円安が進行すると、海外不動産投資に興味をもつ人は増加する傾向にあります。円安が続く環境下で国内の資産だけを保有している場合、相対的に資産価値が下落していくリスクがあるのは事実です。この記事では、現実的に海外不動産投資を始めるべきか否かを判断するにあたって必要となる知識を紹介します。海外不動産投資のメリット・デメリットや税金に関する情報などを解説しますので、ぜひ役立ててみてください。
【著者】水沢 ひろみ
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目次
海外不動産投資とは、海外の不動産に投資して収益を得ることです。不動産投資によって得られる利益には、以下の2つがありま す。
海外の不動産に投資する場合、国内の不動産投資と比較すると、より多くの利益を得られる可能性があります。
一般的に、インフレーション時には不動産の価格は上昇します。現金をそのまま保有している場合、相対的に資産価値が目減りしていくため、現金を保有するよりも不動産を保有するほうが有利になります。一方で、デフレーション下では不動産を保有していると資産価値が下がっていくため、現金で保有しているほうがリスクは少なくなります。
日本は長期間にわたってデフレの時代が続いてきましたので、不動産投資ではキャピタルゲインではなくインカムゲインを得ることが主な目的となっていました。ですが、インフレによって不動産価格が上昇している国に投資すれば、大きなキャピタルゲインを得られる可能性があります。
一概にはいえませんが、新興国への投資はリスクがあるものの物件価格が安いため、今後の値上がりが見込める可能性は比較的大きいと考えられます。それに対して、先進国への投資は物件価格が高い傾向にありますが、安定しており比較的リスクは小さいといえます。
投資の機会を日本国内だけに限ってしまうと、投資環境が現在の日本の経済状況の中だけに限定されてしまいます。しかし、海外まで目を向けることで、どのようなファンダメンタルの下で投資するかという投資環境も選択の上で、不動産投資を行うことが可能になります。つまり、海外不動産投資によって選択の幅が大きく広がるといえます。
ただし、後ほど詳しく説明しますが、海外不動産投資には大きなリスクも伴います。国内不動産投資に比べて大きなリターンを期待できる反面、それに伴うリスクも大きくなるのが海外不動産投資といえます。
日本人投資家は、なぜ海外不動産投資に注目しているのでしょうか?この章では、不動産投資家が海外不動産投資のどのような点に着目しているのかについて解説していきます。
日本人投資家が海外不動産投資に注目しているのは、日本に比べると住宅価格が上昇している点、利回りが高い点などがあります。
先ほども説明したように、不動産投資による利益には、不動産の値上がり益であるキャピタルゲインと賃貸収入であるインカムゲインがあります。不動産売却価格が購入価格よりも大幅に上昇しているほどキャピタルゲインは大きくなりますし、賃貸需要が旺盛で賃料が高く設定できるほどインカムゲインを多く得ることも可能です。
ですから、経済成長の伸び率が大きく不動産価格が上昇傾向にある国であることに加え、人口が増加しており、将来的にも賃貸需要が見込める国であれば、高い利回りを得られることが予想できるので、投資家にとっては大きな魅力があるといえます。
近年の日本の経済成長率は相対的に低迷しており、人口も減少傾向が続いています。都心部の限られた地域のマンション価格は上昇していますが、それ以外の物件においての価格の上昇率は高いとはいえません。
一方で海外に目を向ければ、経済成長の著しい国や、人口が増加している国は多数あり、そういった国は今後不動産投資において高い利回りが得られる潜在的な力を秘めています。そこに不動産投資家たちは注目していると考えられるのです。
不動産投資は、その国の景気の動向や将来的な人口の増減などによって、大きく影響を受ける可能性があります。ですから急激な景気の悪化によって不動産価格が暴落する可能性がありますし、人口が減少していく地域では賃貸需要が乏しくなり、将来的には空室リスクが高くなることも予想できます。
ひとつの国の中だけで不動産投資を行う場合には、そのような事態が生じた際のリスクが集中することになります。その点、もし複数の国に分散して不動産を保有していれば、不動産投資の収益が悪化する国があったとしても、他の国から得られる収益で補うことが可能です。
