新しくアパートを建てるなどの場面で、「劣化対策等級」や「住宅性能表示制度」といった言葉を聞くことがあります。この記事では、劣化対策等級の基本や、賃貸経営において劣化対策等級を取得するメリットなどを解説します。劣化対策等級は建物の耐用年数を左右する重要な制度ですので、充分な知識をもちコストパフォーマンスの高い賃貸経営を目指していきましょう。
【著者】水沢 ひろみ
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住宅性能表示制度とは、「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」に基づいて定められた制度です。
「品確法」は、平成12年4月1日に施行された法律で、一定の品質の住宅を安心して取引できる仕組みを確立するために、「新築住宅における基本的な構造部分の瑕疵担保責任期間の10年間義務化」「住宅に関するトラブル解決のための『指定住宅紛争処理機関』の整備」と並んで、「住宅性能表示制度」を制定しました。
住宅性能表示制度の主な内容は、
とされています。
建物の性能は外観からでは判断ができないことが多いため、専門的な知識のない購入者には、取引にあたって適切な判断を下すことはかなりハードルが高いといえます。住宅メーカーが独自の基準で性能を表示していても、他のメーカーとの比較は困難ですし、その基準を満たしているかの客観的な評価も難しいでしょう。
その点、住宅性能表示制度が設けられたことで、専門的な知識のない人でも安心して住宅の購入ができるようになりました。
この住宅性能表示制度を利用して建物の評価をしてもらうには、住宅性能評価書の申請をする必要がありますが、性能評価書には、「設計住宅性能評価書」と「建設住宅性能評価書」の2種類があります。
設計住宅性能評価書は「設計段階」での住宅性能を、建設住宅性能評価書は「建設段階」の住宅性能を評価した書類です。住宅性能評価書で評価した性能を持つ住宅の引き渡しを約束したとみなされるため、基準に満たない住宅を引き渡された際には、相手方の責任を追及することが可能になります。
このような住宅性能表示制度の中で、特に重要な項目が、本記事のテーマである「劣化対策等級」です。劣化対策等級については、次章で詳しく解説していきます。
劣化対策等級とは、「建物の耐久性の程度」を示す等級のことで、上記で説明した住宅性能表示制度によって定められています。劣化対策等級は、住宅メーカーとは独立の立場である「登録住宅性能評価機関」が評価しますので、性能評価結果の信頼性は担保されています。
劣化対策等級が定められたことで、どの程度の劣化対策が行われているのか、購入者が建物の耐久性を知ることができるようになり、安心して取引ができるようになりました。
劣化対策等級は、木造であるか、または鉄骨造や鉄筋コンクリート造であるかという建物の造りによって評価方法に違いがあります。
木造では、土台や外壁、水回りなど、建物の構造に関わる箇所の腐敗対策や、カビ・シロアリなどの被害から守るための対策がとられているかが評価の対象となります。鉄骨造ではサビによって生じる劣化を防ぐための対策がとられているかが評価の対象となり、鉄筋コンクリート造ではコンクリートの強度に問題はないかが評価の対象となります。
劣化対策等級は3段階に分かれており、一番耐久性が高いと判断されるのは3等級です。以下に、それぞれの評価方法の違いについて紹介します。
一般的に想定される環境下において、「住宅の利用が限界となり、大規模な改修工事が必要となるまでの期間」が3世代以上となる場合に、必要な対策が講じられていると、等級3と認定されます。等級3は、住宅が75~90年以上の耐久性をもつと判断される水準であり、劣化対策等級の中では最高ランクの対策が取られていることを証明します。
評価の基準について、木造住宅を例にして示すと以下が挙げられます。
参考:国土交通省 – 評価方法基準案(劣化対策)の各等級に要求される水準の考え方
具体的には、
等が必要となります。
一般的に想定される環境下において、「住宅の利用が限界となり、大規模な改修工事が必要となるまでの期間」が2世代以上となる場合に、必要な対策が講じられていると、等級2と認定されます。50~60年以上の耐久性があると判断される水準です。
