賃貸経営のために物件を探していると、市街化調整区域に物件が存在するケースがあります。そこで本記事では、市街化調整区域の賃貸経営や賃貸物件建築についての注意点、例外となるケースなどを解説します。市街化調整区域の物件は他の物件と比べて割安なので興味を惹かれる人もいますが、割安で売りに出されるには理由があります。その点をしっかりと理解して投資するか否かを判断してみてください。
【著者】水沢 ひろみ
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市街化調整区域とは、都市計画法において定められている土地の区分です。都市計画法とは、人々が健康で文化的な生活がおくれるように、秩序ある街づくりのためのルールを定めた法律のことです。
この都市計画法の中で、日本の土地は、
という3つの区域に分けられています。
そしてその中の都市計画区域は、さらに
という3つの区域に分類されます。
そこでまず、この3つの都市計画区域について簡単に説明してから、都市計画法においての「市街化調整区域」の意味について解説します。
市街化区域とは、
の両者を指します。
そして、地域ごとに建築可能な建築物を制限するために、市街化区域は13の用途地域を定めています。居住目的に応じて人々が快適に生活できることを目指して開発されているので、この市街化区域には下水道や道路などのインフラ、学校や病院、公園などの公共施設も積極的に整備されています。
市街化調整区域とは、市街化区域と異なり、市街化を抑制すべきとされているエリアのことです。郊外エリアの自然環境を保護し、農業や林業などを守るために定められたため、原則として居住用の建物や商業施設の建築などは認められていません。
建物の建築を制限しているため、そもそも用途地域の定めもありません。インフラが十分とはいえないので、生活するには不便な地域となります。ただし、自治体の許可を得られれば、住宅や商業施設などを建築することは可能であるとされています。
市街化区域にも市街化調整区域にもどちらにも分類されていない区域を、非線引き区域といいます。非線引き区域は原則として建物の建築が可能である上、市街化区域に比べて土地の利用や開発などに対する規制は緩やかなエリアです。
市街化区域と同様、用途地域が指定されている場合があります。非線引き区域は、必ずしも用途地域を定めなくてはならないわけではありません。
都市計画法において市街化調整区域を設ける意味は、市街化を抑制することで、市街地が無秩序に広がっていくことを防ぐことにあります。
市街地が秩序なく広がっていくと、商業施設や公共設備など生活に必要なサービスまでの距離が離れてしまい、生活の利便性が確保できなくなってしまいます。すべての区域に十分なインフラを整備することも難しくなり、インフラの整備が追いつかなくなるという問題も生じます。
このように、秩序ある街づくりのためのルールを定めることが、公共の福祉のために必要だと考えられたため、都市計画法において市街化区域と市街化調整区域が分けられることになったのです。
市街化調整区域の物件は、市街化を抑制すべきエリアという特徴から、不動産投資にはあまりおすすめできません。そのため、市街化調整区域の物件購入には慎重になる必要があります。
どういう点で不動産投資にデメリットがあるのかについて以下に説明しますので、物件購入を迷っている人はぜひ参考にしてみてください。
先ほども説明したように、市街化調整区域は市街化を抑制することを目的に定められた地域です。もともと人が生活することを前提としていないため、電気やガス、水道といったインフラの整備が十分とはいえない地域がほとんどです。
下水道が整備されていなければ、下水道整備工事のための費用が追加的に必要となりますし、下水道を管理する自治体への許可申請の手続きなどもしなくてはなりません。
このようにインフラの整備のためのコストがかかったり、生活上の不便を余儀なくされたりすることから、市街化調整区域の物件購入は慎重になる必要があるといえます。
市街化調整区域にある物件は金融機関の融資が通りにくい点も、購入をおすすめできない理由の1つです。
インフラが整備されていない、不便な物件が多い市街化調整区域の物件は、土地の評価額が低く算定され、資産価値が低くなる傾向にあります。そのため、金融機関からの融資が通りにくく、融資が通ったとしても希望する額の融資を受けることは難しくなります。
市街化調整区域には、商業施設や公共施設など生活に欠かせない施設が少ないため、買い物や子供の通学、病院への通院といった日常生活において不便を感じることが多くなるでしょう。最寄り駅まで離れている可能性が高いので、電車での通勤も不便になると考えられます。