もちろん日本国内においても、地域的に分散して保有したり、投資する物件の種類を変えたりすることで、ある程度のリスク分散を図ることは可能です。しかし、そうする場合でも、日本全体の景気の動向における影響を回避することは難しいといえます。
加えて、自然災害などの起こりやすさも国や地域によって差があります。複数の国に投資して地理的な分散を図れば、そのようなリスクも分散されることになります。また近年では円安が進行していることから、日本の貨幣価値は相対的に下落しています。このような環境下で円建ての資産のみを保有していることは、相対的に資産が目減りするリスクを高めていると考えられます。
このように、複数の国に資産を分散して保有する海外不動産投資にはリスク分散効果があることも、日本人投資家が注目しているもう1つの大きな理由と考えられるでしょう。
海外不動産投資には大きなリスクが伴うと先ほども説明しましたが、具体的にどのようなリスクがあるのか、以下の5つに分けて解説します。
海外の不動産に投資するリスク・デメリットの1つ目は、物件を購入する際の融資が難しい可能性がある点です。全額を自己資金でまかなうのであれば問題にはなりませんが、不動産投資においては金融機関からの借り入れで不動産を購入して、レバレッジ効果で資産を増やしていくケースが一般的といえます。
しかし、海外の不動産購入にあたっては、国内の物件と比べて金融機関から融資を受ける際のハードルが高くなる傾向があるので、注意が必要です。
まず、日本国内の金融機関からの融資を検討する場合には、海外の不動産投資を目的とした資金の融資を行う金融機関は限られる、ということを理解しておかなくてはなりません。また、融資が可能であるとしても、審査の基準は非常に厳しく、金利が高かったり融資期間が短かったりするなど、融資条件が良いとはいえないケースが多くなります。
不動産購入先である現地の金融機関からの融資を希望する際には、言葉の問題やその国独自の融資条件を満たすことが求められます。すでに海外での不動産投資の実績が十分あるという場合を除けば、現地の金融機関からの融資を利用するのはかなり難しいと考えられるでしょう。
海外の不動産に投資する際には、カントリーリスクにも十分な注意が必要です。カントリーリスクとは、国や地域特有の要因が及ぼす不安定要素のことで、具体的には以下が挙げられます。
一般的にカントリーリスクは先進国に比べて新興国のほうが高い傾向にあると考えられています。新興国では今後の大幅な経済成長が期待できる反面、社会情勢が不安定で、政権交代などによって経済政策が大きく変更されるケースもみられるからです。
これらの要因によって不動産の資産価値が下落し、投資した資金が回収できなくなるリスクが生じますので、海外の不動産の購入に際しては、さまざまな要因を慎重に判断することが重要だといえます。
海外不動産投資のリスクとして、為替変動によるリスクを考慮することも大変重要です。海外の不動産に投資する場合には、不動産の売買や家賃の受け取りは現地の通貨で行うことになるからです。
不動産の購入当初よりも、現地の通貨の貨幣価値が日本円に対して高くなり円安の状態になれば、為替差益が生じますので、投資利回りはそのぶん高くなります。しかし、反対に現地の通貨の貨幣価値が下落すれば、為替差損が発生しますので、場合によっては現地では利益が生じていても日本円に換算した際にはマイナスになってしまう可能性があります。
特に新興国では貨幣価値の変動幅が大きい傾向にあるので、海外不動産投資を行う際には、今後の為替の動向を予測することも非常に重要なポイントであることを忘れないでください。
海外の不動産に投資する際には、投資した物件の管理の難しさも考慮する必要があります。単にキャピタルゲインだけを目的とするのではなく、インカムゲインの獲得も目的として投資するのであれば、入居者の募集や適切な賃貸管理を行うことが大切です。
国内での不動産投資なら、管理会社とのやり取りもスムーズに行えるのが通常ですし、オーナーの判断によっては自主管理を選択することも可能です。一方、海外不動産投資では、現地に居住しているというわけでなければ自主管理は不可能ですので、現地の管理会社に管理を委託しなくてはなりません。
しかし、現地の管理会社に委託するには、言葉の問題があることや、海外の管理会社は日本に比べると管理がずさんなところもあること、そのためにトラブルが発生する可能性も高いことなどに注意が必要です。場合によっては突然連絡が取れなくなるというケースも起り得ます。
