自主管理オーナーが賃貸経営を行う際、もっとも懸念となるのは入居者による家賃滞納です。家賃滞納が起こる原因はいくつかあるものの、いつまでたっても家賃滞納が続く場合は「強制退去」という方法をとらざるを得ません。本記事では、家賃滞納をする入居者を退去させる方法を中心にお伝えします。少しでも損害や負担を軽くしたいオーナーはぜひ参考にしてください。
【監修者】弁護士 森田 雅也
【著者】矢口 美加子
オーナーのための家賃保証
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目次
オーナーは、入居者が家賃を数カ月にわたって滞納した場合には、債務不履行を理由に賃貸借契約を解除することができます。しかし、契約を解除したとしても、入居者が任意で物件から退去してくれるとはかぎりません。中には契約解除後も物件を不法に占有し続ける入居者もいます。
たとえ入居者が不法に物件を占有していたとしても、オーナーが勝手に鍵を交換するなどして入居者を無理矢理追い出すことは法律上、禁止されています。そのような場合には、裁判所の手続を通じて入居者を強制的に退去させる必要があり、本稿ではこの手続を「強制退去」と呼ぶこととします。
上記で説明したとおり、入居者を強制退去させるためには、裁判所の手続を経る必要があります。具体的には、裁判所に「建物明渡請求訴訟」を提起して勝訴判決を取得し、その判決に基づいて強制執行手続を申し立てる必要があります。
もちろん、裁判所に「建物明渡請求訴訟」を提起して勝訴判決を取得するためには、一定の事情が必要です。
一般的には、以下のような事情を裁判所で主張して、それが認められれば勝訴判決を取得することができます(あくまでも一般的なケースを紹介しているだけですので、以下の事情がなければ絶対に勝訴判決が取得できないという趣旨ではありません。また、以下の事情があれば必ず勝訴判決が取得できるという趣旨でもありません)。
「賃貸借契約を解除したにもかかわらず入居者が出て行ってくれない」という主張を行う前提として、そもそも入居者との間で賃貸借契約を締結した事実を主張する必要があります。賃貸借契約書を証拠として裁判所に提出する必要がありますので、契約書は大切に保管しましょう。
賃貸借契約を解除するためには、オーナーと入居者との間の信頼関係が破壊されている必要があると考えられています。そのため、家賃滞納が1~2カ月程度の場合、信頼関係が破壊されているとまでは言えないとして、契約の解除が認められない可能性があります。
過去の裁判例をみると、家賃滞納が3カ月以上続いている場合には概ね契約解除が認められやすい傾向にありますが、滞納期間がそれよりも短い場合には契約解除を否定する裁判例も見受けられます。なお、契約内容や過去の滞納状況などを踏まえて滞納期間が3カ月未満でも契約解除を認める裁判例がないわけではありませんが、万全を期すために、家賃滞納が3カ月以上溜まってから契約を解除するのが一般的でしょう。
家賃滞納が3カ月以上溜まれば自動的に契約が解除されるわけではなく、オーナーが入居者に対して契約を解除する意思を表示する必要があります。解除の意思を表示する方法は口頭でも構いませんが、後々裁判で争いになることを避けるために、特定記録郵便や内容証明郵便といった記録の残る方法を用いるのが一般的です。
また、「催告解除」を行う場合は、解除の意思表示と併せて「催告」を行うケースが一般的です。「催告解除」とは、「5日以内に滞納家賃を全額支払ってください」と履行を催促したにもかかわらず、入居者がそれでも滞納家賃を支払わない場合に契約を解除する方法を言います。
「催告」と「解除」を別々の書面で行っても構わないのですが、手間ですので、「5日以内に滞納家賃を全額支払ってください。催告期限内に支払いがない場合は本書面をもって契約を解除します。」と1つの書面にまとめて送ることが多いです。
家賃滞納による強制退去は、いくつかの段階を経た最終手段といえるため、時間がかかるだけでなく手間や労力もかかります。最終的に強制退去となるまでの流れを詳しく説明します。
いきなり強制退去を求める前に、まずは入居者とオーナー間で交渉を行うことが一般的です。入居者本人に支払いの催促をし、できれば口頭と書面の両方で実施します。本人へ直接連絡をすることにより、家賃の支払いが遅れた理由がわかる可能性があります。
「電話をかけてもつながらない」「催促状を郵送したのに何の連絡もない」などと入居者側と一向に連絡が取れないときには、連帯保証人、または家賃保証会社に連絡して入居者が滞納した家賃の立て替えを請求します。
