賃貸経営中のオーナーや、空室を有効に活用する方法を探している人の中には、民泊経営に興味をもつ人もいるでしょう。この記事では、民泊の新しいルールである「民泊新法」の概要、民泊経営と賃貸経営の違い、民泊経営を成功させるポイントなどを解説します。民泊を始めるかどうかの判断はもちろん、不動産投資の選択肢を増やすためにも、ぜひ本記事を参考にしてみてください。
【著者】水沢 ひろみ
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目次
民泊経営とは、民間の住宅の空室を宿泊施設として外国人旅行客などに貸し出すサービスのことです。インターネットの発達によってスマートフォンやパソコンで簡単に予約できることや、ホテルや旅館などと比べて低価格で宿泊できることが民泊の魅力となっています。
民泊という方法の出現で、外国人観光客や繁忙期に宿泊施設が見つからない人などと、空き家を短期間だけ貸し出したいというオーナーの希望をマッチングできる仕組みが完成しました。加えて、外国人旅行客が急増し宿泊施設の不足が生じていたことや、仲介サイトのAirbnbが両者をマッチングサービスで結び付けたことが後押しして、急速に利用者が広がっています。
民泊は旅行者と事業者の双方に大きなメリットをもたらしましたが、反対に騒音やゴミ問題などの近隣トラブルも発生するようになりました。そこで民泊の増加によるさまざまなトラブルを防止するために、2018年に「住宅宿泊事業法(民泊新法)」が施行され、一定の規制がかかるようになりました。
そもそも民泊新法の施行には、「旅館業法」に基づく許可がなくても届け出をすれば民泊を行えるようになったこと、宿泊客の受け入れを拒否できるようになったことなど、多くのメリットもあります。しかし民泊新法では年間の稼働日数が180 日に制限されるとともに、事業者の役割と責任が明確にされることで、従わなくてはならないルールも詳細に定められています。
本章では、民泊の新しいルール「住宅宿泊事業法」とはどのような法律なのか、以下で解説していきます。
参考:民泊制度ポータルサイト – 住宅宿泊事業法(民泊新法)とは?
民泊新法では、サービスの普及と向上を図るため、事業者を「住宅宿泊事業者」「住宅宿泊管理業者」「住宅宿泊仲介業者」の3種類の立場に分け、それぞれの役割を以下のように定めています。
それぞれの違いは次で詳しく説明します。
住宅宿泊事業と認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。
また、民泊に利用できる「住宅」には、台所やバス、トイレ、洗面所が備わっていることが要件であるとともに、以下のいずれかに該当する必要があります。
そして、住宅宿泊事業者は宿泊者の衛生や安全、外国人観光旅客の快適性や利便性、周辺地域への悪影響の防止などの配慮をしなくてはならないとされ、そのためのさまざまなルールも定められています。
民泊新法による登録をして民泊管理業を営む者を、住宅宿泊管理業者と呼びます。住宅宿泊管理業とは、住宅宿泊事業者から委託されて住宅宿泊管理業務を行い、管理業務に対する報酬を受け取る事業を指します。
住宅宿泊管理業者として業務を行うには、国土交通大臣の登録を受けなくてはなりません。また、住宅宿泊管理業者としての責任や報酬の額などに関して誇大な広告をしたり、不当な勧誘を行ったりするなどの行為は禁止されています。
なお、住宅宿泊事業者がなすべきとされる「宿泊者の衛生や安全その他の配慮すべき事項」は、住宅宿泊管理業者が代わって行うこととされています。
民泊新法による登録をして住宅宿泊仲介業を営む者を、住宅宿泊仲介業者と呼びます。住宅宿泊仲介業とは、旅行業の登録を受けた旅行業者以外の者が民泊の仲介業務を行い、報酬を受け取ることです。
住宅宿泊仲介業者となるには観光庁長官の登録を受ける必要があり、宿泊者に対し不当な勧誘をすることや違法行為をあっせんすることが禁止されるなど、一定の義務が定められています。
賃貸経営と民泊経営は、両者とも部屋を貸し出すという点では共通するサービスですが、どのような違いがあるのでしょうか?具体的には「事業形態」「管理内容」「許可」という3つのポイントにおいて違いがありますので、以下に詳しく解説していきます。
賃貸経営と民泊経営は、そもそも事業形態が違います。賃貸経営は「不動産賃貸業」に該当するのに対して、民泊経営は「旅館業」に該当します。
不動産賃貸業では、入居者が生活の本拠として利用するための部屋を貸し出すことを目的とします。それに対して旅館業は、宿泊料を貰って人を宿泊させるサービスの提供をするものとされています。原則として、利用期間が1カ月未満の場合には生活の本拠としての利用ではないと解釈されます。
また、不動産賃貸業と旅館業の違いには、「衛生上の維持管理責任が利用者とオーナーのどちらにあるのか」という点も重要です。旅館業では衛生上の維持管理責任はオーナー側にあるとされ、不動産賃貸業では利用者側にあるとされています。
これらのポイントから、賃貸経営は不動産賃貸業、民泊経営は旅館業に該当し、両者は異なる事業形態に属していると判断できます。
参考:厚生労働省 – 旅館業法概要
