土地を売買する際には、原則として売主に土地の境界を明示する責任があります。ところが、「境界非明示」という特約付きの物件を目にすることがあります。そこでこの記事では、境界非明示が存在する理由や、特約を設定する際のポイントなどについて解説していきます。土地の売却や購入の際の判断に役立ててみてください。
【著者】水沢 ひろみ
オーナーのための家賃保証
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目次
土地を売買する際、「どこまでの土地が対象なのか?」という、取引対象となる土地の範囲を明確にすることは大変重要です。その取引対象となる土地の境界の考え方には、「筆界」と「所有権界」という2つの概念があります。
筆界とは、最初に土地が登記された時に隣の土地との境を定めて、ひとつの範囲として区画した線を意味します。不動産登記法上は土地を1筆、2筆と数えますが、その際の境界線のことです。これらは所有者同士の話し合いで同意が得られたとしても、後から変更することはできない性質のもので、1筆の土地の範囲を変えるには分筆や合筆という手続きを行わなくてはなりません。
一方、所有権界とは、文字通り「所有権が及ぶ範囲」を定めている境界線を意味します。所有権界は所有者同士の合意で自由に決めることができます。
通常であれば筆界と所有権界は一致していると考えられますが、1筆の土地の一部を売買したり、贈与したりすることも可能ですし、時効によって土地の一部を取得するケースもあります。ですから、筆界と所有権界は必ずしも一致しているとは限りません。
売買や贈与などの取引の対象となるのは土地所有者の所有権の範囲ですが、筆界と所有権界が一致していない場合には所有権の境界があいまいなケースも存在します。土地売買などの際には「境界明示義務」があり、明示を怠ると売主に損害賠償責任が発生します。ただし、戸建てではなくマンション売却の場合には、マンションディベロッパーが境界を確定した確定測量図が存在するのが通常ですので、境界明示義務は発生しません。
境界明示は売主の責任ですから、境界標の位置を確認し、隣接地との境界を明確に示して取引するのが原則です。それに対して、境界を明示しないで行う取引を指して境界非明示と呼びます。前章で境界明示義務について触れましたが、それでもなぜ境界非明示があるのでしょうか?本章では境界非明示が存在する理由について説明します。
分筆や地積更正などの際に登記を行うには、境界標を設置し、地積測量図を添付する必要がありますので、本来であれば境界確定をしなくても隣地との境界は確認できるはずです。
しかし、法令で定められた地積測量図に必要とされる要件は、測量技術の進化などの影響もあり、年代によって異なっています。平成17年以後の地積測量図は精度が高く現地復元可能となっていますが、それ以前の地積測量図は必ずしも現地復元が可能とはいえないものが多く存在しています。
このような場合には、土地家屋調査士が土地の現況を調査し、測量を行い、「土地境界確定」を行う必要があります。土地境界確定は隣接する土地の所有者全員の合意が必要となりますが、これらの合意が得られなかった場合には境界非明示となります。
筆界特定制度とは、もともと存在している土地の筆界の位置を筆界特定登記官が特定する制度で、土地所有者の申請によって行われますが、隣接する土地の所有者の同意は必要ありません。
ですから、隣接する土地の所有者の合意が得られずに「土地境界確定」ができなかった場合や、隣接する土地の所有者が不明の状態でも、筆界特定制度を利用して筆界を特定することは可能です。
筆界特定制度を利用すれば地積更正登記や分筆登記の申請は可能となりますが、隣地所有者の承諾があった訳ではないので、所有権界の確定とは無関係です。筆界特定制度を利用して境界を特定した場合、土地の売買などにあたっては境界非明示となりますので、誤解のないようにその旨を説明しなくてはなりません。
原則として売主は土地の売買を行う相手方に対して、どこまでが売買の対象となる土地の範囲なのかを明らかにする「境界明示義務」を負っています。ただし、買主との間に有効な特約があれば、境界が非明示の状態でも売買は可能です。
などといったニーズがあるため、境界非明示のまま売買契約が行われるケースがあります。
しかし、現在のところ境界について隣地の所有者との間にトラブルがなかったとしても、将来隣地の所有者が代わった際に思わぬ主張をされる例があります。所有者が変わらなくても、建物の建て替えや増築などをきっかけに関係が悪化する可能性もあるでしょう。
このように、境界が非明示の状態で土地を譲り渡してしまうと、将来的に買主と隣地所有者との間でトラブルが生じる恐れがあるため、境界が非明示の土地は買い手が付きにくく、売却できたとしても後日損害賠償を請求されるリスクを抱えています。そのうえ、このようなリスクのある境界非明示の土地の資産価値は低く見積もられるため、住宅ローンの借り入れができない可能性も高くなります。
ですから、境界非明示での売買を検討する際には、このようなメリット・デメリットを考慮したうえで慎重に判断することが大切です。
境界を明示するには、境界標の位置を確認し、隣の土地との境界線を明確にする必要がありますが、その境界標がない場合にはどうしたらよいのでしょうか?