この際、連帯保証人の場合はすぐに対応してもらえるとは限らないですが、家賃保証会社を利用している場合はすぐに立て替え払いに応じてもらえる可能性があります。
通常の督促状を送っても何ら対応がされない場合には、内容証明郵便で催促します。内容証明郵便とは、いつ、どのような内容の文書を誰から誰あてに差し出したのかを、差出人が作成した謄本によって日本郵便が証明する郵便方法です。上でも簡単に述べましたが、内容証明郵便は裁判で強制退去を認めてもらうための証拠書類となります。
内容証明郵便で催促する際には、滞納家賃の支払い期限や内容などを詳しく記載しておきましょう。書面に記載した期日までに滞納家賃の支払いが行われない場合、賃貸契約解除の法的効果が発生します。詳しい書き方はこちらの記事をご覧ください。
内容証明郵便で指定した期日までに滞納家賃が支払われない場合、任意の明渡しを請求します。入居者がここで明渡しに応じてくれれば、この後の裁判や強制執行の手続をしなくて済みます。法的措置を取る前に、自ら退去するよう入居者へ求めるのがこの段階です。
入居者に退去する様子が見られないときには、いよいよ法的措置の段階です。先述のとおり裁判所に「建物明渡請求訴訟」を提起して勝訴判決を取得し、その判決に基づいて強制執行手続を申し立てる必要があります。裁判手続にかかる費用は一次的にはオーナー側の負担になります。
なお、強制退去を求める場合は「建物明渡請求訴訟」を提訴する必要がありますが、入居者に家賃を支払ってもらいたい場合には、「賃料請求訴訟」を提訴する方法のほかに「支払督促」もしくは「少額訴訟」といった方法もあります。それぞれ説明します。
支払督促の手続は、相手の住所地を管轄する簡易裁判所(の裁判所書記官)へ申し立てます。この際、わざわざ裁判所へ出向く必要はなく、書類の審査だけで終了します。訴訟を起こす場合の半額の手数料で済み、審査に通ると裁判所から入居者へ督促状が送付されます。
入居者側に異議がある場合、支払督促を受け取ってから2週間以内に申し立てをします。入居者側に異議がない場合、オーナー側は仮執行宣言を発付してもらうことによって強制執行の申し立てができます。
少額訴訟は、60万円以下の金銭の支払いを求める場合に限り利用できる制度です。原則、1回で審理が終了し判決が言い渡されるので早く解決できます。ただ、原告であるオーナー側の主張が認められた場合であっても、入居者側の経済状況によっては分割払いなどといった判決が下されることもあります。
なお、少額訴訟や通常訴訟で審理を進めていくと、和解で解決するケースも少なくありません。また、判決や和解調書をもとに入居者の給料や預金などを差し押さえることも可能ですが、入居者側が無職だったり預金がなかったりすると回収できないため、判決を取得しても費用倒れになってしまう可能性があります。
家賃滞納者に法的手続で明渡しを求める場合の基本的な手順はこちらです。
1. 滞納家賃の支払いを催告する
2. 賃貸借契約解除の通知を送付
3. 部屋の明渡しを求める訴えを申し立てる
4. 判決が確定・債務名義が取得できる
5. 部屋の明渡しの強制執行の申し立てを行う
6. 強制執行が執行官のもとで行われる
強制執行の申立てを行うと、執行官が部屋の「明渡しの催告」を行います。「明渡しの催告」とは、執行官らが物件の現地に赴いて、現況の確認を行い、明渡期限と強制執行を実施する日程を債務者に伝えて明渡しを促す手続のことです。
強制執行はすぐに実施されるわけではなく、実施までに1カ月程度の猶予期間を与えられます。もしもこの期限までに入居者が部屋から退去しない場合、執行官が強制的に入居者を部屋から出す、荷物や家具を運び出すことが可能となります。
家賃滞納が発生すると、オーナーは対処しなければならないことや手続による出費が増えることから、精神的にも時間的にも経済的にもダメージを受けてしまう可能性があります。入居者を実際に退去させるには何段階もの対処が求められるため、最初から家賃滞納が発生しないよう対策をとることが有効だといえます。そこで、家賃滞納を未然に防ぐために有効な対策を3つ紹介します。
まずは、入居者の支払能力を厳正に審査することです。家賃を支払う能力がない入居者を受け入れることによって、オーナーの資金計画に狂いが生じる場合もあります。
ただし、そうはいっても金融機関でもないかぎりは他人の支払能力を正確に審査することは難しいといえるでしょう。その点、「家賃保証サービス」を利用すると下記のような点に留意して正しく審査を進めてくれる可能性が高いです。
1. 滞納リスクのある入居者を見つけ出す
2. 滞納リスク以外にも問題のある人を入居させないようにする
