物件オーナーと入居者の間には信頼関係が不可欠です。しかし、実際には入居者が入居時に虚偽の申告をしていたり、書類に虚偽の記載をしていることがあります。入居前にそれが発覚した場合は入居を断ることで問題を解決できますが、すでに入居している人の虚偽申告があとから発覚した場合はどうすればよいのでしょうか。
虚偽申告が発覚したときの正しい対処法と、今後虚偽申告をしてくる人を入居させないための予防策について解説します。
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賃貸住宅への入居には審査があります。ノーチェックで入居を認めると、マナーの悪い人や家賃滞納をする人などが入居してしまう恐れがあるため、空室があるからといって物件オーナーは誰彼かまわずに入居を受入れるわけではありません。
そのため、過去に入居審査に落ちたことがある人、その後もなかなか通らない人が虚偽の申告をしてでも入居しようとするのは不思議なことではなく、実際にそのようなケースは意外に多いようです。
たとえば、入居後の生活が不自然だったり、その会話内容などから不審な点が見られたり、家賃滞納や入居者間のトラブルなどが発生して、そこから虚偽の申告が発覚することもあります。
入居時の申告内容や書類の記載内容が虚偽であったことがあとから発覚した場合、オーナーとしては心理的にもリスク管理の面からも看過はできません。
虚偽の内容を申告した人が入居することにより、考えられるリスクは主に2つあります。
虚偽の申告で最も多いのが、年収や職業といった家賃の支払い能力に関する部分です。こうした内容が虚偽であった場合、入居時にあった申告のような支払い能力がないかもしれず、そのリスクが顕在化すると家賃の滞納につながります。
家賃滞納の次に考えられるのが、入居者間のトラブルです。生活音やゴミ出し、駐輪などのマナーについてのトラブルが大半ですが、そもそも虚偽申告をするような意識の人なので、トラブルメーカーになる可能性は大いにあります。
入居後に虚偽の申告が発覚した場合、それを理由に退去させることができるかというと、残念ながら答えは「ノー」です。家賃が滞りなく支払われていて、特に問題のある生活態度がなければ、虚偽申告だけを理由に退去させるのは、それを取り締まる法律や判例もないため、困難です。
しかし、家賃滞納やトラブルなどの実害が発生した場合はその限りではありません。民法601条では賃貸借について賃貸人は対価を支払うことで成立する契約であると規定しているので、家賃滞納が発生したら「賃貸借契約を継続し難い重要な事由」に該当するため、虚偽申告の事実に関係なく退去させる理由になります。
また、水商売の人など入居審査に通りにくい属性の人たちの間では「アリバイ会社」といって、一般の会社に勤めているように偽装するサービスが利用されることがあります。こうしたサービスを利用してまで虚偽の申告をするのは、組織的かつ悪質であると見なされるため、詐欺の疑いがあるとして退去の理由になることがあります。
しかしこの場合も実質的には何かトラブルが発生しない限り、問題が表面化しないので、そのトラブルと虚偽申告という2つの理由をもって退去させることになるでしょう。
悪質な場合や虚偽申告者の誠意ある対応が見られない場合は、当事者間での解決が困難になるため、法律家の出番となります。
法的には「信頼関係破壊の法理」という概念があり、家賃の滞納や各種トラブルを通じてオーナーと入居者の間にある信頼関係が破壊された場合には退去させることができます。この法理を適用する場合にも家賃滞納やトラブルに加えて、虚偽の申告があったことが信頼関係破壊の理由に該当すると考えられます。
賃貸契約の更新時にはオーナーに更新を拒否できる余地がありますが、契約書にある解約通知期間内に通知しなければならないことや、更新を拒否する正当事由があることなど、意外に高いハードルがあります。ここでいう「正当事由」とは、オーナーが災害や経済的な事情によって入居者が使用している住居を自ら使用する必要性が生じた場合や、先ほど解説した「信頼関係破壊」に該当するような家賃滞納、著しく生活マナーが悪いといった場合のことを指します。
これらにこれらの条件に該当しない場合は、虚偽申告の発覚などオーナーの心証が悪いというだけで更新を拒否するのは難しいといえます。
ここまでは虚偽申告が発覚した場合の対処について解説してきましたが、こうした問題は未然に予防するのが一番です。そこで入居前の段階でオーナーが取り得る対応を4点にまとめました。
賃貸契約は双方が合意し締結するもので、法的にも有効な契約です。そのため一度契約を締結すると、よほどの事情がない限り強制的に退去させることは難しいことがおわかりいただけたと思います。そこで重要になるのが「予防」なので、ここで解説した証明書類の提出を必須にするなど入居時の審査を厳格化するのが最も現実的です。自主管理でオーナー自身の審査だけでは不安があるという場合は、家賃保証会社を入れて、プロの目による審査をプロセスに組み込むなどの方法も有効です。