賃貸経営と民泊経営は、管理内容にも違いがあります。不動産賃貸業に該当する賃貸経営では、入居者が生活の本拠として利用するための「賃貸管理」が必要となります。管理内容としては、建物や設備の修繕、共用部分の清掃管理、退去後原状回復などです。
一方、民泊では事業を行うものには公衆衛生上の管理責任があり、幅広い住宅宿泊管理業務が定められています。宿泊者などへの対応に関する業務として、
清掃・衛生業務として、
住宅や設備の管理、安全確保業務として、
参考:国土交通省 – 住宅宿泊事業法に基づく民泊の管理業制度について
なお、以下のどちらかにあてはまる場合には、国土交通大臣によって登録が行われている「住宅宿泊管理業者」に管理を委託しなくてはなりません。
現状として、住宅宿泊管理業者となるには以下いずれかの資格が必要とされています。
ただし、この資格要件は2023年夏を目安に緩和されることになっています。要件の緩和後は、通信講座を20時間、講義を7時間受講した後、修了試験に合格することで住宅宿泊管理業者として登録可能になります。海外からの旅行客数の増加が想定されているため、民泊を始めとする観光業が回復することへの期待からの措置といえるでしょう。
不動産賃貸業を行うのに特別な資格や許可は必要ありませんが、民泊を行うためにはいくつかの要件や許可が必要となります。
サービスを提供する期間が年間180日以内(※)であれば、原則として「住宅宿泊事業法」(通称「民泊新法」)による届け出を行えば大丈夫ですが、180日を超えて営業するのであれば「旅館業法」に基づく許可が必要です(※180日という基準は、条例によってさらに短縮されているケースもあります)。
そのほか、
などの基準を満たしていることも求められます。
民泊経営においては、日本とは生活様式が異なる海外からの旅行者の増加による、近隣環境の変化に対する懸念などから、経営者の公衆衛生上の管理責任も問われます。ですから、不動産賃貸業以上に厳しい基準をクリアする必要があるといえます。
民泊経営を成功させるには、どのようなことが考えられるでしょうか?特に重要となるポイントを3点紹介します。
民泊経営を成功させるために大事なことは、ニーズが高いエリアで経営することです。観光地に近い、交通の便が良いなど、旅行客にとって魅力のある立地であることが必要です。
通常の賃貸経営でも立地条件は大切ではありますが、多少不利な立地でも賃料を下げるなど条件を見直せば入居者が見つかる可能性はあります。しかし、民泊の多くは旅行者が観光の拠点として利用するためのものですから、ニーズが高いエリアでなければ民泊経営を成功させるのは難しいと考えられるでしょう。
民泊経営を成功させるためには、可能なかぎり経費を節約し、安定して利益を出せるような仕組みを作ることも重要です。オーナーが民泊物件の近くに住んでいる、または、一定以下の規模で民泊経営を行っている場合には自分で管理を行うことができます。管理業者に委託せずに自分で管理を行えば、その分の管理料を支払わずに済みますので、経費削減による利益率の向上が期待できます。
民間の空室を利用でき、通常の賃貸よりも高い利益率を得られる可能性があることなどから、民泊経営には多くの参入者がおり競争が激しくなっています。その中から高い確率で利用されるようにするには、魅力を高めてほかの民泊物件との差別化を図る必要があります。
など、さまざまな対策が考えられますが、実際にどのような方法を採用するかを判断するには、まずターゲット層を絞ることが重要です。ターゲット層を絞ることでニーズが具体的に把握できるようになるため、より効果的な対策を行えます。
民泊新法に基づく届け出を行って宿泊サービスを提供する場合には、年間営業日数が180日までという制限に従わなくてはならないため、得られる利益は限られてしまいます。本格的に民泊ビジネスを考えるなら、簡易宿所営業、もしくは旅行・ホテル営業として許可を得ることで一年中営業できるようにする方法もあります。
ただし、旅館業法に基づく許可を得るには、旅館業法のほか、都市計画法に基づく用途地域の制限、建築基準法に基づく用途変更、消防法の遵守など、さまざまな基準をクリアすることが求められます。それに伴って追加で発生する経費・手間などと、想定される利益を考慮した上で、どのような体制で経営していくべきか判断する必要があるでしょう。
民泊のルールである「民泊新法」について解説し、民泊経営を成功させるコツや賃貸経営との違いを紹介しました。シェアハウス、マンスリーマンションやウィークリーマンション、学生寮、社宅など、不動産投資にはあらゆる形態があります。
物件の立地や建物の状態などによって最適な形態を選択することが、不動産投資を成功に導くカギのひとつといえるでしょう。この記事を参考にして民泊経営についての正確な知識を得ることで、不動産投資における選択肢の中にぜひ民泊を加えてみてはいかがでしょうか。
かつて銀行や不動産会社に勤務し、資産運用に携わった経験を活かし、現在は主に金融や不動産関連の記事を執筆中。宅地建物取引主任、証券外務員一種、生命保険募集人、変額保険販売資格など保険関係の資格や、日商簿記1級など、多数の資格を保有し、専門的知識に基づいた記事の執筆とアドバイスを行う。