2022.01.14
賃貸管理

大家都合で退去してもらう際の立ち退き料の相場、交渉の流れ

不動産経営を長く行っていると、建物の建て替えや大規模修繕、再開発など、オーナー側の事情により入居者を退去させなければならないケースが出てきます。その際、オーナーが入居者に対して立ち退き料を支払うこともあれば、立ち退き料の支払いが不要なこともあります。立ち退き料を算定するための定型的な計算式のようなものはありませんが、立ち退きの相場はある程度決まっているため、本記事では適切な金額を事前に確認していきましょう。

【監修者】弁護士 森田 雅也

 

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オーナー都合による退去の立ち退き料の相場とは

一般的な立ち退き料の相場は、家賃の6カ月~1年分程度です。しかし、この数値はあくまで相場であるため、どのような根拠で計算しているのか正しく把握しておく必要があります。

立ち退き料に含まれるもの

対象となる地域や入居者の事情などによる部分もありますが、オーナーが入居者に支払う立ち退き料には具体的に以下のようなものが含まれます。

➀引っ越し代
単身だと3万円前後、家族(4人程度)だと8万円前後が相場。ただし、繁忙期になると単身は4万円前後、家族は12万円前後に上昇することもある。また、荷物の量、引越先までの距離等により料金は変動する。

②新居の初期費用(通信費含む)
1カ月分の賃料、敷金、礼金、仲介手数料のほか、光回線工事費(集合住宅だと15,000円~30,000円程度が相場)が含まれることもある。
※賃料は地域や建物のグレードによって大きく異なる。

③慰謝料や迷惑料
慰謝料や迷惑料は法的には立ち退き料に含まれないものの、任意の立ち退き交渉においては慰謝料や迷惑料も考慮の上、立ち退き料が算定されることが一般的。慰謝料や迷惑料に明確な相場はないが、家賃の6カ月以上である傾向が高いため、引っ越し代、新居の初期費用、慰謝料・迷惑料を含めた合計金額がそれ以上になるように調整する必要がある。
※以下では、慰謝料や迷惑料が立ち退き料に含まれることを前提に説明。

 
基本的な考え方としては、入居者が物件を退去してから同等レベルの物件で生活するのに必要な費用(引っ越し代など)と、引っ越しの手間や住環境の変化によるストレス・心労に対する対価(慰謝料など)を見込んだものが「立ち退き料」に含まれます。

また、立ち退き料は部屋の面積だけでなく、入居者が単身世帯か家族世帯かによっても大きく異なります。特に引っ越し代は単身なのか家族なのかで3~4倍ほど金額に開きがでることもあるため、オーナーは入居者の世帯状況について配慮しておく必要があります。

立ち退き料にかかる税金

オーナーが支払う立ち退き料は基本的に必要経費と見なされます。これはオーナーが個人事業主であるか法人であるかに関係なく、立ち退く物件の種類や立ち退き理由が影響しています。

経費として扱う場合、所得税法基本通達では以下のように示されています。

37-23 不動産所得の基因となっていた建物の賃借人を立ち退かすために支払う立退料は、当該建物の譲渡に際し支出するもの又は当該建物を取壊してその敷地となっていた土地等を譲渡するために支出するものを除き、その支出した日の属する年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入する。

出典:国税庁 – 〔その他の共通費用〕(不動産所得の基因となっていた建物の賃借人に支払った立退料)

たとえば、所有していた建物を売却することにより入居者を退去させるケースだと譲渡所得から控除され、建物の建て替えにより入居者を退去させるケースだと不動産所得から控除されることになります。立ち退き料の支払いは大きな出費だといえますが、必要経費として計上できればオーナーは課税所得を圧縮できるため、節税に繋げることが可能です。

オーナーが立ち退き料を支払わなくても良いケース

冒頭で説明したように、事情によってはオーナーが立ち退き料を支払わなくてよいケースがあります。支払いが不要でありながら多額の立ち退き料を支払ってしまったということがないよう、不要なケースについても理解しておくことが大切です。

定期賃貸借契約を締結していた場合

入居時に更新のない定期賃貸借契約を締結していた場合、オーナーは立ち退き料を支払う必要はなく、契約満期を迎えたらそのまま退去させることができます。

定期賃貸借契約が期間満了となると契約は更新されないため、入居者が引き続き居住するためには再契約行う必要があります(ただし、再契約を行わない場合であってもオーナーは1年前から6カ月前までの通知期間に事前通知を行う必要はあります。また、定期賃貸借契約を締結するためには、契約締結前に更新のない定期賃貸借契約であることを入居者に説明するなど、所定の法律上の条件を満たす必要があります)。契約期間満了により入居者は退去となるため、立ち退き料を支払う必要がありません。