日常的に入居者とコミュニケーションを取っておくことも、家賃滞納の抑止力になることがあります。特に、自主管理を行うオーナーは物件の清掃などといった管理業務時に入居者と会話を交わすようにし、家庭や仕事の状況を把握しやすい状況を作っておきましょう。
家賃滞納者の中には、病気や失職などによるやむを得ない事情で支払いが滞っている人もいるかもしれません。家賃を免除することは難しいですが、あとから何らかの形で払ってもらえるなど、話し合いで穏便に解決できる場合もあります。
意外と簡単なことに感じるかもしれませんが、家賃の自動引き落としを依頼することも家賃滞納防止策のひとつです。入居者側に突発的なやむを得ない事情が発生した場合、家賃の振り込みをうっかり忘れてしまっていた、気づいたときには振り込みの締切日を過ぎていた、ということが起こりやすくなります。こういったことを防ぐには、あらかじめ家賃が自動引き落としされるよう設定してもらうのが有効です。
繰り返し述べてきましたが、家賃滞納が確認できても、必ずしも強制退去がすぐに認められるわけではありません。ここでは、オーナーが入居者を退去させることができないケースを紹介します。
家賃滞納の期間が1~2カ月と比較的短い場合、裁判所が契約解除を認めないこともあります。一般的には3カ月の滞納期間があれば契約解除を認める傾向にあります。
また、入居者にやむを得ない事情があり、今は支払えないけれども後日支払うという意思をもっている場合、分割で支払う約束をしてくれた場合など、入居者が「支払いますよ」という意思を表明しているときも契約解除が認められない可能性があります。そのうえ、オーナーからの支払催促などに入居者がきちんと対応しているうちは「貸主との信頼関係が壊れた」とはいえないため、このケースも認められない可能性があります。
オーナー側が違法行為を行っている場合、強制退去が認められなくなる可能性があります。また、仮に強制退去が認められたとしても、それとは別に損害賠償義務を負ってしまう可能性がありますので、以下のような行動はくれぐれも慎むようにしましょう。
1. 入居者の許可を得ずに勝手に入室する
2. 脅迫まがいの取り立てをする
3. 嫌がらせを含め退去を強要する
4. 入居者の留守に断りなく鍵交換を行う
5. 入居者の荷物を許可なく部屋から出す
また、内容証明郵便など法的に証明できる督促方法を行っていなかったため督促を行ったことを立証できず、敗訴してしまうといったケースもあります。
家賃滞納を防ぐ方法のひとつとして入居者の支払能力を審査すること、そのためには家賃保証サービスを活用する方法があることを先述しましたが、特に自主管理を行うオーナーの場合、家賃保証サービスを利用するメリットは多数あります。
家賃保証サービスといっても商品によって特徴はさまざまであるため、本記事ではCasaの「家主ダイレクト」を紹介します。家主ダイレクトは、家賃保証、家賃の集金代行、孤独死保険をワンパッケージとして提供している自主管理オーナー向けの保証サービスです。
家主ダイレクトを利用する大きなメリットのひとつは、入居者による家賃滞納の心配がなくなることです。毎月決まった日に入居者の口座から自動で家賃を引き落としてオーナーの口座へ送金することにくわえ、入居者の口座が残高不足の場合は家主ダイレクトが立て替えて入金をします。
家賃の未入金が発生しなくなるので、物件のローン返済をしているオーナーは未入金の不安やストレスを感じずに安定した賃貸経営を行うことができます。
また、家主ダイレクトを利用することで、更新料、原状回復費用、明渡訴訟などの法的手続費用、家財保険の保険料などを幅広く保証してもらえるのも大きなメリットです。
家賃滞納は入居者自身にも大きなリスクをもたらすため、入居者側に下記のようなリスクを理解しておいてもらうこともオーナー側として重要です。
家賃滞納をしてしまうと、日々の生活に関わる「審査」に通りにくくなります。家賃はオーナーが所有する金銭債権であるため、支払期日を破ると金銭に関する信用度が著しく低下するのは大きなリスクです。
近年、オーナーは賃貸借契約を締結する際に「家賃保証会社に加入すること」を入居者側への条件とする傾向が高いです。先述のとおり、家賃保証会社を利用すると家賃保証会社側で入居者審査を行うため、その際に家賃情報データベース(全国賃貸保証業協会により運営されている、入居者の信用情報を一括管理するデータベース)などから過去に家賃滞納の記録があることがわかると審査に通らない可能性があります。
このデータベースに掲載している情報の登録期間は保証委託契約の終了から5年間となり、家賃滞納の事故が発生した場合は債務が消滅してから5年間は記録が消えることはありません。
