2023.12.14
不動産トピックス

電子帳簿保存法とは?大家さん向けにメリットと注意点を解説

青色申告について調べていると、「電子帳簿保存法」という聞きなれない用語が出てくることがあります。本記事では、不動産投資を始める大家さんへ向けて、青色申告についての正確な知識として、電子帳簿保存法の基本とメリット、注意点などをお伝えします。ぜひ不動産投資の経理業務の効率化と節税対策に役立ててみてください。

【著者】水沢 ひろみ

 

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大家さんにも影響がある「電子帳簿保存法(電帳法)」とは

電子帳簿保存法は、情報技術の進展による社会の変化に伴って度々改正されてきました。そこで、最初に電子帳簿保存法の概要について説明するとともに、これまでの改正によってどのように変わってきたのかを紹介していきます。

電子帳簿保存法の概要

電子帳簿保存法とは、納税に関わる帳簿書類の電子データによる保存を認め、取引記録の電子データによる保存義務などについて定めた法律です。

従来、納税に関わる帳簿書類や取引記録は紙での保存が必要とされてきましたが、インターネットの普及など社会情勢の変化により、請求書や領収書などの証憑類を紙でやりとりすることが必ずしも一般的ではなくなってきました。

そこで、時代の流れに合わせてペーパーレス化を促進して作業効率の向上を図るとともに、改ざんなどの不正行為を防ぐために一定の要件を定めることを目的として制定されたものが、電子帳簿保存法です。

法改正の変更点

電子帳簿保存法は、1998年に制定された後、情報技術の高度化など、社会の変化に対応して度々改正が行われてきました。法改正の変更点に関して、大まかな流れは以下にまとめます。

1998年 電子帳簿保存法の制定により、国税関係帳簿の電子保存が可能になる
2005年 スキャンによるデータを電子データとして承認し、国税関係書類のスキャナ保存を、3万円未満ならば電子署名が必要という要件の下に認める
2015年 スキャナ保存の要件が緩和されたが、タイムスタンプや定期検査、複数人での相互牽制が必要とされる
2016年 スマートフォンやデジタルカメラによる撮影データも電子データとして承認される
2019年 スキャナ保存の期間制限が緩和され、過去の重要書類も税務署に届出することで対象にできるようになる
2020年 クレジットカードなどのキャッシュレス決済の利用明細が領収書の代用として利用可能になり、タイムスタンプの付与に関する要件が緩和される

 
そして、2022年には電子帳簿等保存の要件が大幅に緩和され、スキャナ保存時の原紙保存義務が廃止されるなど規制が緩和となり、電子データ保存が義務とされました。電子帳簿保存法の2022年度と2024年度の改正については、以下に詳しく解説していきます。

2022年(令和3年)度における電子帳簿保存法の税制改正について

急速に進展する経済社会におけるデジタル化の流れの中、会計業務の電子化を推進することで、生産性および記帳水準の向上を目的とし、令和3年度の税制改正において電子帳簿保存法の改正が大幅に行われました(令和4年1月1日施行)。そこで、令和3年度の改正によって電子帳簿保存法がどのように変更されたのか、電子帳簿保存法上の区分にしたがって以下に解説します。

電子帳簿等保存

電子帳簿等保存では、以下の改正が行われました。

  • 税務署長による事前の承認制度の廃止
  • 「優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置」の整備
  • 最低限の要件を満たす電子帳簿に関しても、電磁的記録による保存等を許可
  •  
    改正前には電磁的記録による保存が認められなかった電子帳簿に関しても電磁的記録による保存を認めるだけでなく、改正前の要件を満たす電子帳簿は「優良な電子帳簿」として優遇する措置を講じました。

