倒壊の恐れのある老朽マンションは、区分所有者にとっても周辺住民にとっても悩ましい問題です。そのような老朽マンションの建て替えを促進するため、東京都が2019年に創設予定の「容積率の緩和による企業に建て替えを促す仕組み」について解説します。
老朽マンションを問題視する報道をよく耳にしますが、具体的に何が問題なのでしょうか。まず、老朽マンションの中には旧耐震基準で建てられたものが多いという現状があります。建築する建物が一定規模の地震に耐えられるように設計しなければ、建築許可がおりません。この基準を耐震基準といいます。
耐震基準は、1981年6月に大きく見直されました。1981年5月以前に建築確認を受けた建物を、旧耐震基準と呼びます。具体的には、旧耐震基準では震度5強の揺れで倒壊しなければ建築許可がおりていました。それに対し、新耐震基準では震度7の揺れでも倒壊しないことが条件とされています。つまり、旧耐震基準で建てられた老朽マンションは、震度6以上の地震で倒壊の恐れがあるということです。
大型の老朽マンションが倒壊すれば、区分所有者はもちろん、周辺住民にも影響がおよぶでしょう。
では、旧耐震基準の老朽マンションを建て替えるうえで、何が問題になるのでしょうか。まず、マンションを建て替えるためには区分所有者の5分の4以上が賛成し、立て替え費用を捻出する必要がありました。また、不動産会社がマンションを建て替えする場合、区分所有者全員の同意が必要とされていました。
しかし、現実的には区分所有者全員の同意を得ることは難しく、立て替え費用を区分所有者が負担することも簡単ではありません。このような状況を打開すべく、老朽マンションの建て替えを促進する目的で、2014年に改正マンション建て替え円滑化法が整備され、区分所有者の5分の4以上の同意で売却が認められることになりました。
また、同法は、一定の条件を満たしたマンションを不動産会社が買い取ることで、容積率を緩和することも認めました。容積率とは、土地の敷地面積に対する建物の延べ床面積のことです。たとえば、容積率が80%の200平方メートルの土地に2階建ての建物を建てる場合、1階と2階をあわせた床面積は160平方メートルまでとなります。容積率は地域や前面の道路幅によって変わります。
容積率に余裕のある老朽マンションであれば、老朽マンションを買い取ったあとに、部屋数を増やして建て直すことができますが、すでに容積率が目一杯で建てられたマンションの場合、建て替えても部屋数を増やすことはできません。
この結果、容積率ぎりぎりで建てられた大型の老朽マンションの建て替えがなかなか進まないという問題がありました。容積率が緩和されれば、すでに容積率の目一杯の老朽マンションを建て替えた場合も新しく部屋数を増やすことができます。新たな入居者を募集することができれば、マンションオーナーは利益をあげることができ、老朽マンションの建て替えに参入しやすくなるでしょう。
しかし、こうした改正マンション建て替え円滑化法が整備されたあとも、なかなか老朽マンションの建て替えは進まないという現実がありました。そこで、東京都は老朽マンションの建て替えをさらに促進するための取り組みを始めました。それは、不動産会社が老朽マンションを取得すれば、別の場所で建て替えるマンションの容積率を上乗せするという制度です。
その制度によって、東京都は建て替え費用を負担する必要がない一方で、不動産会社は建て替えを進めることができます。また、新耐震基準をクリアした建物の建築によって入居者や周辺住民にも恩恵がもたらされます。
このように、誰にとってもメリットのあるこの制度をうまく活用できれば、旧耐震基準の老朽マンションの建て替えが次々に進んでいく好循環が生まれるでしょう。老朽マンションが密集し、大地震の影響が不安視されている東京都だからこそ、新しく始めた取り組みともいえます。
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