そのため、たとえば築年数の古いアパートやマンションであれば、将来的に立ち退きが発生することを想定して、最初から定期借家契約で入居者を募集するという方法もあります。

一方、普通借家契約を結んでいて入居者が更新を希望する場合、オーナー側に正当事由がなければ契約更新の拒絶ができないため、立ち退き料を支払わなければなりません。例外的に立ち退きが正当事由として認められる場合(建物が著しく老朽化しており、建て替えなければ倒壊の危険性がある場合など)はありますが、あくまでもこれは希少なケースです。

入居者が契約違反をしている場合

入居者が悪質な契約違反や違法行為をしており、強制的に退去させることが可能となった場合(オーナーと入居者の信頼関係が破壊され賃貸借契約の解除が可能な場合)、オーナーは立ち退き料を支払う必要はありません。具体的には、ペット不可物件で動物を飼っている、住居内がゴミ屋敷となり悪臭が発生している、近隣住民から騒音被害の訴えが発生しているなどにより、オーナーと入居者の信頼関係が破壊さている状況に至ったと言える場合です。

しかし、入居者を強制退去させることは決して簡単ではなく、契約解除の意思表示をし、裁判手続きをするなどある程度の段階を踏む必要があります。やり方によっては逆にオーナー側が訴えられる可能性もあるため、慎重に行わなければなりません。

◆強制退去に関してはこちらの記事で詳しく解説しています。
家賃滞納による強制退去の流れと、オーナーがすべき対策とは

大家が物件を別用途で使う場合

オーナーが物件を別用途で使用することになった場合、立ち退き料を支払わなくてよいケースがあります。たとえば、オーナー本人が住居用として物件を使用したい場合はその代表例です。この場合、「オーナーには自己使用の必要性がある」と判断されるため、立ち退きが正当事由として認められて立ち退き料は不要となることが多いです。

ただし、あくまでケースバイケースであり、別用途での使用であれば必ず立ち退き料不要になるわけではありません。

大家・オーナーが変わった場合

物件のオーナーが変わった場合、立ち退き料を支払わなくてよいケースもありますが、立ち退きを求めるための正当事由として認められるかどうかは裁判所の判断によります。過去には「賃貸借承継の前後を問わず、あらゆる事情を参酌すべきである」との判例が出たこともあり、オーナーの変更が正当事由に該当するかどうかは、その時の状況によることが示されているからです。

具体例を挙げると、入居者がいることを知っていながら、最初から自分が居住することを目的に建物を安い値段で購入するオーナーがいて、自己使用の必要性を理由に立ち退きを求める場合や、入居者がいることを知りながら、最初から今の建物を壊して新しい建物を建てることを目的にディベロッパーが建物を取得して、入居者に退去を求める場合などがあるとします。

このような背景だと、借主保護の観点から、立ち退きに正当事由があるとは認められない可能性が高いといえます。このケースの場合、前項で説明したようにオーナーは相当な額の立ち退き料を支払わなければ立ち退きは認められない、と考えておくべきでしょう。

入居者に立ち退きをお願いするための方法・流れ

実際に入居者へ立ち退きをお願いする方法を3つのステップで解説します。

ステップ1.通知する

まずは入居者へ立ち退きの通知を行います。オーナーから入居者へ立ち退きを求める場合、契約が終了する6カ月前までに契約を更新しないことを伝えなければならないと借地借家法により定められています。そのため、遅くても6カ月前までには連絡しなければなりません。そのうえ、立ち退きを求める正当事由も必要です。

ステップ2.立ち退き料の交渉

立ち退き料が不要となるケースに該当しない場合、入居者と立ち退き料の交渉を行う必要があります。入居者が納得しないと交渉は長期化してしまうため、できるだけ猶予期間は長めに設けて合意できるポイントを早めに見つけることが重要です。具体的には、入居者が新居の目処をつけられるように手伝う、早めに決定となったらさらに料金を上乗せするなど、オーナー側でできることはすべて準備したうえで交渉するのが理想です。

ステップ3.立ち退き開始

入居者が納得したら、実際に立ち退きへと移ります。この際、「期日までに退去した場合には立ち退き料を支払う」などと条件を決めておくとよいでしょう。仮に引っ越し手続きなどが遅れて期日になっても入居者が退去できないとなったら、トラブルへと発展する可能性があるからです。特に建物の建て替えや大規模修繕を予定している場合は、工事の遅延に繋がることもあるので注意が必要です。

入居者とのトラブルに発展しないための立ち退き依頼ポイント

オーナー都合で立ち退きを依頼する場合、簡単には納得してくれない入居者も多く、時にはトラブルへと発展してしまうケースもあります。そのため、事前にトラブルを防止するための4つのポイントを紹介します。