    スキャナ保存

    スキャナ保存に関しては、以下の改正が行われました。

  • 税務署長による事前の承認制度の廃止
  • 適正事務処理要件の廃止(相互牽制、定期的な検査と再発防止対策のための社内規程の整備など)
  • タイムスタンプ要件・検索要件等の緩和
  • ①タイムスタンプの付与期間を延長
    ②受領者等がスキャナを使用する際に、国税関係書類への自署不要
    ③電磁的記録の訂正または削除を行うに際し、その事実と内容を確認することが可能なクラウド等において、入力期間内に電磁的記録の保存を行ったことが確認できるときはタイムスタンプの付与に代えることが可能、など

  • スキャナ保存した電磁的記録に不正があった際における「重加算税加重措置」の整備
  •  

    電子取引データ保存

    電子取引データ保存に関しては、以下の改正が行われました。

  • タイムスタンプ要件・検索要件等の緩和
  • タイムスタンプの付与期間を延長
  • 基準期間における売上高1,000万円以下の小規模な事業者は、電磁的記録のダウンロードに関して税務職員からの要求に対応可能な状態であれば、すべての検索要件が不要
  • 電磁的記録の出力書面等を保存することで、その電磁的記録の保存に代えることができる措置の廃止
  • 電子取引の取引情報に係る電磁的記録に関して不正が判明した場合、重加算税が10%加重される措置の整備
  •  
    参考:国税庁 – 電子帳簿保存法が改正されました

    電子帳簿等保存・スキャナ保存・電子取引データ保存のそれぞれの違いについては次章で詳しく説明していきますので、ぜひご確認ください。

    2024年(令和5年)度における電子帳簿保存法の税制改正について

    令和5年度における税制改正の大綱が2022年12月16日に公表され、電子帳簿保存法の改正も行われました(令和6年1月1日施行)。これによって、優良な電子帳簿としての要件を満たさなくてはならない帳簿の範囲が、仕訳帳・総勘定元帳・その他一定の帳簿に限定され、すべての帳簿において要件を満たす必要がなくなりました。

    また、スキャナ保存についても、

  • スキャナで読み取った際の解像度や階調などに関する情報の保存が不要
  • 入力者などに関わる情報の確認要件の廃止
  •  
    など、要件が緩和されました。さらに、

  • 電子帳簿保存法に定める要件による保存が間に合わなかったことに相当の理由があると税務署が認めた場合
  • 税務調査の際に、電子データのダウンロードやプリントアウトした書面の提示など、税務署員の要求に応じられるようにしている場合
  •  
    という両方の要件を満たしていれば、改ざん防⽌や検索機能など、電子帳簿保存法において満たすべきとされている要件に沿っていなくても電子取引を電子データで保存することが認められるようになりました。

    参考:国税庁 – 電子帳簿保存法の内容が改正されました~令和5年度税制改正による電子帳簿等保存制度の見直しの概要~

    「優良な電子帳簿の要件」とは

    電子帳簿保存法では、「優良な電子帳簿」という要件を満たしていれば、青色申告特別控除や過少申告加算税といった税法上の優遇措置を受けられる制度を設けています。この優良な電子帳簿の要件を満たすには、上記で解説した「電子帳簿として保存するための要件」のほかに、以下の要件を加えて届出書を提出しなくてはなりません。

  • 電子データによって記録した事項の訂正や削除を行った場合には、その事実や内容を確認可能なシステムを利用していること
  • 通常の業務処理期間経過後に処理を行った場合には、その事実を確認することが可能なシステムを利用していること
  • 電子データによって記録した帳簿の内容と、関連する他の帳簿の内容との関連性を相互に確認できる状態であること
  • 以下の検索要件にしたがって、検索できるようにしておくこと
  • 取引年月日、取引金額、取引先
  • 日付または金額の範囲指定
  • 2つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件
  •  
    ただし、税務職員からデータのダウンロードを求められた際に対応可能な状態にしていれば、「取引年月日、取引金額、取引先」で検索できるようにしておくことで足りるとされています。