等級1は、劣化対策等級の中では一番最低限のラインとなり、建築基準法に定める対策が取られていることを保証するものです。
劣化対策等級を取得すると、融資期間が長くなるというメリットがあります。
木造住宅を新築で建てる場合に金融機関から融資を受けるとなると、融資期間は法定耐用年数である22年が最大となるのが一般的です。ところが劣化対策等級を取得することで、金融機関によっては融資期間を30年もしくはそれ以上伸ばしてくれる可能性があります。
返済期間が長くなれば、その分月々の返済金額が少なくなりますから、キャッシュフローに余裕が生まれます。キャッシュフローに余裕があれば、空室リスクや修繕費用など、予想外のリスクにも対応可能ですし、他に有利な投資機会があればそちらに資金を振り分けることもできます。
木造アパートは法定耐用年数が短いので融資期間が短くなり、返済計画を立てるのが難しいと思われがちですが、劣化対策等級を取得すると融資期間を長くできることがある点をぜひ覚えておきましょう。
劣化対策等級を取得するのであれば、住宅性能評価書の申請のために10~20万円前後のコストが必要となります。また、住宅性能表示制度が定めている劣化対策等級の基準に適合するように、追加的な設計と施工が必要になりますから、その分のコストもかかります。
劣化対策のクオリティや発注する施工会社によっても違いがありますが、数十万円から数百万円程度の追加費用が必要になると考えられるでしょう。また、融資期間の延長が可能となり長期間のローンを組む場合には、その分の支払い利息の総額も増えます。
このように、劣化対策等級を取得するには、取得しない場合に比べてトータルでかかるコストは増えることになります。
しかし、劣化対策等級を取得することで融資期間の延長が可能になれば、毎月手元に残るキャッシュフローが増え、それによって経営の安全性が高まることは大きなメリットになります。途中で売却する際にも、劣化対策等級を取得している物件であれば買主も安心して購入できるため、高めの値段で取引が成立する可能性が高まるでしょう。
また、劣化対策等級を取得すると地震保険料が10~50%割引になりますので、その分のコストは減少すると考えられます。さらに、劣化対策によってアパートの耐用年数が30年前後から90年前後にまで伸びれば、その分家賃収入は増えると見積もることができます。
築年数に応じた修繕などは必要になりますから、家賃が全て収入になるわけではありませんが、経費を引いた後の1部屋あたりの収入が3万円、全室で8部屋あるアパートの耐用年数が仮に30年延びれば、家賃収入は8,640万円増える計算です。60年延びる場合には、1億7,280万円にもなります。
住宅に関すさまざまな紛争が起きた時にも、1件あたり1万円の手数料で、指定住宅紛争処理機関による解決が可能になるという心強い制度も用意されています。
いかがでしょうか?劣化対策等級を取得するためにかかるコストより、劣化対策等級を取得することで生じるメリットのほうが大きくなることを理解できたのではないでしょうか?このように考えると、新築アパートを建てるならば劣化対策等級の取得をめざすべきであるといえるでしょう。
劣化対策等級の基本的な説明をはじめ、劣化対策等級の取得によって賃貸経営で得られるメリットなどを解説しました。建物の新築には多額の費用が必要ですので、費用対効果をしっかり見極めて、不要なコストはできるだけ省くべきです。とはいえ、しっかりと建物の劣化対策を行うことで、劣化対策等級の取得にかかるコスト以上の大きな効果を得ることができるといえます。
賃貸経営成功のカギとなる劣化対策等級に関する知識を身につけて、トータルでのキャッシュフローの最大化を目指してみてはいかがでしょうか。
かつて銀行や不動産会社に勤務し、資産運用に携わった経験を活かし、現在は主に金融や不動産関連の記事を執筆中。宅地建物取引主任、証券外務員一種、生命保険募集人、変額保険販売資格など保険関係の資格や、日商簿記1級など、多数の資格を保有し、専門的知識に基づいた記事の執筆とアドバイスを行う。