境界標とは隣の土地との境界線の目印となるもので、コンクリートや金属、石など、年数の経過によって劣化しづらい素材で作られています。土地の角にあたる部分に設置され、境界標同士を結ぶ線が境界線となります。
境界の明示は、隣接する土地との間に設置されている境界標を指し示して、土地の境界を明らかにすることで行います。
この時、隣の土地の所有者による立ち合いの下で確認を行うことができれば安心ですが、隣の土地の所有者の協力が得られない場合には、売主単独で境界標を指し示す方法が取られます。この場合には、隣地所有者の確認が取れないということですから、後でトラブルが生じるリスクがあることを理解しておく必要があるでしょう。
境界の明示に必要となる境界標が、風雨にさらされて無くなっていたり、位置がずれてしまっていたりする場合があります。境界標が見つからない場合にとられる方法として、以下の4つがあげられます。
境界標の設置には、隣り合った土地の所有者の承諾が必要であり、土地の測量作業も必要となります。測量のための費用は、土地の広さや形状にもよりますが、数十万円ほどかかります。境界を明らかにするという意味では最善の方法といえますが、費用と手間がかかる点は覚えておく必要があります。
分かりやすい目印などがある場合には、境界標の代わりに「境界に関する説明書で代用する」という方法が取られることもあります。ただし、境界説明書は売主が作成するものであり、隣地の所有者との合意の下に作成されるものではありません。ですから、コストや手間を省くことはできても、隣地の所有者の認識が異なっている場合には、将来的なトラブルが生じるリスクがあることに注意が必要です。
境界標がなくても、古い地積測量図などがある場合には、それらの測量図で代用することによって境界を示すことがあります。ただし、古い地積測量図は必ずしも現況と一致しないものが多いので、現実には現地で照合作業をする必要があるといえます。
上記の方法をとることが難しい場合には、境界非明示について買主の合意を得て契約することになるでしょう。
売買契約の売主は、法律上は契約不適合責任を負うこととなっています(民法562条)。契約不適合責任とは、契約の内容に適合しない欠陥や不具合があった時には、売主が一定の責任を負うとされるものです。
ただし、この契約不適合責任に関する定めは、当事者同士の合意で異なる特約をすることも可能な「任意規定」とされていますので、境界に関して「契約不適合責任免責についての特約」を設けることも可能です。そのため、境界非明示の取引では契約不適合責任免責についての特約をつけることが一般的であると考えられます。
しかし、契約不適合責任を負わない特約を付けて契約したとしても、売主が事実を知りながら告げなかった場合には売主に責任を負う可能性があるなど、全てのケースで契約不適合責任を負わずに済むというわけではありません。
将来的にトラブルが生じた時には損害賠償請求を受ける可能性もありますので、やはり境界非明示の取引はリスクが高くなるといえます。売主側であっても買主側であっても、境界非明示の取引は慎重に行う必要があるといえるでしょう。
境界非明示が存在する理由や特約を設定する際のポイントなどについてお伝えしました。境界非明示の土地の購入に際して迷っている人や、土地を売却したいのに境界が分からなくて困っている人など、参考になったのではないでしょうか。
境界非明示の土地でも売却は可能ですが、将来的に隣の所有者との間で思わぬトラブルが生じるリスクを理解しておかなくてはなりません。その上でどのような対策を取ればリスクを減らせるかを考え、慎重に判断することをおすすめします。
かつて銀行や不動産会社に勤務し、資産運用に携わった経験を活かし、現在は主に金融や不動産関連の記事を執筆中。宅地建物取引主任、証券外務員一種、生命保険募集人、変額保険販売資格など保険関係の資格や、日商簿記1級など、多数の資格を保有し、専門的知識に基づいた記事の執筆とアドバイスを行う。