中古住宅の売買には、「現状有姿」という方法があります。この記事では、現状有姿とは何か、契約不適合責任との関係、残置物について解説していきます。売主、買主双方からみた現状有姿のメリット・デメリットも紹介しますので、ぜひ現状有姿について詳しく知り、トラブルを避けて不動産売買に臨んでみてください。
【著者】水沢 ひろみ
オーナーのための家賃保証
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目次
最初に、現状有姿とはどういう意味なのかを説明します。
中古住宅の売買契約において、現状有姿という言葉を見かけることがあります。現状有姿売買とは、「売買契約締結後、現実に引き渡しがなされるまでの間に対象の不動産の現状に何らかの変化があったとしても、売主はそのままの現状で引き渡せばよい」というものです。
通常、現状有姿売買とするためには、不動産売買契約書に特約として記載する必要があります。なお、不動産売買における現状有姿については、特に法律で定められているわけではありません。
また、現状有姿として契約した場合であっても、不動産の売主が買主に対して物件の状況を説明する義務を有していることには変わりません。この義務を怠った場合には損害賠償の対象となる可能性もありますので、売主側となる場合は十分な注意が必要です。
売買契約に限らず、実は賃貸借契約の場面でも現状有姿という言葉が使われることがあります。別の言い方では、「現状渡し」「現況優先」と表現されることもありますが、同様の意味で使われています。賃貸においての現状有姿とは、文字通り「現在の状態のまま引き渡す」ということで、売買における現状有姿とは多少意味合いが異なります。
たとえば、リフォームや改修をした中古の物件では、当初の図面と現況に違いがあるケースがあります。そのような場合、現在の状態のほうを優先します、というオーナー側からの意思表示として現状有姿と表現されます。
また上記に加え、通常の生活を送るにあたって問題とならない程度のキズ・汚れなどの不具合であれば、補修を行わずにそのまま引き渡します、という意味合いも含まれています。キズや汚れの感じ方は個人差がありますので、現状有姿とすることで入居者側とオーナー側による見解の相違を避け、トラブルを防止する効果が期待できます。
不動産の売買契約において、売主は買主に対して契約不適合責任を負うのが原則ですが、「現状有姿にて売買する=契約不適合責任が免責される」ということではありません。契約不適合責任とは、契約の目的物が契約の内容に適合する性能を備えていないと判断される際に、買主に対して売主が負うとされる責任のことです。
契約不適合責任が認められれば、買主は売主に対して修繕、または代金の減額請求、損害賠償請求が可能となり、場合によっては契約解除ができる可能性も生じます。たとえば外壁や屋根から雨漏りしているなど、建物の構造・設備に欠陥があり、建物としての機能に問題があるような状態であれば契約不適合責任の対象となりますが、経年劣化による損傷は対象外です。
もっとも、契約不適合責任は契約で排除することも可能ですので、このような瑕疵がある場合であっても、契約書に特記事項として記載されていれば契約不適合責任の対象とはならないのが原則です。
このように、契約不適合責任は契約締結時点における目的物の状態が問題となります。一方の現状有姿特約は、売買契約締結後から引き渡しがなされるまでの間に生じた変化が問題とされます。契約不適合責任まで免責するとなったら、現状有姿特約だけではなく、契約書に契約不適合責任を免責する旨の記載をすることが必要となります。
中古の土地や建物の売買では、家具や家電製品、ゴミなどの残置物が残されているケースは多々あります。不用品の処分には手間と費用がかかるため、残置物の撤去の責任がどちらにあるのかは明確にしておく必要があります。
現状有姿特約がある場合でも、残置物は売主がきちんと片付けるのか慣習となっています。ただし、その場合も特約にてその旨を記載し、後のトラブルを避けることが望ましいでしょう。
なお、買主の同意があれば、「残置物も含め買主に引き渡す」として契約することも可能です。その場合には、現状有姿特約に加え、残置物の処分についても特約で明記しておくことが重要です。
現状有姿とするメリット・デメリットについて、売主の立場から考えてみます。
売主からみた現状有姿のメリットとして、➀リフォーム費用など追加的な費用をかけずに売却できること、②時間と手間をかけずに売却できること、の2点が考えられます。
中古の建物を売却する際には、補修やリフォームなどを施してすぐに入居できるような状態にして売り出すケースと、とくに手を加えずにそのままの状態で現状有姿として売り出すケースがあります。
