2021.02.10
不動産トピックス

【民泊新法で何が変わった!】6月15日以降に起きた事例は…?グレーな民泊が「黒」に

旅行の際、ホテルや旅館に宿泊するのではなく、個人の自宅の一室や、マンションの空き部屋、別荘などを借りて宿泊する「民泊」スタイルがすっかり浸透しています。ただし、民泊では、プロが運営する旅館やホテルでは起こりえない、安全・衛生面のトラブルが起こる可能性も否定できません。

また、旅行者が羽目を外して大騒ぎをした場合、旅館やホテルとは違って止める人がいないため騒ぎが拡大し、近隣住民とのトラブルに発展することもあります。このような状況に歯止めをかけ、健全な民泊の運営がなされるようにと、2018年6月15日、「住宅宿泊事業法(民泊新法)」が施行されました。
 

民泊新法とは!?

これまで「民泊」を規制する法律としては旅館業法がありました。しかし、友人や知人を宿泊させる場合や、普段から交流のある海外の友人を自宅に泊める場合には、旅館業法の営業にあたらず旅館業法上の許可が必要ないという曖昧さがありました。また、旅館やホテルに比べて気軽に運営を開始できることから、無責任な運営が行われるケースも。民泊の利用に関して、国民生活センターに寄せられた事例には、次のようなものがあります。

民泊の利用に関する相談事例
【事例1】
予約した民泊をキャンセルしたところ、宿泊料全額をキャンセル料として請求された
【事例2】
宿泊料の他に清掃料金を請求されたが、宿泊に必要な料金総額の表示がわかりにくい
【事例3】
当日に宿主と連絡が取れず宿泊できなかったが、宿泊料請求されている
( 2018年6月14日:公表
独立行政法人 国民生活センター「新しい民泊ルールがスタート!-民泊を利用する前には宿泊に必要な料金総額やキャンセル規定を確認しましょう!-」 より引用)

このようなトラブルを減らすこと、民泊が健全に運営されることなどを目指して施行されたのが民泊新法です。言い換えれば、この法律により、これまではグレーゾーンにおかれていた「民泊」が公に認められたとも言えます。そして、民泊を行う場合は次の3つのうちいずれかの許可を得るか、届出を行うことが義務づけられます。

(1)旅館業法(昭和23年法律第138号)の許可を得る
(2)国家戦略特区法(平成25年法律第107号)(特区民泊)の認定を得る
(3)住宅宿泊事業法の届出を行う

このような規制に対応しきれず、2018年6月8日には次のようなトラブルが生じています。

【事例】エアビーアンドビーが無届物件の予約を大量キャンセル

民泊仲介サイトとして知られる「エアビーアンドビー」が、観光庁の「違法物件に係る予約の取扱いについて」の通知(2018年6月1日)を受けて、6月8日から無届物件の予約を大量にキャンセルする措置を講じました。宿泊予約をしていた観光客、さらには民泊の運営者にとって、あまりも急な措置であり、混乱が起こりました。

今後は、民泊がグレーな存在ではなくなり、

・届出を行っていない違法物件や法令違反の運営をしているブラックな物件
・届出を行い規制にのっとった運営を行っているホワイトな物件

に、二分されていくことが予想されます。

これまでと変わった規制

民泊新法では「既存の住宅を1日単位で利用者に貸し出すもので、1年間で180日を超えない範囲内で、有償かつ反復継続するもの」について、住宅宿泊事業法の届出を行うことができると定めています。逆に言えば、新規の建物を建設しての事業や、旅行客を宿泊させる期間が180日を超える事業については、他の方法(旅館業法の許可を得るなど)を選ばなければならないでしょう。

そして、民泊新法では「民泊の事業に関わる事業者」を3種類に定義しています。

・住宅宿泊事業者
・住宅宿泊管理業者
・住宅宿泊仲介業者

住宅宿泊事業者は、次のいずれかに該当する場合、受託宿泊管理事業者に業務委託をしなければなりません。

1.届出住宅の居室の数が、5を超える場合
2.届出住宅に人を宿泊させる間、不在となる場合

たとえば、住宅宿泊事業者の自宅の一室を民泊施設として運営する場合、事業者が日常的な買い物や外出などをする時間以外は在宅しているならば、業務委託の必要はないかもしれません。しかし、遠方で空き家となった実家を民泊施設として運営したい場合などには、住宅宿泊管理業者への業務委託をしなければならないでしょう。