トラブル処理のために現地を訪れるには渡航費がかかりますし、言葉の通じない国において自力で問題を解決するのは不可能に近いといえます。ですから、国内で不動産投資をする以上に信頼できる管理会社選びが重要になることを心得ておく必要があるでしょう。
先ほど、経済成長の伸び率が大きく不動産価格が上昇傾向にある国や、人口が増加しており将来的にも賃貸需要が見込める国では高い利回りが期待できる、と説明しました。しかし、それはあくまで可能性の話であって、大規模な経済危機が世界的規模に拡大すれば、想定していたようなインカムゲインやキャピタルゲインが得られなくなる可能性は覚悟しておく必要があります。
記憶に新しいところではコロナショック、さらにはリーマンショックなどを思い浮かべれば理解しやすいでしょう。現在の状況から将来の動向を予測して行う投資の判断は、どれほど慎重に行ったとしても常に不確実性が存在していることを忘れないようにしましょう。
最後に、海外不動産投資に関する税制について解説します。一時期、海外不動産投資は節税効果が期待できるとして富裕層の関心を集めたことがありますが、現在はそのような節税スキームは通用しなくなりました。また、海外不動産への投資でも、日本に住んでいる場合には日本の税金がかかることに注意してください。
海外不動産投資が注目されることになったのは、国内の物件よりも減価償却を利用した節税効果が大きいことに関心が集まったのが理由の1つです。
不動産投資を節税に利用するスキームはしばしば考え出されており、その中に減価償却を利用した節税スキームがあります。減価償却費を大きく計上して不動産投資による利益をマイナスにして、給与所得などと損益通算することで課税所得を減らし、納税額を減らすという方法です。この際に節税効果を大きくするためには、計上する減価償却費が大きくなるようにすることが必要です。
ただし、建物は減価償却の対象になりますが土地は対象になりませんので、できるだけ物件の評価額に占める建物の割合が大きいほうが有利となります。耐用年数が経過した不動産の場合だと耐用年数の20パーセントに相当する年数で減価償却できるため、減価償却期間が最短になり、そのぶん1年あたりの減価償却費が大きく計上でき節税効果が高くなります。
アメリカの不動産を例にとると、日本に比べると中古の建物の評価は高い傾向にあり、年数の経過による価格の下落が少ないという特徴があります。また、不動産全体に占める建物の評価額の割合が高いので、相対的に減価償却費として計上できる額が大きくなります。
そこで海外不動産を利用した節税スキームが流行することになったのですが、2020年に税制改正が行われ、海外の不動産投資による所得と国内における所得の損益通算が認められなくなりました。ですから2021年以降はこのスキームは利用できなくなり、節税スキームのために海外不動産投資を行うメリットはなくなったといえるでしょう。
日本は全世界所得課税という制度を採用しているので、どこの国で所得を得たとしても、日本に住んでいる限り日本の税法に従って税金を納めなくてはなりません。
不動産取得時にかかる費用や税金などは国によって違いがあり、その国のきまりにしたがって支払う必要がありますが、海外で納付した税金は確定申告で経費計上することで二重課税になるのを防止することができます。
海外の不動産保有中に得た賃貸収入は、日本で保有している不動産から得た収入と同様に、不動産所得として確定申告をする必要があります。また、海外の不動産を売却した場合は、利益に対して譲渡所得がかかります。短期譲渡所得と長期譲渡所得では税率が異なり、短期での売却のほうが税率は高くなることも、国内における不動産の譲渡時と同様です。
海外不動産投資のメリット・デメリットや、税金に関する情報などについて解説しました。今後も円安傾向が続くようであれば、海外の通貨や不動産を保有することは資産価値を保つための有効な選択肢といえるでしょう。さらに、海外不動産投資は国内の物件よりも高い利回りが期待できる可能性があることも魅力の1つです。
しかしその反面、カントリーリスクや為替変動によるリスク、管理の難しさなど、リスクの程度が大きくなることには十分な注意が必要です。現実的に海外不動産投資を検討するのであれば、これらのリスクをしっかりと理解して、慎重に判断することをおすすめします。
かつて銀行や不動産会社に勤務し、資産運用に携わった経験を活かし、現在は主に金融や不動産関連の記事を執筆中。宅地建物取引主任、証券外務員一種、生命保険募集人、変額保険販売資格など保険関係の資格や、日商簿記1級など、多数の資格を保有し、専門的知識に基づいた記事の執筆とアドバイスを行う。