    参考:国税庁 – 優良な電子帳簿の要件

    電子帳簿保存法で認められている保存方法

    先にも紹介しているとおり、現在、電子帳簿保存法で認められている保存方法には、➀電子帳簿等保存、②スキャナ保存、③電子取引データ保存の3つの方法があります。それぞれを以下に解説していきます。

    電子帳簿等保存

    電子帳簿等保存とは、パソコンなどを利用して電子的に作成した帳簿類や取引関連の書類のデータを、DVDやUSB、ハードディスクなどの媒体や、クラウドサーバー上にデータのまま保存する方法を指します。

  • 仕訳帳や現金出納帳、総勘定元帳などの帳簿や国税関係の書類を会計ソフトなどで作成した場合
  • 請求書や契約書などといった取引関連の書類をパソコンで作成した場合
  •  
    などが対象です。

    また、電子帳簿として保存するためには、以下の要件を満たす必要があります。

  • 当初から継続的にコンピュータを利用して帳簿類の作成を行っていること
  • 利用しているシステムの概要書や操作説明書、仕様書など、システムに関係する書類を備え付けていること
  • 電子帳簿の保存場所には、パソコンやディスプレイ、プリンタ、操作マニュアルなどを備え付けてあり、画面もしくは書面に、整然かつ明瞭な状態で速やかに出力可能な状態になっていること
  • 税務職員によってダウンロードが求められた場合には、応じられる状態にしておくこと
  • (優良な電子帳簿の要件をすべて満たしている場合には不要)

     

    参考:国税庁 – 電子帳簿保存法改正について

    スキャナ保存

    スキャナ保存とは、取引先が作成した領収書や請求書などの紙の書類を、スキャナを利用して電子データに変換し、画像データとして保存する方法です。このスキャナ保存が認められているのは、領収書や請求書、契約書などの取引関係の書類であって、決算関係の書類は対象とはなりません。

    また、スキャナ保存に際しては、データの書き換えによる不正を防止するためにタイムスタンプの付与などが要件とされていますが、これらの要件は電子帳簿保存法の改正によって緩和される流れにあります。

    【参考】タイムスタンプとは?
     
    タイムスタンプとは、

  • 付与された時刻にその電子データが存在していた事実
  • 付与された時刻以降にその電子データが変更された事実がないこと
  •  
    を証明するための方法です。「時刻認証業務認定事業者(TSA)」のみが、タイムスタンプを発行する権限をもつことで、改ざんされていないデータであることを証明する手段として機能しています。

     

    電子取引データ保存

    納税の申告に関して帳簿や書類の保存義務がある人で、電子データで受領した一定のデータがある場合には、そのまま電子データとして保存する必要があります。

    保存義務のある電子取引データとは、

  • 契約書
  • 見積書
  • 注文書
  • 送り状
  • 請求書
  • 領収書
  •  
    などが該当します。ただしデータの改ざん防止のために、

  • データにタイムスタンプが付与されている
  • 利用しているシステムが、データの訂正や削除を行った際に記録が残るものである
  • データの訂正や削除自体が不可能なシステムを利用している
  • データの訂正や削除防止に関して事務処理規定が設けられている
  •  
    といった措置をとることが必要です。

    加えて、➀「⽇付・⾦額・取引先」という検索要件で検索できるようにしておくこと、②ディスプレイやプリンタ等を備え付けておくこと、という2点の要件を満たすことも必要です。

    参考:国税庁 – 電子取引データの保存方法をご確認ください

    大家さんが電子帳簿保存法に対応するメリット

    ここでは、大家さんが電子帳簿保存法に対応するメリットについて解説します。節税やコスト削減につながるメリットがありますので、ぜひ参考にしてみてください。

    最高65万円の「青色申告特別控除」が受けられる

    青色申告を行うと、従来は最高で65万円の青色申告特別控除が受けられましたが、2018年に税制改正が行われ、2020年分以降は申告に関わる控除額が最高でも55万円に引き下げられました。