このことから、賃貸物件としての需要は低くなり、家賃の設定も低めにしなければならず、一般的に不動産投資をするにはあまりおすすめできないエリアであるといえます。
市街化調整区域にある物件は、将来的に売却が困難であることも大きなデメリットとなります。
建築の際の制限や生活するにあたっての不便さなどから、市街化調整区域の土地は購入者からの需要があまり期待できません。マイホームとしての需要はあまり見込めませんし、金融機関からの融資が難しければ、現金で購入可能な購入者を探さなければなりません。
購入可能な買い手が少ないため、どうしても売却したい時には、相場よりも低い価格で手放さなくてはならない可能性も高くなるでしょう。
市街化調整区域では、原則として居住用の建物の建築は認められていませんが、市街化調整区域に指定される前にすでに建てられていた建物や、建築時の使用目的に反しない範囲での賃貸は可能です。
しかし、調整区域に指定された後に建てられた建物が、
を利用して建てられたものである場合には注意が必要です。これらの建物は、土地所有者の特別の事情を考慮して建築が許可されたものですので、許可を得た者以外の居住用として賃貸や売買をすることは認められていません。
また、市街化調整区域では用途変更を行う際には届出が必要ですので、戸建ての建物を購入し、共同住宅として利用する場合には許可が必要となります。
このように、市街化調整区域の物件購入は慎重になる必要があることを忘れないでください。
市街化調整区域でも例外として建物を建築できる場合がありますので、そのための要件や注意点等について本章では解説します。
繰り返しますが、市街化調整区域はインフラが整っていないなどのマイナス面から生活するには不便ですので、賃貸需要はあまり期待できません。また、将来的にも土地を高く売却できる可能性は少ないでしょう。このように、インカムゲインやキャピタルゲインを狙うのは難しいと考えられるため、不動産投資の対象とする場合には慎重に判断しましょう。
市街化調整区域では、アパートなどの建築は原則として認められていません。ただし、11号区域に該当し、自治体から開発許可を受けることができれば、居住用の建物を建築することが可能です。
11号区域とは、都市計画法34条の中の11号に定められている条件を満たすエリアのことです。都市計画法34条の1号から14号には、例外的に建物の建築を認めるための条件が定められており、11号に定められている条件が以下の通りです。
11号区域に建物を建てるためには開発許可を受けなくてはなりませんが、上記の条件を満たしていれば、原則として許可を得ることができます。また、第二種低層住居専用地域の用途に準じる建物を建てることができますので、アパートなどの共同住宅を建てることも可能となります。
高齢化と人口減少が急速に進む現在、国土交通省はコンパクトシティ政策を推進しています。コンパクトシティ政策とは、商業施設や公共サービス施設など、日常生活に欠かせない施設と居住との距離を縮めて、コンパクトな生活圏を整備することで生活の利便性を維持しようとするものです。
市街地が郊外に拡散すると、郊外に居住する住民の生活を支えるために十分なサービスを提供することが難しくなっていきます。そこで、生活の利便性を維持し向上させることを目指して、コンパクトシティという構想が生まれました。
このような現状の中、11号区域はコンパクトシティ構想とは逆向する流れになるため、廃止する自治体が増えてきています。11号区域から外されることになれば建物の建築許可は下りなくなりますので、土地の資産価値は下がり、売却が困難になります。
11号区域に賃貸物件を建てる場合には、自治体の都市計画や今後の開発計画がどのようになっているのかを入念に調べた上で、慎重に分析して判断することが必要だといえます。
市街化調整区域の物件は、インフラが整備されておらず生活が不便だったり、建築のために追加的なコストがかかったり、金融機関からの融資が受けづらかったりするなど、さまざまなデメリットがあります。
そのぶん資産価値が低く評価され、安く購入できる可能性がありますので、人によっては魅力的に感じることもあるかもしれません。ですが、賃貸ニーズが低いこと、将来的にも売却に苦労する可能性が高いことなどをしっかりと理解し、慎重に投資の判断をすることが大切です。
かつて銀行や不動産会社に勤務し、資産運用に携わった経験を活かし、現在は主に金融や不動産関連の記事を執筆中。宅地建物取引主任、証券外務員一種、生命保険募集人、変額保険販売資格など保険関係の資格や、日商簿記1級など、多数の資格を保有し、専門的知識に基づいた記事の執筆とアドバイスを行う。