また、仮に家賃保証会社がCICやJICCなどといった信用情報機関へ加入している場合、家賃滞納事故を起こしてしまうとその情報が載ってしまうことになるので、クレジットカードの発行審査やローンの審査などを受けるときに支払能力がないと判断されてしまう可能性もあります。
家賃を期日までに支払わない場合は、延滞損害金(遅延利息)が請求される可能性があります。契約書に記載がある場合は、年14.6%の上限で規定された利息をつけて支払わなければなりません。
なお、契約書に記載がない場合は法定利率が適用されます。2020年4月の改正民法施行日以降に発生した場合は年3%の利率となりますが、施行前に発生した場合は5%(さらにオーナーが事業として賃貸経営をしている場合は6%)です。つまり改正日の前後で利率が線引きされます。
遅延損害金が適用される期間は、滞納が発生した日から滞納家賃を支払うまでの期間です。
オーナーからの請求に対応しないでそのまま放置していると、オーナーから建物明渡請求訴訟や賃料請求訴訟(上で紹介した支払督促や少額訴訟含む)を提起される可能性があります。裁判になった場合には、答弁書を作成して提出しなければならなかったり、平日に裁判所に出廷しなければならなかったりなど様々な負担も発生します。
最後に、入居者による家賃滞納や退去に関する質問と回答を紹介します。
無断退去の場合は、そもそも本当に「明渡しが行われた」といえるのかどうか判断に困るケースが少なくありません。また、部屋の中に残置物がある場合、当該残置物を入居者に無断で処分することは原則として許されません(契約で「所有権を放棄する」との条項が定めてあったとしても、当該条項の有効性が問題となるので、無断で処分しないほうがいいでしょう)。
そのため、このような場合には、念のため強制退去手続を行うのが望ましいといえます。強制退去手続を行えば、執行官の立会いのもと、無断退室によって置き去りにされた残置物をトラックなどで合法的に撤去することが可能となります。
また、連帯保証人がいるならば、連絡をして滞納した家賃を払ってもらいましょう。残置物の処分費等も連帯保証人が負担する内容の契約になっていれば、こちらもあわせて請求を行いましょう。
家賃滞納や明渡しを巡るトラブルは多く発生していますが、いくら家賃を滞納されているからといって入居者の人権を踏みにじるような方法で督促をしてしまうのは良くありません。
くれぐれも「常識外の時間に訪問する」「個人が特定される形での催促(マンションの掲示板などに個人名を記載して貼り付けるなど)」「SNSなどで知り合いを特定して連絡する」というような行き過ぎた方法は避けるようにしましょう。
入居者に対して催促できる範囲はこのようなところまでです。
1. 入居者に対して電話や手紙で支払いを請求する
2. 1を試みても連絡が取れない場合に部屋を訪問する、連帯保証人へ連絡を取る
3. 配達証明付き郵便や内容証明郵便を入居者宛に送付する
これ以上になると裁判上の手続に移行するのが一般的です。自主管理オーナーの場合、この程度までが催促できる範囲といえます。
入居者による家賃滞納が確認された場合、いきなり強制退去を試みるのではなく、オーナーには段階を踏んで対処が求められます。家賃を滞納しているからといって、入居者の人権を無視した督促を行ったり勝手に荷物を部屋の外に出したりすることはできません。
また、法的手続に関する費用や残置物の処分費、原状回復工事費などは原則としてオーナー負担となる可能性が高いです。こういう場合の備えとして、ぜひ家賃保証サービスを検討してみてはいかがでしょうか。
【監修者】森田 雅也
東京弁護士会所属。年間3,000件を超える相続・不動産問題を取り扱い多数のトラブル事案を解決。「相続×不動産」という総合的視点で相続、遺言セミナー、執筆活動を行っている。
経歴
2003 年 千葉大学法経学部法学科 卒業
2007 年 上智大学法科大学院 卒業
2008 年 弁護士登録
2008 年 中央総合法律事務所 入所
2010 年 弁護士法人法律事務所オーセンス 入所
著書
2012年 自分でできる「家賃滞納」対策(中央経済社)
2015年 弁護士が教える 相続トラブルが起きない法則 (中央経済社)
2019年 生前対策まるわかりBOOK(青月社)
オーナーのための家賃保証
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宅地建物取引士、整理収納アドバイザー1級、福祉住環境コーディネーター2級の資格を保有。家族が所有する賃貸物件の契約や更新業務を担当。不動産ライターとしてハウスメーカー、不動産会社など上場企業の案件を中心に活動中。