIYの流行から、戸建住宅やマンションなどの防水施工を自分の手で行いたいと考えるオーナーがいるかもしれません。しかし、マンションなど、ある程度の大きさがある建物の屋上防水は専門業者へ依頼することをおすすめします。屋上はベランダなどと違い面積が広いこと、雨や風をダイレクトに受ける中でのDIYは難易度が高いこと、屋上防水は工事の専門性が高いことなどが理由です。
また、屋上の形状や劣化の内容などにより工法が違うため、屋上防水の実績が豊富な業者を選ぶことも重要なポイントです。DIYの作業が完璧ではなく、もしも雨漏りなどが発生した場合、建物全体へのダメージになりかねません。屋上防水の工事は専門業者へ依頼するようにしましょう。
なお、業者を選定する際は最低でも3社から相見積もりを取って、適正な相場価格を知るようにすることをおすすめします。
屋上防水工事は修繕費になるのか、それとも資本的支出になるのかはオーナーとして気になる点でしょう。基本的に、屋上防水工事はメンテナンスを定期的にしなければ建物の耐久性が低下するため、修繕費として計上されるケースが多いですが、工事の内容によっては資本的支出になることもあります。
修繕費と資本的支出では必要経費の計上の仕方が違い、「現状維持の支出」になるのか、もしくは「価値を増やす支出」になるのかの判断が必要です。ここでは、修繕費と資本的支出についてそれぞれ解説します。
修繕費とは、通常の維持管理や修理のために支出される費用です。原状回復工事など、マイナスをゼロにする工事が該当します。
支出した工事が修繕費に該当する場合、その年に全額を必要経費として計上することが可能です。支出する金額で判断するものではないので、たとえ1,000万円がかかったとしても、劣化した部分を元に戻しただけという場合は修繕費として計上することになります。
資本的支出とは、固定資産の修繕や改良をした際に、その固定資産の耐久性を高め、価値を増加させた部分の支出をさします。建物のデザイン変更や、耐久性やグレードを高めるなど、マイナスをプラスにする工事が該当します。
資本的支出に該当する場合は、その年に全額を必要経費にすることはできません。工事した資産と同じ耐用年数で支出した年から減価償却をしていきます。
定期的に屋上防水工事を施工することで、劣化を防ぎ、建物の寿命を伸ばすことができます。雨漏りやひび割れが確認できるなど、すでに建物の劣化が見られる場合には、早急に防水工事を検討しましょう。建物はオーナーに安定した収益を生み出してくれる大切な資産です。適切な時期にきちんとしたメンテナンスを実行して、建物の資産価値を維持していきましょう。
宅地建物取引士、整理収納アドバイザー1級、福祉住環境コーディネーター2級の資格を保有。家族が所有する賃貸物件の契約や更新業務を担当。不動産ライターとしてハウスメーカー、不動産会社など上場企業の案件を中心に活動中。