    ただし、➀e-Taxを利用して電子申告する場合、②優良な電子帳簿の要件を満たし、電磁的記録による保存を行う場合、のうちいずれかに該当する場合は、従来通り、最高で65万円の青色申告特別控除を受けることが可能です。

    ですから、65万円の青色申告特別控除を受けて少しでも節税したいと考えるのであれば、e-Taxを利用して申告するか、もしくは電子帳簿保存法に対応して優良な電子帳簿の要件を満たす必要があります。

    参考:国税庁 – 記帳や帳簿等保存・青色申告

    過少申告加算税が5%軽減される

    下記2つの条件を満たしていれば、作成した電子帳簿に関して後に申告漏れなどの過少申告が見つかっても、過少申告加算税が5%軽減されるという措置があります。ただし、隠蔽または仮装による過少申告のケースではこの軽減措置の対象にはなりませんので、注意してください。

  • 優良な電子帳簿の要件を満たして、電磁的記録による保存を行う
  • 「優良な電子帳簿に係る過少申告加算税の軽減措置」の適用を受けるための届出書を、事前に税務署長に提出する
  •  

    会計処理の効率化と省スペース化

    電子帳簿保存法に対応することで、大家さんは会計帳簿や申告書類の作成業務を効率的に行うことができるようになり、作成した帳簿類の保管スペースも不要になるため、手間とコストの削減につながります。

    また、電子データとして保存しておくことで必要な書類の検索も簡単に行えるようになるうえ、クラウド上に保存しておけばどこにいても必要書類にアクセスすることが可能になります。クラウド上で帳簿書類などを保存して、パスワードを利用して自由に閲覧できないように制限すれば、セキュリティを強化することにもつながります。

    大家さんは電子帳簿保存法の要件に違反しないようにしよう

    電子帳簿保存法の要件に違反した場合には、青色申告の承認が取り消される可能性があるため、青色申告をしている大家さんは注意が必要です。

    青色申告が取り消しになれば、

  • 最高65万円の「青色申告特別控除」が受けられない
  • 赤字が発生した際に翌年の黒字との相殺ができない
  •  
    というデメリットを受けることになります。

    ただし国税庁は、電子帳簿保存法の要件に違反したとしても、軽微な違反のみで青色申告が取り消されるという訳ではないという立場をとっています。たとえば、電子データの一部を保存しないで書面の状態で保存していたというケースでは、書面など電子データ以外の手段で取引の事実確認が可能ならば青色申請を取り消すことはない、としています。

    なお、帳簿や申告書などに記載漏れや誤記入が多すぎる場合には、「推計課税」の対象となり、税務署側の判断で金額を推計されることになるので、かえって税金が増えることになる可能性もあります。電子データによる改ざんや隠ぺいが悪質な場合には追徴課税が10%加重されることになり、45%の追徴課税を納めなくてはならなくなります。

    大家さんが法人化していて、国税に関わる帳簿類を適法に記録・保存していない場合には、100万円以下の過料に処される可能性も生じます。

    このように罰則が課せられたり、青色申告が取り消しになったりする可能性があるので、大家さんは電子帳簿保存法の要件に違反しないように気をつけていきましょう。

    大家さんは電子帳簿保存法について深く理解しよう

    大家さん向けに、電子帳簿保存法の概要とメリット、注意点などについて解説しました。インターネットの普及によって、多くの情報の伝達手段が紙から電子データへと移り変わってきています。それによって利便性が向上し、業務の効率化が図られるようになってきましたが、それと同時に頻繁に更新される情報に敏感に対応する必要性も生じています。

    大家さんが電子帳簿保存法について理解し、優良な電子帳簿の要件を満たすことで、最高65万円の青色申告特別控除や過少申告加算税の軽減などの優遇措置が受けられます。このように投資家として知っておくべき電子帳簿保存法について深く理解し、経理業務の効率化と節税対策に役立ててみてください。

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