リフォームなどをするのであれば、リフォームのためにかかった費用は売却額に上乗せすることが一般的です。そのぶん物件の価格が高く表示されるので、同様の条件の物件と比較した際に買主にとって割高に映る可能性があり、場合によっては買い手が付きづらくなる可能性もあります。リフォームに費用をかけすぎると、そのぶんの費用を回収できなくなるリスクがあることを示しています。
一方、現状有姿として売り出すのであれば、補修やリフォームなどの費用がかからないので、追加的な費用をかけずに売却することができ、そのぶん売却額を低く抑えることができるメリットがあります。
また、補修やリフォームなどを行うには時間と手間がかかります。できるだけコストをかけずにリフォームするためには業者選びや施工会社との交渉などが鍵となりますが、こだわるほどに時間をとられます。リフォームの内容によっては工事が終了するまでに時間を要するため、そのぶん売却のタイミングが遅くなることになります。
このように、時間と手間をかけずに売却できることも現状有姿のメリットであると考えらえます。
売主からみた現状有姿のデメリットは、リフォーム済みの物件に比べて売却額が低くなる可能性が高い点です。リフォーム済みの物件に比べると、中古物件の外観はどうしても見劣りしてしまいます。そのぶん価格は安く抑えられているとしても、
などはそのままの状態です。素人である買主がこのような物件の状態を見ると、リフォーム後のきれいになった状態を想像することが難しいケースも少なくありません。その場合、新築同様に見えることもあるリフォーム後の物件のほうに魅力を感じてしまいがちです。
また、買主の中には、自分でリフォームする手間や時間を確保する余裕のない人もいます。そのため、同様の条件の物件があった場合、若干の価格の差であればリフォーム済みの物件のほうの人気が高くなる可能性があります。
次に、買主の立場からみた現状有姿のメリット・デメリットについても考えてみます。
買主からみた現状有姿のメリットは、比較的安い価格で購入できる可能性があったり、自分の好みで自由にリフォームできたりする点などです。
先程も述べたように、中古物件の外観は見劣りしてしまいがちであるため、そのぶん値段を安めに設定されることも少なくありません。多少値段を下げても早めに売却したいと考えている売主の割合が高いこともあり、場合によっては価格交渉が可能なケースもあります。
また、リフォームなどをしないで現状有姿で引き渡された物件は、自分の好みで好きなようにリフォームしたりリノベーションしたりできるのが魅力です。流行のDIYに自ら挑戦することも可能です。
リフォーム済みの物件は一見魅力的に見えますが、間取りや設備などを自由に選ぶことができません。価格を抑えて手を加えることが一般的ですので、リフォームのグレードもそれほど高くはない可能性はあるでしょう。そればかりか、購入後にリフォームが施されて引き渡される契約の場合には、想像していた状態とリフォーム後の仕上がりに差があり、失望するケースもあります。
自分の好みにリフォームをしたい、思い切ってリノベーションしたいといった希望を持っている買主にとっては、現状有姿で引き渡されるメリットは大きいといえるでしょう。
現状有姿は、買主からみると、購入した物件の老朽化や設備の故障などにより補修やリフォームが必要な場合に、そのための時間と手間をかける余裕がないとデメリットを感じやすいでしょう。
自分の好みでリフォームしたいという需要とは逆のパターンで、内装にこだわるよりもできるだけ早く入居したいという場合には、手を加えずに引き渡す現状有姿物件よりもリフォーム済みの物件のほうが望ましいといえます。
現状有姿のメリット・デメリットは、売主と買主のどちらの立場に立つか、また、建物の現状や劣化度合い、立地条件や周辺環境などによって異なります。リフォームすることで費用と手間がかかるにもかかわらず、その割に購入希望者からの評価が上がらないために手取り収入が減ってしまうケースもあれば、リフォームで新築同様に改装した結果、付加価値をつけて売却できるケースもあります。
自分でリフォームして住みたいと考えているか、すぐに入居できるリフォーム済の物件を購入したいと考えているか、購入希望者の好みやライフスタイルによっても異なるでしょう。どちらにしても、現状有姿で取引するのであれば、それによって契約不適合責任が免責されるわけではないこと、残置物については売主が処分するのが一般的であることには留意しましょう。
中古物件の売買の過半数を占める現状有姿という方法についてしっかりと理解した上で、トラブルのない不動産売買を心がけてみてください。
かつて銀行や不動産会社に勤務し、資産運用に携わった経験を活かし、現在は主に金融や不動産関連の記事を執筆中。宅地建物取引主任、証券外務員一種、生命保険募集人、変額保険販売資格など保険関係の資格や、日商簿記1級など、多数の資格を保有し、専門的知識に基づいた記事の執筆とアドバイスを行う。