民泊新法にもとづく届出は、手続きが非常に煩雑です。また、後に述べるように宿泊者を受け入れる日数に規制があり、地方自治体の条例を守る必要も出てきます。そのため、事業としての民泊経営を諦めて、撤退する人も出ています。

【事例】観光庁の調査により民泊物件の約20%が「適法と確認できない」
観光庁が10月10日に公表した「住宅宿泊仲介業者の取扱物件の適法性の確認結果について」によると、住宅宿泊仲介業者37社が取り扱う物件24,938件のうち、適法と確認できなかった物件が4,916件、その割合が約20%に達することがわかりました。「適法と確認できなかった物件」とは次のような物件です。

・虚偽の届出番号等により掲載しているもの
・届出番号と一致するものの住所が異なっているもの
・届出等がなされた事業者名と異なる名称のもの

2020年に向けて知っておくこと

政府は、2020年の東京オリンピック開催に向けて、観光客のさまざまなニーズに答えられる宿泊施設の充実を目指しています。そのためにも、民泊の健全な運営がなされ、この分野が発展することを期待しており、決してむやみに締めつけを行いたいわけではありません。

厚生労働省、国土交通省、観光庁による「民泊制度ポータルサイト」も開設されており、運営者、利用者の双方に向けて有益な情報が発信されています。これから民泊を運営したい人は、ぜひ事前に確認してトラブルなく運営がスタートできるようにしましょう。

民泊の運営は、民泊新法だけでなく地方自治体の条例やマンションの運営規約で規制されている場合もあります。なかには「週末だけしか認めない」「観光閑散期のみ運営を認める」としている地方自治体や、「当マンションでは民泊を禁止する」という規約を盛り込んでいるマンション管理組合もあります。

今後も、規制が厳しくなることが予測される地域では、届出を行ったり、許可を受けたりしたとしても、民泊経営による利益が上がり始めるころには、民泊運営が難しくなるという可能性もありますので、注意が必要です。規制が厳しくなれば、政府側の「宿泊施設を充実させ、観光立国を目指す」という思惑からは、離れてしまいます。経済同友会も厳しすぎる規制が行われることを懸念し、2018年10月15日には、過剰な規制の見直しを提言する意見書を公表しています。

今後まだまだ、法的な規制が変化していく分野なので、最新情報を収集することに努めましょう。

終わりに

東京オリンピックが開催される2020年、そして2025年の大阪万博開催への期待も高まるなか、インバウンド需要を見込んだ民泊事業の拡大、発展が続くと予想されます。民泊新法の施行により、それまでグレーゾーンに置かれていた「民泊」が、公に事業として認められたと言えます。

観光客の多様なニーズに対応しやすい民泊ですが、運営者には届出を行って許可を受けること、宿泊者の安全確保を行うこと、外国語を使った情報提供なども法的に義務づけられます。また、近隣住民とのトラブルを起こさないことも、ますます求められるでしょう。

民泊新法は、運営者へのむやみな締めつけを行うためではなく、この法律に従って民泊を運営すれば、結果的には息長く、信頼される運営ができる、という内容が主になっています。今後、民泊事業に参入する人は、法規制についてよく調べ、健全と認められる運営を目指すことが大切です。

監修者
小林弘司
不動産コンサルタント/不動産投資アドバイザー
東京生まれ、東京育ち。海外取引メインの商社マン、外資系マーケティング、ライセンス会社などを経て、現在は東京都内にビル、マンション、アパート、コインパーキングなど複数保有する不動産ビジネスのオーナー経営者(創業者)です。ネイティヴによる英語スクールの共同経営者、地元の区の「ビジネス相談員」、企業顧問なども行っています。
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法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント総合研究所 特任研究員。 経済産業大臣登録 中小企業診断士、MBA(経営管理修士)、一級販売士、GCS認定コーチ。 ARC CONSULTING(アーク・コンサルティング) 代表経営コンサルタント。(社)東京都中小企業診断士協会 城東支部所属。 東京商工会議所 企業変革アシストプログラム事業アドバイザー。 東京信用保証協会 経営力強化専門家。 国内最大不動産投資サイト「楽待」認定コラムニスト。
好きなことは、読書、サッカー、愛犬との散歩などです。

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