入居者が納得する理由を提示する

どうして立ち退きが必要になるのかという理由を提示することはもちろんですが、入居者が納得せざるを得ないような客観的な理由を伝えられるかどうかも肝心です。たとえば、建物が老朽化していて建て替えや大規模修繕を要する場合、具体的な危険性を示す、耐震診断の結果を見せるなど、客観的に示せるデータを用意すると入居者に納得してもらえる可能性が高くなります。

入居者が立ち退きにかかる費用も考慮する

入居者が立ち退きにかかる費用をオーナーとして把握しておくことも大切です。一般的な立ち退き料の相場は家賃の6カ月~1年分程度と紹介しましたが、入居者の事情や家賃の金額によっては実際の立ち退き費用のほうが高くなってしまうケースがあるからです。「6カ月分を払えば納得するはず」などと安易に考えず、実際にどのくらいの費用があれば新居での生活ができそうか、入居者の立場で考えることが重要です。

交渉した内容は書面で残す

立ち退き交渉の内容や入居者へ掲示する立ち退き料など条件は、必ず書面で残すようにしましょう。口頭のみでの交渉は、後で言った・言わないのトラブルが起こる可能性があるうえ、入居者としてはまだ交渉の余地があるように感じてしまう可能性があるからです。さらに、口頭だけではオーナーの誠意が伝わりにくく、入居者が立ち退きに納得してくれずに交渉が長引いてしまうといった可能性も考えられます。

ただし、最初の段階から書面で通知していなくても問題ありません。最初は口頭で立ち退きのお願いをすることから始め、何度か入居者と交渉を重ねていき合意できそうなポイントが見えてきた段階になったら、解決案を書面でまとめてオーナーから提示する方法をとるとスムーズでしょう。

専門家に交渉の依頼をする

立ち退き交渉が困難でトラブルへと発展しそうな場合は、弁護士へ交渉を依頼するのがおすすめです。依頼費用はかかりますが、交渉にかかる時間や精神的な負担を大きく減らせます。立ち退き交渉は不動産オーナーがもっとも苦労する仕事のうちのひとつであるため、忙しくて十分な時間を確保できないオーナーや、立ち退き交渉の経験が乏しいオーナーなどは検討の余地があるといえます。

入居者に立ち退きを拒否された場合の対処法

これまで紹介してきた方法で交渉をしても立ち退きを拒否されてしまった場合、確実に解決するためには裁判所で争う方法があります。しかし、裁判になると判決が出るまでに時間を要するだけでなく、多大な費用も発生します。結局のところ、立ち退き料を上乗せし納得してもらったほうが合理的な場合もあるため、最後の手段として考えるべきでしょう。

そのため、まずは立ち退き問題に詳しい弁護士と相談して、進め方のアドバイスをもらうことをおすすめします。初めは拒否されていた場合でも、オーナーが粘り強く交渉すれば気持ちが変わる人はいるので、時間に余裕があるならば弁護士の意見を聴きながらいくつかの手段を試してみましょう。

また、立ち退きの時期が明確に決まっていない状態であれば、立ち退きを拒否している入居者が退去できるタイミングになるまで待つという方法もあります。立ち退き交渉を行う中で、いつ頃まで物件に住み続ける予定なのかという情報をうまく聞き出せれば、解決の糸口が見いだせる可能性があります。

大家都合による退去は立ち退き料が発生!不安があるなら弁護士へ相談を

築年数が古い建物を所有していると、建て替えや大規模修繕を行うことは避けられないため、いつか行わなければならない時期が訪れるでしょう。したがって、古い建物で賃貸経営を行うオーナーは、資金計画を立てるのと同時に、立ち退き交渉や立ち退き料についてもある程度は想定しておくことが重要です。なお、立ち退き交渉は不動産経営において難しい仕事のひとつであるため、弁護士へ相談してスムーズな交渉ができるように準備を整えておくことも大切です。

【監修者】森田 雅也

東京弁護士会所属。年間3,000件を超える相続・不動産問題を取り扱い多数のトラブル事案を解決。「相続×不動産」という総合的視点で相続、遺言セミナー、執筆活動を行っている。

経歴
2003 年 千葉大学法経学部法学科 卒業
2007 年 上智大学法科大学院 卒業
2008 年 弁護士登録
2008 年 中央総合法律事務所 入所
2010 年 弁護士法人法律事務所オーセンス 入所

著書
2012年 自分でできる「家賃滞納」対策(中央経済社)
2015年 弁護士が教える 相続トラブルが起きない法則 (中央経済社)
2019年 生前対策まるわかりBOOK(青月社)

 

 

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